FC2ブログ
topimage

2019-09

宿禰慧一編 「ペンテコステ」 完結 - 2010.09.22 Wed

ただいま~・おかえり~

11、
 何故おまえが?どうしてここに?どうやってここを知りえたんだ?
 俺の隣りで両手を組み、祈りを捧げている凛一の横顔を凝視した。
 俺は幻影でも見ているんじゃないのか?
 あまりに凛一を想いすぎて、俺の頭が狂ってしまったんじゃないのか?
 そうじゃなきゃ、これはあまりに都合の良すぎる奇跡だ。

 ミサが終わり、俺たちは教会を後にした。
 何も言わない凛一にますますこれは本物の凛一ではないのでは…と、不安になる。
「懐かしかったね」
 並んで歩く凛一がやっと口を開いた。
「え?」
「さっきのミサで最後に歌った『Hark!the herald angels sing』さ。あれ、昔、家でクリスマスを祝う時に、よく梓と歌ったじゃないか」
「…ああ、そうだったな」
「意味もわからないのに無理矢理英語で歌わされてさ。まあ、メロディが綺麗だったから気持ちよかったけど…」
「さっきも歌ってたな」
「うん、久しぶりだったけど覚えてたよ。梓と一緒に歌っている気分だった。Hark!the herald angels sing  Glory to the new born King!」
 メロディにのせた綺麗なテノールが、周りに響く。前や横を歩いている人達がこちらを振り返り、Amazing!と叫び拍手が沸き起こった。
 凛一はこうやって誰彼とは構わず幸福を撒き散らすのだ。
 昔からそうだった。
 俺はそれが怖かった。
 俺のものだけに出来ないもどかしさ、妬みと憧れ…無垢な輝きは俺を虜にした。
 俺は、誰にも見せたくなくて隠し通したかった。
 だけど、初めから無理だった。暗闇に隠せば隠すほどに輝く光を、遠く彼方からでも、見出せない者はいない。

「…俺と梓にとって…おまえこそが輝ける王だったから、梓はこれを歌いたかったんだよ」
「そうか…じゃあ、俺は梓を救えたのかなあ」
「ああ、きっと…」
 スンと鼻をならした凛の目が潤んでいた。
 今はもうこの子の輝きを隠したり、嫉妬を覚えたりはしなくなった。
 ただ守りたいと願っていた。その力が俺にあるのか、自信はないけれど…

「あ、雪だ」
「ああ、大分冷えてきたからね」
 曇天の夜空を仰ぐ凛一と一緒に、立ち止まって天から降る雪を見つめた。
 凛の冷たい手が俺の手を繋いだ。
「…さみしかった?」
 上を見上げたままの凛が言う。
「ああ、とても…」
「でも、もうさみしくないよね。慧には俺がいる。俺は輝ける王なんだろ?」
「…」
「今まで慧はずっと俺を守ってくれた。今度は俺が慧を守る番だ。ずっと慧の傍を離れない。いいだろ?」
「…凛…」
「恩を返すわけじゃない。勿論恩を売るわけでもない。慧が俺を必要なように、俺も慧が必要だから傍にいたいだけだ。他に理由がいるか?」
「…いや、充分だ…」
 それだけ言うのが精一杯だった。流れる涙と落ちてくる雪が混じり、頬を伝った。
 ペンテコステ、俺は確かに光を受け取った。


 スーパーで簡単に食べられる食料を買ってホテルへ帰った。
 凛一は狭いホテルに最初驚いていたが、案外いごごちが良くて好きだと笑った。
 ジャンや嶌谷さんに心配させた詫びを入れ、傍に凛一がいることを告げた。ふたりとも安心したようだ。
 ふたりで小さなテーブルを囲んで、貧しいディナーを取った。
「明日はイヴだしさあ。豪華に高級ホテルで食べようよ」 
 ベーグルにチーズを挟み、口に入れる凛は食事に不服そうに言う。
「凛…知ってるだろ?俺は無職なんだよ。当分贅沢はできないし、これから凛を養えるかさえわからないんだ」
「うむ、急場の金か…俺はまだ未成年だから親父にたかってもいいんだが…そうだ。鎌倉のマンションを売ろう」
「ええっ?」
「あのマンション、俺と慧の名義じゃん。あれ売れば当分こっちで住むぐらいのお金になるだろ?」
「…無謀すぎるよ、凛」
「別にいいじゃん」
「凛、日本に帰る家がないと困ることがあるよ。おまえだってまだ大学に行かなきゃならないんだから」
「俺、受験しない」
「え?」
「日本の大学へは行かない。こっちに居る事にする。まあ、卒業式には出なきゃならないだろうし、ビザやら色々手続きに帰らなきゃならないけど、こっちの大学の試験を受ける。英語も大分身についてきたし、大丈夫だろう」
「凛…」
「文句は言わせない。どうせこちらに留学するつもりだったんだ。それが少し早まっただけのことじゃないか。紫乃にも相談してみるけどね。だいたいアメリカと日本じゃ遠すぎるよ。俺、ひとりにも飽きた。それにさ…鎌倉の家が無くなっても、俺たちには帰る家はあるじゃん」
「え?」
「俺には慧が、慧には俺が帰る家なんだろ?それで充分だ」
「…」
「それより…慧には謝って欲しいことがある」
「…わかってる」
「いや、わかってないね。連絡しようにもできなくてどれだけ心配したと思う。俺だけじゃない。ジャンも嶌谷さんも飯田さんだって本当に慧一を心から心配したんだよ」
「悪かったよ」
「独りだけで生きようとするなよ、慧。独りじゃないって思ってくれ。いつだって慧を思っているんだって、荷物は一緒に持ちたいって思っている俺がいるって、わかってくれ。まあ、正直言えば、逆の立場だったら、俺も独りでどうにかしようと思う性質(たち)だから、今回の慧のこともわからなくはないけどね。だけど他の奴らにかっこつけるにしても、俺には弱みを見せてくれよ、慧」
「…」
「…昔、すっげえ小さいガキだった俺が慧に言った言葉がある。不思議なことに俺はそれを覚えているんだ。…慧は俺の騎士で俺は城になるって言ったんだ。覚えてる?」
「ああ、勿論だとも」
「俺はその意味を知っているよ。城は愛する者を守る為にそこにあるんだ。そして騎士は城を守る為に戦うんだ。違う?」
「…違わない」
「俺たちはお互いがいなきゃ生きられない不完全な人間かもしれないね。でも…頼るべき者とちゃんと愛し合うことができて幸せじゃん。だろ?」
「ああ、凛の言うとおり…だ」
「じゃあ、取り敢えず今日はここに泊まらせてね。シングルベッドだし、めっちゃ狭いけどさ、壊れないぐらいに愛し合おう。だって俺、慧に慈しんでもらいたくてたまんないんだもの。それくらい報われてもいいだろ?」
「凛…ありがとう」
 
 部屋のヒーターはここに来た時から、あまり利かなかった。だから昨日までは独りで震えながらブランケットに縮こまっていたんだ。
 今は少しも寒くない。
 暖かいのは凛一の肌だけじゃなく、凛一がくれる情愛、いたわりや甘え…すべてが光となり降り注ぐからなんだろう。
 窓の外の喧騒は深夜まで続いていた。
 暗闇の中、絶え間なくふりしきる雪が屋根に積もる様子が見えた。
 俺達は優しく愛し合った。
 終わっても眠らない凛一に休むように促しても、まだ眠くないと俺の胸から離れようとしない。
 どちらからとなく話し始め、今までの事やこれからの事を語り続けた。

 朝方ビルの谷間から、白々と明るくなり、街が銀世界に変わる様子にふたり見惚れていた。
「夢見たいに綺麗だ…雲の上にいるみたい」
「雪は汚いものすべてを隠してくれるからね。それが一時だとしても…」
「雪が解けて、醜い現実が見えてもさ。目を逸らすんじゃなく、嘆くばかりじゃなく、人に揉まれて生きる。そこから美しい何かを見出すことも出来ると思うんだ」
「ああ…そうだね、凛」

 小さな窓からの景色にときめいてしまうねとはしゃぐ凛を、子供の頃と同じだと揶揄った。
「俺には慧がいた。梓がいた。父さんも母さんも俺を愛してくれた。その愛が俺を育ててくれたんだから、俺は間違いなくAmazing grace(すばらしき恩寵)に違いない」
 朝ぼらけに翳ろう窓を背にした凛の瞳は一層の輝きを見せる。
 俺を見つめる凛の背に翼が見えた。
 …光を俺は手にしている。
 生きる糧は輝くままに。
 充ち足りた思いは明日の支えとなろう。
 Amazing grace…
  
 おまえが宿禰凛一として生まれた日、梓は約束の地へ導く者とおまえを呼んだ。
 俺はただ…ただ、愛おしかった。
 それだけだった。






ペンテコステ1

「ペンテコステ」10へ
宿禰慧一のお話はこちらからどうぞ。「イリュミナシオン」 
リンミナシリーズはこちらからどうぞ。目次へ



慧一視線での物語は一応これで完結です。これからの慧一の未来は凛一視点で語られると思います。
長い間、慧一を応援していただきありがとうございました。
やっと慧一を幸せにすることができました。

さて、これからはリンミナの恋の結末へ移行します。まだまだ先は長いですが、よろしくね~





● COMMENT ●

時と共に 研ぎ澄まされ磨かれて行く リンの神々しい姿には 惚れ惚れします。(//▽//)
それと共に 慧一のへタレっぷりに 9歳の年の差は 関係なくなってるのでは?
確かに リンは まだ学生で 社会人の慧一との 経験差は ありますが、生まれ持った”精神”の基盤が 違うと感じますね。o(`・д・´)o ウン!!

亡き母からの言葉通りに 慧が リンを導くよりは リンに背中を押されて進む映像が 浮かんできます(笑)
この編を読んで 更に リンの魅力が 伝わりますねー♪
慧や ミナだけじゃなく リンに巡り合えた全ての人が 生きてる実感をかみ締め 生きる幸せを得て 皆が輝き出してるーー!
私も リンと会ってたなら ピカピカに輝いた青春を 過ごせたのかもねー♪

時間的に ミナ編も読めるのですが 残り数編となり 勿体無いので 明日へ(^^)ゞbyebye☆

凛を好きになるか否かは、読み手の性格によるかも~と、常々思ってます。
たぶん凛を嫌いな人もたくさんいることだろうと…
この話は凛を中心に動いているから、凛に魅力的でいてもらわなければなりません。
容姿端麗、頭脳明晰、文武両道、完璧だけど、どっか変な凛が好きでいてもらえてとても嬉しいです(*´∇`*)
また慧のヘタレが好きな方も多いですね~
私もこの人の内へのこもり方が、とてもかわいくて好きですww

いやいや、輝かせるのは他人ではなく、自分の力や精神力ですよ。

けいったんさんのコメントを読むと、ああ、感想とはこういう風に書くのだなあ~と、感心してしまいますね~
学生時代の感想文はいつも高い評価ではなかったですか?
私?…勿論巧かったですよんww


管理者にだけ表示を許可する

Hark! The Herald Angels Sing «  | BLOG TOP |  » 暮夜

プロフィール

サイアート

Author:サイアート
イラストと駄文を更新しております。

少年愛を中心としたシリアス重視なオリジナル作品でございます。

ゆっくりしていってね~

サイズを記憶するフォントサイズ変更ボタン

文字を大きくする 文字を規定のサイズに戻す 文字を小さくする

ツリーカテゴリー

Script by Lc-Factory
(詳細:Lc-Factory/雑記)

最新記事

FC2カウンター

リンク

このブログをリンクに追加する