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2019-09

宿禰慧一編 「オレミユス」 15 - 2010.03.19 Fri

15、
 クリスマスには帰らなかった。
 凛一とふたりだけでいる事に、俺自身がまだ冷静でいられるのか、また凛にいざ詰め寄られたらどうしたらいいのか…見当がつかなかったからだ。
 だから親父達が帰国するのを待った。
 両親が間にいるだけで空気が変わる、話す内容も変わる。俺たちの関係も変わる。
 それくらいの道化役ぐらいは彼らに押し付けてもかまわないだろう。

 正月の三日に鎌倉の実家に帰省した。
 両親と凛一は温泉旅行からまだ戻っていなかった。
 簡単に家事をひととおり終えて、洗濯物を片しに凛一の部屋へ行く。
 相変わらず男子高校生としてはポスターひとつもない殺風景な部屋だ。
 洗濯物をクローゼットに片付け、本棚の硝子の中にある写真を貼ったフォトスタンドを確かめようと扉を開けた。
 大き目のコルクマットには俺や梓、昔撮った懐かしい家族写真が何枚も貼ってある。俺はそれを見るたびに心の安らぎを感じる。
 その横に新しいフォトスタンドが飾られていた。
 手に取って見つめた。
 凛一と一緒に写っている男の子は…凛の恋人の水川青弥…だろう。
 鮮やかに笑う凛の傍らで、少し照れながら控えめだが嬉しそうに微笑んでいる。
 眼鏡をかけた利発そうな割には、内気で温和な面差し。それでいて心の強そうな子に見えた。
 凛一の恋人…わかってはいるが喜ばしく思えるわけもない。
 俺は写真から目を外し、元の場所に置いた。

 別に今更落ち込んでも仕方がない話だってわかっているが…
 本棚を閉め、何気なく本棚の横に立てかけてある額縁が目にとまった。
 確かめるとB4サイズの額に入った一枚の絵だった。
 凛一の顔を、色鉛筆だろうか…とても上手に描けている。右下に小さくseiyaと描かれてあった。
 そういえば、水川青弥は絵画の才能があると凛一がしきりに言っていた。
 そうか…これが彼が描く凛一なのか。

 俺はしばらくその絵を見つめていた。
 水川青弥への嫉妬心よりも先に、彼の凛一を想う情愛がその絵から満ち溢れていた事に、感動せずにはいられなかった。
 彼は…水川青弥は、凛一を本気で愛している…そして、凛も…
 それがこの「恋」の本質であるなら…俺が取るべき道は自ずと決まってくる。
 俺は俺の役を果たすだけだろう…

 三人はやっと夕方近くになって帰り着いた。
 体育祭以来に見る凛一だった。
 凛一は一言二言挨拶を交わすと、俺をしばらく見つめ、そして口をへの字に結んだまま自室に引き込んだ。
 メールのやり取りでは、以前と変わらないと感じていたのだが、リアルにはそうもいかないらしい…だが、夕食を囲んでの家族団欒…特に和佳子さんの存在は大きかった。おおらかで朗らかな和佳子さんの気質が,沈みがちになろうとした凛一の笑顔を誘っていた。
 労せずして俺たちは表面上は仲の良い家族、兄弟の関係を取り戻すことが出来た。
 お互いの奥底に潜む感情の扉を閉めたまま、この先どこまでこの兄弟の役を押し通すことが出来るのか…それは俺にもわからなかった…が、凛一もそれを果たそうとする決意だけは言葉を交わさなくても表情で理解しえた。

 翌日に両親は自宅を発つことになる事を知った俺は、当然ながら慌てた。
 両親がいなくなれば俺は凛一とふたりきりになる。
 お互いが気持ちを悟っている今、もし、気まずい…俺にとっても凛一にとっても不可抗力の事態が起こったら、俺はどうすればいいのだろう。
 そればかりが頭の中を支配する。
 俺の休暇はまだ十日ばかりある。
 両親を見送りつつ、取敢えず様子を伺って、折を見て雲隠れしようと目論んだ矢先、凛一が熱を出し倒れてしまった。
 しかし、俺にとっては天の計らいにも思えた。
 
 ベッドに寝込んでしまった凛一と看病人の俺では、甘いムードになることもないだろう。
 俺はどこかでこの凶事に安堵していた。とはいえ、高熱で苦しむ凛一を見るのは、たまらなく可哀相で辛い。
 ハアハアと身体全体を揺らし、苦しそうな呼吸音に混じって、苦しい、きついと呻く。
 病に罹った際の凛一の姿は幼い頃から十分に見慣れているつもりだったが、これほどまでに辛そうな姿を見るのはあまりにも久しぶりすぎて、感覚がわからなくなってしまった。
 十二月にインフルエンザに罹ったと凛一は言ったが、その時も一人ぽっちでこんな風に苦しんでいたのかと思うと、罪悪感に囚われてしまう。
 身体のどこかを触っただけで火傷するほどに熱いのに、「寒い、きつい」と繰り返す。
 部屋を暖め、毛布を重ねても身体の震えは止まらない。
「凛…大丈夫か?」
 問いかけると、凛一はうなされるように「慧…苦しい、助けて」と言う。
 手を取って握り締め励ます。
「凛、俺はここにいるから。ずっと傍にいるから、しっかりしろよ」

 ふと、凛一はうわ言を言い始めた。
「梓…行かないで…僕をひとりにしないで…」
 高熱の所為で幼い頃の記憶を手繰っているのだろうか…
 凛は涙を溢れさせて、言葉を続けた。
「慧…ひとりは嫌だよ。いい子にしてるから、どこにも行かないで…」
「…」
「愛してる、慧…」
「凛…」
 どうしようもなく握り締めた手に、一層強く力を込めた。
 すると凛一は瞼を上げ、空ろな目を俺の方に向けた。
「慧、愛してるのに…何故、俺では駄目なんだ?」
 そう呟き、また目を伏せ、「寒い」と、苦しみだした。

 何故?…何故…兄弟だから、俺たちが血の繋がった兄弟だからだ。
 だがそれが一体なんの罪になる。
 これほどまでにお互いを求め合う者同士、愛し合うのは自然の摂理ではないのか…
 今なら俺は凛一を…凛一のすべてを手に入れることが出来る。

 俺は凛一の熱い身体を布団の上から抱き締め、その頬に口唇を寄せた。
「凛…俺がおまえのすべてを奪っていいか?恋人のように愛し合う者として、一緒に生きていくと誓ってくれるのか?」
 その耳元に囁くが、凛一の返事はなく、ただ「助けて」と。
「ミナ、助けて、くれ…ミナ…」と、繰り返し恋人の名前を呼んだ。

 凛一から、ベッドから俺は離れた。
 もう、諦めろと囁く声が聞こえた。
 それが天使なのか悪魔なのかはわからない。
 はたまた混乱の神か。
 ならばいっそ俺の頭を狂わせてはくれないか。
 この子を汚さないように、愛と嫉妬と憎悪の鎖で俺を縛り付けてくれ。


 三日後、凛一はやっと平熱を取り戻しつつあった。
 部屋に食事を持っていくと、ベッドで寝ていた凛一が嬉しそうに起き上がった。
 病み上がりのやつれ具合がいい按配に作用してか、凛の色気が一層際立ってしまい、俺は目のやり場に困ってしまう。
 熱が出てからはまともに食事も取らずじまいでいた。
 こいつは拒食症の前例があるからと心配したが、土鍋で炊いたおかゆをよそってレンゲを差し出すと、美味そうに口に運んでくれたので一安心した。
「やっぱりおかゆには梅干だよね。うまい」
「この梅干は…市販ものじゃないな」
「うん、9階の中木さん、おじいちゃんとおばあちゃんの二人暮らしなんだ。そのおばあちゃんから頂いたの。毎年沢山作るからって」
「そうか。お返しはしたのか?」
「時々話しに付き合ってやる。喜んでくれるし、こっちは夕食にありつける」
「…抜けぬけと言うなあ」
「いいじゃん。持ちつ持たれつだよ。それより…俺、熱に浮かされて変な事ゆってなかったか?」
「…言ってたよ」
「なんて?」
「梓と俺の名前を呼んでいた。苦しい、助けてって」
「そっか…やっぱりいざとなるとどうしてもふたりに頼ってしまうんだね。こんなんじゃ梓も成仏できないよね…」
「別に…いいさ。必要とされるうちが花だと、梓も喜んでいるさ」

 嫉妬という感情が、凛一が恋人の名前を呼んでいたことを俺に言わせなかった。
 罪悪感はまるで沸いてこない。
 それよりも奇妙な恍惚感さえ覚える始末だ。
 これとよく似た感情を思い出した。
 まるで交じり合ったオイルの万華鏡。
 僅かな光を得た薄暗い闇の中でゆっくりと蠢き、不可解な形を繰り広げる。
 気味が悪いと感じながらも、決して目を離すことが出来ないあの文様に…
 


文様
 
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宿禰慧一のお話はこちら「イリュミナシオン」 
リンミナシリーズはこちらからどうぞ。目次へ

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