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2019-09

宿禰凛一編 「HAPPY」 19 - 2010.09.27 Mon

天使と羽

19、
 ロックフェラーに着いた頃には、すっかり陽も暮れていたが、何しろ世界一有名なクリスマスアベニューだ。イヴは明日だけどお祭り騒ぎでどこもかしこもにぎやかしいばかりだ。
 カップルもファミリーもひとりでいる人も、皆、笑顔でツリーを眺めている。
 想いはそれぞれに、幸せの色もそれぞれでいい。

 そういえば、小さい頃、クリスマスが近づくと、梓と慧一とよくデパートへ行っていた。
 家族のプレゼントが名目だが、結局俺へのプレゼント選びが一番時間がかかっていた気がする。梓も慧一も俺を喜ばせようと計画を練り、プレゼントを選ぶから、こっちも段々と難しい品物を要求していた。
 母さんが亡くなる前の最後のクリスマスは、家族みんなでホテルでディナーを楽しんだ。入院中の母さんは、医者に無理を言い、仮退院をして、俺たちと付き合ってくれた。
 その時のクリスマスプレゼントが何だったかは覚えてないけれど、みんなの幸せそうな笑顔はぼんやりと覚えている。
 幸せだった。
 母さんが死んで、父さんが単身で外国へ赴任しても、俺には梓と慧一が居たから寂しくなかった。

 慧一はずっと欲情を持ちながら、俺を愛してきたと言う。
 梓はそれを知っていたのだろう。
 慧一が大学へ行くのを口実に自宅を離れて、俺が寂しいと愚痴る時、口癖のように「ねえ、凛。本当は慧は凛が大好きで仕方ないの。でもね、好き過ぎると傍にいるのが辛くなる時があるのよ」と、言った。
「どうして?好きならいつも一緒にいたいって思わないの?」
「凛…好きの色合いは一杯あるの。兄さんは沢山の好きが混ざって仕方なくてどうしていいのかわかんなくなるの」
「…梓もそうなの?」
「うん、そういう時もあるわ」
「じゃあ、梓も慧みたいに僕から離れてしまうの?」
「私は慧みたいに弱くないから、凛から離れたりしないよ。凛が大好きだもん」
「…慧は弱いの?あんなに大きくてかっこいいのに?」
「外見じゃ判断できないよ、凛。…慧は…純粋で繊細なんだよ。だから、凛が傍に居てあげてね」

 梓は慧一の本当の気持ちを知っていたから、あんな風に俺に言ったのだろう。
 あの頃、慧一がどんな思いで俺と接していたのか考えたら、当人の俺でさえ同情したくなる。
 俺が男と寝たのを怒り殴り飛ばしたのだって、そのまま逃げるように留学したのだって、俺を愛していたからだ。
 どれだけ苦しんだのだろう。
 守りたいという想いと奪いたいという想いに苦しんだと言った。
 俺が出来るのはその想いに報うことしかないはずだ。
 俺を慈しんで育ててくれた慧一への恩は勿論だが、それ以上にこれから生きるパートナーとして、俺は慧一と愛し合い、この愛を育てていきたいと思っている。
 
「Merry Christmas!」
 不意に銀色に輝くオーナメントを差し出された。子供が持つ赤い箱にいくらかのお金を入れて、それを貰った。
「ミナのクリスマスプレゼントにしようか」
 頭に浮かんだ言葉を口にした。
 変な話だった。
 慧一と生きていくと誓った今でさえ、ミナを愛おしく思う。
 だが、俺にとっては自然な感情だった。
 慧一もミナも愛おしい。間違ってはいない感情だ。

 セントラルパークから美術館へ回った。
 夜が更けてもクリスマスのイルミネーションの所為で歩く道はどこまでも明るい。
 たびたび慧一へ呼び出しをしているけれど、連絡は来ない。
 きっと、自分の弱さを見せたくないんだろう。
 父さんにも母さんにもいい子で優等生の長男で居た慧。
 いつだって、かっこ良くて頼りになる9つ上の兄貴だった。
 いつだって、俺は9つ下の甘えっこの弟だったもんな。
 じゃあ、慧は誰に甘えるのさ。慧だって誰かに甘えてもいいはずだろ?
 俺が慧の支えになってもいいはずだろ?
 いつまでも甘えるだけの弟でいる気はないんだから。
 だって、一緒に生きていくパートナーだろ?俺たち。

 アッパーイーストサイドの88ストリートを歩いた先にある落ち着いたルネサンス様式の教会に辿り着いた。
 春先、慧一を尋ねた時、帰る間際のニューヨーク見物をふたりで楽しんだ。
 街中の沢山の教会を回った。その時最後に寄った教会がここだった。
 バシリカもヴォールトもステンドグラスも決して派手ではなく、落ち着いた空気が漂う空間だった。
 慧も俺もこの街で一番気に入ったと、語り合ったんだ。
 だから…ね、慧。ここで待っててくれよ。俺がちゃんと見つけるから。

 内陣に入り、礼拝席を眺めた。
 後ろの端の席に、頭を垂れる黒い慧一を見つけた。
 鼓動が激しくなるのを押さえて、そっと近づいて行く。
 近寄っても慧一は一心に祈っている様子で、俺には気づかない。
 慧の祈りが何であるのか…そう考えた時、俺はふいに胸が熱くなった。

 そんなこと決まっているんだ…
 慧、あんたは俺のことしか…俺の幸せしか祈っていない…
 いつだって、昔から、そうやって、あんたは…俺を愛してくれていた。
 俺は気づいていた。
 知っていた。
 だから、慧…慧…

「慧…奇跡を信じる?」
 俺の声に顔を上げた慧一は、信じられないという顔をする。
 俺は微笑んだ。

 「奇跡」なんかじゃない。
 俺にはわかっていた。
 慧一はいつだって俺の傍に居たんだ。





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