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2019-09

宿禰凛一編 「HAPPY」 22 - 2010.10.07 Thu

ニューヘヴン

22、
 ニューヘヴンの冬は厳しい。
 雪はそんなに深く積もらないけれど、肌を突き刺すような冷気が包み、出不精になりがちになる。しかし、この街にはこの国には珍しい古い街並み、建築物が立ち並び、いくら眺めていても飽きない。
 
 俺は毎日規律正しい生活を送っていた。
 朝、慧一を送りだした後、家の中を簡単に片付けたら、受験生としての学業に励むことにしている。
 エール大学まで10分ほど自転車で飛ばして、図書館で一日中居座り続けることも多い。
 日本の大学へ行かないと決めていた。だから今、こんなに大学受験の為の猛勉強をする意味などなかった。
 けれど俺は、一緒に頑張ってT大に合格するというミナと交した約束を破る気には、どうしてもなれなかった。
 今の俺がやらなきゃならないことはミナが不安にならないように、一緒に受験することではないだろうか。
 それが…俺にできるミナへの誠意じゃないだろうか…
 こっちへ来てからというもの、ミナへの連絡は携帯メールでのやり取りだけだった。
 慧一の状況を簡単に説明し、落ち着くまでこちらに居るから、俺の事は心配しないでミナは勉強だけに打ち込んでくれと言ってあった。
 勿論、真実は言ってない。
 俺が慧一を選んだことも、これからこちらで暮すことも、ミナとは一緒に歩けないことも…何も言えるはずは無かった。

 一月のセンター試験に間に合う様、一旦日本へ帰ることを、慧一に告げた。
「そうだね。折角出願もしたんだから、受けておいで。それにこちらへの留学手続きもいるだろう。卒業式が終わるまで、日本でゆっくりするといい…最後の高校生活だ。沢山の思い出を作るのも大切だよ」
 慧一の言葉が何を指しているのか、わかっていた。
 言葉は優しかったが、一瞬だけ複雑な表情をした慧は慌てて、俺から目を逸らした。
 慧は俺とミナを案じている。
 少しの不安もあるだろう。だって、俺はミナを愛している。そう慧一にはっきりと公言している。
「俺が傍にいることでミナの受験へのストレスが拭えるなら、それは俺がしなきゃならない役目だろう。慧一を想うように、俺はミナも悲しませたくないんだ。ミナが無事志望大学へ合格したら、俺の罪も少しは軽くなるかもしれないし。勿論、ミナを泣かせることには違いないだろうけれど…それまで、ミナの恋人でいることを許して欲しい」
「凛がやりたいように生きて欲しい。いつだって俺はそう思っている。凛が俺を選んでくれた事実が、こうして俺を幸福にしてくれている。これ以上、おまえに求めるものはないよ」
「…それでも慧に余計な嫉妬心を持たせてしまうことになる」
「独占欲や嫉妬を持たないカップルなんてこの世にいるだろうか。俺はおまえが生まれた時から、おまえに寄り添う誰に対しても心穏やかではいられなかったよ。当たり前だ…愛しているからね。俺だけのものにしたい欲望はいつだって奥底で燻っている。誰だってそんなもんだろ?だけど、水川君へ妬みは俺の感情なのだから、凛は俺の想いまで汲み取らなくていい。感情は自由だ。人が人を好き嫌うのをいちいち相対するものはいないだろう?」
「うん…」
「俺はおまえが決めたことをどうこう言うのは嫌だから言わないけれど…おまえが水川君を大事に思う気持ちは大事だし間違ってないと思うよ。俺の事は気にしなくていい。後悔しないように。俺がおまえに言えることはそれだけだ」

 日本に帰る前夜、慧と寝た。
「しばらく離れるからね。沢山貰っておかないと、寂しくなってしまう」
「俺のほうが余計辛いけれどね」
 慧は俺は満足するまで、すべてを与えてくれるから、これ以上は望めない程に愛してくれるから、確信してしまう。慧だけは誰にも渡さない。
 俺だけのもんだと。
 慧もそうなのかな…
「重く感じたら言ってくれ」って、慧は言うけど、嬉しいばっかりだもの。調子づいちゃうな~

 終わった後、余韻に浸りながら、徒然に語り合うのも心を通わせるにはもってこいだ。
 疲れ果てると大概寝てしまう俺も、たまに目が冴えていつまでも慧の胸に身を寄せたまま、思いついたことを喋り続ける。
 明日から暫く会えないんじゃ余計に恋しくなるのは仕方が無い。
「卒業式は三月一日だったよな」
「うん」
「出来るだけ出席できるよう予定を組むよ」
「無理しなくていいのに」
「いや、俺がどうしても出席したいんだ。紫乃へ直にお礼も言いたいしね」
「紫乃は損得無しに良くしてくれる。慧が紫乃を振ったのは、浅はかだったかもね」
「言うなよ、凛。俺だって紫乃には本当に済まないって思っているんだから」
「それは、紫乃と恋人になったことを後悔しているわけ?それとも別れた事を?」
「…いいや、後悔はしていないよ。ただ、紫乃にいくら詫びても足りないかもしれないって…近頃よく思うよ。…あの時、紫乃を選べなかったのは俺にとっては当たり前の事だった。俺は誰も選ぶつもりは無かったもの。おまえのことも諦めていたからね」
「でも、本当に好きだったんだろ?紫乃の事を」
「好きだった。愛していたよ。だけどそれは…凛への想いとは比べようもない気持ちだよ。だから、選びようもない。紫乃は優しいし、俺を甘やかしてくれたからね。俺はおまえへのどうしようもない想いが辛くて、紫乃に縋っていたんだ。結局紫乃を苦しめただけの恋だった。けれど、何故だろう。紫乃と付き合ったことも別れたことも、間違ってはいない気がするんだ。俺の勝手な思い込みかもしれないけどな」
「…紫乃は慧の事を今でも愛しているよ。その愛は…きっとね、ずっと変わらず優しいんだよ。だから慧の事も許しているよ」
「そうだと、いいけれどね…」

 翌日、慧一にケネディ空港まで送ってもらった。
 別れ際、向かい合う慧を見て不思議な気持ちになった。
「なんだかさ、あれだね」
「うん?」
「いつもこうやって、空港で別れを惜しむんだけどさ…今から日本に帰るっていうのが、とても変だ」
「どうして?」
「帰るというより、出かけるって感じかな~。俺の帰る場所はここだって気がしてならない。つまり…慧が帰る家になったってわけだ」
「そうかも知れない。俺も…寂しいけれど、辛くはないかな。凛を信じてるから」
「あれ?今までは信じてなかった?」
「そうじゃない。俺が変わったんだよ、凛。おまえを頼りにしている。おまえが支えになってくれている。そう思える自分に変わった。行っておいで…いつでも俺はここで待っているから」
「うん、行って来ます」
 慧一が変わったように、俺の慧一への想いも形を変えていく。感情も心も常に変化していくものだ。
 今のこの想いは次に帰る時は、また違った形をしているかも知れないね。
 でも、俺は知っているよ、慧。
 俺の帰る場所はひとつしかないって。
 待っててくれ。
 俺は慧の想いにもミナの想いにも、決して背かない。


 鎌倉に帰った翌日、俺は久しぶりに学校へ顔を出した。
 この時期になると、三年生は受験に忙しく、教室にいる生徒は、受験が終わって暇をもてあましている奴らか、出席日数が足りなくて焦っている奴らか…。
 ミナの教室に行ってみたがやはり居ない。
「あれ?宿禰じゃないか。随分姿を見なかったけど…」
 教室を覗く俺に声を掛けたのは、優等生の高橋だった。
「ああ、ちょっとな。で、高橋、おまえはなんでここに居るのさ。明後日はセンター試験だろ?塾に行かなくていいのか?」
「余裕だ。今更焦ってどうする。やるべきことはやった。宿禰もT大狙いなんだろ?お互い合格したら同じ建築学科だ。よろしくな」
「え?おまえ、建築家希望?」
「ああ、実家が建設関係の仕事をやっているから、家を継がないといけないんだ」
「…おまえはドSの医者か、嫌味な弁護士になるのかと思った」
「…おまえに言われたくないね、真性サドのクセに。それより水川をほったらかしにしてていいのか」
「え?」
「ここ最近元気が無かった。良きライバルは競ってこそ意味を為す。別に別れたんならそれはそれでいいけどな。俺には関係無い」
「ミナは来てる?」
「ああ、朝は見かけたけど」
「ありがとう、高橋。T大頑張れよ」
「…」

 ミナが学校にいると思ったらじっとしていられなかった。
 ミナに会おう。何も言わずただ抱き締めよう。
 別れの予感なんて絶対に感じさせない。
 ただ、ミナを安心させたい。
 俺にできることはそれしかない。



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