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2019-09

藤宮紫乃編 「Resolve」 4 - 2010.04.28 Wed

4、
「ねえ、聞いてる?」
 目の前に広がっていた星空が、突然凛一の顔に遮られた。
 凛一が身体を起こして俺の顔を覗き込んだからだ。
「紫乃…泣いてるの?」
「別に…」
 笑われても仕方がないシチュエーションだろうが、凛一は神妙な表情で俺を見つめていた。その顔がやっぱり慧一に似ているなと、微かに笑うと、また涙が零れ落ちた。
「…そうだな…こちらの感情などお構い無しに勝手に涙は出るもんだ」
「…慧は…なんであんたみたいないい人を選ばなかったんだろう」
「言ったろ?あいつの本能だからだ。もしくはそれを宿命と呼ぶのならそうかもしれんが、天に決められた道なんか俺は歩きたくないからな」
「うん」
「俺がいくらイイ奴でも、慧一の求める者にはなれない。それを不幸と言うか幸いと言うかは俺が決めることだ」
「…紫乃」
「なんだ?」
「キスしたい」
「…おまえって奴は…」
「なんなら抱かれてもいい。逆でもいい。俺が紫乃にしてあげられる慰めなんてそんなもんだろ?慧一に黙ってりゃ判らんさ」

 両腕を俺の胸の上で曲げ、その重ねた両手の上に小さな端正な顔を載せた凛一の目が俺を見つめる。
 その表情…絵画で見た女神か天使か、はたまた高級な娼婦か…
 よく慧一はこの子に手を出さなかったもんだと…哂いながらその頬を撫でた。
「ありがたい申し出だがな、慧一を悲しませるわけにはいかない。慧一にとって俺は恋人ではないが、心を許し信頼に値する友人なんだよ。いつだっておまえのことを頼むと…そればかりだ。だがそれこそが奴の俺への敬意と感じるんだ」
「…」
「さっきの話だがな、慧一がおまえを大事にしたいのはおまえを育ててきた過程があるからだろう。正直、俺も慧一がおまえを欲しがっていたのを随分前から知っているからその辛抱強さにも呆れている。あれは禁欲的というより…マゾヒストだ。おまえ限定だがな。
だから…凛一。あまり慧一を悲しませるな。簡単に寝るなんて言ってくれるな。貞淑であれとは言わないが、誰だって愛する者が自分以外のものと交わるのは心底嫌なもんだ」
「良く言うなあ~綺麗な少年に見境なく手をつけてるクセにさ。慧一だって売春宿に行ってるんだぜ?俺にだけ襟を正せって言うのかい?」
「やることは一緒でも愛情のあるセックスとそうでないものとは、心の充足が違うだろう。それ以外でも…まあ、色々あるけどな。俺が他者と交わるのは俺が誰にも拘束されていないからだ。恋人でもできれば自重するさ」
「恋人か…作る気あるの?」
「そうだな…慧一が幸せになるのを確信したら考えてもいい」
「それって物凄く俺に関わってくるよね」
「そうとも言えるな。兎に角、あいつの気持ちは一生変わらんだろうからな。おまえがどんなあばずれでも悪人であっても、慧一はおまえからは離れない。離れることはできない。だからっておまえが好き勝手にしていいわけじゃない。おまえが慧一を想うのなら、自身がどうあるべきか考えろ」
「夫婦みたいに添い遂げなきゃならないって事?」
「さあ…」
「担任なんだから生徒の質問に答えろよ」
「答えが出てもその通りに歩くことができるのか?運命を示されたら逆の道を行きたくなるもんだろう?
…答えは簡単に導かれない。愛故に…」
「愛ゆえに…」
「悩む事を恐れるな。
苦しみの重さを大地の重さに返し与えるがいい。
山々は重く、海は重い…」
「リルケだね。
我らを結びつける精神に祝福あれ、
真(まこと)我らの生は形象のうちにある…」

 凛一の乾いた口唇が俺の口唇に軽く触れる。
「ありがとう、紫乃。愛と信頼に満ちた者。俺もその精神に誓って紫乃を落胆させないように…生きるよ」

 寄りかかる凛一の身体を抱き締めた。
 見かけよりも細く華奢な少年とも青年ともいえない頼りなさが、保護欲を沸き起こさせた。
 なんだか雛鳥を暖めているようでいつもは綺麗な少年を好んで抱く俺が、こいつにはどうも親心が仇になって情欲は沸いてこない。
「おまえを抱くことは俺にはありえん話だ」
「何故さ」
「…色気が足りない」
 呆気にとられた凛一が弾けるように笑う。
「そうか…紫乃も安全な男か…俺を抱かない奴って大概いい人なんだ。信用できる人」
「そうか?」
「うん、さっき車の中で言った人。事件の事知っているよね」
「詳細は知らないけど、自殺したんだろ?そのジャズピアニスト」
「俺に殺されたかったんだと思うよ、月村さんは」
「…」
「それがあの人の求めていた死に方だったのなら…それはそれで幸せだったんだって…そう思えるようになった。勝手な思い込みかもしれないけれど、俺はあの人の役に立てたんだと思っている」
「そうか…」
「それを教えてくれたのはミナだ」
「水川?」
「だから俺はミナを大切にしたい」
「水川と本気で付き合っていくつもりか?」
「大事な恋人だよ。例え俺が慧一と生きていくと決めても、今の俺にとってミナは大切な恋人だし、別れるつもりはないよ」
「おまえが慧一を選んだ時点で水川はその他大勢のひとりにしかならない。もしくはただのセックスフレンドだな」
「違う。ミナは…」

 言葉を切り、酷く動揺した凛一は何度も頭を振って懸命に何かを探し出そうとしているかのように見えた。
 俺は正直、凛一にとっての恋人、水川の存在なんてとても小さなものと感じていたから、凛一の苦悩など知る由もなかった。

「ミナは俺が選んだんだ。俺が初めて本気で求めた奴だ。あいつだけは手放したくないって…思っている」
「…」
「ミナといると心が浄化される。穏やかになれる。世界がきらめいて見える。ミナを甘やかしたい、優しくしたい、喜ばせたい、安心させたい、笑わせたい、怒らせたい…悲しませたくない…」
「じゃあ、慧一を諦めるか?」
 
 同じように頭を振って目を閉じた凛一は何も言わず、そして目を開け、ただ南の天を指差した。
 その先には煌々と光るふたつの恒星がある…

 神々でさえ切り離す事のできなかった双子星だ。
 それは確かに慧一と凛一の星のように見えた…



星ソラ


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予定より長くなってしまった…もう一回だけ紫乃編(;・∀・)

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