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2019-11

宿禰凛一編 「HAPPY」 10 - 2010.07.13 Tue

夜明けのコーヒーでも飲むか


10、
 春休みも、もうじき終わる。
 と、同時に慧一と過ごす時間も終わる。
 やっと思い描いていたとおりに慧一と身体も心も繋ぐことが出来たというのに…
 離れ難い、と言うより、慧と離れて今までと同じよう独りで暮らしていけるのか不安になる。
 慧は俺を守り安心をくれる。何よりも慧とのセックスは俺を虜にした。
 慧はじらしたり、痛めつけたりすることはなく、ただ俺を救い上げ、包み込んだ。
 慧一という大海の中、寄せては返す大波のような快楽だけを俺に与え続けた。
 溺れる寸前になりながら、俺は必死で潜り、慧一の求める真珠を探し出す。
 それを見つけて俺は慧に差し出すんだ。
 俺たちの存在する意味を、形にする為に…

 帰国する前に慧一と小旅行を楽しんだ。
 去年、シカゴで仲良くなった慧一の研究生仲間のジャンの結婚式にも出席し、古いチャペルでの一連の式を体験した時は、さすがに酷く感激してしまった。
 ジャンと、お相手のシーラさんの幸せに満ちた笑顔、そして取り囲むような周りの祝福と喝采に、こちらまで幸せを貰った気になる。
 
 その夜、ホテルのベッドの中、慧一と毛布に包まって今日のことを話した。
「ジャン、幸せそうだったね。シーラさんはニューヨークで仕事をしているんだろ?」
「そう、確か…経営コンサルタントだったと思う。そのうちにジャンと一緒に事務所を手伝うんじゃないだろうか」
「私生活も仕事も一心同体ってわけか…それって究極の形でもあるね」
「上手くいけば理想だろうが…常時顔を突き合わせているのも、飽きてくるっていうからなあ~」
「俺、大学卒業したら慧と一緒に暮らして慧の仕事も手伝いたいって思っているんだけど…飽きる?」
「…いや…それはない」
「ホント?」
「凛を飽きるなんてちょっと考えられないな。こういう言い方は気持ち悪いかもしれないが、俺はおまえが生まれて此の方、おまえの事を考えない日は一日も無かったんだ。だから、これからも無いと思うよ」
 冗談を言う風でもなく、淡々と想いを言葉にする慧一が愛おしくて仕方なかった。
 決して俺に恩を売ろうとかじゃない。ただ彼は俺を愛してくれていたんだ。
 それがいつだって俺を救っていたんだ。
「慧、大好きだよ。ずっと死ぬまで一緒にいよう」

 翌日から丸三日間、慧一とドライブを楽しみながら、各地を巡った。
 とりわけ、ケベックシティのサンタンヌ・ド・ボーブレ聖堂は北米三大巡礼地に相応しく、荘厳で圧倒されるバシリカだ。
「凄いね~」
 天井も祭壇も壮麗で潔い。
「だけど、この建物は五代目なんだよ。火災や老朽化の為に取り壊されたんだ。これはこれで素晴らしいが西欧のカテドラルと比べると赴きが違うね」
「そうだろうね~慧は去年色々見てきたんだろう?俺も見て回りたいよ」
「フランスやイタリア、ドイツの壮麗なゴシック建築もすばらしいがスペイン、ポルトガルの地方の鄙びたカテドラルも俺は好きだな。そうだ。凛一が高校を卒業したら、一緒にヨーロッパ旅行でもしないか?」
「ホント?」
「勿論、旅費は親父にたかろう。会いに行くからと言えば無下にはしないだろう」
「そりゃいいや」

 夜になると車を止め、小綺麗なモーテルへ宿泊する。
 やることは決まっている。
 肉体は正直だ。
 なにが一番気持ちいいのかを知り、それを求めてしまう。
 親鳥が雛を守るような慧一の腕(かいな)に身を委ねるのは、俺の意思でしかない。
 俺は慧一に依存する。
 人間はお互いを求め、依存し合い喜びと為すのは当たり前の愛情表現だというが、セックスでもそうなのだろうか…
 とにかく俺は慧一とやるのがたまらなく好きだ。
 セックスだけじゃない。慧の腕に抱かれているのとこの先なんてどうでも良くなる。
「自堕落になるね」と、慧の胸から顔だけを向ける。
 慧は「そんなに長くは持つまい。凛は飽き性だからね…」と、微かに笑う。
「信用されてないんだな…」
 口唇を尖らす俺に、慧は「信用はしてるけど、凛は一所に留まる性質ではないって事だよ。俺の腕の中で羽を休めるのは今だけだろうね」
「そうかな…俺、ずっとこうしていたいのに…」

 慧の言いたいことがわからない。
 俺はそんなに飽きっぽいのだろうか。
 この温もりを自分から手放そうなんて思ってもみないんだけどな…

 
 旅行から帰ると、俺の春休みも終わる。
 宗二朗さんから携帯に連絡があり、一緒の飛行機で帰らないかと誘われた。勿論二つ返事でOKした。
 慧に伝えたら案の定むっとされた。
 そういう慧一も俺は好きだから気にしてはいない。

 空港まで車で送ってもらい、そのまま仕事に行く慧一を見送った。
 去っていく車に手を振り、車の影が消えてしまった直後、俺は途轍もない喪失感に苛まされた。
 宗二朗さんとラウンジで落ち合うや否や、俺は力が抜けて彼に寄りかかったほどだ。
 心配して声を掛ける宗二朗さんには悪かったが、とても平気な顔をして誤魔化すどころじゃなかった。

 折角のコンパートメントのファーストクラスの空の旅も楽しむどころではない。
 慧と離れてしまった喪失感は、ミナへの罪悪感となって俺の胸を締めつけた。
 帰国して、新学期が始まれば、俺はミナに会わなきゃならない。
 これだけ慧一のものになってしまった俺自身を、どうやってミナの前で恋人として振舞うことができるのだろう。
 ミナが俺に呆れ果て、俺を捨ててしまうのならまだいい。
 だが、俺はミナを諦められるのか?
 慧とのことをミナに白状してしまえるのか?
 ミナはこの真実を知りたいのか?
 アメリカであったことを洗いざらい告白することは賢明なのか?

 俺は付けていたペンダントを外し、ポケットの中へ押し込んだ。
 俺が俺である為には、慧のものである俺を落さなければならない。

 成田に着いて帰ろうとする俺を、宗二朗さんは有無も言わさず嶌谷さんのマンションへ連れて行った。
「宗二、凛。お帰り」
「嶌谷さん…」
 先に連絡をしていたのだろう。嶌谷さんは俺を見ても驚きはしなかった。
「兎に角こいつを休ませろ。十四時間のフライト中、一度も飯は食わないし、寝てもいないらしい」
「大丈夫だって」
「何が大丈夫だ!人が高い金出してファーストを奢ってやったのに、そんな生気の無い顔しやがって…このまま帰したらこっちの居心地が悪くて仕方ねえだろ。誠を貸してやるから、早いとこ皮肉のひとつでも言える様になっちまえよ」
「宗二、おまえも休んで行くだろう?上がれよ」
「言われなくても泊まらせてもらう」
 俺と嶌谷さんをすり抜けて、宗二朗さんはドカドカと廊下を歩いていく。
「気にするな。あいつはいつもああなんだ」
 いつもの穏やかな嶌谷さんの微笑みに、俺は泣きそうになった。




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凛くんの解体新書


さっさと書かないと~進まねえ~(;´Д`)

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