FC2ブログ
topimage

2019-11

宿禰凛一編 「HAPPY」 26 - 2010.10.28 Thu

最後のフォト

26、
「宿禰、ひでえナリになったな」
「ああ、全滅だ」
 送別会が終わり、俺と三上は「詩人の会」の教室を後にした。
 三上が呆れたのは俺の恰好だ。ブレザーの釦は袖ボタンすら一個も残ってない。すべて後輩と同級生に引きちぎられてしまった。
「残っていたら俺も貰おうかと思ってたんだが」
「おまえの下手な冗句もこれで最後だと思うと、感慨ひとしおだね~」
「俺もおまえの艶顔を見れなくなると思うと、悲しいぜ」
 泣きまねをする三上に、俺は頭を下げた。
「三上、本当に三年間ありがとう。おまえが居てくれて楽しい高校生活を送れたよ。S大受かっているといいな」
「手ごたえはあるけれどね。宿禰こそ、気をつけろよ。なんせ日本と違って無法地帯だからな」
「そんなこともないぜ。ニューヨークも住みやすい街さ。機会があれば来いよ。案内するから」
「そう言われると、憧れるね。俺も留学するかなあ~」
「益々ユミちゃんと離れてしまうぞ」
「そうだな。だけど、恋愛なんていつまで続くかわからないし、無理に続けても幸せじゃないなら意味ないしな」
「幸せの定義は問題があるけどな」
「相手の未来を考えりゃ、常に自分でいいのかっていう不安はあるよ。それでも繋がっていたいと思う気力こそが恋愛なんだろうな…宿禰、水川と最後の別れを言ったか?」
「いいや、まだだ。もう帰ってしまったかもしれない」
「いや、寮の送別会が三時からあるんだ。それには参加するって言ってたから、まだ校内か寮にいるはずだ」
「そうか…ありがとう。探してみるよ。じゃあな、元気で、三上」
 握手を求める俺の手をじっと見る三上は独り言みたいに呟いた。
「俺はおまえの引き立て役ってわかっていたけどね。ちっとも嫌じゃなかった。おまえはいい奴だよ。見かけなんて関係ない。勝手に親友呼ばわりで、おまえにしちゃ迷惑だったろうけど」
「俺が何の気負いもなくここに来たと思うのか?不安で仕方なかったさ。おまえが最初に俺に声を掛けてくれたんだよ、三上。おかげでとびっきりの高校生活を送れた。おまえは最高の親友だ。これからもずっとだ」


 この学院でのひとつひとつの思い出を心に刻み付ける。
 後はミナだけだった。だがミナと過ごした時間を思い出にはしたくない。
 俺はポケットから銀の指輪を取り出し、左の中指に嵌めた。
 ミナと誓った指輪が勇気をくれるだろう。
 ミナ、本当の想いを告げなきゃ、俺はここから飛び立てない。

 探さなくてもミナが今どこに居るのか、俺にはわかっていた。
 運動場を横切って温室へ向かう。
 風が舞い上がり、瞬く間に灰色の空から大粒の雨が降り注いだ。
 濡れるのも構わずに懸命に走って、温室へ辿り着いた。
 ガラス窓から中を覗く。蒸気で曇った向こうに人影が淡く浮かんで見える。
 俺は温室の扉を開く。

「ちょっと雨宿りさせてくれよ」
 ここでおまえと初めて出あった時、俺はこう呼びかけたね、ミナ。
 時を戻そうなんて思っていないよ。
 ただ、知って欲しいだけ。
 初めて見た時から、俺は恋に落ちたんだ。
 一生得られないものだと感じたんだ。
 ずっと変わらないものだってあるって、信じたい。
 それは、こういう感情なのだろう?ねえ、ミナ。

 雨に濡れた俺に、ミナはあの時と同じように自分のハンドタオルをくれた。
 それがあの時のものと同じだったから、変な気分だった。
 あのハンドタオル、俺が洗って返したんだよな。まだ大事に使っているんだな。
 
 手を休めたスケッチブックを覗いてみる。
 相変わらずのミナ独特のタッチ。繊細でありながらしっかりとした輪郭を持つ花々…パラパラと捲ってみると、草木と一緒にたくさんの俺の素描がある。笑った顔や寝ている顔、裸でうろついてる恰好は俺のマンションで描いたものなのかな…どれもミナの愛情を感じてしまう。
 こんなに俺を想ってくれているのに…
 半分冗談で、「俺を描いた油絵を見たかった」と、言う。
 ミナは真剣な面差しで「卒業記念に渡そうと思っていたけど、間に合わなかったんだ」と、謝った。
 その誠実さに惹かれた。素直で純粋な心がたまらなく愛おしかった。
 ずっと傍にいて、笑顔を見ていたかった…本当だよ、ミナ…

「ミナが好きだよ。この恋は本物だ。これからもずっと続く想いだ」
 左指に嵌めた指輪を見せた。ミナがそれを付けているのは、ここに来た時、すぐに見つけていた。
 ミナは恥ずかしげにそれを隠し、意地を張る。それさえも可愛くてたまらないんだ。
 ミナが意地を張るときはいつだって、その裏に真の心があるってわかるから…

 俺は素直に自分の気持ちを打ち明けた。
 これまで慧一が俺に抱いていた想いと、俺が応えていかなきゃならない想い。それでも、ミナを今と同じようにこれからも好きでい続けたいって願っている事。
「ミナが好きでたまらないから、離れていたって、ミナに恋し続けるだろう。それを、許してくれる?」
 都合のいい返事を期待していたわけじゃない。ただ、自分の気持ちを打ち明けたかっただけだ。それが、我儘だと、身勝手だと詰られようと、この恋を中途半端な形にしたくなかった。

「リン…おまえがおれに愛をくれた。おれの中に愛を植えた。育った花は見たこともないくらいに美しかった。その実を味わうのはおまえとおれじゃなきゃならない…そうだろ?」
 ミナの頬に零れる涙をハンドタオルで拭いてやった。
 フフッて笑うミナを優しく抱いた。
「ミナ…これからも…おまえに恋しているから」
 
 離れててもね、「好き」な気持ちは色褪せない。
 そんな「恋」が存在してもいいだろう?



 寮の送別会に遅れないようにと、ふたりで一緒に温室を出た。
 通り雨はとっくに止んでいて、雲間から青空が覗いている。
 温室の鍵を丁寧に閉めて、手を繋いだ。その鍵を藤内先生に渡す。
 先生は「good luck!」と、笑って送ってくれた。
 校門にはもう誰の姿も見当たらない。
 俺とミナは顔を見合わせ、そして繋いだ手をゆっくりと離した。

「さよなら、ミナ。元気で」
「リンも…元気でね」
 
 そう言ったっきり、お互いを見つめたまま動かない俺たちは、一体なんなんだろうな…
 その時弾くように、後ろに聳え立つチャペルの鐘が鳴ったんだ。
 ゴーンゴーンと何度も。聞きなれた音だ。
 俺たちは振り返った。
「ここに来ればリンに会えるね」
「え?」
「ほら、あれだ」
 ミナの指差す先はチャペルの尖塔。
 そのてっぺんに輝く金色のウリエルの右手は、未来の空を指している。




凛一青弥

「HAPPYはこれで終わります。次は「only one」がはじまります。。


「HAPPY」25へ
「only one」1へ
リンミナシリーズはこちらからどうぞ。目次へ


● COMMENT ●

うわぁ、ミナは納得しましたね。
この二人には、そういう「離れていても」って繋がりが出来上がっているんですね。

卒業しちゃった・・・。
最後のイラストが美しくてずっと眺めています。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

ミナが納得しているかどうかはわからないです。
どうしようもないんですからね。自分が惨めになりたくないから…ミナのプライドでしょう。
納得いく別れなんてないでしょう。自分に折り合いをつけているだけですよ。支えが欲しいだけなんです。
人間って未熟だからね。綺麗な恋愛だけじゃ面白くない。けれど綺麗でありたいって望むものでしょう。

アンケートおつかれさんですた~
しかし、あれだね。まとめるの大変だね。
うちも今後、フリー絵をどんどんアップしていくからアドさんも気にいった絵があったら、使っていいよ~
うちは何の規定もないから~www

ただ、主が怖いだけ~www

タイトルの「HAPPY」で どんなHAPPYを見れるのかと 考えながら 読んでました。
慧一と 心身共に 固く結ばれ 一緒に生きていけるら HAPPY、永遠に ミナへ 恋し続ける許しを得たから HAPPY...等々、考えてみました。

「HAPPY」は、明確な意思を持って 進む道を決めた リンの清々しい晴れやかな心を 表しているのではないかと 自己勝手ですが、そんな考えに 行き着きました。

リン編は リン本人の性格もあってか どれだけ苦悩する場面であっても 深刻にならずに 私は さらっと読めました。
が、きっと 慧一編と ミナ編は どん底まで引き込まれながら 読む事になる気がしますねー。(苦笑)

作品中に描かれてる絵の リンが 益々 気高く美しく艶かしくなって行く様に うっとり~♪ ほんと ヤバイですよー(〃▽〃)ポッ
サイアート様の お勧めで 今日は リン編を読み 明日は 私の大好きな 慧一編を 読もうと思います。読む順番を 教えて下さって 助かりました!(人'▽`)ありがとう...byebye☆


けいったんさん>HAPPYの意味でしょ?
章の題を考える時は、あまり深く考えてないんです。その時の気分って奴で、あとづけで考えることが多い。
この「HAPPY」の意味も、凛一の脳天気な部分を表しているんですね。そうそう、どんなにまずかろうとこの子はあまり落ち込まないし、引きずらない。すぐに笑って楽しいことを考えてしまう。小さい頃から、凛の存在が回りに喜びを与えた。
つまりHAPPYは「喜び」の意味です。
喜びを振りまき後は知ったことじゃない…というのが凛一。幸せとはHAPPYとはほんの一瞬であろうと心に光が射す事。
光は凛一ですね。

ここらへんからテキストの挿絵を二枚ずつ入れてみようと思ったんです。
他のブログでは出来ないことをやってみるというのも、絵師でもある自分の挑戦でした。

慧一編は短いです。ここでまとめてしまって、後はリンミナの物語にしようと、心がけました。
と、いうより慧一の心の迷いが無くなったので…ああ、言っちゃ駄目ですね~(;´∀`)
ゆっくりしていってね~(・∀・)つ目 オチャノメ!


管理者にだけ表示を許可する

自由絵 (フリー) «  | BLOG TOP |  » 水川青弥編 「フラクタル」 12

プロフィール

サイアート

Author:サイアート
イラストと駄文を更新しております。

少年愛を中心としたシリアス重視なオリジナル作品でございます。

ゆっくりしていってね~

サイズを記憶するフォントサイズ変更ボタン

文字を大きくする 文字を規定のサイズに戻す 文字を小さくする

ツリーカテゴリー

Script by Lc-Factory
(詳細:Lc-Factory/雑記)

最新記事

FC2カウンター

リンク

このブログをリンクに追加する