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2019-09

宿禰慧一編 「ペンテコステ」 1 - 2010.06.16 Wed

ペンテコステ


「ペンテコステ」
1、
天から聖霊が降る日、
約束の聖霊に満たされた我々は、
真の交わりを得る

あなたはいつも私の傍に居た。
ならば命に至る道を示せ


 長年の学生身分からやっと卒業。
 変則的ながら日本系企業へ就職した俺は、ニューヨーク支部へ配属された。
 一月も半ば、日本から帰ると研究室への挨拶もそこそこに引越し、会社や関連企業への挨拶回り、それが終わるとすぐにプロジェクトへの参加を求められ、休日も返上しなければならないほどに時間に追われていた。
 もとよりこの企業を望んだのは、遠からぬ未来、小さくてもいいから自分の設計事務所を持つその足がかりとして、現場の実態を知るためであって、ここに落ち着こうとは考えていなかった。
 が、給料を貰う側としてはそれなりに自分の実績や惜しみない労力は果たすつもりだ。

 そんな中、凛一が春休み中に引っ越したばかりの俺の家へ来たいと言う。
 まだ落ち着いてもいないのに凛一が来ても相手はできないと断った。
『どうしても駄目?慧に会いたいんだ。…すごく会いたいんだもん…』
 携帯からの涙まじりの声が聞こえた。
 ばか、そんな泣き方されたら断れないのはわかっているだろう…
 あっけなく承諾させられた愚かな兄貴は、その日を待っていそいそと弟の待つ空港へ愛車で迎えにいく羽目になる。

 空港で待つ俺に走りこんで駆け寄る凛一が愛おしかった。胸に飛び込む細い身体を抱き締めた。
 胸に顔を埋める凛一が今までとどことなく違ってみえた。甘え方に色気がある。
 本気で俺を陥落させる気なのだろうか…
 そんなことをしなくても、俺はおまえのものなのに…と、背中を撫でてやった。

 ユニオンシティのアパートメントの広さに凛一は驚きの声を上げた。
 このテラスハウスはNKCの社宅になっており、家族持ちも多いから住宅としても申し分ない広さなんだが、独り身の俺にはその広さが帰ってうらめしくなったりもする。
 だからと言って、凛一以外の誰かを入れる気にもならないのだけれど…

 リビングの他に部屋は三つほどあったから、空いていた部屋を凛一に案内すると、「慧と一緒に寝たかったのに…」と、凛は口唇を尖らせた。
 こいつは本気で俺を誘惑する為にここまで来たんじゃなかろうかと疑うが、今はこっちにその余裕はない。
 とてもじゃないが、本気で迫ってこられたら、諭す気力が持てない。
 だから、仕事も極力残業を宛がい、夜遅く仕事から帰ったらできるだけ凛一とは顔を合わせないようにした。
 凛の方はさすがに俺のくたびれ加減に同情したのか、家事をキチンとこなし、毎日の食事も俺独りの時よりグンと充実したものになった。
 聞けば近所の奥様方と早速仲良くなり、色々とご指導を受けているらしい。
 とことん要領のいい奴だ。
「気をつけろよ」
「何に?」
「色んな奴がいるんだから、へらへら愛嬌振りまくんじゃない」
「…相変わらず心配性だね。俺、東京の下町に行っても結構ケンカ強いよ」
「バカっ!一度大怪我して懲りたんじゃないのか?それ以上傷を増やすなよ」
 こいつは高校に入学したての頃、中学の時の奴らとケンカして腕を5針ほど縫っている。
 その痕はほとんど消えかかって、目を凝らして探さなきゃわからないくらいに薄くなったけれど、あの時は本当に肝を冷やした。
 それじゃなくてもこいつには色々と身が縮む思いはさせられているが…
 あの月村の事からもうすぐ三年になるなんて、時の経つのも早い。
 凛一の中であの事件がどんな形で心に残っているのかは、俺ははっきりした事はわからないが、今の凛一には微塵も昏い影は見えない。
 だからと言って心配がないわけではない。
 自分では意識をしていないが、誰彼問わず媚を振るクセは抜けていないし、かといって気に入ったものしか認めないプライドの強さもある。
 巧くいく時はいいが、逆に反感を買う派目にでもなったらと、何をつけても心配は尽きない。
 そんな俺の気も知らず、凛一は気ままに俺を翻弄するように、楽しんでいる。

 休日にはどこかに行こうと約束していたにも拘らず、前日の仕事の疲れの所為か、昼近くまで眠ってしまった。
 慌てて起きてリビングへ行っても凛一は居らず、代わりにメモ帳に「フェリーに乗って摩天楼に行ってくる。心配しないで。食事は用意してるから食べてね、じゃあ」と、書いてあった。
 いつの間にか俺の好きなキッシュの作り方を覚えた凛一は、朝から焼いていたらしい。まだ温かかった。
 折角の凛が作ったトマトスープとサラダを一緒に食べながら、凛一へ電話をする。
 直ぐに声が聞こえた。
「凛?」
『やっと起きたの?』
「ごめん、今おまえの作った飯を食ってるよ。起こしてくれれば良かったのに…」
『いいよ。慧、疲れているみたいだったし…』
「今、どこにいるんだ?」
『セントラルパークだよ。天気がいいから人が沢山だけど、緑が眩しくて気持ちいい』
「昼からそっちへ向かうから待ち合わせしないか?」
『え?でも…いいよ、俺に気を使わなくても。適当に遊んで夕方には帰るからさ。フェリーだと、歩いて帰れるし』
「そっちで一緒に晩飯でも食おう。たまには豪華なホテルで食事でもしようか」
『ホント?楽しみにしてる』
「じゃあ、また連絡するからね」
『うん』
 嬉しそうな凛の声に、こちらもはしゃぎたくなった。
 さて、どこにしようか…エセックスでもチェルシーでもピエールでもいい。こちらではあまり料理をしない魚料理の美味いレストランでもネットで探すか…
 全く、これじゃあ綺麗な子を囲うパトロンじゃないか。凛の思うつぼだ。
 
 し残した仕事を終え、さて出かけようとした矢先にプライベート用の携帯が鳴る。
 着信を見ると…珍しい。嶌谷さんからだ。
 滅多に電話なんかよこさない人なのに何事かと耳に当てた。
「お久しぶりです。嶌谷さん」
『慧一くん…』
 どこか落ち着かない声音だった。
「どうかしたんですか?」
『いや…凛一はそっちに遊びに来ているんだろう。彼、いるかい?』
「…いえ、出かけてますが…」
『連絡は取れる?』
「え?」
『いやね、どうも…俺の従弟と一緒らしいんだが…』
「どういうことですか?」
『いや、ばったり出くわしたっていうかね…あいつは何考えてるんだか…』
「凛がどうかしたんですか?」
『いや、なんでもない。悪かったね…』
「ちょっと待ってください!嶌谷さん、隠さずに言って下さい。嶌谷さんの従弟と凛が会っているんですね。で、今どこにいるんですか?」
『ホテル名ははっきり言わなかったが、あいつはニューヨークではRカールトンって決めているから…セントラルパークの方…だと思う』
「わかりました。今から凛一と合流することになっているんです。連絡してみますから」
『うん、頼むよ。あいつは…宗二の奴、凛一の事を話しても気のない素振りをしていたから、俺も気に止めなかったんだが…騙されたのかも知れない。正直、凛が心配だよ。宗二は謀り事が好きなんだ。凛一もああいう男にはムキになるからな…』
「従弟って前に言ってた嶌谷さんの一番信用している人でしょう?そんなに心配な人なんですか?」
『…まあ、詳しいことは後で話すから。凛と早く連絡を取ってくれ。俺も携帯にかけているんだが…電源を切られている』
「…」

 一旦嶌谷さんの通話を切り、直ぐに凛一へ掛けてみたが、はやり嶌谷さんの言うとおり携帯の電源は切られているらしい。
 さっきはちゃんと連絡するからと言ってあるのだがら、凛一自身が電源を切ることはない。じゃあ、誰が凛一の携帯の電源を切っているんだ。

 考えられるのはだたひとりしかない…
 嶌谷さんの従弟という男がどんな奴かは知らないけれど、嫌な予感しか頭に浮かんでこない。

 俺は繋がらない携帯を手にしたまま、何故凛一をひとりで行かせてしまったのか…そればかりを後悔していた。
 


 




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「オレユミス」20へ
宿禰慧一のお話はこちら「イリュミナシオン」 
リンミナシリーズはこちらからどうぞ。目次へ


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