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2019-09

水川青弥編 「フラクタル」 6 - 2010.09.06 Mon

水川たんの夏

6、
 九月になり、校内が体育祭の準備でざわついている。
 受験生である3年生は、本当ならこの時期、勉強以外に気を散らす暇なんかないのだろうが、何故かヨハネ校の学校行事に文句を言う生徒は少なく、この体育祭も楽しみにしている奴らが多い。
 おれも昨年に続き応援の横断幕を描いてくれと頼まれ、デザインから仕上げまで関わっている。
 リンは去年の応援団が好評だった為、特別に応援団の前座に当たる模範演舞をやる事になった。
 前学院長直々に神道流の指導をされるそうだから、流石のリンも恐縮しまくっている。
「演舞って言っても、毎年やるわけでもなく、生徒会がやれる生徒を選考、それから職員会議で審議して決まるそうだ。普段見かけない名誉学長だから、初めて挨拶した時は緊張したけど、優しいおじいさんだったよ。72だそうだが、そうは見えなかったな」
「リン、すごいね」
「何が?」
「だって、そんな偉い人に直接指導を受けるなんて、滅多にないことだろ?」
「二年前は美間坂さんがやったじゃん。刀じゃなくて和槍だったけど。でもそんなに期待しなくていいよ。居合い抜刀までやるけど、刀はレプリカだよ。まあ、形だけの演舞だし、二分程度だからそう期待しないでくれ」
 そうは言っても、大勢の生徒の中から選ばれるってことはこれ以上ない名誉なことだ。
「じゃあ、今年の体育祭も、リンの勇姿を見に沢山来るんじゃない?」
「うん、嶌谷さん達は来てくれると思うよ。兄貴は仕事で無理だけど…」
「慧一さんは来ないの?…残念だね」
「嶌谷さん達がビデオに録ってくれるそうだから、それを送るよ」
 そういうリンもどことなく残念そうに見える。
 
 剣舞の練習は予想以上のハードスケジュールで、リンとおれは温室で会う時間が全く取れなくなっていた。会いたい時に会えないのは寂しいと文句を言うと、じゃあ、うちに来ればいいとリンが言うから、前よりもっとリンのマンションへのお泊りが多くなった。
 と、言っても始終いちゃつくわけでもなく、受験生らしく勉学に勤しんでいる時間が多かった。
 ひとつは剣舞に集中している所為なのか、リンの纏う空気が欲情を生み出さなくなっていた。
 刀という神秘的で清浄な力に引き寄せられているのかもしれない。
 正直言うと、おれの方は物足りないんだけど。

   
 体育祭当日は、秋晴れで大勢の観客に溢れていた。
 おれは相変わらず応援席での観戦が多いのだが、たまにクラスの競技に参加しなきゃならなくなる時は、「頑張れよ」と、リンが必ず声を掛けてくれる。
 だから、おれも精一杯高校最後の体育祭を楽しんだ。
 昼食を一緒に食べないかとリンに誘われるが、リンの応援団は独特だし、おれの知り合いはひとりもいないから、断った。

 ひとりで食堂に向かっていると、後ろから「みなっち!」と、呼び止められた。
 おれをそう呼ぶのはこの世でひとりだけだ。
「根本先輩!」
「お久しぶり~元気してた?」
「はい。ネコ先輩こそ、相変わらず…」
 ひと目見て絶句した。
 元々派手な人だが、髪は金髪になってる…水玉のシャツにピンクのカーディガンに細身のズボン…ジャニ系アイドルみたいだ。それが似合っているからまた始末に悪い。
「かっこいいだろ?ボク、関西の雑誌だけど、モデルやってんの。結構人気者なんだ」
「それは…良かったですね。で、わざわざ体育祭を観に来たんですか?」
「そうだよ。だってリンくんが剣舞をやるって聞いたからね~去年の応援団の恋人役としては是非とも観ておきたいじゃん。それで、みなっち達は、さすがに別れた?」
「…続いてますよ」
「ふ~ん。宿禰も真面目だねえ~」

 地味な学生食堂で目立って仕方ない先輩と、安価な定食を食べることになった。
「うん、懐かしい味だね~ここのコロッケはやっぱり美味しい~」
「そんなことより、先輩こそどうなんですか?保井先生とはうまくやっているんですか?」
 この学院の体育教師だった保井先生は、根本先輩と恋仲で、先輩が関西の大学に進学したのを追いかける形で学校を辞め、今は京都の高校に勤めていると聞いていた。
「保井?もうとっくに別れたよ」
「えっ!わ、別れたんですか?」
「うん」
 驚いて次の言葉が簡単に出てこなかった。
 遊び屋の先輩だって、先生との恋は本気だったはずだから…
「だって、保井先生は先輩の為に、ここを辞めて京都まで追っかけていったんですよ?」
「ボクが頼んだわけじゃないもん」
「そうだとしても…先輩だって先生のことを好きだったじゃないですか」
「うん。その時はね…本物の恋かと思ったけどさ。やっぱり違ってた。まとわりつかれるとうざくてさあ~きっぱり話をつけたんだ」
「…そう、ですか…」
 別に憂えう風でもない先輩に少し腹が立った。おれは先生が先輩に夢中だったのを知っているから、余計に先生が可哀相になる。
「みなっちは保井に同情するだろうけどさ、恋愛ってどっちが可哀相とかどっちが悪いとかは当事者じゃないとわからないんだよ。保井もボクからやっと解放されて自由になれたと思うんだよね。ふたりの未来の為にはこれで良かったと思う、ことにしてる」
「…」
 殊更に明るく言う根本先輩だって、本当は不安なのかもしれない。
 だって、誰も自分の未来なんか見えるわけではないのだから。

 昼食後の最初のプログラムは応援合戦。その場を整える意味でリンの剣舞が行われる。
 練習の成果もあってリンは見事な刀の舞を見せた。
 その力強さと精悍さに誰もが圧倒されたと言ってよかった。
 リンが舞っている間、観客は静まり返っていた。
 おれ達生徒の中にはリンを気にいらなくて野次る奴もいたが、リンの演技はそれさえも黙らせてしまった。
 おれはリンが舞っている間、何故かわからないけれど、胸が締め付けられる気がして堪らなくて、泣きそうになるのを必死に堪えていた。
 終わった後、周りのみんなはリンを褒めたたえ、おれにさえもお礼を言うほどだった。
 以前のおれなら、リンの恋人には相応しくないだとか簡単にいじけたりしただろうけれど、リンが褒められるのが素直に嬉しかった。
 リンの恋人として誇らしかった。
 そして、おれもリンに誇れるように懸命に励もうとさえ思えたんだ。
 こんなおれにしてくれたのはリンのおかげだ。
 つまらないおれを救い上げ、顔を上げて空を見上げるようにしてくれたのは、リンがおれを愛してくれたからだ。 
 
 だから…おれはリンを信じる。
 そして、ずっと…ずっと愛し続けるんだ。


 体育祭が終わって、温室に足を運んだ。
 リンが来る様な、そんな気がしたからだ。
 花に水をやっていたら、リンが現れた。
 剣舞の見事さを褒めると、リンはおれのことを思いながら演じていたと言う。
 それがリンの優しい嘘でもなんでも、そんなことはもうどうでもいい。
 おれへの「愛」は本物だと感じたから。
 ああ、これが人を愛すると言うことなのだ。

 おれ達は身体を寄せ合ったまま、温室の窓から夕日を眺めた。
 背中を抱くリンの腕の中は、おれが生きてきた中で一番安らかな居場所だった。



温室3-3


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