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2019-11

藤宮紫乃編 「Resolve」 3 - 2010.04.27 Tue

3、
 凛一はそれきり一言も口を開く事もなく、スピーカーから流れてくる音楽に身を委ねている。
 このまま家に帰しても良かった。だが、今日ここでこの子に関わったのは偶然だと片付ける気にはならなかった。
 凛一にとって、俺にとってそれが必然であるならば、俺たちはその意味を見出さなければならない。

 4,50分ほど走らせた後、鬱蒼とした森の中にある小高い丘に車を止めライトを消した。
 辺りは民家や人の気配はなく、小さな幽霊電灯がひとつだけ頼りなげな影を作っていた。
「ここどこ?」
「山ん中」
 かなり高台にあるから、車の中からでも街の灯は眼下に瞬いて見える。
「俺、海が見たいって言ったのに」
「海なんかしょっちゅう見てるだろう。ほら、外に出ろ」
 気が進まなそうな凛一を促し、外へ出た。
 真冬の深夜だ。凍りつきそうな空気が身体を締めつけた。
「さむ~い…まさか俺をここに置いてきぼりにしてトンズラするつもりじゃないだろうね、先生」
「この不況下、クビにはなりたくないからな。ほら、こっちに来い。とっておきの展望席に案内してやるよ」
 
 俺は先を歩き出した。
 もう少し先に唐松林に守られるように短い草の生い茂った小さな草原があるんだ。その中心に大きな桜の木が一本だけあってな。そのでかい幹に凭れて、ふたりで一晩中夜空を見上げたんだ…

 目的の桜の幹を撫で、葉のない木々の間から垣間見える星々を見上げた。
「ここが紫乃のお奨めの場所?」
「そうだ」
 車から運んできた毛布を桜木の根本に敷き、そこへ座り込んだ。
「春にはここら一帯レンゲソウが敷き詰められるんだけどな。夜露が冷たいんだ」
 凛一を手で招くと、素直に隣へ座る。そのまま仰向けに寝転んで夜空を見上げ、
「なるほどね。プラネタリウムどころじゃない。星が落っこちてくるみたいだ」と、踊るような声を上げた。
 俺も同じように仰向けになり星を眺める。
 あの時と同じように、宇宙は変わらないままそこにある。

「きれいだ…久しぶりだよ。こんなに沢山の星見るの。…あれは火星だね」
 凛一が左の斜め上を指差す。
「そうだな。その上がカストールとボルックス、下が獅子座のレグルス。プロキオン、シリウス、カノープス…」
「オリオンもこれだけ星がひしめいていると、目立たなくていいね」
 カラカラと凛一が笑う。

 不思議な気がした。何年か前に慧一と見ていた夜空を、その弟と見ている。
 敵わぬ恋に苦悩した日々が浮かびあがる。
 その最たる原因である男と肩を並べて寝そべっている。
 どう考えても可笑しい光景だった。

「…慧と…こうやって眺めていたんだね」
 ぽつりと凛一が呟く。
「ああ、そうだ」
「今でもその気持ちは変わらないの?」
「あの頃とは違う部分もあるし、変わらない部分もある」
「紫乃は見かけと違って純粋だな。皮肉じゃなくてさ。本当にそう思う」
「慧一にもそう言われたことがある」
「…あんたは知っていたんだね。慧がずっと…俺を愛し求めてきたことを。 だから、俺を挑発するような事を言ってきたんだ」
 横たわったまま顔だけを凛一へ向けてみた。凛一は胸に両手を置き、じっと上を向いていた。端正な横顔だった。慧一は明け暮れこの顔を見つめ、求め、守ろうとしてきたんだろう。

「総じて勘のいいおまえが本当に慧一の気持ちに気がついていないとは…思えなかったからな」
「どうして?」
「慧一の行動のすべてがおまえに関わっているのはわかっていたはずだろ?慧一が誰の為に何の為に自分の人生を歩んでいるのか、傍にいるおまえにわからないわけはないだろう」
「…慧と俺はずっと…愛し合っていたんだ。だけどあまりに近すぎて…俺は取り違えていたのかも知れない。…いや、あんたが言うように俺は…気づかないフリをして慧一を試していたんだろうね」
「…」
「むちゃくちゃな我儘を言っても、酷く怒らせても本当に俺を見捨てないでいてくれるのか手を離さないでいてくれるのか…俺は慧一を縛り付けておきたかったんだ…だから、誰にも…慧一を渡したくなくて、引き止めたくて、困らせていたのかもしれない」

 俺と同じように顔だけを俺に向け、凛一は小さな声で呟いた。
「俺を憎んだ?」
 あまりにも少女めいた表情が儚くて、慧一はこの顔に魅せられてきたのだと思い、それは当然のことと思えてしまう。

「…ああ、憎もうと思ったし真実憎かったがね…だが慧一がおまえを愛してしまう事への罪があるわけもない。俺が慧一を愛したのも必然であり、俺の意思だ。たとえ慧一のすべての愛は得られなくても…俺たちの間にそれが全く存在しなかったとは、到底思えない…愛し合ったから俺は慧一に救われたし、幸福な時間を持つことが出来た」
「慧一はあんたに随分辛く当たったんだろ?それでも慧を信じていたの?」
「信じてはいなかったさ。慧一はああいう性格だからな。他人には外面はいいが、本性を知られるとお構い無しだ。怒るわ泣きつくわ打ち捨てるわ…あいつには散々な目に合わされた。だけど、許してしまえる。それはあいつがただひとりを守ろうと必死になって…自分の恰好なんぞ気にしていられないほどに、がむしゃらにおまえだけを守ろうとする…その想いを、姿を俺は、愛しいと思えてしまうんだ」
「俺が居なかったらって…思わない?」
「…おまえがいなかったら、今の慧一はいない。あいつはおまえを糧に生きているようなもんだからな」
「…」
「それを理解するために俺も時間がかかったし歳も取った。でも、今ならなんとなくわかる気がする。慧一の気持ちも、あれがああなってしまった事も…それを運命、宿命と呼ぶものだろうか…そうじゃない。慧一はただおまえを本能で愛し続けているだけ。それだけが真実だ」
 俺の言葉を聞いた凛一はふうっと大きく深呼吸をして上半身を起こした。
 俯きながら言葉を吐く姿は、詩を紡ぎだそうと青春を彷徨う悩めるバイロンの様…

「…ついこの間ね、慧一の本当の想いを打ち明けられたんだ。俺が無理矢理に聞きだしてしまったんだけど…心から嬉しかったんだよ。俺も慧のことを好きだったからさ。心底欲しいって思った。だから抱いてくれって頼んだの。でも慧は俺を抱かなかった。愛しているけど俺が子供だから抱けないって…そんなの本当の理由になんねえよ。それほどまでに俺を愛してくれているのに、セックスをしない意味って一体なんだろう。そんなに大事に守るべきものなのか?俺には慧一の貞操観念がまるでわからない。繋がってお互い気持ち良くなれば、それはそれで愛し合うってことになんねえのかな」
「…」
 俺は寝たままに凛一の顔を凝視した。
 凛一が吐いた言葉が頭の中でグルグルとマーブル状に回っている気がした。
 慧一が…告白した…
 あの慧一が…「いくら凛一を愛してもどうにもならない事実だ」「凛一のいい兄貴役を貫くだけさ」と、苦渋の顔を見せていた慧一の顔が、浮かんでは消えていく。
 凛一を愛していると、やっと…告白したのか…
 では彼の真(まこと)の愛は成就したのだ…
 ああ、悪夢から覚めた慧一の顔を拝んでみたいものだなあ…

 変な喪失感と安堵感がないまぜになって、知らぬうちに一縷の涙が頬を伝った。







紫乃と慧一
大学時代の紫乃と慧一。


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