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2019-11

宿禰凛一編 「HAPPY」 15 - 2010.09.01 Wed

剣舞


15、
 本番の体育祭まで、週3回、放課後に武道場で指導を受けることになった。
 鳴海先生の流派は神道流で、俺が習っていたものと似ていたから、型を覚えるのに違和感はなかった。
 二年前は生徒会長だった美間坂さんが槍術の舞を見せたが、俺には太刀術が見合うだろうと、刀を使っての剣舞になった。
 切れる刃ではないが、重さと形は本物と同じ精巧なレプリカの刀は、間違って人に当てたら怪我をさせるかも知れない。刀を振りながら緊張感に手が痺れてくる。
「刀を持つのは初めてですか?」
「はい。古武道は習ってましたが、合気道と剣道だったので、剣術は初めてです」
「手に馴染むまで繰り返し型を振ることが大切です。美間坂くんも弓術を長年されていたから相当の素質があってね。けれど、槍を使いこなすまでには苦闘していたね。本番は素晴らしい演舞を見せてくれました」
「先生は宣教師でもあるんでしょう?キリスト教を伝えることと、日本の武道を教えることに違和感はないんですか?」
「私はよく海外の教会や学校で説法をするのだが、和装で古武道を見せるだけで、信徒たちの信頼感が著しく溢れてくる。日本人の宣教師として、何かを伝えるのなら、私にしか出来ない惹きつける語りや形というのもは最大限に使うべきものだと思うんです。今回、宿禰くんは生徒会からの推薦で剣舞を披露することになったんですよね」
「はい、そうです」
「生徒会は生徒の代弁なのだから、彼らの推薦という意味は、君に対する評価と受け取っていい。君の容姿や輝ける魂の演舞をきっとみんなも望んでいるということでしょう。だが、賞賛される為ではなく、自分自身と向き合う為に一瞬でも無心になることは大切ですよ。一心不乱に励みなさい」

 優しげな言葉とは裏腹に、鳴海先生の指導は厳しかった。
 さすがの俺も練習が終わり、フラフラになって自宅に帰り着く。
 夕食も作る気にならずに店屋物で済ます。
 それでも指導を受けた後の心地よい疲労感と洗い清められるような清清しさは、心と身体を深い澱の中から浮上させてくれる気がした。
 指導の無い日も、俺はひとりで習った太刀筋を何回もおさらいするものだから、温室でひとりほったらかしにされたミナはぶつくさと文句と言う。
 ご機嫌取りに、毎週末俺のマンションに泊まりにくるように誘うと、控え目に頷きなからも嬉しそうな笑顔を見せた。
 ミナが可愛かった。
 この期に及んでも、俺はミナと別れることを躊躇していた。
 あれだけはっきりと慧一に断言したのにも拘らず、ミナを目の前にすると、手放したくないという恋心が募って仕方が無い。
 どうせ3月までの恋愛だ。卒業すれば、ミナと合わなければ、この恋心だって薄らいでくるに決まっている。
 そう自分に思い込ませては、本当に離れられるのかと自身を疑ってみたくなる。

 相変わらずミナは俺を信じ、俺が傍にいるだけで全身で喜びを表してくれる。
 これだけの信頼を俺は裏切ることになるのか…
 そうじゃないと嶌谷さんは言うけれど…傷つくのはミナだけじゃないって言うけれどさあ…
 俺はミナを傷つけるのが怖くて仕方ない。
 だから優しくもなるし、沢山抱いてやりたくてたまらなくなる。
 ミナと一緒に寝るのが怖かったりもする。
 寝言で慧一の名前を呼ばないかと不安になるからだ。
 もし、寝言でも言ったところで取り繕う気は無く、問い詰められたらはっきり言ってやるとは思っているのだが…
 実際のところ、慧一との関係をはっきりとミナに言い出すことなんか出来ないとわかっている。
 俺と慧一の関係は俺たちの生きてきた過程での結果であり、そのことに俺は一ミリの揺らぎもない。
 しかし余程の事がない限り、兄弟で愛し合うなど他人に理解されるものではない。
 まして常識人のミナには毒が強すぎる。
 どっちにしてもミナはゲイの資質は少ない種類の人間だ。
 俺に惚れたのは、男子校のなせる業であり、井戸の中の蛙だから、社会に出れば男と女しかいないことは気づくはずだ。ミナは女とも恋はできるだろう。
 もっと大人になって、世の中のしくみを理解したら家庭を持つ大事さを知る。
 家族を大切にするミナにはそれが自分に相応しいと思うことだろう…
 そうしたら、俺のことは高校時代の思い出のひとつとなっていくんだよ、きっと…

 俺は自分で勝手なミナの未来を妄想し、自分を納得させようとしていた。
 そうしなければ、ミナと別れる道筋が見えない気がした。

 
 体育祭直前の、最後の剣舞の指導が終わった。
 畳に正座をして、鳴海先生にお礼を言う。
「良く頑張りましたね。本番はきっと素晴らしい舞台になると思いますよ。集中して頑張りなさい」
「はい。ありがとうございました。期待に沿う様、魂を込めて演じます」
「宿禰君とこうして話す機会も最後だろうから、話しておこう。…実を言うと君を知ったのは、君がこの学校に来る前なんですよ」
「え?」
「君が絡んだ事件があったでしょう。あの時自殺した男性の遺骨は嶌谷家のお墓に入れられることになったのは知ってますか?」
「はい、嶌谷さんから聞きました。月村さんのお骨を引き取る人が誰もいなかったから、嶌谷さんの実家のお墓に入れてもらったって…」
「その時、誠一郎くんが父親の嶌谷、私の友人のね。にお願いしたんだ。それでその後に嶌谷と食事をしていて、その話題になった。誠一郎くんのことは昔から気がかりだったし、その事件を詳しく調べてみたら君の素性が見えてきた」
「…」
「好奇心ってわけです。曲がりなりにも人を助ける身の上でもある事だから、もし、自分が救えたらと…思ってしまうものなんですよ。…宿禰凛一という人格に触れた時、とても魅力的に思えました。どんな子だろうかと…この学校を受けたのを知ったのは最終試験で、学長が頭を抱えて君の書類を私の目の前に提出した時です。ペーパーテストも面接も落ち度がないが、過去の事件があるので、決めかねるがどうしたらいいかと、相談を受けました。私は即決で合格と見なしました。…君は思ったとおりに素晴らしい聖ヨハネの生徒でした。私は君を誇らしく思いますよ。何があっても自分の目で道を切り開いて行きなさい」
「俺は…今まで沢山の罪を犯しています。これからだってもっと罪を重ねるかもしれない。それでも、進んでもいいのだろうか…許して欲しいとは思わない。だけど…時々めげてしまいます。動けなくなってしまう…」
「それでも、歩きだすんですよ。時間は周りだけではなく、自分自身も変わるってことでしょう。良心が咎める罪ならば、『父と子と聖霊の御名において』許すでしょう」
「懺悔しなくても?」
「懺悔する相手によりますよ。少なくとも…宿禰君は神を相手にはしないでしょう?」
「いいんですかね」
 心内を読まれた気がして、恐縮して舌を出す。
「大丈夫ですよ。神は寛大ですからね。少なくとも…私はチャラにしますよ。明日の演舞の出来次第でね」
 鳴海先生はお茶目にウインクをしながら、笑顔を見せてくれた。
 俺はもう一度畳に擦るぐらいに頭を下げ、お礼を言った。



 体育祭当日、嶌谷さん達に見守られる中、俺は午後の部のトップで運動場でひとり剣舞を披露した。
 BGMも何もない、ただ観客の声援が時折聞こえてくる。
 俺は刀を扱うことだけに集中する。
 その切っ先や刃の太刀筋の中に、段々と自分自身が見えてくる気がした。

 みんなが俺を見ている。好奇心や憧れだけではなく悪意を含めても、それは俺に対する想いだ。
 俺は生まれてからずっと、愛されていることを知っている。
 沢山の無償の愛が俺を守ってくれている。
 家族や友人、嶌谷さんやミナや慧一の愛に俺は応えたい。
 俺ができうるものを与えたい。
 キリストや仏陀が人々を救う道を指し示すものとは違う。
 俺は俺にしかできない喜びを俺を愛する者たちに与えたい。
 思いあがりではなく、生きていく罪の許しとして購う術を知り、それを与えたい。
 だが、俺は選ばなきゃならない。
 俺は象徴でない。
 独りの人として、生きていく道を選ぶ。
 今、歩いている道はただの一本道なのか。
 それともいくつもの道に別れ、分岐点に立たされているのだろうか。
 俺は…慧一を選んでいる。
 どう歩こうと他の道は選べない。
 慧と生きることが俺と慧の望んだ道だ。
 ミナを思う。
 これは恋だ。
 ミナと共に歩いていく道は選べない。
 俺に囚われずにミナを自由にしてあげなきゃならない…
 それが正しい道なんだ。
 だけど…ミナを愛することをやめる必要があるのか?
 ミナと行く道を違えようと、ミナを愛するのは俺の感情であり、想いなんだ。そうだろう?
 慧と生きるからって、ミナを愛していけないとは限らない。
 会えなくても身体を繋げなくても、愛し続けることはできるはずだ。
 それは罪だろうか。
 許される罪だろうか…
 ミナ…君を、ずっと愛していたい…


 刀を鞘に納め、低頭した。
 辺りが割れんばかりの拍手と歓声に沸き、俺は瞑想から覚めた。
 正面の応援席で手を振るミナの姿がはっきりと見えた。
 





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凛一羽1



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