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2019-09

宿禰慧一編 「オレミユス」 16 - 2010.03.24 Wed

16、
 その夜は天中に月暈(げつうん)が美しく広がっていた。
 明日は雨にでもなるのかと、ベランダで少し霞む大三角を眺めた後、凛一に呼ばれ部屋に戻った。
「お先に風呂終わったよ、慧、どうぞ」
「ああ…湯冷めしないようにしっかり温まっておけよ」
「うん」

 凛一をリビングに置いて、俺は風呂に入った。
 ここの所、俺たちの関係は病人と看病人の構図ができあがり、昔の平穏を取り戻したように思えた。 普通の兄弟としての距離が取れているというか、ヤバイ雰囲気には全くなっていない。
 平穏、普通の兄弟…努力は必要としてもその距離を保つことが大切なのかもしれない。

 その時まで、俺は余計なことを妄想する感覚さえ、忘れていた。だから…風呂から上がった後、パジャマ姿の凛がうろつくのを見て、また風邪がぶり返さないか…それだけが心配で何の迷いもなく彼の額に口唇を充てた。それは幼い頃から、凛一の体温を測る自然の行為だったのだ。

 だが、口唇に触れた瞬間、凛一の身体がビクッと震え、全身が硬直していく様がはっきり見えた。
 俺はしまったと後悔した。何のたくらみもない、予想もしていないふれあいだった。

 凛一の欲情する瞬間を俺はあからさまに目の前に差し出されてしまった。
 凛は…その感情を身体中から舞い上がらせ、俺の身体に激流のごとく注ぎ込んでいく。
 俺には全く遮る術はなかった。
 凛の熱い欲情…と、いうものを俺の身体が認知した時、俺自身さえそれを払いのけることが出来ないほどに…歓喜に奮えていた。
 淫らという言い方は相応しくない。得も言われぬ程に官能的に凄艶でありながら、生命力を迸らせた彼の表情はきわめて清冽に輝いていた。
 
 パジャマの上からでも凛一を十分に確認できた。それは俺も同じであり、凛の指がおそおそる俺に触れた時、俺は声を上げそうになった。
 お互いに向かい合い、立ち竦んでいた。
 俺より少し背の低い凛を斜め上から見る。
 凛の長い睫が俺の立ち上がったものに触れている己の指を凝視している様がわかった。
 それだけでイキそうに成る程に熱く感じていた。

 バカなっ!こいつは血の繋がった弟だ。そう何度も何百回も言い聞かせてきたはずだ。何を今更、これくらいでたじろぐ必要がある。
 手を払いのけて、冗句のように「お互い発情するのが早いな。凛はともかく俺もまだ若い証拠だな」と、かわせばいいことだろう。

 あの子は必ず君を欲しがる日が来るよ。その時君は抗うことができるのか?
 いや、君自身でさえ止められないと思うよ
 あの子が本気で欲しがったものは確実に掴み取るだろうからね

 過去の言葉が俺の頭を駆け巡った。
 俺はその言葉が現実に降りかかることを予想していなかったか?それをかわす術を学んでいなかったのか?

 俯いていた凛一がゆっくりと…スローモーションのように俺の顔を見上げた。
 さっきよりも艶かしく彩られた表情は欲望に陶酔したまま、緊張に強張っていた。その瞳に写る俺もまた、同じような顔をしている。

「慧…慧、俺…」と、赤い舌をちらつらせながら吐息のように俺を呼ぶ。
 凛の手が、一層強く俺のモノを掴んだ瞬間、俺はその手を払いのけ、凛の肩を押しやり、リビングへ向かって廊下を急いで歩いた。
「慧、待ってくれ」
 まだ艶を含んでいる声で俺を呼ぶ声は無視した。
 リビングのドアを開ける。自室にこもれば、中から鍵をかければいい。
 一晩経てば、こんな些細な事なんか綺麗さっぱり忘れて、元の兄弟に戻れるんだ。

 リビングの端にある自室のドアに急ぎ足で向かい、ドアに手を伸ばした瞬間、先回りした凛一はドアに立ちはだかった。
「凛、どかないかっ!」
「いやだ!なんで逃げるんだよっ!」
「ロクな事しか起こらないだろう」
「慧は…慧は俺に欲情してるじゃないかっ!それがロクな事なのか?」
「ああ、そうだ」
「慧は俺とセックスするのが怖いだけなんだ」
「ああ、怖いね」
「俺が弟だから?俺に恋人がいるから?世間体が怖いから?親に示しががつかないから?社会人として生きていくにはデメリットが大きすぎるから?」
「そうだよ。今言ったことがすべてだろ。俺たちが愛し合っても何の、なにひとつ希望はない。多くの人を混乱、絶望、悲しませるだけだろう」
「それが俺たちふたりの間において、何の意味がある。俺は慧を愛している。欲しいと思っている。慧だってそうだろう?…今まで自信はなかったよ。俺が本気で慧に求められているのかどうか確信できなかったんだ。だけど…慧はさっき俺に欲情したじゃないか。俺を抱きたいって思ったんだろ?俺とセックスしたいって願ったんだろ?その感情のどこに後ろめたい、やましいものがあるんだ。…どこにもない。俺たちの間にあるのはお互いが欲しいという感情だけだ。違うか?俺はこの世界のどこに立っても宣言してやる。俺は宿禰慧一を愛していると」
 
 言い放った凛の言葉に俺は心酔した。このまま死んでもかまわないと言うほどに感極まり絶句した。
 凛一の口唇が俺の口唇に触れ、そのまま深いエクスタシーを味わい続けた。
 無限と思う程に、魂は飛翔する。






愛してるんだ…

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宿禰慧一のお話はこちら「イリュミナシオン」 
リンミナシリーズはこちらからどうぞ。目次へ




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