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2019-11

宿禰凛一編 「Swingby」 16 - 2010.02.22 Mon

16.
 学校で過ごしている間は感じないのだが、夕方帰宅して寝るまでの時間が寂しくて仕方がない。
 慧一がシカゴへ行ってしまった後はいつもの事だからわかってはいるけれど、夜って長いんだ、と、ベッドの中で寝付けない自分をもてあましてしまう。
 どうしても我慢できない時は、新橋の嶌谷(とうや)さんの店に行くけれど、俺ばかりを相手してもらうのも気が引ける。第一帰る時間に路線がない。送ってもらうにしたって結局は迷惑をかけてしまうことになる。
 だからじっと我慢する。
 週末にはミナと過ごせる。
 めちゃくちゃにミナを愛してあげる。
 それで俺の寂しさも消えるんだ。

 ミナは相変わらず心も身体も素直だ。
 この男の良心といっていい。
 俺の言葉のひとことひとことを大事な意味があるかのように、耳をそばだてて聞き入るし、ちょっとした好意も思いもよらぬほどにありがたがる。
 こちらが面食らうのも構わずに、好奇心の目で次はなに?と、いう体の姿勢で身を乗り出す…と、いった具合だ。

 俺はミナの真っ白なカンバスを色んな色で汚しているように思え、後ろめたい気がしてならない。それを言うと、ミナは「色んな色を教えてくれたリンに感謝こそすれ、なんで気に病む必要がある。おれは感謝しているよ。もし色んな色をリンがおれのカンバスに落としてくれたのなら、それを混ぜて良い絵にするのはおれ自身であるべきだろう」と、言う。

 週末にミナが来る目的はセックスだけではなく、それと同等に勉強に勤しむ羽目になる。
 とにかくミナが勤勉だ。
 予習、復習は当たり前だが、重要ではない科目にまで真面目に取り組む姿勢には感心する。
 結局俺もミナの勉強につき合わされ、そんなにガリ勉をしているつもりではないが、成績は上がる一方で、マジでミナと一緒にT大でも目指そうか!と、はしゃぎ始める始末。
「リン、真面目に考えなよ。今から猛勉強すればT大の建築学科だっていけると思うんだ。おれは理学部を選択するから…大学も一緒に行けたら、嬉しい」
「…ちょっと…まだ何も考えてないよ。無理に勉強してまでT大に行きたいなんてこれっぽちも考えたことはないし…大体将来のことなんて…まだそんなの俺には…」
「リンはどうしたいの?大学行って仕事して…誰にも頼らず独りで生計を立てられるように生きていくのは当たり前だと思うけど。少なくともおれはそうしたい。そう思うから今勉強していい大学に入って給料の高い企業に就職したい」
「…」
 まるでそうすることが当たり前のように言うミナの言葉は確かに…そりゃ確かにそうなんだろうけど、俺にはまるで実感がない。
 俺は一体どうしたいんだ?
 俺の将来って…
 なんになりたいかって…そんなの…わからないよ。

 黙ったままでいると、ミナが俺の手を取りゆっくりとした口調で話す。
「リンは…ひとりで過ごしてきた時間が長すぎたんだよ。今もひとりだし…だから家族という枠に囚われないで生きていられるから、きっと…そこから飛び出したいっていう気持ちが少ないんじゃないかな。おれは家族から独立することが大人になるってことじゃないかと思うんだけど」
「…」
「リンはお兄さんから離れられない?」
「え?」
 ミナがトーンを落としながら口走る。
「リンにとって慧一さんが一番大事な家族なんだろう?」
「そうだよ。だけど…いつかは兄貴から離れなきゃならないって…わかっているよ」
 そう、慧一を自由にさせてやらなきゃ…そうしなきゃならない…


 体育祭の応援合戦の練習も大詰めを迎え、俺と根本先輩はクライマックスのダンスシーンの練習に毎日明け暮れる。
「なんでここから急にボレロなんだよ。リズム取りにくいよ」
「ガタガタ言うなっ!ちゃんと胸を合わせて、顔も近づけろよ、宿禰!そこ!顔を逸らすなって言ってんだろ!」
 この応援演目の指揮を執る3年の岡田先輩が、竹刀を持って俺らの踊りを指導する。
「これ以上くっ付いたら先輩のアレが当たるんですよっ!気持ち悪いし」
「つべこべゆうな。俺の演出は完璧だ!おまえらのダンスに黒組の勝利がかかっている。指示どうりにやれ!」
「リンくん、ほら岡田の言うとおりにもっとくっつこうよ」
「…」 
 …うぜええ~
 わざとらしく股間を擦り付ける根本先輩にも呆れた俺は、どうにでもなれと、彼の身体を抱え上げた。

 やっと練習から解放された俺は、クタクタになりながら帰りの用意をする。
 根本先輩はミナと同じ寮だから、ジャージのまま帰るらしい。
「そんなにぼくと踊るのは嫌なの?」 
 岡田先輩の奢りのジュースを口にしながら、根本先輩は俺の顔を睨む。
「あんたと踊るのは嫌じゃないけどね、演出が行き過ぎだろう。だいたい先輩がドレス着てたら見てる人は男とは思わないよ」
「あれ?それ褒めてるの?うれしいなあ~じゃあ、一度ぼくとセックスでもしない?」
「…それはいつも断っている」
 靴を履いて足早に急ぐ俺の腕に手を回して歩くのは、この人の性分だと諦めるしかない。
「みなっちへの操を奉っているわけ?宿禰らしくないねえ~」
「別に俺はセックスに対して貞操観念は低いし、たぶん先輩に引けを取らないほど遊んでますよ。だけど、今はミナがいる。大事な恋人が嫌がるようなことをしないのが、恋人としての義務だと思うからね」
「恋人への義務ね…おおよそ宿禰凛一には似合わない言葉だねえ~。貞節がそんなに美徳とは思わないけどね」
「先輩は好きでもない奴として気持ちいいですか?本当に好きな奴とした方がやるせなさや後悔は少なくてすむでしょ?…あんたは本当は知っているんだ。何が一番大事なのかを?敢えてそれを選ばない。どうして?」
「…保井の事?」
「そうですよ。俺は保井先生のことは詳しくは知らないけど、あの人こそ純真を塊にした人だと思うけどね。先輩への気持ちが嘘には見えないけど…」
「だから、困るんだよ」
 先輩は俺の腕から手を離し、立ち止まって腕組みをする。
「どうして?」
 無視できるわけもなく、俺も先輩に向かい合うように立ち止まる。
「本当の好きな気持ちに対して、ぼくは何を与えればいいのか…それと同等の愛情は、ぼくの身体では返せない気がする」
「身体ではなくて気持ちだろ?」
「それが脆すぎて、形にならない場合は?」
「固まるまで捏ねるんですよ。きっと何かが見つかる…と、俺は思うけどね」
「そうだといいんだけどね…」
 根本先輩は力なく笑った。
 黙ったままでいると、彼は俺の顔を正面に見据えて真面目な顔で言う。
「ありがとう。君の教訓を心に留めておくよ」
「俺自身への戒めでもありますよ」
 先輩の本音であろう言葉に俺も心ならずも打たれた。
 相手の愛情を認め、それを己に相応しい愛に形作るのは俺にだって難しいことだと思う。
 

 体育祭を控えた週末、俺は「Satyri」で過ごしていた。
 嶌谷さんや常連のお客と雑談で季節柄運動会の話題になり、俺が来週体育祭で応援合戦をやると話した途端、周りが騒ぎ出した。
「凛一くんの羽織袴姿?それは見にいかなきゃなあ~」
「絶対行くわ!お弁当作って応援するからね!」
「よし、最高にかっこいい凛くんの姿をファインダーに収めてやる」と、みんな一致団結で参加する気でいる。
「え?ちょっと待ってよ。わざわざ鎌倉まで来なくていいよ。そんな大層なことはしないし…」
「いいじゃないか、凛。みんな凛の晴れ舞台を見たいんだよ。凛はうちのアイドルだからね。応援させてくれよ」
「嶌谷さんも来るの?」
「勿論だ。まあ、保護者ヅラしておとなしくしてるから気にするな」
「うん…」
 気にするだろう…だけど、
 大人げもなくはしゃいでいるみんなを眺めていると、何だか胸が熱くなってしまった。
 こんな俺を気にかけてくれている人たちが居ると思うだけで嬉しくてたまらない。
「ありがとう。俺、頑張るよ」

 
 体育祭の前日、何の連絡もなく慧一がマンションに姿を見せた。
「慧…なんで?」
 予想もしなかったことだから、俺は驚いてリビングのソファにバックを置く慧一に急いで近づいた。
「明日は体育祭だろ?凛の応援合戦をどうしても見たくてさ。…我慢できなかった」
 苦笑いをする慧一の顔を見た途端、涙が堪えきれなくなってしまった。
 慧一の胸の中に飛び込んだ俺を慧はしっかりと抱きとめた。
「弟の応援合戦を観る為にシカゴから帰ってくる兄なんか、どこを探しても居ないよ」
「俺もそう思ったけどね…気が付いたら飛行機のチケットを手にして空港にいたんだ」
「はは…バカ兄貴だ」
「仕方ないよ。凛は俺の大事な…弟だから、さ」
 あまりの嬉しさに俺はキスを浴びせた。
 勿論、慧の口唇に。

 みっともねえなあ~いつもえらぶってるクセにさあ~
 間違ってもミナに見せれたもんじゃない。
 だけど、慧一を手放すなんて…
 俺には当分出来そうにも無い…



15へ /17へ
リンミナシリーズはこちらからどうぞ。目次へ


根本先輩
↑根本先輩

保井センセ
↑保井先生

誰が誰だが(;´▽`A``
↑凛の私設応援団のお昼時。
左から 美間坂先輩、桐生先輩、戸田さん、凛一、ミコシさん、紫乃、慧一、手前は嶌谷さん。
カメラマンは三田川さん。
適当な落書きですまん。


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