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2019-09

宿禰凛一編 「Swingby」 27 - 2010.04.20 Tue

27、
「おかえり」
「ただいま」
 自宅に戻ってリビングへ行くと、慧一がキッチンでカレーを作っていた。
 玄関に入った時からカレーの匂いがしていたから、何となくだが…慧一がシカゴに帰るのだろうと予想はしていた。
 だから慧一の姿を見るのと同時に切なくなってしまったんだ。
「思ったより遅くならなかったんだな」
「…うん」
 腰にエプロンを巻いてデカイ鍋をゆっくりかき混ぜている様子を見る。
 何日そのカレーを食べ続ければいいんだよ、と、笑おうにも笑えなくて口元が歪んでしまう。
「どうした?ふがいない顔して。恋人とデートしたんだからもっと機嫌良くしててもいいだろう」
 それには返事をせず、俺は慧一の胸に身体を預けた。
 鍋をかき混ぜていた木べらを持っていた慧一は「危ないぞ」と、きつく言いながらも、片手で俺の身体を受け止めてくれた。
「…帰るんだろ?」
 慧に肩に頭を擡げ、情けない顔を見られないように外を向いた。
 慧の両手がいつもと同じように優しく背中を撫でてくれる。
「うん、急に…連絡があったんだ。明日昼の便で発つよ」
「見送りに行く」
「明日は新学期初日なんだからちゃんと学校へ行きなさい」
「どうせ始業式なんかで午前中で終わるんだ。慧を見送る方が大切だ」
「…凛、話さなきゃない事があるんだ」
「…就職の事?」
「なんでわかる?」
 顔を上げて、慧一の顔を見つめた。
「お父さんに聞いた。はっきりと言わなかったけど、慧が日本の企業に内定してるって。こっちに帰ってくるの?」
「就職先は大手建設会社のNKコーポレーション。設計士として雇ってもらう。けれど勤務地はニューヨークだそうだ。…さっきね、連絡が来たんだ。研修も兼ねての事業者との話し合いに参加しろって…ペーペーの俺にいきなりって気もするけどね」
「すごいじゃん。期待されてるってことだろ?」
「…約束を守れなくて、ごめん」
「なんとなく、慧が日本に帰れないって気はしてた。頑張れよ…応援することぐらいしかできないけどさ…」
「本当にすまないと思ってるよ、凛。卒院したら一緒に住むって約束してたのに。今年はおまえの受験もあるから、本当ならおまえの傍についていて、勉強に専念できるように世話をしてあげるのが親代わりとしての役目だろうけれど…」
「大丈夫、気にしなくていいよ。勉強は慧が居なくてもちゃんとやるし」
「うん…本音を言えば、おまえと一緒に暮らしていくのは怖いんだよ。俺は凛に対してまだまだ悟りを開いてはいないからね。いつ溺れるかわからない心持ちでおまえの傍にいるのも、お互いに悪影響だ」
「…いつだって俺はお相手するのにさ」
「よく言うぜ。うちとは違うシャンプーの匂いをさせておいて、そんな台詞をどの口が言わせるんだか…これでも…嫉妬で狂いそうなんだぞ」
 俺の背中を抱く慧の手の力が強くなり、慧の吐息が耳の奥まで届きそうに感じた。それは慧の精一杯の俺への罰のような気がしてならない。いくら俺が欲しがってもくれないという俺への見せしめなんだろ?
「凛…俺の帰る場所はおまえだと思っているんだ。だから…」
「わかってるよ。さよならは言わない」

 夜、ひとりのベッドの中で俺はひたすら考えた。
 慧一とミナ、それぞれにふたりで居る時の俺は、別々の人間みたいに振り分けられるんだ。
 同じ重さの違う愛情としか感じられない。
 でもそれを言っても理解はしてもらえないだろう。勝手な都合のいい御託をいくら並べても、相手には不実にしか聞こえないってわかっている。
 俺がミナと愛し合うのを見たくない慧の気持ちはわかる。傍に居るのは辛いのだろう。だから今は離れて暮らすことを選んだ。
 それでも慧は俺を捨てないと言っているんだ。
 だが、ミナにそれを求めてはいけない。
 ミナの汚れていない恋心を俺の所為で歪ませてはいけない。

 翌日、学校には行かないで、慧一を見送る為に空港まで同伴した。
 搭乗時間までラウンジで過ごしていた。あわただしく行き交う人影を気にもせず、俺は慧の肩に凭れて、次々と飛び立って行く飛行機をガラス越しに眺めていた。
「眠いのか?凛」
「ううん…いつも慧とここで別れるんだが、今日はなんか気分が違う」
「どんな風に?」
 温くなったコーヒーを一口だけ味わった。こんなに苦いものを美味しいと思える人間の感覚って…ああ、これって今の俺の心境に近いものがあるのかもなあ。
「慧が誓ってくれたから、俺は目指すものが見つかった」
「え?」
「俺、T大の建築学科を受けようと思ってんの。合格するかしないかは別として目標は高く持ったほうがいいだろ?」
「凛が本気になりゃ不可能じゃないだろう。頑張れよ」
「俺がT大を受けるには理由があるんだよ」
「どんな?」
「ミナが…水川は優等生だろ?あいつは絶対にT大に行かなきゃならない使命ってもんがあるんだって。俺には理解できねえけどな。だから、その後押しっていうか…一緒に頑張ってやりゃあいつも喜ぶだろうって思ってね。…姑息だろ?」
「…」
「俺は正直T大なんてどうでもいい。それにどこの大学に入ってもすぐに留学するつもりだ。そのためにはSATもTOEFLも受けていい点を取りなきゃならないだろう。ミナと一緒に勉強する活力にもなるしな」
「待てよ。それを水川君は知っているのか?」
「留学の話は言ってない。言うつもりもないけど」
「…」
「俺が留学する意味…それが何なのかは慧にはわかるだろう」
「…おまえ」
 慧一の言葉を俺は遮った。いや、元より慧一には後に続く言葉は持ち合わせていないのだろう。疑いと歓喜と驚きの混じった表情で俺を見つめ続けた。
「今度は俺が追いかける番なんだよ、慧一を」
 そう言って、身体を捩り慧一の肩を掴み、その口唇に口づけた。
 慧一は、目を閉じて、ただ俺の口づけを静かに受け止めていた。


 俺と慧の関係が変わったように、ミナとの関係も違うものになる日が来るのだろうか…それとも…関係など何もなかったように、すべてを消し去って甘い夢想だけが残る記憶にしてしまう恋なのだろうか…
 
 搭乗口に消える慧一を手を振って見送った後、その手の平を見つめた。
 この手がひとつしか握れないものであるのなら…俺は選ばなきゃならないんだ…


「swingbye」終




sasie


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