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2019-09

宿禰慧一編 「オレミユス」 5 - 2009.12.04 Fri

5、
 凛一の春休みが近づき、俺は気持ちが浮き足立って仕方が無い。
 ジャンはそれを呆れた様子で見ている。
「そんなに落ち着きなのないケイイチを見るのは初めてだ。弟が遊びに来るだけの話だろう?」
「弟はまだ16で海外の旅行は初めてなんだ。世間知らずのクセに無鉄砲と来てる。何かしでかさないか心配で仕方が無い」
「ケイイチに似てハンサムなんだろうね」
「…それが一番の問題だ」
 腕を組んで眉を顰めると、ジャンは弾けたように笑う。
「これは楽しみだな。ケイイチがそこまで案じる弟くんに会うのが」
 皮肉たっぷりに言うジャンは異性愛者だが、もしかしたということもある。
 俺の心配は尽きない。

 凛一が来た。
 変わった格好をしているわけでもないのにどこにいても目立つ奴で、空港では探す手間が省けた。あいつは違和感がありすぎる。
 車に乗って家に帰る間、「どうして慧の車は日本でも外国でも狭いのか」やら「エコノミーで来たけど、帰りは絶対ビジネスにする。一睡もできなかった」などと、どうでもいい平和的な話を延々と話して聞かせる。
 なんだかそれも懐かしかったり可愛かったり可笑しかったり。日頃の退屈とは無縁になりそうだ。

 凛一のおかげで普段では狭いと感じたことのない自宅が途端にせまっくるしい空間へと変貌する。だが、気分の悪いものじゃない。目を上げればどこにでも凛一の姿を留める事ができる。自分以外の呼吸音が柔らかな音楽に感じてしまう。独りではないという安定感。
 信頼しあえる者と過ごすという極めて単純な、しかし、その大事さを改めて知る事になる。
 だが、また別な意味で凛一の存在は俺を困らせる。
 
 シングルベッドは当然独り用であり、俺は凛一用にソファベッドを用意していたつもりだったが、(もしくは俺がそれで寝るつもりだった)凛一は俺と一緒にこの狭いベッドに寝ることを強要し、別個に寝せてはくれなかった。
 俺は恋焦がれる弟とひと月近くもひとつのベッドにくっ付きあいながら寝る羽目に陥った。
 全く持って…全理性を総動員させて俗物的な欲望を押さえ付けてはきたが、どうにも堪らなくなると夜中に抜け出して売専宿へと向かったこともある。
 凛一に関しては…こいつは一旦寝てしまうと朝まで起きることは無く、たまに悪戯しても全く気がつかない。それがまた愛おしくて、それでも追い詰めるのも可哀相で仕方なくなり、肝心な事はできずに終わるのだが、翌朝凛一の項に薄く色づいているものを見て、恍惚的な余韻に浸る事もあった。
 とにかく単色だった俺の生活が一変に鮮やかな色の付いた心躍るものになったことは確かだ。

 凛一の昔からの物怖じしない誰にでも愛想を振りまくという気質は全く変わっておらず、こちらに着いて一週間も経たずして、アパートの大家さんと仲良くなった。
 俺が大学に言っている間、大家さん宅にお世話になり、菓子や食材を貰ってくる事もしばしば。
 英語もおぼつかない子が巧くコミュニケーションを取れるのかと問うと、「ボディランゲージと以心伝心」などと判らぬ事を言う。凛一はいつでも楽しそうだった。

 一度街中で誘拐されそうになったと聞いて俺は真っ青になり、独りで出歩かないようにきつく窘めた。
「だって…慧が学校へ言ってる間、暇だもん」と、言うから大学構内で過ごさせれば、いつの間にか人だかりが出来ている。何の騒ぎかと駆け寄ると、凛一を取り囲んで学生達がカメラを持って、写している。
「凛っ!一体なんなんだ?」
「知らないよ。ここで慧を待ってたら、なんか撮らせてくれって…別にいいかな~って思って。ああ、別の場所にもおいでって言ってた気がする…」
 俺は我慢できずに凛一の腕を引っ張り、足早にその場所から立ち去った。
「何怒っているのさ?」
「おとなしくしてろって言ったろ」
「俺、なんもしてないし…」
「凛一、知らない人が声を掛けてきたら、どうするんだ?」
「…返事をしない。話をしちゃ駄目。付いて行っても駄目…だろ?」
「梓と俺が昔からおまえに言い聞かせてきたことだよな」
「俺、もう子供じゃないからさ、大丈夫だって」
「ここの学生から見ればおまえは子供。しかも満足に喋れない。何をされるかわかったもんじゃない」
「慧の心配性」
「俺の言うことが聞けないなら日本へ強制送還だからな」
「…わかりました。おとなしくしてます。でも、俺本当に何もしてないんだけど…」
 しょぼくれる凛一を見ていると可哀相な気もしてくるが、何しろ犯罪や事件には事欠かない街だ。こんなに目立つ子にどんな恐ろしい魔の手が迫ってくるかわからない。

「凛、とにかく俺の目の届くところにいろ」
「わかりました…それより、俺、腹減った。あそこのカフェで何か食おうよ」
 走り去って向かった先は例のカフェだった。
 いつものウェイターが注文を取りに来る。
 メニュー表を見てえ~とと呟いている凛一を無視して「ほうれん草とポテトのキッシュ、サーモンとアボガドのサラダ、スコーンとコーヒー二つ。以上」
「え?俺まだ決めてない」
「野菜不足になりがちだからな。これでいい」
「横暴だ。こっちに来た時ぐらい好きなもん食べさせてよ」
「どうせ独りでいる時は、好きなもん食ってるんだろ。おまえの体調管理を考えるのも俺の役目だ」
「この間、ジャンと食べたハンバーガーが食いたかった」
「ちょ、おまえ…いつの間にジャンと?」
 確かに紹介はしたが…聞いてないぞ、俺は。
「この間ねえ、お昼ごはんおごって貰った~ 」
 おいおい、敵は城の中にいるってパターンか?
「いいひとだよね、ジャンって」
「…」
 こっちの気も知らずに暢気なことを言いやがって。
 なんかもう本気でこいつを日本に返したくなってくる。

「…あの、注文はこれでよろしいでしょうか?」
 俺たちの日本語を聞いて訳のわからなそうな顔で突っ立っているクリスに漸く気づいた。
「ああ、頼むよ」

 クリスが去ると、凛一は意味ありげに俺の顔を覗き込む。
「慧はあの子と付き合ってるの?」
「はあ?」
「だって、ジャンが言ってたもん」
「…」
 あいつとは今後一切付き合いをやめようと、真剣に考えた瞬間だった。




keirin5

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宿禰慧一のお話はこちら「イリュミナシオン」 
リンミナシリーズはこちらからどうぞ。目次へ


● COMMENT ●

慧一さん

ホームグラウンドでも慧一さんは、凛といると落ち着いていられないんですね(笑)

クリスくん可哀そう(/_;)
凛も知ってて・・・小悪魔め~。

街を歩く二人、お話にぴったりです。

キッシュ

ってなに?(´・ω・`)
けいはどんな悪戯したのか教えて。
最後まではしないけどかなりのことをさたの?
指が潜ったりしたの?
それでもりんは起きないの?(-.-)Zzz

アドさん

この兄弟は本当に…ロクでもない奴らでして…ww
顔と身体がいいから話になるが、それが無かったら…(;^ω^)
まあ、馬鹿な子ほどかわいいからいいけどね~

回りの方々は本当に迷惑な話だとつくづく…思うよ~
やっぱ男は顔と身体だな~

七月さん

キッシュってね、パイ生地の中に色々入れて卵とじしてオーブンで焼いた奴。美味いよ。
つかアメリカ行った事ないから食生活知らんわwww
早くアメリカから脱出したいわ、この話(;´Д`)

凛は赤ちゃんの頃から慧と寝ているから、慧に何されても起きない体質になってるわけさwww
ある意味慧が不憫www
どこまでやったかって?そりゃ指でぎりぎり…アウト
朝起きてありゃ?って思う凛(;^ω^)


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