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2019-11

宿禰慧一編 「オレミユス」 8 - 2009.12.11 Fri

8、
 夏休みというのに凛一は忙しい。補習と部活。ついでに体育祭の練習もあるらしく、マトモな休みは土日だけ。夏休みの意義はどこに行ったのかと呆れたりもするが、何より学校生活を楽しんでいる凛一を見るのは嬉しい。
 昼間はほとんどいない凛一の代わりに俺が留守を守る役目となる。家事一般は当たり前、ついでに夜は凛一の家庭教師も兼ねる。とにかく凛一の世話に徹底した。
 ふたりでいると相変わらず俺に付かず離れずの凛一だったが、はやりシカゴにいた時とは違う。
 恋人が出来た所為だろうか。時折言葉の端々に変な気遣いを感じる時がある。

 恋人をこのマンションへ連れて過ごしているのは部屋を見ればなんとなくわかる。どこがどうというわけではなく、二人で暮らしていた時では感じなかった何かが澱のように残っている気がするのだ。
 だが、凛一は俺が帰ってから恋人に関する事は自分からは一言も口にしなかった。
「今度恋人を連れて来いよ。美味いもんでも作るからさ」と、挑発しても「そのうちね」と、言ったっきり後を続かせない。
 俺に対する気遣いなのだろうか…
 だが良く考えれば兄に気を使うというのはおかしいはずだ。照れ隠しならまだしも、あいつはそういう性質(たち)ではない。じゃあ、一体何があいつの気を使わせる。

 もしかしたら…と、思った。
 あいつは、俺の気持ちに勘付いているんじゃないんのだろうか…だとするならば、凛一がそれを追求した時、俺は…それを否定できるのか?それとも心の内を話すべきなのか。


 お盆の前後は両親達も帰省し、石川の実家へ里帰りとお墓参り。ついでに山中温泉で家族旅行を楽しむ。
 勿論極めて楽しんだのは両親達なのだが…日本中の温泉を楽しみたいのなら定年退職した後、ふたりでゆっくりと巡ればいいと思うのだが、どうも俺たちと仲のいい家族ごっこも楽しみたいらしく、もっと甘えていいのよと盛んに誘ってくる。
 いや、俺はノーサンキュウ、いりませんと断るのだが、凛一は喜んでお継母さんにべったりだ。その上、今まで親父に甘えたところなどついぞ見たこともなかったのに、大浴場へ誘ったり、長い事ふたりで和やかに話込んでいたりやら…どうした事かと俺は目を疑った。
 さすがに4人で顔を突き合わせてトランプの大富豪をするあたりになると、俺も呆れながらも仲間はずれにならないために一緒になってはしゃいで見せたりしたが。
 親父が仮想でも円満多幸な家族の肖像を描いているのなら、こんな家族ゲームぐらいは夢を見せてもいいだろう。どうせ長続きなんかしない。こんな上っ面だけの…

「楽しかったね~慧。またやろう、大富豪」
 部屋に帰って敷かれた布団の上でバタ足をさせている凛一を見ると、なんだか切なくなってしまう。 俺と梓は凛一を懸命に育てはしたが、まともな家族の風景などは与えてやれなかった。親子の愛情や関係は兄弟のそれとはそんなに違うものなのだろうか。
「凛は…親父たちと一緒に暮らしたいんじゃないのか?」
「え?何いきなり」
「その方がいいのなら…俺が親父に頼んでみようか」
「…別に…そんなの望んでないよ。たまに会ってこうやって楽しめたら、それでいいんだよ。一緒になんて…そんなの考えられないよ」
「やってみれば案外うまくいくかもしれないよ。凛は…今まで親に甘えてきたことがないのだから、そういうことを経験するのもおまえのためにはいいのかも知れないな」
「やめてくれよ…今更いい子のフリは出来ない。俺がどんな奴かって慧も知ってるじゃない。本性をばらしてあの人たちを幻滅させることはないだろう」
「凛…」
「俺には慧という家族が…兄貴がいてくれればいいんだよ。慧だけだ。本当の俺を見せても俺を愛してくれるのは。違う?」
「…」


 両親が帰った後はまた二人だけの生活に戻る。
 確かに両親がいる時と比べると、凛の顔つきは幾分違う。
 親の前ではいい子を演じていたらしく、今の方が僅かだが凛一の影は強くなる。
 その強さというのは外連味の一切ないあだっぽさというか、撫でれば気が付かぬうちに傷を負うようなそそり立つ気高さがあった。そのくせ妙に人懐っこい。笑うと近づきにくい整った容貌が愛嬌のある表情に変わる。
 長年を共に生きてきた一人の人間に対し、これほど眺め知りぬいていてもこうも飽きないものだろうか。
 俺は凛一といるとなにか得体の知れない魔物か神から逃げる術を持たない哀れな囚われ人になった気がする。
 腕の中で安らかに眠るこの子は、俺の意思でどうにでもできる生き物だ。この目の前に晒された裸の身を俺は自分のものにできる。
 それなのに…恐ろしくて手が出せない。一体何なんだ。この恐怖という感情は。
 繋がった血であるという禁忌だけの恐怖なのか?
 違う。心の底の本能が恐ろしいと叫ぶのだ。
 俺は凛一が怖い。怖いのにどうしようもなく惹かれる。執着する。恋焦がれる。アガペーなどではない。顕示欲に拘る。俺のものだとこいつにわからせたい。
 見事なる精神構造の深淵さだ。バカの見本としか言いようがない。


 八月の終わり、三者面談の為学校に向かう。凛一の担任はかつての恋人である藤宮紫乃だ。
 凛一の教室で凛一と一緒に紫乃に向き合う。
 どう考えたって滑稽な図だ。しかも言い争っている内容も凛一の進路の話をするべきところが、段々と支離滅裂になってくる。昔から紫乃と言い合うことは俺たちの中では日常茶判事というか、コミュニケーションのひとつとなっていた。が、隣の凛一は相当呆れたらしく、苦い顔をして去ってしまった。

「おまえと居るといつもこうだな」
 紫乃とふたりきりにされた俺は頭を抱えた。
「別に構わないだろう。俺たちにすりゃあ普通なんだから」
 紫乃は臙脂のセルフレームの伊達眼鏡を外し机に置いた。先生の役目はしばし休憩らしい。
「凛、怒ったかな」
「何が?」
「あいつを無視して俺たちが昔みたいに…」
「仲良くしている事に?」
「…仲良くはしてないがね」
 ムッとして睨むと、紫乃は薄く笑いそして、哀れみを帯びた目で俺を見つめた。

 先程まで晴れていた空が急激に曇り、一陣の風を巻き上げ、ぽつりぽつりと雨音が響き始める。
「降り込むかな」
 紫乃はそう呟き、立ち上がって教室の外側の窓を閉め始めた。俺も手伝おうと窓に近づき外を眺めた。
 左手の奥に教会が見える。手前に少し離れて体育館を兼ねた講堂、そして広いグラウンド。なんだか懐かしい気がした。
「この学校に足を運んだのは、確かおまえ今日が初めてじゃないか?」
「ああ、入学式も付いてやれなかったからな。学校自体が久しぶりでなんだか懐かしいよ」
「ほら、あそこを見ろよ」紫乃の指指す先を見る。
「あの別館の建物の影に少しだけちらりと見えるだろ?…あれが温室。凛一の隠れ家さ。今は恋人との密会場所になっているらしいがね」
「…」
「残念ながらここからじゃ中の様子はまるでわからないが、かなり好きなことをやっているよ、おまえの弟は」
 俺は黙ったままで紫乃を睨んだ。
「喫煙ぐらいなら可愛い方。だが、真面目な優等生をかどわかし色狂いにするのは校則違反だろう?」
「恋愛の自由ぐらいは保障してやれよ」
「これはまた暢気な兄さんだね。もう諦めたのか、凛一をものにするのは」
「ああ、もういいんだよ」
 俺は降りこんで来る雨を避けるため、ぴしゃりと窓を閉めた。

「…慧一、おまえ」
「どうにもならんことをいつまでも言うなよ、紫乃。俺は『凛一のいい兄貴』を貫くつもりなんだから」
「…」
「頼むからそうさせてくれよ…」
「…わかったよ。わかったからそんな顔はしないでくれ」
 どんな顔をしていたのかは自分ではわからなかったが、そういう紫乃の方がよっぽど切な気で俺は同情するよ。

「紫乃、おまえが…」
「え?」
「いや、なんでもない」
 俺の運命がおまえに繋がれていたならどんなにか良かっただろう…なんて、あまりにも勝手すぎる戯言だよな…紫乃。




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宿禰慧一のお話はこちら「イリュミナシオン」 
リンミナシリーズはこちらからどうぞ。目次へ



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コメ、ありがと~

うん、わかる。でも大丈夫。私の性格からして、全員幸せにさせる。全員だよ。
出ているキャラ全員が自分の幸せを掴み取る。
そういう話を描くのが私の目的だからさあ~
でも、影の無い幸せなんて面白くない。物語ではね。
自分の影を踏みながらゴールに歩いていく。そういう話にしたい。


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