FC2ブログ
topimage

2019-09

君の見た夢 16 - 2008.11.20 Thu

   9.  愛しい人

夜明けまでには、まだ幾分ある。
リビングのソファに深く座ったまま、もう何本目になるかな…煙草に火を付けた。
肺の中の全ての細胞に行き渡るように深く吸い込み、そしてゆっくり煙を吐き出した。

完全に俺の負け。

決して逸らそうとはしないユキの視線に耐え切れなくて、逃げるように寝室を後にした。

後悔していた。
許せない事をじゃない。
嫉妬に任せてユキを滅茶苦茶に抱いた事をだ。
目の前に差し出された身体だけじゃなく、あいつの心さえも全部俺が汚してしまったように思えて、どこまで自分の欲望丸出しであいつを傷つけりゃ気が済むんだと、自己嫌悪もいいとこだ。
涙も出ねえ…

現実に…この世界に居ない奴に…俺と瓜二つ、いや俺自身といってもいいのか…そいつに嫉妬するってのはおかしいんじゃねぇか?実際には居ねぇんだし…
でも…あの声が、目の前の俺じゃないと知らされた時、俺は自分の醜い嫉妬心を抑える事なんて出来なかったんだよ。

これは消える事の無い汚点なのか?こうやって身体を繋げる度に、俺は違う存在の…香月麗乃の存在を確認しなきゃならないんだろうか…
残酷すぎる気がした。
純粋にユキを想い、求め、確かめ合う事だけでこの上も無い幸せを感じていたんだよ、本当に。

…もう、そんな時を取り戻す事はできないの?

「麗乃…」
気づかないうちに目の前にユキが立っていた。俺のジャージを穿いて、上は何も着ないで…
「まだ…早いから、寝てろよ」
「話があるの」
「…寒いから…なんか着ろよ」
少し笑って「大丈夫だって…」言う。いや、風邪引かれたら俺が困る。
俺の前に座って、俺の膝に両の手を置くとその上に頭を置いて俯いたまま…少しずつ明るくなってきた部屋にユキの白い背中の輪郭が次第にくっきりと浮かんでくる。
「俺さ…もうおまえに…抱いてもらう資格ないのかも…知れないねぇ…」
「ユキ…」
「麗乃を裏切っちゃたんだもん」
「もうその話はやめろって…」
「レイだって…嫌だろ?」
「そんなこと…ねぇよ」
昨晩俺がつけた無数の跡が、少しずつ俺にも見えてきて、その細い身体に酷い仕打ちをしたものだと、又悔やんだ。膝に置かれた頭を撫でてやりたくて手を伸ばす。
「俺さ、今日…いや、もう昨日になるんだっけ…向こうの麗乃とね、話したの」
「!…ど…やって?」突然のユキの言葉に、右手が宙で止まる。
「あのね、携帯電話通じたの…あの、桜の木の下でね、掛けてみた…したら、通じた…」
おまえの方から…掛けたの?
宙に浮いた手が拳を握った…酷い感覚が又襲ってくる。
どうしょうもねぇ…
「そしたらね、あいつ、すげぇ興奮しててねぇ…会いたいって…」
聞きたくないって、そんな話、なんで俺に聞かせるんだよっ!
「そんでさぁ…俺のこと愛してるって…叫ぶんだよ、馬鹿みたいに…」
「…やめろよ…」
「…だからな、俺は言ったんだよ…忘れないって…忘れたりしないって…」
どんな顔してそんな言葉を吐くんだよっ!俯いたままじゃ見えねぇよ、おまえの気持ちなんか…
「なんで…なんでおまえは…そんな事俺に…話すの?…そんな話聞いて…俺が喜んであげられるって…思うんか?」
「…思わねーよ、そんな事。たけど…」ユキはゆっくりと顔を上げて俺を見上げた。
泣いてはいない。
…何を考えているか…俺にはわからない…
「おまえに嘘はつきたくねぇから…俺は…ずっとあいつを…あっちの麗乃を好きだから…だけどな、おまえも離したくない。…だけど、おまえを繋ぎとめる権利なんてないからさ。これはおまえが決めなくちゃならないんだ…」
「…」
「わかる?…俺はもう…おまえだけのもんじゃ…ない。おまえがどう言ってもね、許せなくてもね、あいつを好きだって想い、消せないんだ…だからおまえは…俺を捨てていいんだ」
「…んなこと…」
「もう、別れるって…近づくなってゆってくれ。辛いけど、努力する。だけどな、お、音楽はやっていきたいからさ。一緒にバンド続けるのは、許してな…それヤメロって言われたら、俺生きてらんねーし…おまえと付き合うのは止めにしても、昔みたいに親友の付き合いも出来なくてもさ…おまえとね、一緒に音楽やっていければ俺はそれで…我慢するから…」
「おまえ…何言ってんの?」
「だから…おまえが俺を嫌いでも…俺はおまえを…ずっと…好きなんだって」
「…あっちの香月麗乃も好きで…俺も…好きなのか?」
「…身勝手すぎるってわかってるけど…あっちの麗乃を好きになったって、おまえを…おまえに対する気持ちが少しでも減ったなんて思えねぇものっ!…滅茶苦茶だって…都合いい話だってわかってるけど…本当にそう感じてるんだから、しょうがねえだろっ!」そんな涙目でキレられても…
テンション上がりきって、完全に逆ギレ状態だよ。

だから俺に…どうしろってゆうんだよ。おまえと別れてこのまま一緒にバンドやるって選択と、あとは…向こうの麗乃を好きなのもひっくるめて、おまえを好きでい続けろってことなのか?
「…」
「…なんとか言えよ」
「…なんとか…」
「ふざけるな…俺は真剣だ」
「いや、おまえの言い分がな…すげぇ我儘過ぎて…怒る気にもなんねぇつーか…俺が、もう…決めてしまってるつーか…」
「はぁ?なんなの?」
「無理だって言ってんの」
「何が?」
「おまえと別れんの…無理に決まってんだろうが…」そんなの、わかりきってた事じゃねぇか。
ユキにどんな相手ができたって、俺の気持ちは揺るがないって…そんな事、ずっと前に決めてしまってたんじゃねぇか…今更、異次元に俺に良く似た奴が居ようと居まいと、それが俺の気持ちを萎えさせるなんて事はねぇんだよ。ユキに対する気持ちはそんなもんじゃねぇもの。
そうだよ、俺がユキを誰よりも好きなのが一番大事じゃねぇのか?
ユキが俺を好きなのも変わらないって言ってくれたのが本当なら、俺は…

「麗乃?」何も言わない俺を不審に思ったのか、頭を捻る由貴人の肩を掴んで抱き上げるとそのまましっかりと抱きしめた。やっぱりだ…身体、冷たくなってる。早く温めたくて腕に力を入れる。
「れ、い…」
「いいんだよ。もういいんだって…おまえに対する答えね…全然許しちゃいねぇけどな、許す。許すから…」
「あ、わ、わかんねぇんだけど…」
「だから、おまえが誰を好きでもねぇ…」おまえの中のそいつの存在を消してしまう程に俺が愛せばいいんだよな。いつか絶対忘れさせてやるから…これは俺のエゴでしかないけど、許してくれよな。フィフティフィフティって事で。
「おまえを離さないって事だよ。わかった?ユキ」
「…いいの?…俺、レイと…おまえと一緒にいて…いいの?」
「離れたいっていってもね、俺が離さないの。だからね…ユキ。もう勝手に…俺の手の届かないところになんかぜってー行くなよ…なっ?」
「麗乃…」
今な、俺、凄く言いたい言葉あるんだ。
俺は今までその言葉を敢えて口に出さなかったけれど、それは言葉の持つ意味がわからなかったから。
でも今、この言葉を使う意味がわかったような気がする。
相手を想うだけでも駄目なんだね。何もかも…罪や汚さも弱さも…全部ひっくるめて受け止めて、包み込んで…守ってゆきたい…
俺にその包容力があるかどうかはちょい疑問だけど、俺は由貴人を離したくないから…きっとね、ずっとね、おまえをすげぇ好きでいられる自信があるから…

まだちょっと不安定なユキの心…これ以上曇らせぬように、目蓋にとびっきりの優しいキスをして…

「さっきは酷くしてごめんな…」
「…うん…」
「ユキ…愛してるから」驚いて見つめるその目に笑ってやるの。
「本当に…愛してるんだよ、おまえを…」

ねぇ、お互い、許しあって生きていこうなぁ…これからだって、俺は傷つきながら生きて行くんだから。そんなのわかりきってるから。だけど、耐えられない痛みなんてないと信じて…隣におまえの存在を確認してまた前を向いて、一歩一歩、俺の求めるモノに向かって…歩いてゆくだけなんだ…

…この右手に繋いだ手のぬくもりを感じながら…






明日は絵の方を頑張らなきゃならんので、今日終わらせます。
それにしてもユキの最強の技は我儘だったという…(^_^;)

● COMMENT ●


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://arrowseternal.blog57.fc2.com/tb.php/71-6f2ecccb
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

君の見た夢 終 «  | BLOG TOP |  » 君の見た夢 15

プロフィール

サイアート

Author:サイアート
イラストと駄文を更新しております。

少年愛を中心としたシリアス重視なオリジナル作品でございます。

ゆっくりしていってね~

サイズを記憶するフォントサイズ変更ボタン

文字を大きくする 文字を規定のサイズに戻す 文字を小さくする

ツリーカテゴリー

Script by Lc-Factory
(詳細:Lc-Factory/雑記)

最新記事

FC2カウンター

リンク

このブログをリンクに追加する