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2019-09

宿禰凛一編 「Swingby」 23 - 2010.04.02 Fri

sasie

23、
 ソファの上に寝転び重なり合った俺たちはしばらく抱き合ったまま、お互いの心臓の音を聞いていた。

 一方的にイカされた事に腹が立ったけど、ソファに寝かしたつけた俺の汚れた身体を丁寧に拭き取っている慧一を眺めていると怒るよりも切なさが募ってしまう。
 どれだけの想いで俺を見てきたんだろう。
 俺は慧一の辿って来た想いの軌跡を知りたかった。
「慧の想いを全部聞かせてくれ」と、頼んだ。
 慧一は暫く考え、そして俺を抱き寄せて承諾したんだ。

 壁の時計が、深夜零時を指す短いメロディを奏でた。
 俺の髪を優しく撫でながら、慧一は静かな声で語り始める。
 その囁くような響きが身体の隅々まで浸透していくような気がした。

「おまえが生まれた時、俺は小学3年生になったばかりだった。散りかけの桜が綺麗でね…俺と梓はおまえが生まれる前からそれはもう楽しみで仕方なくてね。9つも離れていると、兄というよりは、親になった気でいたのかもしれない。それこそシュミレーションを兼ねてふたりで父親と母親の役でままごとをしていたくらいだったよ。身体の弱い母さんの代わりを、俺たちが努めなきゃならないことはうすうす感じていた。
おまえが生まれて、やっぱりふたりに世話を任されて…大変だったけど、放り投げたいとか嫌になるとか…そういう気持ちにはならなかった。
赤ちゃんって誰かに面倒見てもらわなければ生きていけないだろ?
俺と梓がちいさい凛を育てているという現実に感銘した。抱っこしたりオムツを換えたり、当たり前のことだけど、懸命にミルクを飲む表情や俺たちを見て笑うおまえに、どれだけの安らぎと幸せを貰ってきただろうか。
育てるという尊い意義を俺たちはおまえに教えてもらったんだ。
生まれた時、俺は凛を天の賜物と呼んだ。約束の地へ導いてくれると梓は言った。
小さい子はすべからく可愛いものさ。でも凛は…イノセントな光だった。
俺と梓はこの腕の中に生きる光をいだいていると…感じていたんだ。守りたいと…この世の汚いものの一切から守ってやると俺は思っていたよ。
だけど…おまえが育つに連れて、俺には肉親への愛情だけではなく別の形の愛情が芽生え始めていたんだ…おまえを俺のものにしたいっていう欲求だ…」
「俺は気づかなかったけど…」
「当たり前だ。おまえはまだ…3つもなっていない。凛は俺と風呂に入る事が多かっただろ?」
「うん」
「おまえと入る時はいつも気をつけていたよ。俺が欲情しないように自分を抑えることに必死になってさ…おまえは無垢でかわいらしいし、すべてを委ねてくるから、俺は自分の色情が恐ろしくて仕方なかった…」
「ガキなのに?そんなに俺が欲しかったの?」
「ああ…可笑しいと思うだろ?だけど、本当に幼いおまえにも性的なものを感じていた。ペドフィリアなのかと疑ったことがある。だが違っていた。対象は凛一だけだったからね。それに…俺自身も中学生だ。小児愛とは言わないだろう。
…俺には凛一しか見えていなかった。おまえが他人であっても、俺は間違いなくお前を見出し、そして愛するだろう。これは願いじゃなく真実だ。
生まれる以前からずっとおまえに繋がっている絆なんだ。だが、これは俺の、俺からの絆であって、おまえが必ず受け止める宿命ではないんだよ」
 俺は顔を上げて慧一を見つめた。慧は俺の顔の輪郭を撫で、優しく幾分切なげに笑った。
「だから…おまえは俺に縛られないでいいんだ」
「俺だって…俺も慧が好きだよ。愛してるよ。慧ほど深く愛した奴なんて他にはいないんだから…だから自分だけの絆なんて、言わないでくれ。俺だって…慧一に繋がれていたい」
「凛…俺はおまえに俺に縛られて欲しくない。自由な凛一でいて欲しいんだ」
「慧と結びついても俺は自由が奪われるとは思わないよ。なんでそんなに…一方的な愛情だけで満足するんだよ。なんで俺の全部を奪ってやりたいと思わないんだよ。臆病になるなよ。俺は慧になら何をされたって、拒絶したりしなかった」

「梓は…俺の凛への懸想を許さなかった。当たり前だ。兄が肉親の弟に性的なものを求めるなんて、梓には気味が悪かったんだろう。俺がいつおまえに襲いかかるかと危惧していたのはわかっていた。俺自身さえ自分の欲求を抑えきれる自信はなかったんだからね。梓はおまえを守る為の監視人でもあった。
…あいつが死んだ時、最愛の妹であり、たった一人の同志を失ったと泣いたのは本当だ。だけど、これでおまえを独り占めできると言う喜びがどこかにあったよ…」
「…」
 慧一の告白は俺が思うよりもずっと深く重く、そして竦みあがるほどに愕然とした。
 俺は慧一と梓が仲が悪いと思ったことはない。梓はあっけらかんとポジティブな人柄だったし、慧一のことを悪く言う言葉を聞いたことはなかった。
 慧一がゲイだと知っても梓は軽蔑したりは一切しなかった。だから俺の事でふたりの間にこんな確執があったとは…思いもよらない話だった。

「怖いかい?」
「怖くはないよ…でも驚いてる。俺には慧と梓は仲のいい兄妹としか映っていなかったから…結局俺の存在がふたりを仲たがいさせてしまったんだね」
「そうじゃないよ。言ったろ?俺は梓を利発な妹として愛していた。おまえを真ん中に、左右の手を繋いでどこまでも歩いて行きたかったさ。
凛、覚えていないかい?おまえが4つか5つの頃…あれは…まだ母さんが生きていたから、5つにはなっていなかったのかもしれないね。母さんは入退院の繰り返しで、父さんは仕事と休日は母さんの見舞いで、結局家にはいつも3人しかいなかった。
絵本と梓の聞かせた作り話の所為で、凛はライオンに興味を持って観たい観たいとせがむんだ。おまえはあまり物を強請ったりしない子だったから、珍しい事もあるもんだと、休日にふたりで動物園へ連れて行った。でもせっかく見に行ったのに、お目当てのライオンは獣舎の修理中だとかで姿がない。それでもおまえはライオンのいない獣舎から離れなかった。
檻の中をただずっと見つめていて…わめいたり怒ったりするでもなく、ただじっと見つめて…時々しゃっくり上げて声も出さずに泣くんだ。それがたまらなくいじらしい…梓なんかもらい泣きしてさ。機嫌取りに園内のショップで小さい凛と同じくらいのライオンのぬいぐるみを買った。凛はこんなんじゃ誤魔化されないぞって口唇を尖らせて、でも黙ってぬいぐるみを抱きしめて…頬ずりしてね。俺と梓は胸を撫で下ろしたよ」
「全然覚えてないけど…ライオンのぬいぐるみはあったよね。確かにデカかった」
「帰りはおまえは寝てしまうし、ぬいぐるみはデカいし…眠ってしまうから俺が背中におぶって、梓はぬいぐるみを抱えてさ。帰りのバスで中学の友人たちと出会ってさ。向こうは部活の試合の帰りとかで…哀れむように俺たちに声を掛けてきた」
「俺の世話が大変で慧も梓も部活も出来なかったんだよね」
「部活をしたいと思わなかったことが一度もないとは言わないよ。楽しそうな友人たちを見るとうらやましくもあった。だからって凛の世話を止めたいとは一度も思わなかったんだ」
「でも俺に構っていなかったら、もっと色んな、大事な出会いがあったはずだ」
「そうかもしれない。でもそれこそ、もしも…だろ?無限の選択の中、俺は凛の傍で凛を育てることを選んだ。それが間違いだって到底思えない。少しの後悔もない…ただ…」
「…なに?」
「梓が死んだ後、おまえを独りにしてしまったことは、許されない罪だなと思っている」
「いいんだ…あれは俺も悪かったし…」
 慧一と喧嘩別れしてしまった時のことは思い出すたびに辛すぎて胸が痛くなる。でもあれがあったから、大事な人とも会えた…だから今の俺がいる。そう考えることにしている。

「動物園の話だけど、あれにはオチがあってさ。獣舎が出来上がった頃にまたおまえを連れて行ったんだが、今度はおまえはライオンには目もくれず、丸まって動かないアルマジロをずっと見てた」
「え?」
「根気比べかって言うぐらいにおまえ、ずっと睨んでいて…それでこっちが根負けして…ぬいぐるみを買ってやった」
「また?」
「納得はしない顔つきなんだが、仕方ない、我慢するよって風でさ。なんにしてもおまえが愛しかったんだなあ。俺も梓も甘やかし放題だ。さすがに三度目に行った時は梓が怒った」
「なんで?」
「おまえが爬虫類館で動かなくなったから」
「…」
「まさに蛇に睨まれた蛙みたいにおまえ、蛇を睨んだまま全然動かなかったからなあ。梓はああいうのが苦手なんだ。嫌がるおまえを無理矢理引き剥がして、『もう凛を動物園には連れて行かない』って半泣き状態。ふたりに泣かれて俺もお手上げだ。凛はせがんだけど蛇のぬいぐるみは買わなかったよ」
「全然覚えてない」
「後で母さんに報告したら、呆れられた」
「欲しがるものを直ぐに買ってやった事に?」
「いや、おまえの気がコロコロと変わる事にだ」
「はは…」
 思わず苦笑いが込み上げた。
 確かに俺は移り気ではあるけど…梓を泣かしてしまったのはちょっと後悔するなあ~。



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