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2019-12

水川青弥編 「フラクタル」 7 - 2010.09.09 Thu

水川温室


7、
 十一月に入ると、大学の推薦試験が始まり、合格した生徒は授業中でも暢気に昼寝を決め込んでいる。そいつらのアホなツラを馬鹿にしている奴らも、日を追って自らの人生の進路の虚ろさに顔面蒼白、必死さに拍車がかかる。
 
「あ~あ、俺も推薦にしときゃ良かった~」
と、寮の同室の三上が溜息を吐く。
 三上は長野出身だ。
 初めは私立の推薦を狙っていたが、成績が向上した為、国立狙いに進路を変えた。口先は不平を言いつつも、鼻歌なんぞで具合のいい三上が少し不思議だった。
「三上、なんだか今日はご機嫌だね。なんかあった?」 
「え?俺、機嫌良く見える?」
「うん。おまえ、ここんとこ塞ぎ込んでいたじゃないか。ちょっと気になってた」
「水川にも心配かけてたか…悪かったな」
「いや、それはいいんだ」
「ほら、俺、彼女とあんまり上手く言ってないって言ってたじゃん」
「ああ、ユミちゃんだっけ?」
 三上には隣町の女学院の同級に一年生の時から付き合っている彼女がいる。
「そう…で、俺も第一志望は長野だし、彼女は都内の大学希望だし、このまま付き合っていてもどうせ遠距離で続くわけないじゃん。彼女もそれわかってて、それで、別れようってはっきりは言わないけど、そんな雰囲気になっててさ。それを宿禰に相談したんだよ」
「宿禰に?」
「うん」
 リンと三上は同じクラスで親友でもある。相談してもおかしくはない。
「それで?」
「宿禰はそんな簡単に別れるなんて納得できないって言い出して。好きなら遠距離だろうと努力して続けられるだけ続けてみろって…で、俺の携帯でユミに電話してあいつが説得したんだよ」
「はあ?」
「今日ユミと会って、やっぱりお互い好きだって確認して、それで続けていこうって…なんか久しぶりに幸せ~って気分」
「そりゃ…良かったな」
「うん。でも宿禰が人の恋愛事にあんなに必死になるなんて、思わなかったから、逆に感動したわ」
「そりゃ、おれも驚くよ。あいつはそういう事はお互いの問題だからって一切口を挿まないタイプだろう」
「だから不思議なんだよなあ~。まあ、俺としてはユミちゃんと元の鞘に納まったから有り難いおせっかいだったけど」
「…うん」
 
 確かにリンらしくないおせっかいだ。
 後日、それを確かめたくてリンに尋ねてみた。
 リンは穏やかに笑って、
「みんなが幸せになってくれりゃいいなあと思って。三上が諦めきれてないのは知ってたから、背中を押しただけだよ。この後、三上達がどうなるかはふたりの問題だろうけど、少なくとも、三上の気がかりは減ったことだし、これで思う存分勉強に打ち込めるだろ?余計なおせっかいだろうけれど…あいつは俺にとって初めての親友だから幸せになって欲しいんだ」
 そう言うリンの横顔が少しだけ物憂げに見えたのは、気のせいなのだろうか。

 十二月になれば模試の連続で、息つく暇はない。
 桜が咲くのを夢見て、誰もが必死で猛勉強だ。おれもリンも今までに無いくらい毎日が赤本との格闘だった。
 同じ大学に入学して、桐生さんたちみたいにふたりでアパートに住んで、一緒に大学へ通えたらと、想像するだけで、気力も沸く。
 リンもおれも、模試では充分合格ラインを越えていた。
 だから、きっと大丈夫だねと笑いあっていた。

「そうだ、ミナ。今年のクリスマス予定ある?」
 久しぶりに温室でゆっくりと草木の世話をしていた時だった。
「え?…いつもと同じで寮祭に参加するぐらいだよ。今年はゆっくり楽しませてもらえるしね。その後は実家に帰るけれど…」
「三年はそろそろ寮から出て行くんだろう?」
「うん」
 基本、三年生は三学期は自由登校になる。
 地方出身で地元の大学を受ける生徒は、地元で勉強した方が効率がいいし、授業も補習スタイルだから、気になる科目だけ受けたりする生徒が多い。
 おれは都内の大学を目指しているから、授業を受けなくてもいいけれど、自宅に居てもつまらないから、ぎりぎりまでは寮で過ごすつもりだ。
「センター入試が近くなったら自宅に帰るけれど、それまではこっちに居るよ」
「そうか…ね、クリスマスはふたりでホテルで過ごさない?」
「え?…ホテル?」
「うん、スカイラウンジでフルコース食って、その後、スイートに一泊ってどう?」
「…高校生のやることじゃないよ。第一お金かかるよ」
「いいじゃん。ミナへのクリスマスプレゼントだよ」
「でも…」
「高層ビルからの夜景って綺麗だよ。ミナにも一度見せたかったんだ。高校最後の記念だし…」
「う…ん」
 高校最後って…別に区切らなくても、大学に入っても一緒に居られるなら、いつでも行けると思うけれど、リンは思いついたプランを下げようとはしないからおれも甘えることにした。
「じゃあ、俺が見晴らしのいいホテルを探して予約しておくね。クリスマスイブの寮祭を早めに切り上げて、ホテルで会うってどう?ロマンチックだろ?」
「わかった…楽しみにしてる」
「その日だけは勉強のことは忘れて、めちゃくちゃ楽しもうぜ。ゴージャスなダブルベッドが壊れるくらい可愛がってやるから」
「…それは…適度でいいデス」
 テンションの高いリンに乗せられる感もあったけれど、クリスマスが近づくにつれて、その日が待ち遠しくてたまらなくなった。

 リンへのプレゼントを色々考えてみるが、いい案が思い浮かばない。
 仕方なく三上に相談した。
 三上は彼女にオルゴールをプレゼントすると言う。
「自作オルゴールなんだ。好きな曲と箱を選んでネットで頼むんだよ。ネームも入れられるし、そんなに高くないし…水川もそれにしたら?宿禰もオルゴールだったら、意表を突いて驚くかもよ」
「オルゴールって…女の子にあげるもんだろ?」
「宿禰はロマンチストだから、絶対ウケるって」
「…ウケるかな…」
 予想外に三上が推して来るから、結局、おれもオルゴールにした。おれも大概優柔不断だなあ~
 曲はリストの「愛の夢」。
 …あまりにリンに似合っていて、自分で選んでおいて笑ってしまった。

 
 二学期が終わり、クリスマスイブに会うことを約束してリンと別れた。
 寮祭の準備でヨハネ寮生たちが騒がしい中、おれは明日の予定に少し浮かれていた。
 夕方、携帯が鳴った。
 リンからだ。
『悪いけど明日は会えない』
と、リンは言った。





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