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2019-09

宿禰慧一編 「オレミユス」 12 - 2010.03.11 Thu

        桐生と美間坂

12、
 体育祭が終わった後、凛一と連れ立って、打ち上げ会をするという嶌谷さんの店へ出向く。
 楽しい時間というのは瞬く間に過ぎていくとはよく言うが、今日ほど時間が速いと感じた一日は早々あるもんじゃないな。
 たいした気も使わずに心ゆくまでみんなと楽しんだ。

 特に凛一の先輩であり、俺の大学の後輩となる桐生くんとの凛一に関する話は興味深く、学校での凛一の様子を聞かされるのは楽しかった。T大の医学生であり、生徒会長でもあった美間坂くんも一見ぶっきらぼうではあるが、非常に信頼できる人物に思えた。
「凛は学校のことをあまり話さないからね。本当に真面目にやっているのかどうか…」
「宿禰は真面目ですよ。部活の詩人の会でも彼の詩の朗読の感情の表し方、抑揚は聞く者に感動を与えていましたからね。朗読って一見簡単そうだが、詩の意味するところを汲み取って、尚且つそれを言葉に乗せて発声するもんなんです。聞き手に訴えかけるというのは中々難しいんです。宿禰はそれを楽にやってのける。天性というものでしょうねえ~」
「あれは目立ちすぎだ。もっと謙虚になった方が目をつけられなくて済むだろう」と、美間坂くんが眼鏡の奥から鋭い目つきで、奥の壁際で歓談している凛一を睨みつけている。
「真広がそれを言うの?…謙虚さなんておまえは持ち合わせていないものかと思ったよ」
 慣れた面持ちで軽くあしらう桐生くんは、大人びた美貌の持ち主だ。
「俺は別格。天才だからな。宿禰は違う。あれはどっちかというと天からの気まぐれな賜物だろうな」
「…」
 美間坂くんの鋭い指摘に俺も共感する。確かに凛一は昔から他の者とはオーラが違っていた。
 俺の欲目かと思っていたが、そうでもないのか。
 美間坂くんが言葉を続けた。
「あれだけの容姿で、性格も貴重。まあ、天才ではないが稀に見る逸材だと思う。ただ…」
「ただ?」
「この先、彼がどう生きていくのかが…俺としては多少気になるところだね。道を間違えないといいんだが。あまり容貌がいいとそちらに気取られてチャンスを逃がすこともあるからね」
「真広が他人にこれだけ関心を持つのは珍しいんですよ、慧一さん。それだけ宿禰は愛されてるということです。でも、だからこその悩みも彼にはあるでしょう。僕らも完璧ではないですが、先輩として彼の力になりたいと思っています」
「よろしく頼むよ。あいつは危ういところもあるから、兄としてはひとりにしておくのは心配なんだ」
「宿禰の恋人がいることは?」
「聞いてるよ。水川くんって子でしょ?」
「はい、彼は非常に聡明で真面目な子なんです。堅物と言ってもいい。あまり心を見せない子だったのですが、宿禰と付き合うようになって、彼は変わりました。宿禰の陽性に惹かれたんでしょうか。明るく魅力的な性質が加わった気がします」
「水川は宿禰とは合わないと思ったんだがな…俺の勘もたまには外れる。水川はともかく宿禰がああいう子に本気になるとはねえ…」眼鏡のブリッジを上げながら美間坂くんはさも意外そうに言う。
「水川は芯の強い子だよ。宿禰は見かけとは違って軟弱なところもあるから、水川みたいな意思のある一本気な奴とは案外うまくいくんだよ」
「ああ、俺とおまえみたいな…って話」
「…違うけどな」桐生くんが少し呆れながら苦笑している。
 確かに凛一が言うように似合いのカップルには違いない。
 まあ、少し妬ましい感情もつつかれ気味にはなるけどね。

 俺は明朝の飛行機で帰るつもりでいたから、自宅には戻らずにビジネスホテルに一泊しようと思ったが、嶌谷さんの好意に甘えて、凛一と一緒に都内のマンションへお邪魔することになった。
 凛一は昼間の疲れからか、風呂に入って先に休むことにしたらしい。目を擦りながら一緒に寝たいと、我儘を言う。
 了解して凛一を寝室に送り出した後、嶌谷さんが気の毒そうに笑う。
「凛は相変わらず慧一くんを困らせているんだな。いつまでたってもお兄ちゃんから巣立ちできないでいる」
「普段のあいつは大人顔負けのはったりをきかせたり、とても賢しい子だから、その反発なのかもしれない。逆に言えば、甘えたがりの雛鳥なんですよ。その原因を作ったのは俺だ…母は死に、父親は傍にいない。最愛の姉を亡くしたばかりの中一の子を俺は、捨てたんです。俺のエゴ、あいつへの肉欲が恐ろしくて逃げたんですよ。あの子はその事を恨んでいる」
「そのことについては慧一くんは十分購ったと思うがね」
「ええ、凛も許しています。だけどあの子を独りにしてしまったことで、あの子は孤独がどんなに寂しいものか身体で覚えてしまっている。だから…彼は自分を愛してくれる人を求めてしまう。俺が傍にいてしっかりと彼に家族の愛や信頼をいうものを与えてやらなければならなかったのに…凛には俺しか家族はいなかったのに…俺は気づいてやれなかった…俺は一生あの子の家族でいなくてはならない。恋人としてではなく、凛がどんなに傷ついても帰ってこれる家でなれけばならない」
「そこまで自分を犠牲にしなくてもいいと思うがね」
「凛にも言われましたよ。でも犠牲なんかじゃない。俺の凛に対しての感情や逃げた事、置いてけぼりにしてしまった事、それらすべてが一生の負い目になっているのだとしても、それさえもね…俺にとっては凛一を繋ぎとめている鎖なのかと思うと、繋がれていたいと願わずにはいられなくなる。根本的にマゾなのかも知れないですけどね」
 
 自嘲する俺に嶌谷さんは目の前のワイングラスに二本目の新しいワインを継ぎ足した。
「俺とは違って慧一くんの場合は、決して報われない愛とは思えないんだが。前にも言ったが凛一が本当に求めているのは慧一くんだよ。あの子は本気で君を愛している…恋人がいようと、君に対する恋慕は本物だよ」
「…」
 嶌谷さんの凛一に対する想いは俺とは違って穏健でありまた中庸でもある。そこまで行き着けたら俺もこんな俗な欲に溺れなくてもいいと思うが、凛一を観る程、本能が奮えて仕方なくなる。抑えが効かなくなるのは時間の問題だと俺も気づいている。
 だから…

「…嶌谷さん、お願いがあります。あの子は…凛一は俺の想いに感づいている。そして凛はそれを知ったら俺を本気で求めてくるでしょう。それは愛じゃなく俺を慰めようとする気持ちからです。だから、もし凛からなにか相談を受けた時は…俺にはそんな気はないと、はっきり言って欲しいんです」
「ちょっと待ってくれ!そんな役回りはゴメンだよ、慧一くん」
「あなたにしか頼めないことだから頭を下げて頼んでいる。兄弟同士愛し合う事自体が間違っているんだ。お互いが理解し合えばそれはそれでいい。でも、社会、世間はそんなことを許すほど優しくはないでしょう。俺と愛し合っても凛一に得はない」
「だとしても、それで凛一は納得しないだろう。凛自身が君を求めているのは確かなんだから」
「それでも…仕方がないと…そうしなけりゃならないと、説得してください。お願いします。俺たち兄弟がこれから先もずっと家族であり続ける為にはそれしかないんです…俺自身が…耐えられなくなってしまう前に、諦めさせなきゃならない」
 俺の凛への想いを断ち切るには、この人の力を借りるしかない…
 嶌谷さんは納得のいかぬ表情で黙ったまま、俺を見つめ返している。




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宿禰慧一のお話はこちら「イリュミナシオン」 
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