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2019-09

宿禰凛一編 最終章「only one」1 - 2010.11.12 Fri

凛卒業


「only one」
1、
 ミナと別れ、マンションへ帰ってきた俺を、慧一が待っていてくれた。
「お帰り、凛」
「ただいま」
「嶌谷さんの店には予定通り行けるかい?」
「ああ、勿論だよ」
「今晩は嶌谷さんのマンションに泊まって、明日の朝、成田へ行くつもりでいいんだね」
「うん、それでいい」
 ほとんどの家財には埃が付かないようにカバーをかけてあった。
 ラージサイズのスーツケースには俺の荷物が詰め込んである。
「しばらくここへは戻れないと思うけれど…おまえの荷物はスーツケースふたつでいいのか?」
「うん、充分だよ。別にそんなに大事なものはない…」
 言葉に詰まってしまう。本当にこれでお別れなのか…と、思うと涙が出た。
「凛…」
「ばかだね。別にいつでも帰って来れるのに…いざとなるとここを出て行くのが寂しくてたまらないなんてさ…」
 このマンションへの未練だけではないことは、慧一だってわかっていた。だから俺を抱きしめたまま何も言わなかったんだ。

 夕方、「Satyri」へ行く。常連のお客さんやら、バンドのメンバーが俺の為に、豪華な壮行会を催してしてくれた。
「凛ちゃんもとうとう大人ね~じゃんじゃんお酒飲んでね~」
「おいおい、まだ凛くんは未成年だろう。だけど寂しくなるなあ~この店に美少年がいなくなると鑑賞する楽しみが減ってしまう」
「戸田さん、俺、もうすぐ十九になるんですよ。少年じゃあおこがましいや」
「じゃあ、麗人だ」
「あら、麗人って…アタシみたい~」
「…ミコシさんはアングラドラァグクィーンじゃなかった…」
「なんか言った?マスター、意地悪な三田川さんになんか言って!」
「…ミコシさんは充分お綺麗だよ。俺には高嶺の花だがね」
「心がこもってない」
「…バレました?」
「ひどい~凛ちゃん、何か言ってよ~」
「こんなに楽しいのに…しばらくみんなと会えなくなるのが辛くてさ…胸が詰まっちゃうよ」
「…」
「泣かせること言わないの。いつだっていつまでだって、みんなここに居るからね…」
「別れってさ、一生会えない別れとまた会う別れがあるけど、凛くんとは悲しい別れじゃない。今度会う時は美少年じゃない凛くんを見れる。大人の凛くんもさぞかっこいいだろうねえ~また目の保養に預かろうよ」
「凛一はね、アメリカの大学で建築を学ぶんだ。将来は有望な建築家だ。慧一くんと一緒に設計事務所を設立する夢がある。そんで、その会社の筆頭株主になるのが俺の夢だ」
「あ~マスターったら、また自分だけいいとこ取り~。アタシだって凛くんの株主になるもん」
「俺も及ばずながら出資させてもらうよ~」
「俺も」
「俺も」
 みんなの笑顔が嬉しかった。
 三田川さんや戸田さんやミコシさんや色んな人たちがおれを支えてくれたから、俺は今笑っていられるんだ。
 みんなありがとう…みんながHAPPYでいられるように、いつだって願っているから…

 その晩、俺と慧一は嶌谷さんのマンションに泊まった。
「しばらく日本には帰れないから、今日は嶌谷さんと一緒に寝てもいい?」
 俺のおねだりに嶌谷さんはおかしいぐらいに戸惑い「困るよ」と、断った。
「凛が言い出したら引かないことは嶌谷さんが一番良く知ってるじゃないですか。我儘な弟ですが、今日だけは甘えさせてやってください」
 慧一の頼みに嶌谷さんは渋々承知した。

 嶌谷さんのベッドはふたりで寝ても充分に広い。
「宗二朗さんも一緒に寝たりするんだよね。どっちが下?…まあ聞かなくてもわかるけどね。あの宗二朗さんが受けなわけないしね」
「おい、下らないこと言うなら、慧一くんのベッドへ行けよ」
「嶌谷さん、ごめん。今日はちょっとさ…慧一と一緒に寝るのは…辛いんだ」
「…そうか」

 嶌谷さんの胸に身体を寄せる。身長は嶌谷さんより高くなってしまったけれど、俺の方がずっと細いから、やっぱり子供みたいに小さくなれる。
 嶌谷さんはゆっくり俺の背中を抱いてくれた。
「初めて会った時のこと覚えてる?」
 俺は顔を上げて嶌谷さんを仰ぎ見た。
「ああ、勿論だ。クリスマスの朝、おまえは店の外で野良猫のように凍えていた。だけど俺は知ってたよ。汚れていてもおまえが光り輝く獅子だってことを。おまえのその綺麗な見かけだけに惑わされたわけじゃないぞ。俺はおまえの魂に一目惚れしたんだ。おまえを見つけて、おまえを傍で見ていられたことは俺の幸運だったと思ってるよ」
「嶌谷さんに会わなかったら…俺は酷い人間に成り下がっていただろうね。慧一の本当の心もわからず、ミナと恋する感性も持ち得なかっただろう…どんなに感謝してもし足りないぐらいだ」
「凛は俺に出会わなくても、違う誰かがおまえをサポートしていたさ。運がいいのは俺の方なんだよ。俺には宗二朗がいたけれど、あいつは見守る必要のない男だからな。俺は…何かを可愛がりたかったんだ。支えになりたかったんだ。多分、亡くした息子への罪滅ぼしだと思うけれど…だから凛を息子のように思いたかった…」
「うん」
「だけど…結局おまえは息子の代わりじゃなかったよ。俺はおまえが、愛おしかった。俺のものにするには、勇気がなかったんだけどね。おまえは眩しすぎたから」
「嶌谷さん…俺が好き?抱きたいと思う?」
「凛…この状態で俺を誘惑するなよ」
「だって…嶌谷さん、勃ってるじゃん」
「バカ、男の性(さが)だよ」
「俺としては嬉しい限りだよ。まだ嶌谷さんにそういう風に思ってもらえてさ」
「おまえみたいな奴と寝ていて勃たない男はいないさ」
「俺、嶌谷さんになら抱かれていいけど」
「またそういう事を言う」
「だって、愛おしいと思ってくれてる人と寝たいと思って駄目なの?俺だって嶌谷さんの事大好きだし、寝たからって、俺達の関係がどうなるわけじゃない。嶌谷さんも俺も自分達の立場をわきまえてる」
「…凛。ありがとうよ。おまえの優しさというか…自分を与えるっていうサクリファイス的な考え方もわからんじゃないが、傍にいるものは悲しむ。おまえを愛するものはおまえの自己犠牲を自分の罪だと感じる…わかるね、凛」
「…」
 だって、もう…俺も慧一も何重にも罪を犯しているじゃないか。これが俺達兄弟の運命だとして、俺がその罪を購う手段として、自分にできることは他に何がある…

「嶌谷さん、俺は…ミナを捨てた。心から愛していると誓ってくれたミナを…悲しませてしまった。ずっと好きだと勝手な言い草だけを残して…。
慧一を選んだことを後悔しているんじゃない。だけど…この悲しみと罪悪感に俺は負けてしまう…
月村さんの時はこんな感情はなかった。俺は月村さんを好きだったけれど、最後まであの人の傍にいることができた。あの人もそれを感謝してくれた。おれはあの人の死を納得することが出来た。
だけど…ミナには…ミナに非はない。全面的に俺が悪いんだよ…あいつを泣かしたくなかったのに…俺は」
「凛…別れたばかりだもの。辛いのはわかる…だけどな、俺はおまえの味方でありたい。その子がどんなに可哀相であろうと、俺は凛に幸せになって欲しいんだ。だから、何度でも言うよ。傷ついたとしても一時の事だ。時間というのは何よりの良薬となる。良薬口に苦しっていうだろ。今は辛いだろうが、耐えなさい。いいかい、恋愛はどちらにも責任があり、そしてどちらも罪を負わないものなんだよ」
「…」
「わかったね、凛。自分を責めるな。おまえの道を進みなさい。みんなおまえに期待している。それはおまえが大好きでおまえに憧れや輝く未来を見てしまうからなんだよ。俺もおまえが笑っている未来を見たいんだ」
「…ありがとう、嶌谷さん。期待されるってことはきっと…生きる価値があるという意味なんだろう。嶌谷さんやみんなが見守っていることを、心に刻んで、頑張るから」

 時間が経てばミナの傷も癒すことができる。
 「ずっと愛している」と、誓った言葉もミナを癒すものになる。
 そう信じたかったけれど…
 ミナは俺を許さない、きっと。

 誰よりも幸せにしたかった。
 おまえの笑い顔を見ていたかった。
 ミナ…ごめん…


 アメリカでの生活が始まった。
 コロンビア大学に入学の希望を出した後、色々な面接やレポートの提出に追われていた。
 聖ヨハネ学院やリュスの推薦で、聴講生になれたのは五月。
 ニューヨークで一人暮らしを始めた。
 九月には正式に大学へ入学することが決まり、俺と慧一は夏季休暇を利用して、欧州へ旅行へ行った。
 イギリスにいる両親にも会い、大学のことや将来のことを話してきた。
 両親は心から喜び、親父は終いには涙を流し「葵がどんなに喜んでいるだろう。葵は本当に凛一を可愛がっていた。自分の身代わりにお前を産んだようなものだから、一層愛おしかったのだろう。こんなに立派に育った凛一を…一度でいいから見せたかった」と、言われ、俺ももらい泣きをしてしまった。
 
 ホテルに帰って、慧一と二人きりになった時、気になったことを話した。
「親父の奴、あんなに母さんの話してさ、和佳子さん、気を悪くしなかったかなあ」
「俺も母さんがおまえをどんなに愛してたのか知っているからね。父さんと同じ気持ちだよ。和佳子さんだって父さんの気持ちはわかっているさ」
「俺は母さんの思い出はあまり覚えていないけど、梓が生きていたらって…思うよ。梓だったらきっと…俺と慧の事も支えてくれてたと思うから」
「俺は…梓には後ろめたくて、目を合わせられないね。梓は凛を欲しがっていたからね。それを俺が独り占めしてしまったんだから、恨まれるに決まってる」
「まだ言ってるの?」
「凛、これは俺の一生負うべきものだよ。おまえを…弟としてだけ愛していれば、もっと自由にさせていたはずだった。愛だとしてもね、おまえを俺に縛り付けてしまった事への俺の責任は重いと思っている」
「慧…もう言わないって約束したじゃないか。兄弟が愛し合ってしまったからって不幸だって決め付けるのは変だよ。俺は純粋に慧を愛している。欲情を持って慧を求めている。誰が後ろ指を指したって俺は構わないと思っている。ただ、社会的に不利になるなら公言しないと言っているだけだ。慧の言う責任とは負い目だ。世間と俺に対する負い目なんて感じないで欲しい。俺を愛しているなら…」
「わかっているよ、凛。わかっているんだよ。ただ、自分だけがおまえを得た喜びを味わっていいのか…母さんだって梓だって…嶌谷さんや…水川くんだって…おまえを得たかっただろうって…思ってしまうんだよ」
 慧の想いが嫌と言うくらいに理解できた。

 俺達だけが幸せでいいのか。
 色んな愛があったから、結ばれた二人なのに…

 旅行の間、ずっと俺達は確かめ合った。
 ひとつひとつの想いや言い分をまさぐりるように触れ合った。 
 ひとつの感情がどうやって育ち、どういう愛として実らせたのかを、知る必要があった。
 時を違えて同じ腹から生まれたふたりが、ひとつの卵に還るのは、難しくはない気がした。






よあけ



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