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2019-11

水川青弥編 「フラクタル」 10 - 2010.10.16 Sat

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10、
 リンに誘われるままに、そのままリンのマンションへ行く。
 早くリンのすべてに触れたかった。
 おれの欲しいものは、すべてリンが持っている。それ以外、おれは要らないとさえ思えてしまう。

 ベッドの上に座り、服を脱ごうとした時、リンは「肝心なことを忘れてた」と、紙袋を渡してくれた。
「お土産だよ」
 袋から出してみた。二十センチほどの丸い輪に羽飾りが垂れている。インディアンのお守り、ドリームキャッチャーだ。
 温室で渡したクリスマスプレゼントとお守りをリンはとても喜んでくれたのだが、代わりにおれが貰えるとは思っても見なかったから、これはハッピーサプライズだった。
「これ、知ってる。悪夢から守るんだよね。この蜘蛛の巣みたいな網目に悪夢が引っかかり、良い夢だけが通り抜けるんだろ?」
「そうだよ。オジブワ族が作った本物の奴だから、きっと効き目があるだろうね」
「…悪夢でもリンが出てくれば、別に見てもいいんだけどね」
「ミナにとってそれが良い夢なら、悪夢とは呼ばないんじゃないか?」
「最もだね」
 …リンが出てくる悪夢なら、何度も見ている。
 おれにさよならを言うリン。懸命に後姿を追いかけるが、どれだけ走っても追いつけないんだ。

「どうしたの?ミナ」
 黙りこくったおれを、リンは心配そうに覗き込んだ。
「いや、なんでもない。このお守りがおれを守ってくれると思うと心強いよ。きっとT大合格だね」
「お守りに頼らなくてもミナは大丈夫だよ。まあ、俺も落ちる気はしないけどね」
「すごい自信だ。頑張ったんだね、リン」
「ああ、そりゃもう…三度の飯以外は受験勉強三昧だったもの」
「おれも…机にかじりついてばっかりだった。だからかな、リンの夢ばかりみてた…」
「ごめんね、ミナ。クリスマスの約束は破っちゃうし、ずっとほったらかしにしちまうし…甲斐性なしの恋人だね。代わりに沢山愛してやるから、割り引いてくれよ」
 そう言って、おれをシーツに押し付けるリンは、前よりも色気が増した気がしてならない。
 触り方もエロくて…翻弄される。
 ひと月以上何も経験していない奴だなんて、絶対思えないから、ムカつく。
 どっちにしても、リンの身持ちの悪さは了承済みだが…こちらが好き勝手に弄ばれると腹も立つ。

「そこ、やだよ」「じゃあ、やめる?」「や、やめない…いや…」「どっちがいいんだよ、ミナは」「リンがいいに決まってる。でも優しくしてくれ。頼むから」
 リンはいつだって余裕でおれを抱く。百戦錬磨の策士だ。
「ミナ、かわいいね」
 黒々とした黒曜石の瞳が何を考えているのか、おれは知る由もない。

 翌日、別れを惜しみつつ、おれは実家に帰った。
 試験会場がリンとは違うから、一緒には受けれない。
 二日間の試験が終わったら、リン宅へ直行することだけを楽しみに、おれはセンター試験に挑んだ。

 自己採点で第一段階はクリアしていた。 
 両親は手放しで喜ぶが、まだ二次試験があるからと、家を出ようとする。
「あら、もう学校の授業はないんでしょ?わざわざ鎌倉に行かなくてもいいんじゃない?」
「本番はこれからなんだ。学校の補習も受けたいし、何より集中して勉強できるから、寮に帰る」
「…本試験はまだまだ先だわね~てっきりうちに居てくれるものかと思ったのに」
「母さんだって仕事で忙しいんだから、おれが居ない方が家事が減っていいんじゃない」
「それは…そうだけど。男の子は家から出て行って一人前っていうけれど、青弥は早く大人になっちゃって、お母さん、寂しいわ」
「…じゃあ、行ってきます」
 生活に困らない保障をしてくれる両親には、感謝するし、愛情だって充分に理解しているつもりだけど、将来のおれは、親の期待に沿う人生ではない事がわかるから、何となくでも心が痛む。

 リンへ連絡したら、品川の高層ホテルで食事をしようと言う。
 クリスマスディナーをすっぽかした償いだと言う。
 そんなに気にしなくていいとは言ったものの、単純に嬉しさは隠せない。
 駅から少し離れた緑に囲まれた静かなホテルでその夜は過ごした。
 窓の向こうの夜景を見つめ、ふたり抱き合い寄り添っていた。

「試験どうだった?」「大丈夫だと思う」「俺もさ。まあ、化学は少し自信がないけど…」「おれは現社だ。世界史にしておけば良かったよ」「今更言っても仕方ない。やることはやったんだ。人事を尽くして天命を待つってこういう事だよな」「全くだな…」「ミナ、寒くない?」「大丈夫だ、リンがあったかいから…」

 おれ達は未来を話すことはしなかった。
 ただ今ある現実だけを語り続けた。
 その現実がおれを支える過去になるかもしれない。
 それ程にこの一刻一刻が大切に思えた。

 ふたりとも無事にT大の第一選抜に合格した。あとは二週間後の本試験まで気を抜かずに集中することだけだった。
 リンは常におれの傍に居て、失いかける自信や苛立ちを慰めてくれる。
 リンが居れば、俺は迷わずに済んだ。
 おれがあんまり、リンから離れようとしないから、まるで捨てられることを畏れる子犬みたいだとリンは笑う。
 違う、リン。 
 捨てられるのを怖がっているだけじゃない。おれは…自分を見失うのが怖いんだよ。

 本試験が終わり、後は卒業式を待つばかりだった。
 寮での生活ももうすぐ終わる。
 試験を終えた同室の三上も自分の机を片している。
「水川とは一年だけだったけど、良かったよ、おまえと同室になれて」
「え?なんで?」
「自然と勉強が身についてくる。わからないところも色々教わったしな。ありがとう」
「いや、こっちこそ…三上には色々助けてもらった…宿禰の事なんかも…」
「俺はなんもしてないよ。それより良かったな。宿禰もT大合格は自信があるって言ってたぜ。これからもずっと仲良くしろよ」
「うん、ありがとう…」
 屈託のない三上の言葉はありがたいが…一方でおれはある噂を耳にしていた。
 リンが日本の大学には行かずに、アメリカに留学するという噂話は、なんとも否定できないような気分になった。
 それを本人に問いただす勇気も持たないおれは、ただリンとの蜜月に浸るばかりで、目を瞑るしかなかった。

 卒業式を明日に控えての予行練習を終え、生徒達が一斉に下校する。
 おれは温室をいつもより丁寧に掃除をしていた。
 この温室とももうすぐ離れる事になると思うと、なんだか寂しさを通り越して辛くなる。
 おれの高校生活の居場所をくれた空間だった。
 リンと出会い、語り明かした。好きだと誓った。
 …何度も愛し合った。
 ずっと一緒にいると誓い合ったのもこの場所だった…
 おれ達がいなくなった後、また誰かがおまえ達の世話をしてくれるといいなあ…
 大切に育てた草木に水を撒く。
 ドアが開き、リンの姿が見えた。
「あ、綺麗になったね」
「もうすぐここともお別れだからね。立つ鳥跡を濁さずって言うからね」
「…そうだね」
 リンは窓際に立って、ローズマリーの葉を指に取り、水を切った。

「ミナ…話があるんだ」
 陽の影になったリンの横顔が、綺麗だった。





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