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2019-09

宿禰凛一編 最終章「only one」3 - 2010.12.03 Fri

rin56.jpg

3、
 あの日から、夢にミナを見ることが多くなった気がする。
 ミナが俺を呼んでいるのかな…

「凛…そろそろ起きなきゃ…」
「う…ん。まだ…眠い」
 慧一の胸の中で夢うつつの頭を横に振る。
 あったかい慧一の体温を逃したくなくて執拗に手足を絡めた。
 困った奴だな…と呟きながらも、慧は俺の背中を撫でてくれる。
 だって、慧とくっついているのが一番安心できるんだもん…そう言って、キスを求めた。
 躊躇わない濃密な接吻にお互いの身体が熱くなる。

 慧、欲しい…凛、もう真昼だよ。それに帰国する飛行機は夕方だろ?そろそろ支度しないと…だからじゃない。しばらく離れちゃうんだから、慧に沢山愛してもらっておかないと、ひもじくてたまらなくなるからさ…仕方のない奴だなあ。

 慧一は俺を徹底的に甘やかす。俺は慧一無しでは生きられない…それでいい。

 アトリエ事務所まで歩いて十分ほどの場所に、高級アパートメントを借りて、俺達は暮している。
 仕事は慧一と俺の共同でやる場合が主だが、個々の仕事も多くなった。仕事先が遠距離になると離れる時間も増えてくる。だから、一緒に居る時はできるだけお互いを求め合うようになる。

 建築デザイン賞の受賞の所為だろうか。近頃は急激に仕事の注文が増えている。
 合衆国各地からは勿論、日本からの問い合わせも多い。
 聖ヨハネ学院高校の教会と体育館建設の為、日本の施行会社と綿密な打ち合わせや、現場での工事管理も必要になる。帰国する回数もすこぶる増えた。
 今回は都内目黒で詩人の記念館創設の設計に携わり、詳しい実地設計のプレゼンに赴く事になった。
「プレゼンと、最終的な確認申請も済ましてくるから、2,3日はかかると思う」
 夕方、飛行機の時間に合わせて家を出る俺を、慧一が玄関先まで見送る。
「俺もパトリックとの仕事を片付けて帰国するよ。クリスマスには間に合わせる」
「うん。じゃあ、クリスマスに」
「あまり夜遊びするなよ」
「兄貴もね」
 別れのキスをして俺はアパートを出る。


 日本での仕事も順調にこなし、後は各系列への挨拶だけを残すのみとなった。
 二十三日の夜、俺は新橋の「Satyri」へ向かった。
 ニューヨーク程ではないが、都内のどこもかしこも色とりどりのイルミネーションで賑やかしい。
 重い扉を開け、店に入る。
 ノスタルジーなジャズの生演奏が腹に響いた。
「凛くん、久しぶり~ちょっと見ない間にまた色っぽくなったんじゃない?」
 嶌谷さんや馴染みの連中の顔を見ると故郷へ帰った気分になる。 
「ふた月前にここで会ったでしょ?ミコシさん。まだまだボケないでくださいよ」
「あ~ひど~い。相変わらずのドSなんだから~。でもそこが好き~」
 ミコシさんのキスの歓迎は毎回どぎつくなる一方。
 嶌谷さんは店の経営を若手に任せ、自分はオーナーとして週2,3日程度の出勤に抑えている。
 山中湖の温泉地に別荘を建て、仕事がない時はそこでのんびり過ごす日が多くなったと言う。
 因みにこの別荘の設計は俺の初仕事だった。
 日本に滞在し、時間がある時にはこの嶌谷さんの別荘で俺も寛ぐし、一昨年から正月は慧一と共にこの別荘で過ごすことにしている。
 今年は父さん達夫婦も招かれてるらしい。どうなることやらと、少し心配にもなる。
 嶌谷さんはすでに俺達の家族と同様だし、俺のSIAデザイン受賞式にもわざわざニューヨークまで来てくれた。
 涙を流して喜んでくれた嶌谷さんとのツーショット写真が、店の一番目立つ場所に飾られている。
 お客さんがそれを指差すたびに、嶌谷さんはニコニコと詳しく説明している。
 俺の成功をこれほど喜んでくれる人がいるのなら、俺はたゆまぬ努力は惜しまない。
 俺は幸せだった。
 これ以上何かを望んだら罰が当たる。
 そう、もう何も望んではいけない…

「あれ?凛一、帰って来てたのか?」
 俺の隣に顔なじみの奴が座った。
「紫乃、今日は学校無いの?」
「今日は祭日だろうが」
「そうだった。こういう仕事していると決まった休日なんかないから、感覚が鈍ってしまうね」
「クリスマスはこっちで過ごすのか?」
 セブンスターに火をつけた紫乃に俺は灰皿を。間髪入れずに、嶌谷さんが、ドライマティーニを差し出した。
「うん、明後日慧一と合流するつもりだよ。二十五日はこの店は休日だから、鎌倉へ行くかも。紫乃も一緒にクリスマスパーティでもやる?」
「いや、いい。一応予定が詰まっているからな」
 そう言って、紫乃は端に座る三田川さんに手を振った。
 なんだよ、あんたら付き合っているのかよ。そうならそうとひと言ぐらい言えってもんだろ?

「…なあ、凛一」
「何?」
「今日、上野の美術館へ行ってきたんだ」
「へえ~、なんか興味の引く美術展でもあってた?」
「水川が仲間達と展覧会を行っている」
「…ミナ、が?」
「おまえが建てるうちの学校の教会に、水川の描いた絵を飾るって話は聞いているだろう?」
「うん」
 ふた月前に建築工程の最終説明の為、ヨハネを訪れた際、鳴海先生から直接伺った。
 話を聞いた時は驚いたり、喜んだりとなんだかわけがわからなくなっていた。
 だって、俺の設計した教会堂にミナの絵が飾られるなんて…これこそ夢幻の如くなり…だぜ。
 教会と体育館の完成は来年の夏の予定だ。
 その日が来るのが今から待ち遠しくてたまらない。

「水川な…とても良い絵を描いてたよ」
「…そう」
「明日は最終日だ。…行ってこいよ」
 紫乃の意味あり気な、それでいて信頼を寄せる優しい眼差しで見つめられ、なんだか変な気分になった。


 品川のホテルの部屋で、俺は夜の東京を見つめる。
 この街にミナが住んでいる。
 帰る度に、こうやって空を見る度に、ミナを懐かしく愛おしく想った。
 もう、六年も経つのに、何故この気持ちが薄らいだりしないのだろう。
 青春の輝きだったと、そっと胸の内に沈めてしまっても充分な時は過ぎたはずなのに…

「ミナ、おまえの絵になにが描かれているのか…知るのが怖い気がするよ」
 あの頃とは変わってしまったであろうミナの描いた絵を、俺自身がどう受け止めればいいのか…覚悟ができないまま、夜は更けていく。


 翌日、挨拶を終え、そのまま昼食を依頼主と取った。やっと二時にフリーとなる。
 行かなきゃならないだろう。
 そしてもしそこにミナが居たら…俺は一体ミナにどんな顔をすればいいんだろう…
 あれこれ考えながら、上野に向かって山手線に乗り込んだ。
 上野の森美術館の玄関には大きく「七星会卒業記念展覧会」と宣伝用のポスターが貼られ、ミナの顔写真も載っていた。
 大人になったミナを見たのは、初めてじゃない。今年の同窓会の際に撮った写真を、三上がニューヨークにわざわざ送ってくれた。
 骨格も男らしくなって高校の頃の幼い感じとは違った印象もあったけれど、それは俺が思い描いていた大人のミナと変わりがなかったから、そのことに感動したんだ。
 
 入場料を支払い、画廊の入り口に足を進めた。入り口の近くは大学生や一般の客で賑わいを見せていた。
 いくつかのかたまりにミナの姿を探したが、見つからなかった。
 諦めて中に入ることにした。
 
 ギャラリーは7人の合作と言うより、ひとりひとりの世界を各自に作り上げているもので、絵画だけではなく、彫刻や立体アートまで及ぶものだった。
 どの作品も独自の創造性の無限さを思いのままに作り出している。それは俺の建築デザインの構築と少しも変わらない表現方法でもある。
 だから決して異質なものではなく、なにか共有めいたものさえ感じられた。
 ひとつひとつの作品のエネルギーを受け取りながら、七つ目のキャラリーに足を踏み入れた。
 即ち、ミナの世界に…

 最初に「green house」と表題があり、次のような散文が書かれていた。

 温室はおとぎの世界だった。
 果てしない砂漠、大海原の海域、燃え盛る活火山、
 煌く宮殿、廃墟の城、蒸し暑い密林を彷徨い、ひたすら歩いた。
 情熱や友情や絆を確かめ合った。
 温室は、
 数知れない空想と魂を紡ぎ合わせる空間だった。


 俺たちの育てた植物の版画が並べられていた。
 アネモネ、ヒルガオ、スイフヨウ、リンドウやポインセチア…店から買ってきた奴もあれば苗から育てた奴もあったな。
 ミナの版画は昔よりもずっと細やかで鮮やかに成長していた。
 リトグラフは購入の予約もできるらしく、気に入ったものでも買っていこうと思いながら、次の画廊に足を踏み入れた。
 俺の目に映し出された油絵の数々に、思わす立ち止まった。
 溢れる色とりどりの植物と光の饗宴。
 そして存在するひとりの影…
 それは俺に間違いない。
 
 影や光だけであったり、子供や性がわからないフォルムであったりしたけれど、その正体は俺でしかなかった。
 ひとつひとつの絵画に、自分でも知らない色んな自分がいることに、感動したり驚いたり、不思議な想いで頭を捻ったりとすっかり夢中になった。
 これはミナが見てきた俺のイメージなのかな?
 それともミナ自身が生み出した想像の俺なのかな?
 どっちにしても、あの頃、他人にとやかく言われるのが嫌でカンバスに俺の姿を描く事を躊躇っていたミナを思うと、えらく開き直ったものだな~と、なんだか可笑しくなる。
 逆に、あまりにも俺の存在が強すぎて、ミナを誤解する奴もいるんじゃないかと、心配になったり…

 一枚の絵画の前に立った。
 「目覚め」と言う題で描かれた油絵は、裸の俺が蝶になり、眠っている絵だ。
 俺はこんな顔をして、ミナの隣りで眠っていたんだなあ~
 言葉にならない感情が胸を満たした。

 まぎれもない、あの頃の俺がその絵の中に居た。



凛一蝶2



リンミナシリーズはこちらからどうぞ。目次へ
「only one」 2へ /4へ




● COMMENT ●

なるほど、こういう風に進んで、リンとミナの再会なのですね。これだったら、一人称で、別の場面を描けますね。続きが楽しみです。
私は一人称だと、その他大勢に関しては思い切ってはしょってしまうので、読んでいる方にはわかりにくかったり、もどかしかったりがあるのではないかと思います。
でも実は一人称のほうが書きやすいです。
それにしても、こんなにたくさんの挿絵に飾られて、なんて贅沢な小説でしょうか。
上のほうのリンの絵がものすごく好きです。
綺麗ですね、彼は。
この独特の髪の色も好きです。

ありがとうございます。

私も短編なら、一人称でも物凄くはしょると思いますね。
語るべきことだけを書く方が、語りたいことが伝わるからね。

この「green house」は二年続いています。やっともうすぐ終わるんですよ。長かった…
私はこの後の番外編やSSは一切書かないつもりです。
山のような愛するキャラがいるのも関わらず、もう書かないのです。だから終わる前にできるだけこの物語に出演したキャラ達の行く末を暗示するように終わらせたいのです。
みんな自分の幸せを見つけながら精一杯生きている…
それは希望です。でも私みたいに年を取ってくると、みんなにそうなって欲しいを願うんです。
だから、この物語のすべてのキャラを書き留めておくことが必要になっているんですよ。
ので、非常にどうでもいい話を書いているんですね~(;´∀`)

挿絵に関しては…
まあ、私より上手い絵師さんは世の中に山ほどいらっしゃいますが、私の書いたテキストを私ほど上手く描ける絵師さんはいないと、自負しておりますwww
私の場合、文章はすべて絵が浮かんできます。
これは他の方の書かれた、また一般の小説でもすべて頭の中で絵になってます。
背景もすべて浮かびます。

ちょっとめんどくさい癖ですね~(;´Д`)


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