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2019-11

宿禰凛一編 「HAPPY」 23 - 2010.10.15 Fri

リンミナふたり22

23、
 携帯電話を掛けてみるが、電源を切っているのか、通じない。
 校内では携帯は使用禁止なのだから真面目なミナが持っていないのは当たり前だ。
 図書館と自習室に行ってみたが、姿はなかった。
 残りは温室だ。
 俺は急いで、温室へ向かった。
 「ミナっ!」
 木のドアを開けて中を見るが、ミナはいない。
 温室の植物は西に傾いた陽に照らされて、キラキラと輝いている。
 ミナが水遣りをしたのだろう。葉から水滴が落ちている。まだ時間は経っていない。
 ミナ…君は俺が居ない間も、ずっとこうやって、ここでひとりで世話をしていたんだね。
 
 ミナをひとりにさせていた…そう思うと、慧に抱かれ、守られ、バカみたいに甘えている自分が情けなくなった。
 どんな顔でミナと会おうとしているんだ。
 俺だけが幸せで、それで俺は慧一と暮すから、ミナはもう要らない…と、言うのか?
 つまり俺はミナを悲しませる諸悪の根源で、ミナは悪魔に付け込まれた無垢なる善人ってわけだ。
 …そんなことはわかっている。
 慧がいるのにミナを欲しがるなんて、どう考えたってどちらに対しても不義理だろう。
 でも、もう一方でこう言うんだ。
 「愛」の定義なんてどうでもいい。
 どちらも好きで仕方ないから、守りたいって思うから、
 ならば、俺は貫き通したい。

 俺はもう一度携帯を手に取って、何度も繰り返したミナへのリダイヤルボタンを押そうとした。
 だがその前に携帯のバイブが震え、ミナからの発信音が鳴った。

 息を弾ませて温室に来たミナの様子を、俺は身を隠して、伺っていた。
 ミナは何度か俺の名を呼び、姿が見えないと知ると、落ち込んだように、椅子に座り込み、沈み込んでしまった。
 ちょっとふざけたつもりだったのだが…
 姿を見せた俺に、ミナは涙を見せ、会いたかったと何度も言う。
 あまりにも素直な反応にこちらも戸惑ったが、何よりもミナの気持ちが嬉しかった。
 クリスマスプレゼントに用意したという、オルゴールと、初詣で買ったお守りを貰い、ますます恐縮してしまった。
 どうすればこの好意に報うことができる。
「ミナ、一番何が欲しい?」と、尋ねた。
 間髪を入れず、「リンが欲しい」と、応えられ、笑うしかなかった。同時に胸が熱くなる。
 …ゴメン、ミナ…俺はもうじきおまえの前からいなくなってしまう。だから…
「じゃあ、俺ん宅来るかい?明後日は試験だから、手加減はするけどね」
 冗句交じりに言う俺に、ミナは恥ずかしがる事もなく、ただ「リンが欲しい」と、言うのだった。

 その夜は、なんだか変な感じだった。
 久しぶりにミナを抱き、快感を得ても、境地に辿り着くことは出来なかった。ミナの求めるままに何度も逝ったにも関わらず、俺は本当にミナを気持ち良くしてやれるのか…と、自信さえ揺らぎそうになる。
 理由は明らかだ。
 ミナを騙しているという罪悪感に他ならない。
 疲れ果て、眠ってしまったミナの顔を眺め、こいつを悲しませずにすむ方法はないものだろうかと、どんなに頭を巡らしても、いい道は見つからない。見つかるはずはない。
 俺は慧のものなんだから…それを俺も望んだんだから…
 だけど、この先ミナに恋人が出来たって、俺はそいつに嫉妬するだろうし、そいつに負けたくないと意地を張るだろう。ミナにとって、これからも一番であり続けたいと思うだろう。
 まあ、そういう考えが一番のネックというか…わかっているんだけどね。
 二兎追う者は一兎も得ずというが、まさにそれが俺のこと。
 早く離れなきゃと思っても、俺を見るミナの顔を見たら、とてもじゃないが愛おしくて困る。
 やぶ蛇もここまで来ると逆に居直ってしまうのも、俺の悪いクセだ。
 どうにでもなりやがれ。

「ミナ、いっそ、君が俺を憎んでくれたら…少しは楽になるかもしれない」
 透き通るぐらい白いミナの頬にキスをして、俺は背中をそっと抱く。

 二日間のセンター試験を終えた夕方、ミナと品川のホテルへ宿泊した。
 クリスマスをすっぽかしたお詫びだった。それに…たぶん、ミナと外で過ごす最後の晩餐になると感じていた。
 ミナの試験の結果は俺と同じように合格ラインは越えていた。この調子でいけば、危なげなく本試験もいけるだろう。
 だが、ミナは合格した後のふたりを語ろうとしなかった。
 あれだけ、アパートを借りて、一緒に住みたいねと嬉しそうに語っていたのに…
 ミナは俺の嘘を見抜いているのかも知れない。
 夜のしじまに浮かぶイルミネーションはニューヨークとは違う色に見えた。
 そのどちらもにも俺は惹きつけられる…ただ目に焼き付けることしかできないとしても。

 
 後日、自己採点の結果を知らせに担任の藤宮紫乃と面接をした。
「それで、総合得点は…余裕だな。二次試験は行けそうだな」
「行けそうじゃなく、確定と言ってくれよ。ほぼ満点だ。俺、向こうでずっと勉強ばっかしてたからなあ~」
「…慧一からは再就職が決まったとだけ、連絡があったけれど…その後はどんな具合だ?」
「慧一なら大丈夫だよ。新しいアトリエは自由気風が溢れてるから、慧にはおあつらえ向きさ。それにそこのオーナーってすげえ変わったネイティブアメリカンでさ。傑作なんだ。暇がありゃ色んな秘境を巡ってるの。俺も慧も何度かインディアンリザベーションに連れて行ってもらったよ」
「ふ~ん…いい男なのか」
「…何の心配してるのさ。既婚者だよ」
 紫乃の質問に思わず吹きそうになる。相変わらずだな。
「…で、おまえらはどうなった?うまくいってるのか?」
「それこそ、どっちの話が聞きたいんだよ」
「両方」
「どっちも上手くいってる、今のところ…」
「で、これからどうする。順調にT大に合格したら、水川と繋げていくのか?」
「…いや…ここを卒業したらアメリカへ行く」
「…」
 紫乃は伊達眼鏡を外し、裸眼で俺を見つめなおした。
「コロンビア大学を受けてみようと思う。慧一を教えたブライアン教授が、力添えするとおっしゃってくれるし、何よりも慧一と一緒にいられる。だから、ここを卒業したら向こうで暮らすよ」
「もう、決めたのか?」
「うん、決めたんだ…慧と一緒に生きていくことを」
「そうか…」
「俺も慧もお互いが必要なんだ。それに、俺は慧一を支える力を持たなきゃならない。その為には慧一の傍にいて、慧を支える建築家として成長することだと思うんだ。俺は…この道を選んで歩くよ」
「…」
「紫乃?」
「いや、なんだか嬉しいのか寂しいのかなんとも言えない気持ちだよ。だけど、霧のかかった道を歩いていた俺の目の前が薄ぼんやりとだが、晴れた気がした…光明って奴かな」
「…紫乃には心配も面倒もかけてしまったね。幸せになって欲しいって慧も言ってたよ」
「馬鹿野郎。簡単に言ってくれるなよ。そんなにすぐに割り切れるか」
「…卒業式には慧も帰ってくるよ。あんたに礼を言いたいって」
「…けじめをつけたいだけだ。あれはそういう奴だ」
「紫乃を…愛してたって、言ってたよ」
「…」
 目を逸らした紫乃は目頭をそっと押さえた。
「紫乃?」
「相変わらず、口だけは上手い奴だからな。それで俺はいつも騙されるんだ。まあ、よかろう。最後まで騙されて、気持ち良く一歩を踏み出せるなら、今までの罪は不起訴にしてやる」
「俺も紫乃に言わなきゃね…ありがとう」
「俺に礼を言うより、することがあるんじゃないか?」
「…わかってる。留学のことはまだ口外しないでくれ。ミナには…本試験が終わってから、はっきり告げるつもりなんだ」
「恋人を捨てて日本を出るか…兄弟揃って罪作りだな」
「弁解できないね…俺、ミナを紫乃みたいにさせたいとは思ってない。紫乃は憎んでも慧一を愛し続けた。だけど、ミナには俺を切り捨てて欲しいと思っている」
「…そんなに簡単にできるもんか。遊び慣れていた俺でさえ、相当な妄執があったんだ。水川みたいな温室育ちの無菌栽培をお前は、自分の色に染めてしまったんだ。その責任は大きい」
「…」
「だけど、お前を選んだ水川も同じ重さを荷っている。どちらが良い悪いなんて恋愛にあるはずもない。俺はそう思うよ」

 紫乃の言葉は正しい。だけど、紫乃とは決定的に違うことが俺にはある。
 ミナの手を取らなくても、憎まれても、俺はミナを愛し続けるんだ。
 一生分の恋愛はミナに捧げたのだから。






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