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2019-09

宿禰凛一編 「HAPPY」 20 - 2010.09.29 Wed

20、
 教会を出ると雪が舞い落ちていた。
 隣りに歩く慧一の手を取った。
 重なった手はお互い冷たかった。
 その手をしっかり絡めて握りしめる。
 しばらくすると握り締めた中心から、じんわり温もりが生まれた気がした。
「俺が守る。ずっと慧の傍にいる」
 その言葉に慧は抑えられなくなったのか、しきりに涙を拭いていた。
 …慧は弱いんじゃない。何もかも強すぎただけなんだ。

 狭いホテルに帰ってこれからのことを話した。
 俺は日本の大学に行くのをやめ、慧一と一緒に住むと告げる。
 諸手をふって喜ぶとまではいかないまでも、反対しないだろうと思ったけれど、慧一はあまりいい顔をしない。
 無職になってしまったことが慧一には重く、俺の世話が充分にできないことを心配している。
 慧の傍にいることが俺にとって一番大事だと説得し、慧は「ありがとう」と、言ってくれた。

「会社を辞めさせられた経緯には、納得いかないことも多いけれど、社会勉強と思っているよ。自分の為になったしね」と、歯切れはいいが、大企業への就職はなかなか困難だ。
 プロジェクトの失敗は関連企業にも聞こえているだろうし、その責任を取らされた慧一を受け入れる企業は、時期を見ないと難しいそうだ。
「クリスマスが終わったら、ブライアン教授にでも相談しようと思ったけれど、明日、連絡を取ってみるよ。弟が食いっぱぐれしない為にも、働かないとね」
「焦らなくてもいいのにさあ」
 そうは言っても、やる気になった慧一の顔は晴れ晴れとして、いつもの慧に戻っていた。

 俺たちはヒーターのよく効かない狭くて寒い部屋で、求め、与え、溺れた。
 それはとても自然な行為であり、やましい気持ちなど微塵も起こらないセックスだった。
 そしてこれからの未来、お互いを見つめあい、慰め、慈しみ、繰り返される行為だとわかっていた。
 「愛してる…離さない」
 確かめる言葉は、誓いをより強くする。
 ふたつのものが交わる意味の答えを見つける為に。


 携帯で話す慧一の声に目が覚めた。
「おはよ、慧。朝から電話?」
 ベッドに突っ伏したまま目を擦る俺は、電話を切った途端、クローゼットを片付け始めた慧一をぼーっと眺めていた。
「凛、そろそろ起きろ。もう10時だよ。いい話があるんだ。折角のイヴだからゆっくりブランチでもしたいところだが、急用だ。今から教授の別荘に行こう」
「え?」
「車で八時間ほど走るけれど、急いだら夕方までには着きそうだ」

 慧一は荷物を纏め、寝ぼけている俺の尻を叩き、ホテルを後にした。
 ランクルが高速に乗る頃、やっと目の覚めた俺は慧一に尋ねた。
「どうしたの?教授ってあのブライアン教授のことでしょ?」
「そうだよ。さっき連絡してみたら、相談したいことがあるから、すぐに来るように言われたんだ」
「相談?」
「俺に勧めたい仕事先があるそうなんだ。詳しく話を聞かなきゃならんだろうが、悪い話じゃない気がするんだ」
「だといいね。でも、俺も一緒でいいの?」
「凛のことを話したら、一緒に来るようにって。クリスマスを一緒に過ごそうって言ってくれてる」
「じゃあ、途中でなにかプレゼントを買って行こうよ」
「そうだね」

 マンスフィールドまでのドライブは、長く、俺はただうとうとと寝ていた。
「ごめん、運転する慧の相手もしないで、寝てばっかりで」
「いいよ。凛は昨日こちらへ着たばかりで時差ぼけもあるだろう。…昨夜は無理もさせたし、体力が回復するまで寝てなさい」
「俺、セックス疲れはあんまり感じない方だけどね。慧の愛が強すぎて、奥に染み付いちゃって抜けてないんだね」
「悪かったね」
 苦笑する慧一の肩に頭を擡げた。
「これが幸福と呼ばすにいられるものか。我々を絶えず結びつけているのは、愛でしかない…」
「ともかくもあれ、人生、そはよきかな」
「はは、慧がそれを吐くの?俺が言いそうな台詞なのに」
「この走る道の先が、光しか見えてこないんだよ。凛が傍に居る所為だ」
「それこそ全く慧らしくない。慧、浮かれすぎるなよ、塞翁が馬だ」
「わかってるさ。それを楽しむのも俺の人生だ」
「頼もしいや。俺が守るって言ったのにさ。二日ともたなかったね」
「その約束が、ずっと俺を支えていくんだよ。凛。感謝してる」

 ただの言葉だ。調子のいい甘言。口先だけの約束かもしれない俺の言葉を、慧一は言葉通り、きっと後生大事に抱いていくんだ。
 だから、慧…俺はあんたを選んだんだ。

 途中、休憩で寄ったレストランでフランスに居る父さんに電話をした。今の状況を説明し、事と次第によっては鎌倉のマンションを売り払うかもしれないと言ったところ、『馬鹿者っ!』と、怒鳴りつけられた。
 この人が声を荒げるのは珍しかったから、携帯電話からとは言え、驚いてしまった。
『慧一に代われっ!』と、言われ、後は慧に任せたけれど…
 
 電話が終わって、慧に親父の様子を伺った。
「怒ってたね、父さん。そんなにマンションを売るのは嫌だったのかなあ?」
「父さんが言うにはね、凛。あれは俺たち兄弟にあげたものだけれど、おまえ達だけじゃなく、母さんや梓の居る場所だし、自分達が帰る家でもあるから、無くしたりしてはいけない。どうしてもお金を借りるのが嫌なら、自分がマンションを買うからって」
「父さんが?」
「ああ、凛の留学と生活費は親の役目として、自分が持つって聞かないし…親父もああ見えて頑固だからな」
「俺たちに良く似てるじゃん」
「…凛、父さんは最後にこう言った。『おまえたちに何ひとつ手をかけてやれなかったことをいくら悔いでも、取り返すことはできない。自分にできることはおまえたちが貧しい生活をしないよう、懸命に仕事をすることだけだった。だから、その役目まで取り上げないでくれないか?』ってね…」
「…」
「父さんの愛情を受け取ろうよ、凛」
「うん。ありがとうって電話するよ」
 すぐに父さんへ掛け直し、お礼を言った。
『…頑張りなさい。みんな見守っているからな』
 上ずった声で、それだけを残してくれた。

 教授の別荘に着いた頃には、すっかり陽も暮れていた。
 閑静な住宅街、あたりは積雪の銀世界とクリスマスイルミネーションでライトアップされた光に包まれていた。
 俺たちはブライアン教授と奥さんのエリザベス、そしてゴールデンレトリバーのランディに暖かく迎えられた。
 教授夫婦は、クリスマスはいつも娘の家族や息子たちと賑やかに過ごすのが恒例だったが、今年は夫婦だけで迎えなきゃならなくなったそうだ。だから、突然の俺たちの訪問も大歓迎だと喜んでくれた。
 クリスマスディナーも終わって、教授と慧一は書斎へ入ったっきりだ。
 エリザベスの片付けを手伝い、ランディと戯れた。
「わあ、金の毛布だ。…ちょっと重いけど」
 暖炉の近くで寝そべっている俺に、ランディが乗り上げてくる。俺は金色の波を撫でてやる。
「あら、ランディはリンが気に入ったようね。簡単に人の身体に乗ったりしないもの。でも気に入られると大変よ。散歩にも遊びにも付き合わなくちゃならなくなるわよ、リン」
「そうなの?じゃあ、ここにいる間は、俺がランディのお世話をしてもいい?」
「勿論よ」
 ふくよかなエリザベスは、優しいおばあさんだ。祖母に甘えた経験はないけど、きっとこんな感じなんだろう。




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冬11


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