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2019-11

宿禰慧一編 「オレミユス」 13 - 2010.03.12 Fri

13、
「今日一日の凛一を見てはっきりわかったんです。凛一を輝かせるのは俺じゃない。嶌谷さんや学校の仲間や恋人…俺以外の世の中のすべてが凛一を未来に歩ませる力となるんです。俺は後ろから支える兄であるべきなんだ。それ以上のものになる必要はない」
「…」
「俺では駄目なんだ。俺は凛一を束縛してしまう。誰の目にも留まらぬところへ隠して、彼の輝きをもぎ取ってしまう…それでは凛一の幸せは掴めない。彼は俺の手から離れて生きるべきなんです。
俺の就職先ですが…凛にはまだ言ってないけど、日本の大手のゼネコンに内定している。でも仕事先は向こうになると思う。たぶん日本には戻れない。だから俺も悩んだんだが…卒院したら一緒に暮らそうと約束していたので…でも、吹っ切れましたよ。凛一は俺を超えていかなきゃならない。その為には…ある程度の距離が必要なのだと。あいつが俺を求めるのは、あと一時だと思うんです。大人になれば凛は俺の手から離れる。だから…その時の、それからの未来の為にも俺たちは兄弟のままでいなければならない…」
 俺は目の前の嶌谷さんにではなく、自分自身に言い聞かせるように、決意をまくし立てた。順繰りに整理して自分を納得させなければ凛への感情を抑えきる自信など沸いてこない。

「…凛一への想いを一生胸に抱えたまま?」
 沈黙したまま俺を見つめている嶌谷さんが、やっと口を開いてくれた。
「ええ…時間が解決してくれることを望みたい。嶌谷さんの域にまで到達できればいいんですけどね。ひやかしではなく心からそうなればいいと願っているんですよ」
 俺は残ったワインを嶌谷さんのグラスに注ぎだ。嶌谷さんはニコリと笑い口調を変えた。
「いっそ、俺と恋仲にでもなるかい?」
「はは…それは無理ですね。俺は下になるのは真っ平だし、嶌谷さんを抱きたいとも思わないから」
「それじゃあ、あの…ほら、凛一の担任の色男、君の元恋人とヨリを戻したら?」
「冗談言わないでくださいよ。凛一への想いの捌け口が紫乃じゃあ、あんまりでしょう。それじゃなくても彼には随分酷いこともしてきたから…恨まれても仕方ないぐらいなんだ」
「じゃあ、俺がその紫乃くんを頂こうかな~。報われぬ宿禰兄弟への悲恋を夜毎語り明かすうちに、いい感じに…ってな具合にさ」
「…俺をひとりにしないで下さいよ。嶌谷さんと紫乃がくっ付いてしまったら俺は誰に愚痴を聞いてもらえばいいんですか?」
 紫乃が嶌谷さんと?…考えられないこともないと思った。目の前でふたりにいちゃつかれたら、俺は相当に落ち込むだろうなあと想像して、また自分に呆れた。俺はエゴが強すぎる。

「…ったく、仕方のない兄弟だなあ。縁もゆかりもないのにここまで関わらせてくれて、ありがとよ。わかったよ。ふたりの行く末は俺が最後まで請け合いましょう」
「嶌谷さん…嶌谷さんの人生に俺たち兄弟のいざこざを巻き込んでしまったことを本当にすまないと思っています。この恩をどうやって返せばいいのか…俺には思い浮かばない」
「恩を売る為におまえらと付き合っているわけじゃないさ。俺もいい歳だし、関わるのは嫌いじゃない。今までは正直生きていくのに独り身が楽だし、抱える荷物は少ない方がいいと信じてきた。でもな、おまえらと関わっていると…つまり家族でもなく友人という関係だけでもない…普遍的な愛情って奴を通わせれる重さを味わっているんだよ。俺はこういう繋がりには何か運命を感じてしまう。俺にとってそういう人間は君らの他にひとりしかいない…俺の従兄弟だけどね。最も信頼する奴。そのうち紹介するよ」
「ええ、楽しみにしています。それと…凛一の分もお礼を言います。ありがとうございます。いつかきっと…この恩を返せるように、良き未来に繋がるように、生きてみせます」

 言いたい事を嶌谷さんに打ち明け、吹っ切れた俺は、その後すぐに休む事にした。
 ゲストルームに行き、ベッドに眠り込んでいる凛一の様子を伺った。暗闇に慣れた目が凛の整った横顔を確認できた。
 窓からの月明かりが凛の頬を照らし、長い睫の影がくっきりと浮かんだ。
 よくもここまで出来た造形に生まれついたものだ…これを産んだ母は凛一のこのような姿を生前に思い浮かべたことがあるのだろうか…
 良く似ている兄弟だと言われたものだが、陰と陽の違いが俺たちにはある。それは俺が望んだ事だった。この子の影になりたかった。いつまでも彼と一緒にどこまでも歩みたかった。
「凛…」
 傍らにそっと身体を沿わせ、凛一の背中を抱いた。
 
 こうしておまえを抱いて眠ることは、これからはできないかもしれない。
 そう考えると、とても…寂しいよ、凛。

 頬を撫で前髪を掬って額にキスを落とした。
「愛してる。いつだっておまえの傍にいる。俺のすべてをおまえにやるよ。誰よりも強い愛でおまえを守るから…どうか、輝きを失わないでくれ…」
 
 そのまま一睡も出来ずに凛一の寝顔を見つめたまま朝を向かえた俺は、凛一に気づかれないようにベッドを出ると出発の支度をした。
 嶌谷さんは先に起きて、俺の為に朝食を用意してくれていた。
 どこまでもお世話になってばかりだと感謝する他は無い。
「凛一になにも言わないで行くのかい?眠っている間に慧一くんが行ったと知ったら凛が激昂する事間違いなしだな」
「ついでに宥める役もお願いしますよ。自信がないんです。凛と別れるのはいつも辛くてね。泣かれるのはもっと辛い…」

 いざ帰ろうとする時、寝室のドアが開き凛一が俺に駆け寄ってくる。
「もう、行くの?」
 その顔を見ただけでたまらなくなる。

 玄関で別れを告げようとすると、凛一は俺の肩に凭れ小さな溜息を付いた。
「慧…来てくれてありがとう…嬉しかった…いつまでも慧に甘えちゃいけないってわかっているけれど…やっぱり俺には慧が必要だ…」
 凛…俺の方こそ、おまえに依存している。おまえ無しでは生きている意味を見出せないほどに。

 キスを強請るその口唇にありったけの愛を注ぎ込んだ。

 愛しているよ、凛一。
 俺たちの絆はずっと続いていくもの、そうだろう?
 だから…だから俺の腕から飛び去ってもいいんだよ。
 愛する
 我が弟よ…




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宿禰慧一のお話はこちら「イリュミナシオン」 
リンミナシリーズはこちらからどうぞ。目次へ

さよなら、いい子でいなさい。


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