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2019-09

宿禰凛一編 「HAPPY」 16 - 2010.09.03 Fri

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16、
 一段落して応援席に戻ろうとしたら、貴賓席の後ろに嶌谷さんの姿が見えた。
「嶌谷さん、見てくれた?どうだった?俺の剣舞…あ」
 駆け寄ってみたら、隣りに鳴海先生が居る。
「凛、素晴らしかった。ヴィーナスが舞い降りて、汚れた世界を刃で切り裂き、一瞬で清浄にしてくれる様だった」
 嶌谷さんは嬉しそうに俺を抱き締めてくれた。目の前にお偉い先生が居ることなんかお構いなしだ。
「誠一郎くん。汚れた世界とは聞き捨てなりませんよ。少なくともこの学院は神の祝福に守られているのですからね」
「あ!すいません。つい、調子に乗って…」
 急いで俺を解放して、頭を搔く嶌谷さんが可愛い。
「ふふ、鳴海先生、嶌谷さんは俺に甘いんです。許してやって下さい。それより…先生、合格でしょうか?懸命にやりましたが、没頭してしまって回りが見えていませんでした」
「それだけ精神統一していた証拠でしょう。技の切れも見事でしたよ。お疲れ様でした」
「…ほっとしました。それより、嶌谷さん、鳴海先生と会うのは初めてなんでしょ?」
「ああ、そうだよ。凛一がお世話になったので、挨拶をしておきたかったんだ」
「実はね、宿禰君。君が私の指導を受けることを知って、誠一郎くんから連絡を貰ったんです。電話だったけれど、君の事をよろしくお願いしますと丁寧な挨拶を頂いた」
「ちょ、鳴海さん。それは凛には内緒の約束じゃなかったじゃないですか」
「舞台は終わったのだから時効ですよ、誠一郎くん。宿禰君の親代わりだと言うけれど、愛が存在しなければここまで思いやることはできません。宿禰くんは幸せ者です」
「はい。俺もそう思います」
「どっかの親バカ同然だとわかっていたけど、じっとしてられなかったんだ。おせっかいだと凛が嫌がるだろうから黙っていた」
「そんなことない。すげえ嬉しいよ、嶌谷さん」
 嶌谷さんの思いやりが心に響いた。この人は血は繋がっていなくても家族と同じなんだ。
 甘えることも帰ることも許してくれる大切な人。
「そして、私も長年会いたいと望んでいた誠一郎くんに会えた」
「俺も鳴海さんには一度お目にかかりたかった。親父から聞いていました。色々と俺のことを心配してくださったそうで、本当に申し訳なく思っていましたから…」
「いや、心配はしていませんでしたよ。嶌谷の息子さんだもの。だけどこうやって直に会えたのは何より喜ばしいことですからねえ」
「はい」
「良かったね、嶌谷さん」
「宿禰君」
「はい」
「宿禰君が私達を引き合わせた。そしてとても幸せな感情を沸き起こしてくれた。君の剣舞を観て、ここに居る誰もが清清しい感動を受け取ったと感じています。これは君がくれたハッピーです。充分すぎる贖罪だと思いませんか?」
「…本当に?そう思っていいのでしょうか?」
「勿論ですよ。君にはその才と力がある。それを充分理解して、前に進む術を見つけて歩いてください」
「ありがとうございます。鳴海先生」
 目頭が熱くなった。
 傍で嶌谷さんが俺の頭を撫でてくれる。
 少しだけ目線を上げて俺を見る嶌谷さんに、いつの間にか嶌谷さんの背を追い抜いていた自分に気が付いた。


 体育祭が終わり後片付けが済んで、生徒らが下校し始めた頃、俺は温室へ向かった。
 ミナが待っているような気がしたんだ。
 温室のドアを開けて、中を覗く。
 制服姿のミナが草木に水をあげていた。
「ミナ、水は朝やったんじゃないのか?」
「リン!」
 振り向いたミナが嬉しそうな顔を見せる。
「うん、明日は代休だから水撒きできないだろ?だから…」
「そうか。俺も手伝うよ」
「いいよ。リンは沢山の競技に出て疲れただろ?良かったね。大活躍だったじゃない」
「残念ながら優勝は逃したけどさ」
「剣舞は点数に入らないからね。でも…良かったよ、リンの剣舞…とっても感動した」
「ホント?」
「なんか泣きそうになったよ。周りのみんなもうっとりしてた。空気がピンと張り詰めてこちらまで引き締まった気持ちになった。それでいて、すごく綺麗だからさあ…おれ、すごく誇らしかった…」
「…うれしいよ。そんな風に思ってくれて…本当は…舞っている時、ミナのことを思っていたんだ」
「え?」
「いつまでも愛してる…って、誓っていた」
「…」
 顔を真っ赤にしたミナは、俺に背を向けて黙ったまま水遣りを続けた。

 俺はその背中を優しく抱いた。
「ミナ、ありがとう。…愛してる。大好きだよ」
「…おれも…おれもリンを…愛してる…」
 ジョウロを脇の机に置き、胸に置いた俺の手の上に自分の手を重ねたミナはそう言ったきり、ただ黙って目を伏せている。
 精一杯の思いを伝えようとするミナが意地らしくも愛しかった。 
 夕日に照らされた俺たちは、ただじっと互いの気持ちを染み渡らせていた。 
 それは至福と呼ぶ以外、表現できないほどに満ち足りたものだった。
 肉体的な欲望ではなく、恍惚感に浸るでもなく、魂で通い合わせる。
 陽が落ちるまで、ただそうやって優しく抱き合ったまま、身を寄せ合っていた。

夕焼けふたり



 十月の終わり、慧一から体育祭のビデオを観たと電話をもらう。
『去年の応援団も素晴らしかったけれど、今年の剣舞はなんというか…感動したよ。あれだけの技を凛が出来るとは思ってもみなかった』
「指導が良かったんだよ。それに慧だって俺より古武道はやってたじゃん。きっと慧の方が様になっている」
『人を惹きつけるには見た目が大事だからね。凛のは極上だ』
「…慧、それ以上言わないでくれ。嶌谷さんにも散々おだてられたんだからさ」
『嶌谷さんは自分のことのように喜んでいたよ。あの人はもう宿禰家の身内思考になってないか?』
「なってると思う。だから…嶌谷さんにも幸せになって欲しいって願うばかりだ」
『凛、少し元気が無いね』
「そうかなあ…きっと受験勉強が追い込みに入ったからだね。朝から晩まで机にかじりついているよ」
『無理するなよ。落ちたらこっちの大学に行けばいいさ』
「そうだね。それも考えておくよ」

 慧一は俺の心の底の思惑など知らないだろう。
 ミナを愛し続けたいなんて、言ったらまた悲しませるかな…
 
 ベランダから見る空を一面にうろこ雲がゆっくり泳いでいる。 
 秋が過ぎ冬が来れば、俺たちの試練がやってくる。




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