FC2ブログ
topimage

2019-12

宿禰慧一編 「ペンテコステ」 3 - 2010.06.25 Fri

3、
 明日は朝早くから出張で、エディソン近郊まで行かなければならなかった。
 クライアント依頼のコンセプトを申し渡す日に間に合わせる為、半月かけてマスタープランを煮詰めてきた。精魂かけて仕上げたものだから、先方の受け取り方も当然気になるところだ。
 だが、今、俺は仕事よりも凛一の方に目を向けなくてはならないんじゃないのか…
 建築デザイン設計は一生やり遂げたい仕事だ。俺自身の才能を広げ、どこまで行けるのか見極めたいと思う。
その傍らに凛一が居てくれるのなら、俺は死力を尽くしてそれに投じることができる。
 だが、果たして俺の傍に居ることが凛一の幸せなのだろうか…
 凛は…俺から離れて自分の道を探した方がより深い充実した人生を送れるのではないだろうか…
 凛一の事となると、俺は自分に自信がない。
 あれほど凛一を幸せにするという誓いも、今にも崩れてしまいそうに脆弱だ。

 深夜零時を回っていた。もう凛一は寝てしまったのだろうか…
 そっと寝室を覗いてみる。
 …真っ暗だ。
 窓のカーテンは開け放たれ、外の淡い明かりが部屋に仄かに白く浮き上がっていた。
 パジャマ姿の凛一は窓際に凭れ、片膝を抱いたまま、ベッドに座り込んでいた。
 闇に消え入りそうな青白い端正な顔立ちが凛一の持つ独特な儚げさと尊さを浮き上がらせる。俺はふっと溜息を付いた。こんな稀有な者を俺は疎かにしてしまっているのか…

「慧?」
 こっちを振り向いた凛一の顔が微かに笑った気がした。
「…ごめん、寝ているのかと思ってノックもしなかった」
「いいよ…ね、こっちにおいでよ。ここから見る景色は日本じゃどこもお目にかかれないほどに美しいよ」
 俺は凛一に近づいた。
 座っていた腰を少し引いた場所へと座り、凛一と共に外へ目を移した。
 ハドソン川の向こう、群青色に輝く白い月の光の下、摩天楼の夜景が見える。
「ここ、高台になってるからすごく眺めがいいんだね」
「そうだな。俺の部屋は角度が違っているから見えないし、この空き部屋がこんなに綺麗な夜景を見せてくれるなんて知らなかったよ」
「ね、これからこっちを慧の部屋にするといいね。仕事のストレスも少しは癒してくれそうじゃん」
「凛…」
「あ、さっき携帯で飛行機のチケットを取ろうと思ったんだけど、空きがなくてさ。キャンセル待ちになりそう。明日ケネディ空港に行ってみるよ」
 俺の顔も見ずに言う凛一に胸が痛む。頼むからそんな寂しげな顔はしないでくれ。

「凛、帰るのは待ってくれないか?」
「え?」
「傍に居て欲しいんだ」
「…でも、俺がここにいたら慧が…」
「おまえが好きだよ。とても大事だから近くにいると余計な心配もする。離れてりゃ何も知らなくていいことまで見えてしまう。正直日本にいてくれた方が楽だ。でも…それでは向き合ったことにはならないんだろうな」
「うん…わかるよ」
「俺は…凛と生きていきたいって願ってしまう。だけどそれは本当に正しいことかどうか…自信が持てないんだ…情けないけどね…」
 少しだけ笑う俺に、凛一は笑い返さず、俺の顔を両手で挟んでキスをする。そのまま俺の胸に頭を擡げた。その背中を緩く抱く俺に、より強く身体を摺り寄せようとする。
「…俺だって自信なんかないよ。慧はいつか俺に呆れ果てて捨ててしまうかもしれないってね…ほら、俺って気に入った奴となら寝ても構わないって思ってしまうからさ。それを罪とは感じない。よく顔がいいって言われるけど、それだって今だけだろ?歳を取りゃ腹も出るしシワもよる。美貌が特権っていうのなら、若いうち振りかざしておきたいね。後悔しないように…高慢かな?」
 俺の背中をしがみ付くように抱きしめる凛一は、低く呟く。
「…でもさ、本当は誰も俺を本気で欲しがったりはしないんだよ。俺をめちゃくちゃにしてくれる奴なんか誰もいない…別にマゾじゃないよ。そういう意味じゃない…もっとこう観念的なもの…俺はそれが欲しいんだ」
 凛は答えの見つからない自分が歯痒いのか、俺の胸の中で頭を緩く振る。
「なんとなく…わかるよ、凛。おまえの見目だけではなく、その奥の奥を突き破って宿禰凛一と言うひとりの人間を見極めて欲しい。綺麗なところも汚いところもすべて洗いざらし、さらって欲しい…違うかい?」
「…そんな感じなのかな…さすがは慧だ。よく判るね」
 顔を上げ、凛はいつもの笑顔を見せる。
「俺も他の人と同じように凛を壊すのが怖い。おまえがこんなに魅惑的じゃなかったら、美しくなかったら…恐れはしなかったんだろうね。近寄りがたい何かがあるからね、おまえには」
「だからみんな俺とセックスしたがらないのか…こっちはどうぞって言ってるのに」
「おまえはセックスはしてるだろ?恋人がいるクセに贅沢だな」
「ミナは俺をめちゃくちゃには出来ない。あれは俺に寄り添い俺に重なりあおうとする。俺は傷つかないようにそっと包み込む存在になりたいんだ」
「…」
「妬いてる?」
「まあな」
「慧が話をふったんだよ?…ホント言うとさ、俺、慧が欲しくてここに来たんだ。待つって言ったけど、離れていたらはやっぱり不安になる。言葉は貰っても俺はまだ慧に触れてはいない。想いは本当の形になんかならない。頭ん中だけで思い描いてもそれは妄想でしかない。俺は本物の慧一が欲しい」
「…俺に誓いを破らせるつもりなのか?」
「そんなの知らないね。俺は誓ってないもの…慧、怖くても間違っていても一歩踏み出さなきゃならない時ってあるはずだよね。俺が慧を欲しいって思うことは…間違っているの?」
 お互いに情欲の兆しは見えていた。こんなに求めている子を…俺はこれ以上ほおっておくことはできまい。すでに…俺の方が先に参っている。おまえを求め続けてどれだけひとりで慰めてきたかわからないもの…

「凛…わかったよ。しよう…どっちみち俺は最後にはおまえには勝てないように決まっているんだから…」
 俺はシャツを脱ぎ、凛の身体を静かにベッドに押し付けた。
「慧…いいの?ホントに?」
 凛一は驚きを隠せないままに目をぱちくりと開けたまま俺を見つめている。
「ここでおまえを抱かなきゃ、俺がいくら止めても明日帰るって脅迫するつもりなんだろ?」 
「…」
 凛は見透かされたのを恥じ入るようにそっぽを向いた。
「本当に…育て方を間違ったかも知れないな。死んだ母さんがなんて言うか…」
 凛一のパジャマのボタンをひとつひとつ外しながら、オーバーに溜息を吐いた。
 されるがままの凛一はゆっくりと俺の方を向く。
「全き正しく生きる者…母さんならそう言うに決っているさ…」
 そして俺の目を射落とすまなこで見据えた凛一は、迷うことなくそう言い切るのだ。
「…」
 凛の言葉に俺は心臓が鳴った。
 それは母親が俺に残してくれた言葉だった。
 「全き正しく生きる者。手の中の炎を消さないで」と、彼女は言ったのだ。
 母親の言葉など凛一が知るわけがない…

 もしかしたら母は、こうなることを望んでいたんじゃないのか…
 「この子を導いてね」と、眠る凛一を俺に渡した母の顔は…確かに聖母のように見えたのだ。




「ペンテコステ」2へ /4へ
宿禰慧一のお話はこちら「イリュミナシオン」 
リンミナシリーズはこちらからどうぞ。目次へ

ふたり…


そしてふたりは朝を迎えた…ってならないようにがんばろ~
日本サッカー勝ってよかったね。やっぱ日本人だからなんでも勝ったらうれしいよ。

● COMMENT ●


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://arrowseternal.blog57.fc2.com/tb.php/584-a7e68cc7
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

宿禰凛一編 「HAPPY」 8 «  | BLOG TOP |  » 宿禰慧一編 「ペンテコステ」 2

プロフィール

サイアート

Author:サイアート
イラストと駄文を更新しております。

少年愛を中心としたシリアス重視なオリジナル作品でございます。

ゆっくりしていってね~

サイズを記憶するフォントサイズ変更ボタン

文字を大きくする 文字を規定のサイズに戻す 文字を小さくする

ツリーカテゴリー

Script by Lc-Factory
(詳細:Lc-Factory/雑記)

最新記事

FC2カウンター

リンク

このブログをリンクに追加する