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2019-11

宿禰凛一編 「HAPPY」 12 - 2010.08.08 Sun

リンバスケ

12、
 高校最後の新学期が始まった。

 三年になっても俺の担任は藤宮紫乃だ。
「運命かしら?」と、笑うと
「慧一の呪詛だな。おまえの面倒を見ないと呪い殺すって言う…」と、紫乃の眼鏡の奥の目が笑う。
「ああ…かも知れない」
 俺と慧一が相思相愛であり、告白した事は紫乃に告げたけれど、セックスをしたとはまだ紫乃には言ってない。慧一の元恋人であり、未だに未練を残している紫乃の気持ちを考えると、どうしても同情的になるのは当たり前だ。俺たちが愛によって結び付けられたとしても、その所為で多くの者を傷つけるだろうし、その罪は勿論俺たちが購わなければならないのはわかっている。
「で、おまえ、慧一と寝たのか?」
「は?」
「春休みは慧一のところに行ってたんだろ?」
「うん…でも…」
「どうした?ケンカでもしたのか?」
「いや、慧一は仕事が忙しくて、あまりゆっくりと出来なかったんだ。だから…まだしてない」
「…そうか。慧一にしてはよく我慢できるな。お互いに告白したのなら即効でやるのがおまえら兄弟だと思ったんだがな」
「学校でそういうエロ話はやめにしない?青春真最中って言ってもただでさえ、男同士の恋愛なんかマトモじゃないんだし。しかも兄弟で愛し合ってるなんて、道徳に厳しいミッション系としては断罪だよ。」
「おまえがそういう事を気にするとはね」
「俺は地獄に落ちても構わないんだが、慧は社会人だからね。世間で認められる為にはくだらん偏見に晒される必要もないだろ?そのうちわかるとしても」
「…おまえは良く出来た弟だな」
「今まで俺は慧の想いに気づかずに、慧を苦しめてきたからね。これからは俺が慧のために何が出来るのかと考える番だと思うんだ。紫乃にもアドバイスして欲しい。先生としてじゃなくて、慧を理解している人として…ねえ、今週末暇なら、前に言ってたジャズクラブに一緒に行かないか?」
「あ?ああ、そんなことを言ってたな」
「紫乃には紫乃の趣味があるだろうから無理強いはしないよ。ただ、サテュロスは息抜きにはいい場所だからさ。紫乃もきっと気に入ると思うよ」
「おまえが俺のことまで気を回してくれるなんてね…気持ち悪いにも程があるが…わかった、付き合ってやる…体育祭で来た連中なら初対面ってわけでもねえしな。それより部長、ほら、今年の『詩人の会』の活動予定表と文化祭の出し物の件についての資料。部員で話合って決めてくれ」
「わかりました」
 俺は国語準備室を後にした。
 今になって紫乃の優しさが少しずつだがわかる気がする。
 
 慧一が俺への情愛を打ち明けられぬまま悩み苦しみ、その想いから逃げる手段として、紫乃に癒しを求めたのは仕方のない話だと思う。紫乃もそれをわかっていたんじゃないかな。その上で慧と付き合っていた。
 慧一にとっては紫乃みたいな情に厚い奴の方が、一緒に生きるパートナーには俺より相応しいのかも知れない。
 それでも、俺は決めてしまったから…ごめん、紫乃。慧はあんたには譲れないよ。


 文化祭も無事に済み、夏休み前の進路面談が始まった。
 推薦狙いの奴らはここで最終選考を決めなきゃならないんだが、俺たち国立希望の生徒はセンターの出来次第ってところがあるから、最終的なものはそれ以降になる。
 「詩人の会」の部活も一応後輩に引継ぎ、俺たちは夏休みに突入した。
 ミナは三年になってふたつの県の絵画展に入賞し、表彰された。
 ひとつは長谷寺の伽藍を描いた風景画で、もうひとつは版画だ。
 エッチングは始めてだと悩んでいたが、温室の花々が生き生きと彫り起こされ、色がないのに見えるようだ。
 彼は花々の中に人の輪郭だけを黒く浮かし、光と影を見事な対照にして見せた。
 モデルは俺だ。温室で描いていたのを見ていたし、シルエットで俺だとわかる。
 「眩耀(げんよう)」と題されたその版画は県の最優秀賞に輝いた。
 
「リン、じっとしててくれ。今、大事な箇所を描いているんだから」
「あ、悪い」
 温室の窓に手をかけ、モデルをするのはいいんだが、じっとしているのは苦手だ。しかし、絵を描いている時のミナはなにをおいても厳しい。

 俺はミナの画家としての才能を評価している。その道に進んでいけば、一端の芸術家として極めることができるんじゃないかと思う。だが、道を決めるのは俺じゃない。
 ミナが親の為か、その逆で親に有無と言わせぬ為なのかはどうでもいい。T大を目指し、必死に勉学している努力は決して無駄ではないだろう。だがいい子である意味を疑う日も来るかも知れない。
 もし、ミナが将来、画家の道を目指すことになるとしても、今、それを俺が示唆するのは余計なおせっかいだ。
 

 夏休みになっても、受験生に休みはない。
 朝から夕方まで、学校で補習授業だ。
 放課後になり、陽が落ちるまでの時間、俺たちは温室で過ごしている。
 水撒きから始まり、それが終わると雑草を抜いたり、肥料を与えたり、大きく育ちすぎた花をポットに移し変えたり…
「なんでこんなに世話がかかるんだ?くそ、いくら抜いても雑草の奴。いっそ除草剤でも撒こうか」額の汗を拭きながら愚痴を言うと、
「汗を搔いて手を入れるから、花も美しく咲いてくれるんだろう。どっちにしても世話をしてやれるのももう少しだから、頑張ろうよ」と、ミナが冷たく濡らしたタオルをくれる。

 今年で最後、それが何を意味するのかミナはわかっているのだろうか…
 
 八月にはミナは予備校の夏期講習の為、実家へ帰った。
「母親が勝手に申し込んだんだ。おれは不本意だ」と、むくれるミナだが、親の愛とはそういうものではないだろうかと、俺は少し羨ましく思う。

 俺の方も今年のお盆は母の十三回忌、梓の七回忌の法要を行うことになり、慌しくなった。
 法要の事は、静岡に住んでいる母の姉の佐伯茜伯母の提案による。
 父の実家は金沢だが、母も梓の遺骨も金沢の宿禰家の墓に納骨している。
 父は宿禰家の長男だが、実のところは弟が継いだ実家とはそんなに頻繁な行き来はない。
 いつかはこちらの近くにふたりの遺骨を移したいと思ってはいる。
 それが俺と慧一の作る寺院であれば最高なのだが…

 簡単には帰って来れない父と兄の代わりに、俺が金沢の寺や親戚と連絡を取り合い、挨拶にも行くことになった。なによりも母と姉の法要だ。他を頼りにするわけにはいかない。
 俺がやれることはするべきだと思ったから、面倒臭くても投げ出す気にはならなかった。
 
 法要の当日、親父以下、みんなが揃う中、慧一が現れないのをやきもきしていたが、坊さんのお経になんとか間に合った。
 慧一が少し慌てた顔で俺の隣に座る。
「間に合って良かったよ。天候が悪くて飛行機が遅れてね。マジで焦った…凛、元気だったか?おまえひとりに世話を押し付けてすまなかったね」
 慧一の指が畳に座る俺に膝に触れた途端、何故だか俺は泣きそうになった。
「慧の馬鹿っ!遅れたら母さんと梓が許しても俺が許さねえんだから…」
 小声で責める俺の肩を、慧は優しく抱いてくれた。





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