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2019-09

ユーリとエルミザード  「黎明」 5 - 2009.09.10 Thu

5、
 いよいよエルミザードが、王立学院の試験を受けるために、ライラスの邸から旅立つ日が明日と迫った。
 寝付かれずに部屋の窓から星空を覗いていると、ノックをする音が聞こえ、ランプを灯したライラスが部屋に入ってきた。
「どうした?寝付かれないのか?」
「うん、だって…もし試験に受かったら、ここへは暫くもどってこれないんでしょう?」
「そうだよ。合格したらそのまま学院の寮に直行だ。勉強に必要なものは向こうがすべて用意してくれるから、荷物はそんなにいらないよ」
「うん…」
ベッドにうな垂れて座るエルミザードの隣に座り込むと、ライラスはエルミザードの顔を覗き込んだ。
「どうした?」
「僕が行ってしまったら、ライラスはひとりぼっちになっちゃうじゃない。寂しくないの?」
「…さみしいに決まってる。エルミは私の息子みたいなものだからなあ。でも子供はいつか親元から旅立たなきゃいけないものだ」
「もう少し、ライラスの傍にいたいよ…」
 エルミザードの涙ぐむ頭を引き寄せながら、ライラスは背中を撫でた。

「エルミザード、眠れないのなら、私の昔話でも聞くかい?」
「うん」
「私は昔、前皇帝の御世に大勢の宮廷魔道士の一人として仕えていたよ。王立学院で教えてもいた。丁度今のヴァレリアウスのようにね。実は学院の教授というのは、他に比べようもなく素晴らしい仕事なんだ。自分の知識を未来ある生徒らに伝授できる喜びはひとしおだよ。楽しいしやりがいもあった。でも、そうだね…魔術というのはとても難しい学問でもあるんだ。多様な方面への取り組み方、また個人に備わる個人差が激しい。5年間のうち卒業できるのは入学時のだいたい半分ってところだ。途中でやめていった子はどうしただろうと…思い悩む事も多い。けれど、魔法を扱うには相当の精神力と自覚、責任を伴う。十分な修練が必要なんだ。中途半端に魔法を扱うと身を滅ぼしかねない」
「ライラス…僕は…僕にそれができる?とても自信がない…」
「エルミの父親が魔族だからかい?」
 エルミザードは黙ったまま頷いた。
「魔族を見たことは?」
 今度は首を横に振る。
「私は何度かあるんだよ」
「本当に?」
 エルミザードは顔を上げて、ライラスを見つめた。その目に僅かな怯えと、多くの好奇の輝きがあるのを見とめ、ライラスは満足気に頷いた。

「一番強烈に残っているのは…そうだね。もう随分昔の話だ」
 ライラスは何かを思い出すように目を閉じると、少し眉を顰めながら、話を続けた。
「若いまだ見習いの魔術師が、国の外れにあった決して破ってはならぬ封印の扉を好奇心で勝手に開けてしまった。そこから魔界の魔物や、こちらからも色々な妖魔が横行してね。痺れを切らしたのか魔族の長自らそれを制した。…その魔族は私の目の前で見習いの魔術師達を殺した。彼らは私の教え子だったんだ。封印を破った罪は確かにあるだろうが、まだ幼かったのだ。魔法を使う意味や真の恐ろしさを理解していなかった。私は許しを請うたが、彼は許さなかった。刹那に彼らは砕け散った…私も…右腕を焼かれたよ」
 ライラスの右腕は義手だが、魔道技術のおかげで傍目にはまるでわからない。本人も別段不自由はしていない。
 エルミザードは泣きそうに見つめながら、ライラスの膝に手を置いた。
「ライラスは魔族を…そいつを憎んでいるの?」
ライラスは義手をさすりながら、再び口を開いた。
「それが不思議と憎く思えなかった。元はといえば、人間側に咎がある。彼は…地上との取り決めを正しく守ろうとする魔族だった。だから長を務めていたんだろうが…
エイクアルドは天上の神々との古き契約の元に強力な恩恵をもたらされている国だ。だから魔族は我々の土地を簡単には攻めて来ない。だが、その時は魔族の長は私にこう言った。『もしそちらが取り決めを不義にするのなら、たとえ神々が相手だろうと、我々は容赦はしない。よく覚えておくのだな』」
「そんな恐ろしい事…神々を相手にするだなんて…魔族だって神には勝てないのでしょう?」
「さあ?私にはわからんよ。でもね、エルミザード。その魔族を…当然恐ろしくも思ったが、それ以上に惹かれてしまったのだよ」
「…なぜ?」
「…そうだね。一言でいうなら…彼は美しかった、比類なき王者のように…あれほどに妖艶に、そして生に輝く者に出会ったことがないと、言ってもよいだろうね」
「真(まこと)の美を集めたアムト神よりも?」
「それは人間が絵に描いた女神像だよ。誰も本当の神々を見たわけではないだろう?…私はこれでも現実主義なのさ。この目で見たものしか信じない」
そうは言っても、ライラスが神々を罵るような言葉は一度だって聞いた事はない。
エルミザード自身は、誰もが持つように神々12神への崇拝は十分にある。だからライラスの言葉に驚いてしまった。
「ライラスの言い方じゃ…神々よりも魔族を贔屓しているみたいじゃない」
「贔屓じゃない。見たままのことを言っている」
「魔族なのに?」
「エルミザード。一般に言われる魔族は醜悪な者という俗説は捨てなさい。魔族の者達は総じてとても美しいのだ。人間の何倍も長く生き、強い魔力を持つ。その魔力で、自分の一番誇れる姿を保つと言われている。それは本当さ。だから、エルミの父親もきっと美しい魔族のひとりだと思う」
「そんなの関係ないよ。僕は…僕の血が魔族であることに、簡単に人を殺せるような者の仲間であることに変わりはしない」
「人間だって人殺しや戦争で沢山の命を滅ぼす。私利私欲のためか、誰かを守るためか、それは殺された者には関係ないのだからねえ。エルミがもし、魔族になっても、それはそれで何の罪もないと言う言う事。おまえ自身が自分に正しく生きれば、それは魔族でも人間でも関係ない。本当は、この国の掟におまえを縛り付けるのが正しい道なのか…甚だ疑問に思うことでもあるんだよ」
「何故?」
「神々が100パーセント正しいとは思えないからさ。彼らだって生きる者だ。私達人間と魔界の魔族となんの変わりがあろう。ただ持ち得たる力の有無だけだと思うのだ」
「…」
 ライラスの話は今まで読んだ膨大な本の中には描かれていないことばかりで、エルミザードは困惑した。
「どちらにしても、エルミは沢山学ばなければならない。自分の為、そしておまえを取り囲む大勢の…これから出会う人も含めだよ…その者達を守ろうと思う心こそが、おまえの糧となるだろうからね」
「これから出会う…」
「そうさ。素晴らしい友人や大人たちと沢山交わりなさい。そして夢を抱くといいよ。自分のなりたいものを探す。友人には博愛を与え、先生には敬愛を。恋人には、愛と信頼を…どうだい、気持ちが高揚するだろう?」
「ああ、本当に、なんだか夢みたいだ。…でも試験に落っこちたら元も子もないね」
「まず、落ちることはないさ。エルミは私の取っておきの生徒だ。だが、もし落ちても戻ってくればいい話。エルミの帰る家はここなのだから。…私はいつでもおまえを待っているからね」

 ふたりは暫く見つめ合い抱擁した。
 お互いの身体をしっかりと抱きしめ、ライラスはいとおしそうにエルミザードの髪を撫でた。
 ライラスの胸で大きなため息をしながら、エルミザードは未来への期待感と、明日来る別れの切なさに、胸が締めつけられるのだった。






王立学院の簡単なキャラ紹介です。

世界は一緒。地上とは違った魔界のお話、「彼方の海にて…」はこちらから。
プロローグ

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こういう無駄話が大好きなので…
勿論魔族の長とはリュウ・エリアードのことです。



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