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2019-09

宿禰慧一編 「オレミユス」 4 - 2009.12.02 Wed

4、
 普段はあまり出歩いたりしないのだが、凛一が来るというので、暇を見つけては滅多に行かない街まで下見に行くようになった。
 いわゆる観光客(それもアジア人が圧倒的に多い)が行く名所はあえて避けて、あまり知られていない凛一が好みそうな珍しい建築のある地域を探し出す。
 凛一の為だけではなく、俺の勉強にもなる。

 自家用車で北の方に2時間掛けて走った麓の街で、聳え立つ教会が見えた。
 車から降りてそれを目当てに歩いていたら、小さな路地に入った。
 それはまるで迷路のように繋がり、古びた石畳が乾いた砂埃を上げた。
 ふと両脇を見ると、小さな店が軒を連ねている。
 各窓枠には色とりどりの花が飾られ、店のドアには小さな看板が掛けられてある。
 パン屋や果物屋、仕立物やお菓子屋まで様々だ。
 興味本位で一軒一軒覗いていく度に、ここまで来る観光客が珍しいのか、地元の方が興味深く眺め、声を掛けてくる。
 小間物屋で日本人?と聞かれ、そうだと応えると、この先に日本人がやっている店があるよと教えてくれた。
 そう期待することもなく、言われた店に足を向けてみる。
 程なく教えてもらった古美術商を見つけた。

 ショウウィンドーを眺めると、舶来の年代物の時計や磁器、色鮮やかな切子細工、蒔絵の漆器まで飾ってある。その飾り方も無造作に置いた様で、かしこまった気がしない。
 ふと、木製の宝石箱の中に置かれた寄り添うようなふたつのペンダントを見つけた。
 丁度、西に傾いた太陽に反射して、ペンダントに嵌め込まれた琥珀や翡翠色の宝石が輝きだした。
 じっと見ていると引き込まれるような感覚に襲われる。

 俺は昔、妹の梓と会話した記憶を呼び起こしていた。
 あれは梓の17の誕生日だった。
 俺は梓が欲しがっていたオルゴールをあげたんだ。
「凛が17になったら、アクセサリーを送るわ。そうね、ブレスレットかペンダントがいいわ」「え?どうして?」「私が欲しいからよ」「俺のあげたプレゼントに不服かい?それ、見つけるの結構苦労したんだぜ」「そうじゃないの。私が欲しいものを凛にあげたいの。できるなら私がデザインしたものがいいわね。いつだって私に繋ぎとめられている気がするじゃない」「それは…ちょっと怖い気がする」「慧だって同じじゃないの。隠したって私にはわかるもの」「…」「凛はいつか知ることになるわ。私や兄さんの本当の愛情の意味に…それは美しいものばかりとは限らない。それでも…純粋にね…きっと、形を作っているものだと信じたいの」
 梓は凛一を愛していた。
 生きていたら梓は凛一への愛情をどう繕っていたのだろう。

 俺はその古美術商の店の扉を押した。
 薄暗い、しかしガレ風のランプの不思議な色の所為で、まるでどこか違う空間に迷い込んだような気がした。
 広くも狭くも感じない。ただ至る所に雑然と置かれている骨董品や美術品がひっそりと息を呑むように飾られてる。
 先刻の店の婦人が言ったとおり、店の奥に日本人らしい男性を見つけた。
 その痩せた初老の店主は机に向かい、特製の電気スタンドの下で懐中時計を調整していた。
「こんにちは」
 俺は日本語で挨拶をした。
 彼は顔を上げると、俺を見て少し驚いた顔をした。
「これはまた…珍しいお客さんですな」
「珍しいのですか?日本人の客は」
「日本人が珍しいわけではないんですがね…」
 そう言うと、その店主は作業を止め、立ち上がってエプロンを叩いた。

「お仕事を中断させてすみません」
「いえいえ、何か気に入ったものがありましたか?」
「…学生の身なので、あまり高価な物は…買えないのですが…」
「もしかしたら、これが気に入られたんではないのですかな?」
 店主は躊躇なくショーウインドーに近づき、硝子戸を開け、宝石箱の中の二つのペンダントを取り出した。
「なぜ、それだと思われたのですか?」
「こういうものは持ち主を選ぶんですよ。あなたが覗いていた間、この二つのペンダントは輝きを増していた」
「…」
「仕事をしてても、見えるものは見えるんですよ、年を食うとね」
 疑った顔をしたのだろうか、彼は俺を見て笑顔を見せた。顔の皺が彼の人徳を伺わせる。
 不思議だがでたらめを吐いている気がしない。

「こちらは星を形作り、そしてこちらは太陽の形をしている。光に翳すとその形もはっきりとわかる」
 彼はふたつのペンダントを窓ガラスに翳した。
 二つの銀細工に嵌め込まれた宝石が色を変え、光はそのペンダントを通して黄ばんだ壁にそれぞれに太陽といくつもの星の形の影を映した。
「これにはちょいとした仕掛けがありましてな…ほら、ここに挟み込むんですよ」彼は面白そうに、その片方ずつに持った二つのペンダントを重ねスライドさせた。
 するとさっきまでの影絵は形を変え、はっきりと違う絵を映し出す。

「何に見えます?」
「薔薇、の花かな」
 シンプルだが真っ赤に咲き誇る薔薇の花びらの影絵が映し出されていた。
「赤いバラの花言葉は何か知ってますかな?」
「…情熱、愛情、あなたに恋焦がれる…」
「深い愛情という意味ですね。それではこれは?」
 店主はペンダントのひとつをゆっくり回転させた。
 影絵は形を変え、そしていくつもの色を変えた。
 さっきとは幾分形を変えた黒い薔薇の影絵が出来た。
「濃赤色の薔薇は…確か恨みや憎しみを意味しますよね」
「そうです。愛情も形を変えれば憎しみを生むという戒めなのでしょうか」
「…」
「このペンダントは永遠の愛を誓い合った恋人達が持っていたそうですよ。あなたとあなたの大事な方に巡り合う為に、ここで待ってたのかもしれませんな」
「その恋人達は…幸せになれたのでしょうか?」
「さあ、それはなんとも…言い伝えですから定かではありません」
 彼は肩を竦めて微笑んだ。
 穏やかなその容貌に嫌味のひとつも言う気にはならない。

「愛情とは普遍なものでしょうが、心変わりをしないとは思えません。お互いの感情は絶えまなく形や色を変え続ける。このバラの影絵のようにね。それこそが、情愛の本質ではないのでしょうか」
 彼は俺の手の平に、その二つのペンダントを置いた。
 反射した淡い光が俺を包んだような気がした。

 俺はそのふたつのペンダントを買った。決して安くは無い代物だ。
 あの店主に言いように騙されたとしても、それはそれで構わない。
 これは俺自身の心を映すもの。
 もしかしたら、凛一を一生俺に繋ぎとめることができるものなのかもしれない…

 いや、愚かな願いが叶うわけはない…
 わかっている。ただ…
 どうか、憎しみだけには染まらぬよう…
 俺を導いてくれ…
 







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宿禰慧一のお話はこちら「イリュミナシオン」 
リンミナシリーズはこちらからどうぞ。目次へ

慧一横顔

● COMMENT ●

サイアートさんが

この話の二次を書いてみたら?
掌編で。
まえにもいった、RPG風の番外編が読んでみたい……

梓ちゃんが死んでしまって、けいは、一生ものの宿題を与えられたことになるんだね。

七月さん

実はね~私はあまり文章を書くのが苦手と言うか…メンドクサガリで~
本当は漫画かなんかで描きたいんですよね~
でも漫画って一番難しいんだよね。

正直文章の下手さが気になって、あんまり書きたくない状態なんですよ。まあ、いつもだけど。
だけど、この頭に入っている話は自分しか書けないので、文才なさすぎなのに無理矢理書いてる…と、いうね。

どんどん文章書く人や書ける人がうらやましいですよ。
だからね~もう番外編とかさ、そんな余裕ないわけさ。ムリムリ(;´Д`)

梓が生きてたらね~これまた違う修羅場を迎える事になっていると思うんだがね~結局凛っていう存在がこの話の中心だとは考えているんだよ。


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