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2019-11

宿禰凛一編 最終章「only one」6 - 2010.12.18 Sat

リンミナふたり24

6、
「なんか良い天気だね。こういうの小春日和って言うのかな~」
 チャペルの向こう、澄み切った青空を望みながら、ミナが言う。
「ねえ、新しい教会が出来上がるのっていつ?」
「来年の夏かな。九月の新学期に間に合うように予定している」
「模型見たよ。リンならもっとゴシック系で格調高い感じかと思ったけど、丸みがあって…優しい感じがした」
「うん、模型は白で統一してたからわかりにくいかもしれないけど、外壁は日本伝統の氷重って配色なんだ。淡いベージュと白を基本にした。形もゴシックより少し昔の後期ルネサンスのマニエリスムの形態が基本だ。内陣も採光を多く取り入れているんだ。明るいのに越した事はない。だが、デザインよりも構造が重要だ。日本の場合、地震や自然災害に耐えうる構造技術が必需だからね。まあ、頭ん中で考えている造型と、出来上がったものへの実感って一致することは稀だよ。それをどう近づけていくかが課題だな」
「…すごい、リン。本物の建築家みたいだ」
「…一応、本物ですが…」
「あはは…そうだったね。すごい賞も貰ったんだもんね~」
 弾けるように笑うミナの笑顔をもっと見ていたい。
「ね、ミナ。ミナが教会堂に飾る絵ってどんなの?もう考えてあるの?」
「ああ、それなら、もう出来上がっている。展覧会で展示していた『目覚め』っていう絵だよ」
「…え?…あ、の…俺の裸の?」
「そうだよ」
 …そうだよって…あんな裸の絵を教会に飾るのか?しかも、モデルは俺なんだぞ?
「鳴海先生もチャペルに飾るのに相応しいって褒めてくれたよ」
「いや、でも、あれって…俺じゃん。竣工式ん時、絶対指差されるじゃん。恥ずかしいじゃん。おまえだって、出席するんだろ?嫌じゃないのか?」
「なんで?別に嫌じゃないよ。なんだよ、リン。そんなの気にしてるの?それに確かにモデルはリンだけど、今のリンとも違うし、第一絵に描いたイメージはおれのものだから、実在の人物として反映されにくい。リンに似てるなって思われても、本物のリンじゃないからね」
「…」
 …そういうもんなのか?…芸術家のニュアンスっていうものは変わっているものだが、ミナも違わず変わり者らしい。それにしても、俺の絵を描くのをあんなに恥ずかしがっていたミナなんか、微塵もねえなあ。歳を食うってことはこういうことかな。…セックスは昔と変わらず、じらしたり恥ずかしかったり甘えたりで可愛かったのになあ。
「…なんかいやらしいこと考えてないか?」
「へ?」
「かたっぽの口端だけ上げるの、リンがやーらしい事考えてる時の癖だもん」
「はいはい、やーらしい男ですよ。昨日のミナとのセックス、めっちゃ良かったって思い返してたの」
「…馬鹿だ」
「それより、これからどうする?昼飯でも食う?」
「いや、朝ご飯遅かったし、沢山食べたから…。そうだね、海でも見に行かない?今日は風もないから、静かだろうし…」
「じゃあ、高台から眺めようか。久しぶりに長谷寺に行かないか?」
「うん、行こう」

 タクシーを止めて、長谷寺を目指した。
 山門を潜り、階段を昇っていく。
 紅葉も盛りを過ぎてはいたが、ここは年中なにがしかの花で観光客を楽しませる寺だ。今はツバキやサザンカが美しい。境内では幾人かの観光客と、落ち葉を掃く僧侶の姿が見えた。
 観音堂の脇を通り、展望台から鎌倉の街並みや相模湾を湘南の海を眺める。
 その向こうの三浦半島の海岸の寄せる波までも綺麗に見える。
 青空をゆったりと旋回するとびになって冬の空を楽しみたくなる午後だった。

「リンともう一度こうして由比ガ浜を見れるなんて…思いもしなかったよ」
 欄干に手を置いたミナの目も、とびの姿を追いかける。
「これから何度だって出来るさ」
「…そうだね」
 ミナはとびを追いかけるのをやめ、海の向こうのただ一点を見つめていた。

「リンと別れて、ひとりでここへ何度も来たよ。ここから海を眺めるたび、おまえを恨んだ。忘れようとした…」
「ミナ…」
「おまえがもし…今でも、おれから離れたことを罪だと思っているのなら…昨日も言ったけど、恋愛にどっちも悪いもないけどね…もし、思っているのなら…おれは、リンを許すよ」
「…」
 思いも寄らないミナの言葉だった。
 ミナは続けた。
「おれを選んだ事も、おれを愛した事も、嘘を付いた事も、…未来を一緒に歩けなくなった事も、すべてをおれは許すよ…だから囚われないでくれ。おまえは自分が思っているより孤独主義のところがあるよ。それはそれで魅力的だけど、人はひとりでは生きられないもんね。おれは何事にも縛られない自由なリンが好きだから。幸せに笑うリンを見たいんだ」
 …ミナの許しの言葉が俺の心に温かい液体を注いでいく気がした。
 俺は、この感情を知っている…
「それから、おれの事も許してくれ。おまえを恨んだ事、ずっと好きだっていう言葉を信じなかった事、忘れようとした事…おれはおまえと違ってひとりで生きれるほど強くないから、おまえを恨むことしか出来なかったんだ…ごめんね」
 …そう、ミナを始めた抱いた時、俺は月村さんの死から救われたんだ。
 ミナが呪縛を解き放ってくれたんだ。
「…勿論…許すよ」
 …ミナは、また俺を救ってくれた。
 ミナだけじゃない。俺は俺を愛してくれるすべての人から、許され、そして救いを与えられた。
「良かった…おまえを恨んだ事もあったけれど、今のおれはね、リンに幸せになって欲しいと心から願っているんだ」
「俺だって、同じだよ。ミナの幸せを祈らずにはいられないもの」
「ホント?」
「うん」
「ありがとう…、じゃあ、もうひとつ、リンにお願いがあるんだ」
「何?」
「慧一さんを悲しませないで欲しい」
 真剣な眼差しで、ミナは俺の顔を見つめた。

「リンが魅力的で色んな人がほっとかないのはわかるよ。でも、慧一さんにしてみれば、リンが他の人とそういう遊びをしている事に、きっと傷ついていると思うんだ。…おれはね、おれからリンを奪った慧一さんを憎んだ事もある。慧一さんがいなかったら、リンと一緒に未来を歩いていけたかもしれないって…そう何度も思った。だけどやっぱりわかってしまう。慧一さんが今のリンを作った。リンが前向きで何でも好奇心一杯で目標に向かって突っ走ってそれを成し遂げて…すごい奴になったのも、慧一さんの導きがあったからだ。家族ではあっても、慧一さんはリンを愛する者としてずっと見守ってきた。おれは…慧一さんだからこそ、リンを諦められたんだよ、きっと…だから、慧一さんは許すかも知れないけど、リンが慧一さん以外のおれの知らない奴と遊びでも寝たりするのは、嫌だ」
 ミナは俺の気持ちを知りえている。だからこんな風に俺を戒めているんだ。

「…了解。ミナの願いは聞き届けられたよ」
「ホント?…嘘は嫌だよ」
「嘘なんかつかない」
「リンは優しい嘘をつくから、安心できないや」
「ゴメン。昔の嘘はミナを悲しませたくなくて付いた嘘だった。でも、もう付かない。後で見破られるのも癪だしね」
「リンは誰にでも優しいから、おれはいつもやきもきしてた。慧一さんもきっとそうだろう」
「なんだよ。慧一の事も知らないくせに、えらく肩を持つんだな」
「だって…リンを愛しているから、わかりあうものがあるんだよ、きっと」
「いつか、ミナを慧に紹介したいな」
「嫌だよ。あんなかっこいい人とリンを張り合っていたって知られたら、おれの立場がない」
「そういうものなのか?俺にはさっぱり理解できない」
「リンはそういうのには鈍感だからね」
「…言われっぱなしで勝ち目がないね…それで」
「なに?」
「俺たちはこれからどうするんだ?」
「…」
「俺の想いは変わらない。だが、ミナは慧一を悲しませたくないと言う。なら、俺とミナの間にもセックスは存在してはいけない…と、言う風にも捉えられるんだが…ミナはそれを望んでいるのか?」
「それは…」
「過去を慈しむ友達として、付き合っていく?」
 
 俺の問いにミナは俯いたまま、黙り込んだ。
 そして、俺に背を向け、海へと目をやる。
 襟元に隠れそうな項に、昨晩の名残りが赤く染まっていた。
 ミナは一生俺を必要をしないと言うのだろうか。
 それとも…




芙蓉


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リンミナシリーズはこちらからどうぞ。目次へ


● COMMENT ●

拍手の内緒コメを下さったAさん。
初めまして。
コメントありがとうございました。
そうですね、終わるのは寂しいのですが、
始まりがあれば終わりがあるものですからね、仕方ないです。
本当は一年ほどで終わる予定だったのですが、力量がないためにこんなに時間がかかってしまいました。

みんなが幸せな未来を歩くにはどうしたら良いか…そればかりを考えていた二年間でした。
最後までおつきあい願えたら、うれしいです。


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