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2019-09

宿禰慧一編 「ペンテコステ」 10 - 2010.09.16 Thu

慧一1


10、
 企業の中に溶け込む質は少ないとわかっていたから、自分の発案がスムーズに取り上げられるとは思わなかった。
 比較的人口が少ない街の商業施設の空間デザインを何人かの建築家で草案し、共同でいい街並みを作り上げることに依存はなかった。
 その大部分が俺の発案によるものとしても、俺はまだ若く先頭に立って指揮をするには、プロジェクト自体が大きすぎる。
 だが、企画マネージャーは思い通りにやれと尻を叩くから、そのつもりで励んできた。
 当然、他とは摩擦が生まれる。
 それは瞬く間に膨れ上がり、俺は上と下の間で立ち止まるしかなかった。
 しかも長年経営を担当していた部下(20歳以上は上である)が、他企業にリークし、コストの漏洩でプロジェクト自体が白紙に戻ってしまった。
 NKコーポレーションの損失は大きかった。
 俺の全くあずかり知らぬところで、事態は起きていたが、俺とプロジェクトマネージャーは全責任を負わされることになった。
 マネージャーは後片付けにしばらく残るとして、俺は即刻首。
 入社一年足らずで、俗にいうリストラを経験することになった。
 ある程度の自信があったからこそ、この道を選んできた。
 落ちこぼれたことも躓いたことも一度もなかった。
 ここまであっさりと切り捨てられると、さすがに自信喪失は否めない。
 茫然自失とはこのことなのだと思い知らされた。
 
 志や理想があったから、その空間を現実のものをして創造したかった。
 簡単に諦められるほど適当な仕事をしていたわけじゃない。
 時間が経つに連れて手足をもがれた気になった。
 これからどうやってアーキテクトとしての仕事をしていくのかわからなくなってしまった。
 明日を歩く道が無い…
 凛…おまえを導く手立てが無い。





 知らぬうちに街はクリスマス一色に変わっていた。
 アパートメントを引き払い、荷物を片付けた。
 社宅の奥さん方も手伝ってくれた。
 凛一が遊びにきた時の印象が、強く残っているようで、何かと俺にも良くしてくれた方々だった。
「宿禰さんが居なくなると寂しくなるわ。若い男の子はもっと大事にするべきなのに、駄目な会社よね」と、慰めてくれる。
「転居先は決まっているの?」飯田さんが心配そうに聞く。
「いえ…まだ何も。決まるまで荷物は貸し倉庫にでも預かってもらおうと思ってます」
「一週間くらいならここに置いといていいわよ。まだ次の方が入る予定もないから」
「ありがとうございます。じゃあ、甘えさせていただきます。できるだけ早く取りにきますから」
 同情や憐れみが、優しさとわかっていながらも悲しかった。

 マンハッタンの安価なホテルに滞在した。
 シカゴ大学のブライアン教授に連絡してみようとも思ったが、クリスマスも近い。家族思いの教授のことだ。きっと一家団欒家族旅行を楽しんでいることだろう。
 クリスマスが終わるまで、こちらもすべてを休業して休息しよう。

 日頃あまり歩かないニューヨークの街の隅々を歩いてみた。
 美術館も博物館も教会も、クリスマスイルミネーションやスノーフレークの飾りで、どこもかしこもきらびやかこの上ない。
 そりゃそうだろう。一年で一番輝かしい時期だ。
 東京のそれも華やかだが、この国はクリスマス信仰がある。
 それぞれの教会が独自の色でキリスト降誕を祝っているのも面白い。
 面白いが、それを心から楽しむ余裕はこちらもない。
 凛一がいてくれたら、と常に願うけれど、会社を辞めたことすら怖気づいて伝えていない。
 携帯を見るのも怖くて電源を切ってしまっている始末。
 我ながら情けない。
 惨めな兄貴の姿を見せたくないなんて、見栄を張るのもいい加減にしろって話だが、凛一を守ると宣言した手前、リストラされたなんて言えやしない。
 大学が決まったら留学して一緒に暮らすと楽しみに言ってた凛一。
 頼るべき兄が生活する家も金もないなんて…
 この歳で親に頼るのも不甲斐なくて示しがつかない。
 下らないプライドに固執しても意味はないとわかっているのだが…
 
 街中の喧騒を避けて、川沿いの遊歩道から夜景を眺めた。
 川の向こうに住んでいた街が見えた。
 涙が溢れて仕方が無かった。

 クリスマスイブの前日だと知ったのは、夕刻カフェでサンドイッチを口にしていた時だった。
 そういや、凛へのクリスマスプレゼントを忘れていた。
 今からじゃとても間に合わない。
 声だけでも送りたい…
 聞きたい。
 凛…どうしてる?

 ただ宛てもなく歩き回った。
 夜だといってもこの街に住む者には暗闇は少ない。
 アッパー イーストサイドの古い落ち着いた教会に辿り着いた。
 中に入れば厳かなミサが行われていた。
 空いている椅子に座り、両手を組んだ。
 パイプオルガンの演奏、ゴスペルの賛美歌、降誕劇にファーザーの講話…
 俺はただ祈る。
 凛…おまえを想う。
 「愛」を誓う。
 おまえの「幸福」を願う。


「慧…」
 名を呼ばれ、俺は顔を上げた。
 …信じられなかった。
 凛一が、目の前に立って俺に笑いかけている。
「ねえ、奇跡を信じる?それとも、一日早い天からのクリスマスプレゼントかな?」
「凛…」
「隣りに座っていい?一緒に祈ろうよ」
「…何を?」
「俺たちが出会えた幸運と、この夜に集うすべての人々の幸福を…」
「…」

 懸命に堪えていた涙が零れるのを、悟られないように俯いた。
 俺の肩を抱く凛の身体は暖かい。

 いと高き処 神に栄光なれ
 Gloria,in excelsis Dio!



gloria

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宿禰慧一のお話はこちら「イリュミナシオン」 
リンミナシリーズはこちらからどうぞ。目次へ



日本とニューヨークの時差は約12時間。飛行時間は12時間。従って成田を12時に出たとしたら、ニューヨークには同じ日の12時に着く事になる…と、思う(;・∀・)

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