FC2ブログ
topimage

2019-09

宿禰凛一編 「HAPPY」 1 - 2010.06.02 Wed

凛一は何をやってる!


宿禰凛一編
「HAPPY」
1、
 慧一がアメリカへ行ったその週末、俺は嶌谷(とうや)さんに会いに行った。
 慧一との間にあったことを嶌谷さんには知ってもらいたかった。
 なぜなら、嶌谷さんにだけは俺は自分と言う人間をさらけ出してしまいたかったからだ。
 慧一にもミナにも見せられない汚い俺を、嶌谷さんは知っている。

 「Satyri」が閉店になるまで店に居座って、閉店後、嶌谷さんのマンションへ着いていく。
「凛一、店の後片付けまで手伝って疲れただろう。先に風呂に入りなさい。話はそれからゆっくり聞こう」
 素直に従って、入浴した。
 嶌谷さん宅の浴室は船の先頭みたいに角がガラス張りになっていて、東京の夜景が一望できるんだ。
 浴室を暗くするとキラキラして夜空を漂っているようだ。
「今度慧一を誘って一緒に入ろうかな。ああ、ミナにもこの夜景を見せてやりたいな…」
 口に出した自分の言葉に戸惑ってしまった。

 俺はふたりを当然のように並べ、そして自分の思い通りにさせようと思っている。
 一緒に見たいと思っているのは俺であって、彼らはそうじゃない。
 少なくとも…お互いにとってお互いは邪魔なだけだろう。
 俺の未来は慧一と生きていくと決めているけれど、今はミナに伝えることじゃない。

 …俺って奴はなんて残酷で自分勝手なんだろう…

 湯を掬っては流れていく自分の両手を見つめて愕然とした。
 自分の罪深さはある程度はわかっているはずだったが、どうして俺は自身でそれを咎めようとしないのだろう。 
 これじゃあ、まるで天罰が下るのを待っているみたいじゃないか。

「いざとなったら月村さんみたいに死んじゃうかな。そしたら何もかも…」
 『ネガティブなことを口に出したら本当になっちゃうわよ。だから、凛、死にたいなんて口走ったりしちゃ絶対にだめだからね』
 昔、梓の言ったことを思い出し、俺は口を閉ざした。
 梓の為にも俺は生きなきゃならない。幸せにならなきゃいけないんだ。

 風呂から上がってリビングへ行くと、嶌谷さんが簡単なオードブルをテーブルに広げて待っていた。
「おいしい!このパテ、店に出してる奴だね。フォアグラとトリュフ入りだ」
 カナッペに盛られたパテを口にして思わず顔が綻ぶ。
「余ったんで持ってきた。遠慮なく食べろや。この生ハムも美味いぞ」
「ありがと、慧一が帰ってから、家でひとりで食うのも作るのも億劫になっててね。正月はずっと慧が家事を引き受けてくれてたから、すっかりものぐさになっちゃった。夜飯を食べない日もあるもん」
「…心配だな。栄養不良は美容と健康の大敵だ。ちゃんと食わせてやるから毎日来いって言いたいけど、鎌倉からじゃ遠いしなあ」
「いいよ。たまに来るからありがたみも沸くってもんだろ?嶌谷さんも俺ばかりに構ってはいられないしね」
 嶌谷さんは損得抜きで俺に付き合ってくれているけど、ちゃんとした実業家で、店の経営も任されている。俺に構っていられるほど暇人じゃないってことぐらいわかっている。

 嶌谷さんは赤ワインで、俺はお酒に強くないから、軽い炭酸リキュールを貰う。
「…で?話ってのは何だ?」
「うん、あのさ…この間ね、慧一が告白したんだ。俺を愛してる、欲しいって…やっとね」
「…そうか」
 グラスの中身を一気に飲み干した嶌谷さんが感慨深げに溜息を吐いた。
「嶌谷さんは知ってたんだろ?いつ、慧に聞かされたの?」
「…月村の別荘にいるおまえを探しに、慧一くんとふたりで車で向かえに行った時だよ。
彼がおまえを愛していることは、慧一くんを初めて見たときから瞬時に気がついたよ。と、言うより…会う前から、おまえの話を聞いて何となくわかっていたんだ。慧一くんの気持ちがね」
「ずっと一緒に居た俺が全然気がつかないなんて、鈍感過ぎて腹が立つよ。もっと早くわかっていりゃ、俺は慧のものになってたのに…そしたら…」
「そしたら?」
「…もしなんて下らない戯言だね。いや、過ちだとしても過去の判断は覆せないからね。俺は今、慧一とちゃんと向かいあって話せたことを幸せだと思っている」
「で?」
「え?」
「寝たのか?」
「…エロじじい…」
「一番気になる話だぜ。且つ重要…だろ?性の不一致なんざ、ざらにある」
「不一致ねえ…わかんね」
「わからんって…」
「寝てないもん」
「え?」
「慧とはセックスしてないってことだよ」
「どうして…」
「俺は寝てくれって頼んだけど、慧が…俺が大人にならなきゃ抱きたくないってさ。ありゃ、意地張ってるのかね」
「ふ~ん。慧一くんも我慢強いことだね。とことんマゾ体質なのかな~。俺ならすぐに頂くけどね」
「だろ?せっかく俺が寝てくださいって頼んでいるにもかかわらず!だぜ?俺、ホントに愛されているのか疑いたくなったもん。抱けないなら他所で男と寝てくるって言ったらめっちゃ怒るしさあ。そんで無理矢理俺だけイカされて、たまったもんじゃないよ。マゾだかサドだかわかんねえよ、慧は」
「それは凛が悪いだろう。そんな挑発をしたら俺だって怒るね。嫉妬と束縛、これは愛し合うには重要課題だし、欲望に火がつく要素にもなる」
「じゃあ、嶌谷さんと寝たって慧に言ったら、慧は俺を抱くかもしれないね」
「まだ俺は死にたくないね。殺されはしないだろうけれど、おまえとのセックスと慧一くんの信頼を天秤で量ったら…」
「量ったら?」
「…こりゃ難しい問題だな」
「俺、嶌谷さんとならいつだって抱かれていいのになあ…」
「その態度が慧一くんの頭痛の種なんだろ?不義密通は大罪だぞ」
「法的に婚姻したらだろ?男同士じゃ結婚できない。それに俺と慧は血の繋がった兄弟だ。この時点で世間から見りゃアウトだろ。…ガキの俺はいいが、社会人の慧一にとっちゃ何もかもマイナスだしさ。おおっぴらに愛してます!って公言するわけにもいかない。
どっちにしても俺は慧が考えるほど、セックスを恐れてはいない。もともと俺にとっては愛のないセックスはスポーツでしかない。まあ、好きな人とやる方が快感は大きいだろうけれどね。だがそこに本物の愛が交わると、とんでもない場所へ到達する…即ち、
…無上の喜びと、底知れぬ怖れを知る…
昔、嶌谷さんが俺に言ったんだよ。誰にでもついていく俺を戒めようとね。嶌谷さんは俺のことを本気で叱ってくれたし、守ってもくれた。愛してもくれたよね。と、言っても嶌谷さんは俺を抱こうとはしない。…何故さ。俺じゃガキ過ぎて相手にならない?それとも、慧一と同じなの?」
「…」
 嶌谷さんは俺の問いに目を逸らしたっま、何も言わなかった。
 怒るでもなく笑うでもなく、ただ黙ってワインを継ぎ足している。
 俺は嶌谷さんの俺への気持ちは同情心や家族のような愛情とばかり思っていた。もし、そうでなかったら俺はこの人までも傷つけることにならないか…

「嶌谷さん…俺は本当に慧一を選んでもいいのだろうか…俺の存在が俺を好いてくれる人たちを苦しめる事にならないだろうか…俺が選ぶ事で、大好きな、大事な人たちを傷つけてもいいのだろうか…」
 納得のいく答えなどないのだろう。
 だけど俺を支える言葉が欲しい。


「HAPPY」 2へ
Swingbye 27へ
リンミナシリーズはこちらからどうぞ。目次へ


私もこれでいいのかどうかを応えてくれる言葉が欲しいぜよ。

● COMMENT ●


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://arrowseternal.blog57.fc2.com/tb.php/569-dd1e7f64
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

宿禰凛一編 「HAPPY」 2 «  | BLOG TOP |  » 宿禰慧一編 「オレミユス」 20

プロフィール

サイアート

Author:サイアート
イラストと駄文を更新しております。

少年愛を中心としたシリアス重視なオリジナル作品でございます。

ゆっくりしていってね~

サイズを記憶するフォントサイズ変更ボタン

文字を大きくする 文字を規定のサイズに戻す 文字を小さくする

ツリーカテゴリー

Script by Lc-Factory
(詳細:Lc-Factory/雑記)

最新記事

FC2カウンター

リンク

このブログをリンクに追加する