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2019-11

宿禰慧一編 「オレミユス」 11 - 2010.03.09 Tue

oremiyusu


11、
 十月十日はどうしても日本に帰国したかった。
 凛一の体育祭がある。
 シカゴ大学の研究生であり、教授の助手としてそれなりの仕事もこなしている俺には、忙しい時期ではあったが、どうしてもこれだけは自分の目で見ておきたかった。

 凛一の学校行事には出来るだけ参観に行っていた。
 親のいない寂しさを凛一には味あわせたくなかったからだ。
 中学時代は俺が勝手に留学したから、凛一には可哀相なことをしたと後悔している。
 中3の時は例の事件で不参加、去年の高一の時は俺の都合で観に行ってやれていない。
 凛一が応援団に参加することは、夏休みに毎日のように練習に出かけていたのを知っていたから、尚の事、この目に焼き付けておきたい。

 体育祭の前日の夕刻、鎌倉の自宅に帰りつく。
 凛を驚かせたくて、事前の連絡無しの帰宅だったから、俺の姿を目にした凛一はさすがに言葉もないくらいに驚き、黒まなこを何度も瞬かせながら、俺に飛びついてきた。
「俺の体育祭を観る為に?それだけの為に帰ってきたの?」
「そうだよ」
「バカだ…」
 呆れながらも身体全身から湧き出る喜びを隠そうともせず、俺の首に両腕を回して頬ずりをする。
 凛一の喜びはそのまま俺の喜びになる。

 夜になると夕方まで降っていた雨の音が次第に小さくなっていた。
 ベランダにふたりで出て空を見ると、風に流れていく雲の間から秋の星座が見え隠れしていた。
「明日は大丈夫そうだな」
「せっかく慧がアメリカから来てくれてるのに雨天中止じゃ笑い話にもならないよ。良かった…明日はきっと晴れるね」
「ああ…それより、弁当をこさえる材料があんまりないな。どうする?おにぎりと卵焼きぐらいならできそうだが」
「それは大丈夫。嶌谷さん達が用意してくれるって」
「嶌谷さん…たち?」
「うん。慧も知ってるだろ?サテュロスの常連さん達だよ。俺を可愛がってくれてるの。ミコシさんと戸田さんと、プロカメラマンの三田川さん。戸田さんは喫茶店のマスターなんだけど、フランス料理のシェフだったんだって。で、嶌谷さんとふたりで作ってくれるって」
「そうか…凛には頼もしい応援団が付いているわけだ」
「うん、何かワクワクするね。最高の体育祭になりそうだよ」
 満面の笑みを湛える凛一。この微笑を俺は一生守り通したい。

 翌日、準備があると朝早く凛一を送り出す。思ったとおり一点の曇りもない秋晴れ。凛の晴れ舞台には相応しい。
 
 開会式に合わせて高校へ出かけた。歩いて10分程度で運動場へ着く。すでに沢山の生徒の家族で観客席は埋め尽くされていた。
 生徒の応援席も本格的に足場を組むし、ベニヤ板に描かれた横断幕もその頭上に掲げられる。勿論俺にも経験はあるが、小、中学校とはまた違った雰囲気だ。
 
 暫く後ろで様子を伺っていると嶌谷さん達の一団を見つけた。
 近づいて声を掛けた。嶌谷さんは俺を見て一瞬ポカンと口を開いた。
「…慧一くん、来てたのか?まさか…コレを観る為?」
「その台詞、嶌谷さんにそっくりお返ししますよ。赤の他人の為に朝早くから応援に来てるじゃないですか。大勢引き連れて」
「ああ、こいつらの事?みんな凛一が可愛いんだよ。あんなシロモノは滅多にいない。可愛がってやらなきゃ罪ってもんだろ?」
「…兄としては非常に複雑ですがね」と、見るからにイロモノの皆さんを横目で見つつ、多少引きつった笑いを返した。
「メインは応援合戦だが、それは午後からだろ?それまで俺達も青春時代に戻って学生の気分で楽しもう」
「…一緒にしないで下さい。俺はまだ学生ですよ」
「ああ、そうだったね、ゴメンゴメン」
 少しも悪びれていないクセに、全く嫌味がないからなあ~この人は。

 昼食時間になり、生徒達が散り散りになる中、凛一と合流し、運動場の隅に先にでかいシートを敷いて手を振っている嶌谷さん達のところへ向かう。ふと凛一の後ろに並んで歩く二人連れに目をやった。
「凛、この方達は?」
「あ、慧は初めてだったよね。ほらお世話になったって前に話したことあったでしょ。美間坂さんと桐生先輩だよ」「なんで俺には先輩付け無しなんだ?」「まあ、いいから。宿禰のお兄さんですね。初めまして、桐生といいます。宿禰くんと同じ部活の「詩人の会」の部長をやっていました」「凛一から伺っていました。日頃離れて暮らしているので、しつけがなってなく凛一が我儘にしていると思います。色々と迷惑をかけているかもしれませんがよろしくお願いします」「桐生先輩達はサテュロスにもよく行くんだって。だから嶌谷さん達とも知りあいなの。一緒に昼飯しようと思って誘ったわけ」「常連ではないのですが、たまに美間坂を連れ出したりしてな、真広」「俺の反対を押し切って行くっていうから付いて行ってるだけだ。あそこはゲイの溜まり場だから、安心できない」「…心配性の恋人を持つのも気が重い時があります」「千尋!」「さ、行こうよ、嶌谷さん達が先に弁当全部食っちゃうよ~」
 両脇にふたりの腕を抱えた凛一がふたりを引っ張りながら、手を振る嶌谷さんに向かって早足で歩いていく。
 俺はその後姿になんとも言えない安堵感と少しの寂しさを感じてしまうんだ。

 シートに座り、ノンアルコールビールをコップに注いでいると、聞きなれた声がする。
「盛り上がるのはいいですが、保護者の皆さん、学校でお酒は駄目です…って、慧一?」
「…」
 振り向いたら紫乃だった。そりゃここの先生だから会ってもおかしくないけどな。
「おまえ、なんでここに?…え?まさか、体育祭を観る為?」
「…悪いか」
「…マジで絶句…」と、言いつつ伊達眼鏡の奥がせせら笑っているのがわかる。ああ、どうせ俺は凛一バカだよ。
「凛一、こちらは?」と、機嫌のいい嶌谷さん。
「俺の担任の藤宮先生だよ」
「これはこれは先生、いつも凛一がお世話になってます」
 立ち上がった嶌谷さんは紫乃の前で丁寧に頭を下げた。
「は?」
「凛一の親代わりの嶌谷誠一郎と言います」と、嶌谷さんは名刺入れから紫乃に名刺を差し出す。
「こちらの胡散臭いやつらは凛一の身内のオジサンみたいなもので…」
「あら、マスターひどい!私は身体は男だけど心は貴婦人よ」
「はいはい、ミコシさんはステキなレディです」
「ちっとも心が込もってないわよ、マスター!」
「…なんでもいいですが、お酒は困ります」
「紫乃、これはアルコール0パーだから…」
「ご安心ください。それより、先生はまだお昼は?」
「はい、まだですが…」
「丁度良かった。さあさあ、ご一緒にどうぞ~」
「「ええ?」」
 …いいのか?と言う顔を俺に向ける。やめとけ!と目で合図したが、紫乃はそれを無視してさっさと俺の横に座り、嶌谷さんの継いだ偽ビールを美味そうに飲み始めた。
「なんで担任が生徒と一緒に飯を食うんだ?」
「いいじゃん。凛一の面倒は俺もみている。俺も身内みたいなもんだ。一緒に食う権利はあるぞ。…というか…なんかすごい弁当だな」
 紫乃が目の前に並べられた料理を眺めて耳打ちする。
 確かに弁当という枠を外れて…色んな意味で外れている集まりではあったからコレはこれでいいのかもしれないが…
 さすがに本場で鍛えたという話だけあって戸田さんの弁当の中身はどれもこれも凝ったものだった。

「おにぎりにキャビアのコンソメジュレって…どんなメニューだよ」「白子のムニエルも美味いよ」「ローストビーフのサンドイッチはグレービーソースをかけて召し上がってください」「高級食材てんこ盛りだな、おい」「…今時の運動会の弁当って半端ないんだな…」「ここだけだと俺は思うが…」
 小言を言いつつも食べる方の口も休んでいない紫乃に、先生として真面目にやっているのか多少の不安も隠せないが、とにかく凛一がくったくなく誰に気を使うでもなく幸せな表情で和んでいる姿を確認できただけでも、俺にとっては今日ここに来た甲斐があると言うものだった。


 午後一番のプログラム、応援合戦が始まった。
 凛一の黒組が始まるまで、自分のことのように心臓が高鳴って仕方がない。
 うまくやれるだろうか、失敗しないだろうか…まさにバカ親の極みだ。

 黒組の応援が始まる。
 白袴に黒羽織に黒たすきを結んだ凛一たち応援団が和太鼓に合わせながら揃い踊る戦舞に観客席からも溜息が漏れる。
 黒いたすきと鉢巻が風に靡き、砂が舞う。
 音楽が変わり赤い扇を持った凛が中央で舞を始めた。
 一つ一つの動きが凄烈であり、また妖艶でもある。
 しなやかさと優美さ、そして荘厳な空気が辺り一面を包んだ。
 俺は胸の震えを止めることができないでいた。
 もし周りに誰もいなかったら感動に泣き叫んでいただろう。

 …これが凛一なのか…
 俺が育てたあの小さかった凛一なのか…
 こんなにも美しく見事な羽を広げて…彼は飛んでいくのだ。
 母さん、梓、空から彼の晴れ姿を見てやってください。
 あなた達の愛した凛一はまさに選ばれた者だ。
 頭上に黄金の冠をいただき、輝くおもては女神の様。
 その背には玉虫色の6枚の翼がゆっくりと羽ばたき、今にも飛び去ってしまうが如く。

 俺には決して届かない。
 その果てまで飛んでいってしまうのだ…
 




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宿禰慧一のお話はこちら「イリュミナシオン」 
リンミナシリーズはこちらからどうぞ。目次へ


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