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2019-09

宿禰慧一編 「オレミユス」 9 - 2009.12.14 Mon

9、
 凛一の休日にふたり、横浜に買い物に出かけた。
 アメリカではそう感じなかったが、人ごみを歩いていると、他人の視線が気になって仕方がない。別に目立つ格好をしているわけでもないのに、やたらと俺たちを見るのだ。
 確かに凛一は目を引く存在だが、どれもこれもが怪しい奴らな気がして、俺は少々神経過敏になってしまう。
 凛一に聞くと、「そうかな、俺はあんまり気にならないけど。今は田舎だからそうないけど、調布にいた頃は結構スカウトされたりしたよ。俺、全然興味ないから無視してたけど。そういう兄貴だって声かけられた方だろ?」
「うん…」
 モデルの勧誘は多かったが、凛と同じでそういうものに全く関心がなかったから、気にもしなかった。自分の事は気にならないのに、弟の事になると干渉過多になってしまうのは親バカの典型なのだろうけれど。

 買い物をした後、アウトレットモールの福引きで箱根一泊旅行券に当たってしまい、俺は少し悩んだ。凛一と一緒に行くのはいいが、凛一はそれを喜ぶだろうか。俺よりも恋人との旅行が楽しめるのではないだろうか…そう思って凛一に渡した。
 凛一は少し不可思議な顔をしてそれを受け取った。
 翌日、恋人に渡したら喜んでくれたと嬉しそうに報告する凛一にほっとしたり、どことなく切なかったりと、もてあまし気味の自分の感情に情けなくなる。
 一生凛一を見守っていく覚悟でいるのに、これくらいで操縦をもたついてもらっては俺としては困るわけだ。
 お守り代わりにつけたネックレスを俺は強く握り締める。

どうか凛をお守りください。 
俺の醜い欲望に穢されぬよう…
彼の真の幸せを見つけられるよう…
お守りください。


 九月になり俺の休暇も終わる頃、凛一は「Satyri」へ行こうと俺を誘った。
 俺は凛一が嶌谷(とうや)さんと会っていたことは知らなかったから驚いた。
「凛、サティロスに行けるようになったのか?」
「うん、七月頃だったかなあ…思い切って行ってみたんだ。大丈夫だったよ。月村さんの事も俺、いい思い出としてずっと忘れないでいようって思えたんだよね」
「そう、か…」
「慧にも心配させてしまったけれど安心していいよ。俺、やっぱり月村さんのことが好きだったんだ。あの人の純粋な魂に触れるのが心地よかったんだ。だから慧も月村さんを許してやってよ」
「…」
「一緒にサテュロスに行ってくれる?」
「ああ、そうだね。俺も久しぶりに嶌谷さんに会いたいしね」

 夕方、家を出て途中で夕食を取って、8時過ぎに「Satyri」に着いた。
 重い二重ドアを開けると生演奏の重低音が身中に響く。どんなに揃えたオーディオコンポでも敵わないなあと感心しつつ、先を行く凛の後を付いて行く。
 凛一は躊躇わずにカウンターに向かうと、そこに座っていた客は一斉に立ち上がり、かわるがわる凛一を抱きしめキスをしたり頭を撫でたりしながら歓待する。
 その場面に面食らいながらも、皆から愛されている凛一の姿を見るのはやはり嬉しい気分だ。
 壁際のカウンターの端に凛一が座るのを見て、俺は逆の隅に座った。
 凛一を眺めるのにも丁度いい。
 天井の淡いライトが丁度凛一を照らし出して、その姿がなんだか本当に幻の天女ようにさえ見える。

 目の前にいつもの水割りを差し出した嶌谷さんに挨拶をする。
「久しぶりだね~慧一くんが店に来るのは去年の春だったから…」
「一年半ぶりですよ」
「元気そうでなによりだ。凛の奴、夏の初め頃に来てくれてね。すっかり大人になってて驚いたよ。凛一が来ると常連の奴らが喜ぶんだよ。凛はうちのアイドルっ子だからなあ。あ、心配いらないよ。常連客は凛のことを家族みたいに思っているし、他の客に誘われても凛はきっちり断っているからね。すっかり身持ちが硬くなったようだね。慧一くんの指導の所為かな」
「俺じゃなくて…恋人が出来たからでしょう。凛はその子に本気らしいから」
「ああ、凛一から聞いたよ。ぞっこんらしいね。いつまで続くかわからんが」
「そんな事を言ったら、凛一が怒りますよ」
「慧一くんだってそうなって欲しいと思っているんじゃないのかね?」
「俺は…凛が幸せなら、いいんですよ」
「益々悟りを開かんとする苦行者の域になってきたね。即身仏にでもなる気かい?」
「俺には一生悟りなんて開けませんし、理解する気もない。ましてや永遠の命なんてこれっぽっちも欲しいとも思わない。ただ凛が…」
「凛一はまだ何も知らないのかい?」
「わからない…俺が…愛しているのは凛一だけ、だとは気づいているでしょう。これだけ執着しているのだから。だけど…」
「…」
 常連の友人達とリラックスした面持ちで会話を楽しみ、楽しそうに笑う凛一を眺めていると、やはりこのまま兄として見守っていたほうが正しい事のような気がしてならない。

「店が終わったら、家に来るかい?俺としては3人でゆっくり過ごしたいんだけどね」
「ありがとうございます。でも凛一だけお願いしてもいいですか?俺は終電で帰りますよ。明後日シカゴに帰ります。そしたら凛はまたひとりになる。面倒だと思うけれど凛一は嶌谷さんを頼りにしているから、よろしくお願いします」
 俺の頼みを聞く嶌谷さんの顔には憐憫さが漂い、俺は少しだけ笑って見せた。
 誰にも救いようがない魂ってもんもあるんですよ、嶌谷さん。


 東京の夜空を見上げる。
 ぱっくり割れた上限の月の影は何かに怯えているようにも見える。
 俺が恐れているのはあの子を傷つけること。
 あの子の魂を半分に切り捨てるマネだけはしたくない。
 
 こっそりと「Satyri」を出た俺は、生温い夜風に当たりながら駅に向かった。人通りも少なくない。俺は帰宅を急ぐ人を掻き分けながら歩いていく。
「慧っ!待って!」
 ざわめく街中に響き渡る声がした。
 思いもかけなかった凛一の声に俺は足を止め振り向いた。
「凛…」
「なんで…ひとりで、勝手に…帰っちゃうの、さ…」
 余程の速さで走ったのだろう。息を切らしながら凛一は俺を睨んだ。
「ゴメン。凛一は嶌谷さんにお願いしたから、終電に間に合うようにって思ってね」
「嶌谷さん宅に泊まるのなら慧も一緒じゃなきゃ嫌だよ」
「ふたりもお邪魔するわけにもいかないよ。凛は嶌谷さんとゆっくりしてもいいんだよ」
「やだよ」
 凛一は怒ったように前を向き、俺の腕を取ると引っ張りながら駅の方向へ歩き出した。
「慧一は明後日にはいなくなっちゃうのに、なんで嶌谷さん宅に俺ひとりで行かなきゃならないんだよ。俺は少しでも慧と一緒に過ごしたいって思っているのにさ」
「…ゴメン」
「慧は俺の気持ちをわかってないんだよ。昔っから」
「そんな、事はないと思うけど…」
「じゃあ、俺から逃げるな!」
 絡めた腕の力は少しも緩まない。
 ごめん、どこにも逃げないから、凛。
 おまえが俺を求めてくれるのなら。
 俺はずっと傍にいるよ。


 平日からなのか、終電に割には席は空いていて、余裕で凛一と座れた。
 暫くすると凛は俺の肩に凭れ、呼吸もゆっくりとなる。
 眠っているのかと様子を伺えば、薄く開いた瞳は窓の外の暗い景色を見つめている。
 こうして静かにしている横顔をみると17になってもどこか少女めいた顔つきをしている凛は魅惑的でもあったが、いくらか愁いを含ませた眉間からは純潔な聖職者にも見える。
 すぐに眠るのだろうと思い、俺も仮眠しようと肩の力を抜いた。
 すると程なく俺の右手に凛一の左手が絡んできた。俺は一瞬びくりとしたが凛一のするがままにしておいた。
 凛一の指と俺の指が絡み合いしっかりと握り合わされた。
 俺は右斜め上から凛の顔色を伺ったが、先程となにひとつ変わらない。
 ただしっかりと握り合わされた手の力は少しも弱めてはくれなかった。

 凛一は、俺になにを求めているのだろう。
 保護者として甘えさせ、抱きとめる愛情…。
 それとも、おまえを欲望で埋め尽くし縛り付ける愛が欲しいのだろうか。
 合わされた手の平の中には一体何が隠されているのだろうか…
 俺たちはいつかそれを解読し、お互いの目の前に晒さなきゃならない気がする。
 俺はそれが暖かい光であって欲しいと、思っているよ。
 そうでなきゃ、俺たちは…

 電車の音だけが鳴り響く車内。
 このまま銀河鉄道にでもなればいい…と、思いながらまどろんでいく。





8へ /10へ
宿禰慧一のお話はこちら「イリュミナシオン」 
リンミナシリーズはこちらからどうぞ。目次へ


次はミナ編。凛と結ばれたところからだね。
慧一編は心情があまり動かなかったから書き難かった~
ミナ編はちょっと切ない甘甘ストーリーにしたいなあ~
ちょっと休憩させてね。




● COMMENT ●

けい可愛い♪

なんかすごくけいが可愛い~
りんの問いかけに「うん……」とか「ごめん」とか、片言のちょっとたよりない返答(^m^)
いつでも兄として、上位者として構えているかれが、逆にりんの弟みたいで可愛い。
この状態がこうもがんじがらめに膠着してるのも、ひとつにはこんなこともあるのかもしれない。
ひとは生まれ落ちてからずっと、「長子」の性質、「末子」の性質、これをかかえていくでしょう。
わたしは長女ですが、そのために苦しんできたこと、そのためにあがいてきたことがたくさんあります。
そういったものをすこし横におくと、ちょっとだけ突破口が見えるのかもしれないとも思ったり……

七月さん

慧は凛のことをわかっていない部分が多い。凛はいつまでも小さい弟ではないのに、慧はいつまでも自分が育てた、守ってやらなきゃならないと思い込んでいる。そこをそうじゃないんだとわからせなきゃならない。
それをわからせるのは成長する凛だろうと自分は思っている。
凛が成長する為には色々な経験が居る。それをだらだらと書いているのかなあ~と、最近思うんだよね。
しかし長いな~はやく先に行きたいんだけど、人の心ってそんなに急に成長しないもんだよね。

七月さんは長女か。私は4つ違いの兄がいるだけですが、うちは厳格な家で本家なので(別に金持ちじゃない)とにかく厳しかった。男尊女卑や封建制度が残ってたかもなあ~お風呂は男が先、ご飯をよそおうのも順番が決まっていてさあ~とにかく兄が第一で、自分は結構注目されずに自由だったので…こんな性格にwwwまあ真面目だったから、怒られることも少なかったね。要領が良かったんだね。
どっちにしても下の方が楽。
しかし、うちの子たちは…ふたりとも自分好きの楽天家なのだが~(;´∀`)

慧一編

終わってしまいましたね~。
クールな彼の内面はこんなにドロドロと渦巻いていて、小悪魔的な凛は、終電の中で見せた少女のような表情をまだ持っている17歳でした。

また、二人は離れてリンは、ミナとの恋愛を楽しむ。
慧一さん、切ないなぁ。

名刺シリーズ面白いですね、先に見てしまいました。

アドさん

こめあんがとね~
「オレミユス」はこのまま続くんですよ~
いま時間軸あわせなので。
それぞれの章はそのまま。

慧一の切なさは凛がそばにいてもいなくても切ないんだよなあ~
まあ、今が一番切ないとは思うけど。
でも慧一はミナと凛がそう長く続く恋愛だとは思っていない。と、いうか思いたくない…ので、いつかは凛一は俺に帰ってくる、と、思っている(願っている)
めんどくさい男だねえ~
とっとといい男捜したらいいのに…と、思うけど。
無理www


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