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2019-11

宿禰凛一編 「HAPPY」 24 - 2010.10.21 Thu

rinmina12


24、
 センター試験が終わって、本試験までのひと月近く、ミナは寮と俺のマンションとの行き来を繰り返していた。
 正直、ミナと過ごす時間に後ろめたいものを感じなくはないが、ミナのおかげで学習能力は確実に上がった。ミナは要点だけを論理的に解釈する能力が優れているから、選択の速度が際立っている。今までの試験内容を要領良く暗記する方法もこちらが感心するほど巧みだ。
「ミナは先生向きじゃないのか?技術者になるとしても教える側になったほうがいい」
「無理だよ。おれ人見知りだし…リンは飲み込みが早いからやりやすいけど、後輩に説明しても教え方がわかりにくいって言われる」
「へぇ、こんなに整然と美しいほどなのに…」
 難解な方程式を一ページに書き出したノートは一見すると美しいモザイク模様に見えてしまう。

 夜はミナが求めるままに、できるだけの快楽を与えてやる。
 一年前だったら、ミナから求めるなんてありえない話だが、今のミナはおじけないどころが、伏せ目がちに俺を見つめ、誘ってくる程だ。
 こんなミナにしてしまったのも俺の所為だろうなあ…と、罪悪感は膨らむばかりだが、こちらももう時間がないのはわかっているから、ミナの身体に俺を刻み込ませようと必死になる。
 俺がミナを一番最初に抱いた男になる。そして、いつまでだってミナを愛し続けるから…その想い分だけはミナの身体に刻んでおきたい。
 …すべて勝手なエゴだけどさ。

 授業がなくても学院へは二日と空けず通っていた。
 息抜きと温室の手入れが目的だったが、ミナと離れてひとりで考えることも今の俺には必要な時間だった。
 いつミナに別れを告げればいいのか…どんな風に切り出せばいいのか…適当な答えは出ない。

 廊下を歩いていたら、校長室のドアに立つ人影を見た。
「鳴海先生!」
 俺は声を上げ、走り寄った。
「宿禰君」
「先生。良かった。卒業する前に一度お会いして、お礼を言いたかったんです」
「そうですか。私も宿禰君に用事があったので都合が良かった。さあ、どうぞ」
 ドアを開けて鳴海先生は俺を案内した。
 校長室を抜け、応接室のソファに座るように促した先生は、一息つき、カバンを開けて書類を出した。
「藤宮先生に聞きましたが、宿禰君は、コロンビア大学に留学するそうですね」
「はい、そのつもりです。出来れば秋の入学に間に合うように、勉学に励むつもりです」
「君のセンター試験の結果を考慮してですが…学院からも推薦状を出そうと思っています。どうでしょう」
「ああ、有り難いです」
「私もニューヨークに行く機会も多い。コロンビア大学の教授も何人か顔見知りもいるんですよ。その友人達にも君の事を伝えておきましょう」
「そこまで、甘えていいんでしょうか?」
「特別でもなんでもないことです。今までも私達は、こうして生徒たちを送り続けてきた。君もまた光の子としてこの学院から旅立つのです。出来る限りの贈り物を捧げるのが、我らの務めだと思っていますからね」
 春の日差しのような穏やかな笑みを絶やさない鳴海先生こそ、光の主ではないだろうか…

 その後、藤宮紫乃へ鳴海先生からの推薦状を見せに行く。
「紫乃が押してくれたんだろ?推薦状の事」
「慧一から頼まれてるし、担任としても優秀な生徒を一流の大学へ留学させるのは気分がいいもんだ」
「ふ~ん。紫乃も先生らしいこともするんだ」
「馬鹿言ってろ。それより、明後日はT大学の試験だろ?勿論白紙で出すんだろうな」
「いや、本気で満点目指すつもりだ」
「おまえ、少しは他人の事も考えろ。合格しても行く気もない奴が本気になるな。必死でそこを目指した奴が、おまえが合格した所為で落ちるかもしれないんだ。可哀相だと思わないのか?」
「全く思わないね。俺はミナと一緒に合格するって約束したからね。落ちた奴は勉強が足りなかった。それだけの話だろ。同情するもんかよ」
「…ったくな…おまえは確かに持って生まれた何かが備わっているんだろうが…世の中、おまえみたいな奴ばっかりいても、騒がしいだけかもしれんな…」
「俺みたいな奴はひとりでいいよ。死んだ後は絶対に地獄に落ちるからね」
 不敵に笑う俺に、呆れたように紫乃が言う。
「おまえは地獄へ行っても閻魔大王に取り入っちまうに決まっている」
「そりゃ楽しみだ」
 近頃、紫乃の俺を見る目はどことなく嶌谷さんに似ている気がしてならない。
 なんだかねえ~俺を守ってくれる人が増えてしまって、どうやってこの恩を返していこうか、こっちも随分と重い荷物を背負い込んでしまう気がしてならないが、きっとそれが人と人との繋がりなのだろう。そして、その重さと同量の喜びを俺は見出さなければ、恩に報いたことにはならないのだろう。
 

 T大の本試験の日は雪が散らついていた。
 実家からのミナと時間を合わせて試験会場へ向かった。
 試験の出来はミナも俺も似たようなもので、顔を見合わせニコリと笑った。
「案外簡単だった」 
「ミナのヤマ勘が当たったね。物理の応用力学問題、当たったじゃん」
「あれはまぐれだ。でも徹底して勉強しておいて良かったよ」 
「これで晴れて受験戦争から解放されたな」
「うん」
「寮に帰る?」
「いや…今日は家に帰るよ。母親がどうしてもって聞かないんだ」
「じゃあ、一緒に飯を食おう。その後、送るよ」

 早めの夕食を取り、世田谷のミナの実家まで送った。
「家に来る?」
「いや、いい。ミナが家に入ったら帰る」
「遠慮しなくていいよ。母さんが会いたがっていた。リンの事気に入っているから」
「そう…でも今日はやめとくよ。また今度お邪魔させてもらう」
「そう…じゃあ」
「うん。風邪引くなよ」
「リンも…」
 手を振り背を向けるミナを俺は呼び止めた。
「ミナ」
「ん?」
「これ、おまえが持っててくれ」
 俺は受験票をミナへ差し出した。
「なんで?」
「ま、合格は間違いないんだけどさ、どうせ一緒に掲示板見に行くんだし…ミナが持っているほうが失くさないから…」
「…うん、わかった。預かっておくよ」
 俺の受験票を受け取ったミナは、大事にカバンの中へそれをしまった。
 俺はそれを二度と見ることはないだろう。
「それじゃあ」
「うん。明後日、学校で」
「おやすみ、リン」
「おやすみ…ミナ。大好きだよ」
 俺の言葉に少し上目遣いで見つめ頬を赤くしたミナは「おれも…」と、小さく呟き、くるりと背を向け、玄関へ走った。
 ドアに消えるミナを見送った後、俺はしばらくひとりで佇んでいた。
 あまっちょろいメランコリーでもナルシシズムでもなんでもいいや。
 夕暮れの雪降る街に震えたい気分なんだ。
 ただひとつの想いを君に捧げたい。

 どうか、どうか健やかなる道を、君が歩けますように…

 
 明後日の卒業式を待って、慧一が自宅へ帰ってきた。
 ひと月以上も顔を見てなかったから、さすがに嬉しくてたまらず抱きついた。
「やっぱり慧の匂いを嗅ぐと安心する。おっぱいを欲しがる赤ん坊になっちまう」
「赤ん坊はそれ以上を要求はしないものだが、凛は欲しがりすぎるからね。…元気そうで安心した。もっと…」
「落ち込んでいると思った?」
「凛にとってこれほど有意義な高校生活はなかったと思うから…卒業するのが寂しいんじゃないかと思ったんだ」
「いくら居心地が良くても、いつまでも留まってては成長しないものだろ?出会いがあれば別れが来る…それが摂理さ」
「…」
「俺たちだっていつかは別れが来る。死は生と分かつものだからね」
「出来れば、おまえに見送って欲しいがね」
「任せとけよ。慧一は俺が看取ってやるから心配するな。それまでずっと離れないから」
「…ありがとう」
 
 その夜、慧一と同じベッドで寝たが、慧は俺を抱かなかった。
 ミナに対する配慮が、彼なりにあったのだろう。
 俺はそれが有り難かった。
 慧に求められたら、断る抑制など、俺には初めから無い。



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