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2019-09

水川青弥編 最終章「愛する人へ」1 - 2010.11.20 Sat

ミナ大学生

「愛する人へ…」
1.
 M美術大の4年を過ごし、そのまま大学院へ進んだ。
 大学では油彩を専攻し、院では版画に取り組んでいる。
 相変わらず「美桜堂」に居座り、仕事と絵描きで忙しい毎日だ。
 季史さんの画廊「ギャラリー時世」で、完成した油彩や版画を展示してもらい、展示即売もする。
 結構な値段がつき、大学の授業料も親に負担をかけなくなってほっとしている。
 親父はさすがにおれへの将来への夢にも諦めがついたらしく、「たまにはうちに帰って酒の相伴でもしろ」と、言っているのだと母さんが嬉しそうに話していた。

 いくつかの絵画コンクールにも入選した。まだ一流とは言えまいが、画家としての基盤を築くため、一歩一歩直実に進んでいる気がする。
 店の仕事以外は、アトリエに篭って制作していることが多い。そうでなければ、スケッチの為のツーリングへ出かける。
 風光明媚な景勝地や鄙びたなんでもない田舎の風景。どれもが魅力的だ。

 油彩は風景画。版画は植物を描く場合が多く、特にリトグラフは細かな描写もできるから、面白い。
 展覧会や芸術展に追われる時は、二階の自分の部屋で寝ることはあるが、大方、母屋の季史さんの寝室で一緒に寝ることにしている。
 季史さんは充分におれを包んでくれる大人だ。気がきかないおれを色々とサポートしてくれる。
 絵についても、迷った時は的確なアドバイスをくれるし、何よりおれを大切にしてくれる。
 おれはリンとは違う意味で、季史さんに身を委ねる喜びを感じていた。

「青弥、卒業制作は順調かい?」
「うん…」
 いつもの夕飯時、急ぎの仕事がなければ、そのまま何時間も晩酌をすることもある。
「年の瀬には『七星会』の展覧会を上野でやるんだろう?」
 「七星会」とはM美術大学院の仲間、七人で作ったグループで、これまでも3回程、展示会を催している。
 絵画専攻だけではなく、デザイン専攻の院生を交えての展示会は、各自テーマも異なり、それぞれの個性を高めた芸術が作り上げられているから、専門のコレクターや学芸員などの評価も悪くない。
「そうなんだ。就職先が決まった奴もいるし、院に残る奴もいるけど、みんなでやれるのはこれが最後かもしれないって…気合が入っている。おれは連作をやろうと思っているけど…まだ題材が決まってないんだ」
「半年先とは言え、油彩だったらそろそろ制作にかからないといけないな」
「うん、版画の方が評判いいからなあ…迷っている」
 先日、ある公募展で自信があった油彩の風景画が佳作にしか届かなかったことが、気になる。
 
「審査員はなんて言ったんだ?」
「綺麗にまとまってはいるが、パッションが足りないって…」
「白山の景色を描いた油彩だろ?パッションが必要なのか?」
「…おれもそう思ったけれど…若いのに無難にこなすなって言うことかな」
「あんまり気にするな。青弥は素直な良い絵を描いていると思うよ。個性も大事だけどな。まあ、本当に青弥の描きたいものを探しだせたら自ずと個性のある絵は描けるもんだ。今は探索中かな」
「そうだと…いいけど」

 自分の絵に何かが足りない気がしていた。それを情熱だと言われればそうかもしれない。
 おれは一生絵を描き続けたいと思っている。絵を描いてそれを売って生計を立てる。
 その為の多少の兼ね合いは必要だと思うけれど…結局はおれの芸術性の力量の有無だと思う。
 趣味で終わるか、一生を賭けれるか…

「サラリーマンだったら、年金も退職金ももらえるのになあ~」
「なんだ?もう、弱音を吐くのか?」
「ちょっとね…」
「安心しろ。おまえに好きに絵を描かせて食わせるぐらい、俺が見てやっから」
「そこまで季史さんに甘えていいのかなあ…おれ、美味しい食事も作れないし…子供もできないよ」
「ばーか、知ってるよ。俺は青弥がいいんだよ。青弥の才能も青弥自身にも惚れてるんだ…恥ずかしいこと言わせんな!」
 普段は顔色を変えない季史さんが、ガラにもないことを言ったと、顔を赤くする。
 おれは空になったおちょこに日本酒を注いた。
「もう一本つけるね」
 キッチンに立ったおれは一升瓶からお酒を注ぐ。
「それより、青弥。おまえ、今週末は高校の同窓会だろう?」
「うん」
「行くんだろ?」
「一応…出席にしておいたけど…」
「けど?」
「迷ってる」
「なんで…」
「…」

 聖ヨハネ学院高等学校の創立百周年記念に兼ねての同窓会がある。
 懐かしい人に会えるだろうし、今のおれの姿も見せておきたいとも思う。
 だけど…リンとどんな顔をして会ったらいいのか…わからない。
 三上からの電話で、リンが出席することは知っていた。
 リンは建築家として、ニューヨークでお兄さんの慧一さんと建築事務所を構えているらしい。
 おれに宣言したとおり、リンは一人前の建築家になった。
 おれもリンに認められるよう、頑張らなきゃいけない。
 …なんだかおかしい…リンにを引き合いにだして、どうなるわけでもないのに…
 リンなんて、もうおれとは関係ない。

「みんなに久しぶりに会うのも、きっと楽しいだろうから、行って来るよ」
 季史さんはにこりと笑い、頷いてくれた。

 週末、鎌倉の聖ヨハネ学院へ赴いた。
 体育館での記念式は終わり、教室で各回生の同窓会が行われていた。
「お~、水川。久しぶり~」
「三上、連絡ありがとう」
「元気だったか?」
「ああ、三上は…先生だったよな?」
「うん、地元中学の社会の教師だよ。水川も絵の方頑張っているんだろ?売れてるのか?」
「うん、今は院生。来年は卒業だから、そこからが勝負だろうな。まだまだ先は長いよ」
「水川ならやれるさ。なにしろ最優秀のお墨付きだもの」
「やめてくれ。昔のことだ。今は学問の方は全くからっぽだよ」
「しかし、本当に水川が画家になるとは…信じられなかった」
 眼鏡のブリッジを上げながら、高橋がこちらに近づいてきた。
「高橋は…建築士になったのか?」
「ああ、今はT建設の設計課に所属している。10年経ったら自分の家を継ぐつもりだ」
「相変わらずえらそうに言うもんだな。宿禰(すくね)なんかもう自分の会社作っているぞ~」
「宿禰と比べるな!あれは俺達とは違う人種なんだよ。じゃなきゃ、なんでニューヨークで個人の建設事務所やれるっていうんだよっ!まだ25なんだぜ?」
「宿禰はお兄さんと一緒に仕事しているから、ひとりで構えているわけじゃないよ」
「と、言っても高橋と宿禰を比べること自体が間違いだと言える。あれは人間外生物だ」
「真広、口が過ぎるよ」
 後ろを振り向くと桐生さんと美間坂さんが立っていた。
「桐生さん!美間坂さん…お久しぶりです」
「水川の顔を見にこちらに寄ってみたんだ。…元気そうで安心した」
「千尋はこの間おまえのリトグラフを買ったんだぞ。感謝しろ」
「ありがとうございます」
「違うよ。俺の誕生日に真広が俺にプレゼントしてくれたんだよ。わざわざ水川の絵を探してさあ」
「そうなんですか?美間坂先輩ありがとうございます」
「ふん。それより今日は宿禰はどうした。まさか来てないってことはないだろうな」
「それが…あいつ、急に来れなくなってしまって…」
「え?…」
 三上の言葉に驚いたのと安心したのが混じって変な声になった。
「宿禰はアメリカの建築家の賞を受賞してね。授賞式で来れなくなったんだよ」
「藤宮先生」
 リンのお兄さんの友人でもある藤宮先生が、また輪に加わった。
「向こうでは非常に権威のある賞で、ちょっとしたニュースになっているそうだよ」
「そりゃ凄い!」
「そうだったのか…宿禰の奴、急な用事で来れなくなったから、みんなによろしく言っておいてくれってだけ言ってたから、何があったのかって心配したんだけど…そんな凄い賞もらったんなら、ひと言言ってくれればいいのに…」
「より以上にあの美貌が思い上がった態度でいると思うと、憤りも甚だしいな」
「おい、真広、おまえは本当に…好きな奴には素直じゃないんだなあ」

 リンの話題で持ちきりになる空間に居ずらくなってしまった。
 おれはそっと教室から抜け出し、校舎から離れた。
 リンとおれの事について聞かれるのが怖かった。
 それだけじゃなく、一人前の建築家として認められ、権威のある賞を貰っているという事実が、ショックだった。
 素直に喜んでやるのが友達だろう。仮にも恋人だった奴じゃないか。
 心から祝福してあげたいのに…笑うこともできなかった。
 自分自身が情けなくて恥ずかしくて、とてもあの場にはいられなかった。
 リンと比べる方がおかしいってわかっている。
 高橋や美間坂さんが言うように、リンはおれ達とは違う賜物なのかもしれない。だけど、おれはリンと対等でいたかった。あいつと肩を並べて笑いあっていたかったんだ…
 
 そこまで考えて益々自分の愚かさを知った。
 今更なんだ。
 もうリンとの繋がりなんか全くない間柄なんだ。自分なりの決別も出来たはずだ。
 恋人同士だったのは、この学院で過ごした3年間でしかなかった。
 もういい思い出になったんだと、あいつらにそう言えばいいんだ。そして、一緒にリンの健闘を称えれば良かったんだ。
 …そんなこと…できやしない。
 リンを思うだけでこんなにも心が痛い。

 教会の尖塔に立つウリエルを見上げた。その姿がリンに似ていると思った。
 あの日、おれはリンに言ったよね。「ここにくればリンに会えるね」って…

 …会えないよ、リン。
 だって、おれにとって、おまえはあまりにも遠い…




おれが描いたの


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