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2019-09

宿禰凛一編 「Swingby」 19 - 2010.03.01 Mon

19、
 何かの記憶を思い出そうとするたびに最初に現れるのは慧の姿だった。
 俺のすべてを包み込んでくれる優しい眼差しだった。
 梓が死んだ時、俺は生きる意味を失った。だけど慧は俺を必死で生かそうとした。だから俺は生き延びることができた。
 堕落した俺に嫌気がさしてアメリカに行っても、俺を守るために帰って来てくれた。
 一生俺を守ると言ってくれた。
 その言葉を俺は信じている。
 でも…
 嶌谷さんの言うとおり、いつまでも慧一に依存していてはいけない。
 慧を俺を守る保護者から解放してやらなければならない。
 俺は、慧が欲しい。慧といつまでも恋人のように一生離れずに生きてゆきたいと願う。
 でもそれが慧の自由を奪い、重荷になるのなら…俺がいつまでも甘ったれのガキでい続ける原因であるのならば…俺たちはお互いの距離を取らなきゃならない。

 俺は、慧一以外の愛する者と生きる道を歩んでいかなければならない。
 もしくは独りで生きていく…そういうことだ。

 十一月、学校の休日を使って、ミナと前から予定していた箱根へ一泊旅行に出かけた。
 慧一から貰った旅行券だった。
「リンと箱根へ旅行なんて…なんか夢みたい」
「どうして?」
「リンにはわからないだろうけど…好きな人と一緒に旅行なんて…おれには想像できないことだったから」
 そう言って顔を赤らめるミナがかわいくて愛おしい。
 この人を守りたい、傷つけたくない…だけど…
 いくら慧一への愛とは資質が違うとは言え、比べてしまう。
 関わってきた年月が違うんだから当たり前だけど…
 慧と同じ年数だけミナと生きていけたなら、慧と同じ重さの愛情に変わるものなのだろうか。

 小涌谷の旅館に着いた。
 離れの部屋ってこともあり、ミナはここへ来るまでの道のりよりもずっとリラックスしている。
 部屋に付いている露天も素晴らしく、夕食も大満足で心から喜んでくれている。
 俺はミナの笑顔に救われている気がした。
 そして思う。慧一もこんな風に俺を愛してくれていたのだろう…
 それがどんな形の想いであろうともかけがいのない愛情だった。
 俺の為に、持ちうるすべての愛情を注ぎ込んでくれた真実の愛だった。

 広縁の椅子に座って湯上りの熱を冷ましながら、ミナと懇談する。
 俺の性体験の事を強請られたところまでは良かったが…
「慧一さんとは、寝たことあるの?」
「え?…」
 ミナの突然の言葉に俺は一瞬言葉を失った。
「寝たって…セックスしたって事?」
「…う、ん」
「ないよ。慧とはキスもハグもベッドで一緒に寝たりもするけど、セックスはしていない。何故なら…兄貴にはその気がないからね」
「…そう、なの?」
「俺が必死に誘ってもそういう気にはならないらしい」
「あんなに…リンのことを愛しているって…おれでも感じるのに」
「…兄弟だったら普通はセックスはしないもんだろ」
「そりゃそうだけど…」
 
 そう、普通の兄弟なら、兄弟愛なら肉欲なんて感じないはずだ。
 俺だって…今までは慧一を性欲の対象として深く考えた事はなかったんだ。
 だけど、気がついてしまった。俺は慧一を欲しがっている。慧一とセックスをしたい。慧一と繋がりたい。
 慧一は…慧一はどう感じているのだろう。
 俺を抱きたいと感じだことはあるのだろうか。
 彼の愛情がただの弟へ注ぐ好意とは思えない。それはいつだって感じていた。
 もっと深く大きく…そして…
 駄目だ。
 ミナといる時は慧一の事は忘れよう。
 ミナは敏感に感じ取るだろう。俺が違う男の事を考えている事を。
 ミナは恋人として不足のない男だ。
 俺は、こいつと歩いて行きたいと願っている。
 だから…
 忘れなきゃならない。

 その夜、俺はいつもより一層激しくミナを抱いた。
 ミナの喘ぎが嬌声に変わり助けを求めても俺は責め続けた。
 俺の名前を呼ぶミナに応えるように、俺はその様々な耳元へ心地よい言葉を浴びせ続けた。
 ミナを俺に繋ぎとめておかねばならない。
 俺が慧一と離れても心が挫けぬ為に。
 …ミナだけは俺から離れてはいけない。
 もっと…もっと俺を求めろよ、ミナ。
 俺が慧を求めなくて済むように…
 頼むから…


 翌日、俺たちは箱根の観光名所を楽しんだ。
 おおっぴらに手を繋いだりするのをミナは嫌がる。
 当たり前だ。男同士の恋人なんて、通常の概念じゃ差別されて当たり前だ。
 俺は彼が望まなければ離れて歩くのも構わないんだ。
 ミナは俺と違って、とてもノーマルな神経を持っている。自分が差別されるのはプライドが許さないだろう。
 ミナのその自尊心は水川青弥という人間の本質であるから、俺はそれを否定する気は全くない。
 だがそのプライドを捨ててまで、ミナは俺を愛してくれている。だから…この恋を余計に大切にしたいんだ。

 夕方近くに仙石原に着いた。
 黄金の雄大な波がざわざわと音を立て、キラキラと輝いている。
 丁度、落日だった。
 目の前の山に夕日が隠れる寸前、辺り一面が赤く燃えた。黄金の波が赤く映え、燃えるような空が一日の別れを告げた。
 その輝く空と反するように一層昏い色を落とす山の影に、俺は慧一の姿を重ねてしまった。
 彼は…俺を支える為にいつだって自ら輝くことを求めてはいなかった。
 一日中空を回る太陽を見守り、夜になるとその身を抱かせる。
 あの夕日に沈む山が慧一なのだ。
 俺はいつだって慧一を束縛してきた。
 俺の傍から離れる事を許さなかった。
 俺だけを見つめるように仕向けてきた。
 
 慧一の幸せを、一度たりとも真剣に考えた事があったのだろうか?
 俺は…
 
 太陽が沈んだ後も辺りはまだ輝きの恩寵を受けていた。
 頬を伝う涙を拭いた俺は慧一との決別を心に科した。
 慧一が欲しい。
 慧一を愛している。
 だけど、それは心の中だけで想う秘めた愛。
 決して報われることもない禁断の愛。

 俺にはミナがいる。
 そして、振り向いた先にはミナがいた。
 俺のミナがそこに居てくれた。

 人の目も気にせずに俺を抱き締めるミナを、より強く抱き寄せた。
「リン、おれ絶対忘れないから。リンと過ごした時間を。この瞬間を心に留めておく」
「ミナ」
「おまえを愛してるんだよ、リン」

 俺を愛し、そして救ってくれるミナ。
 おまえだけには絶対に、こんな虚しさなんか与えたりしない。







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