FC2ブログ
topimage

2019-09

藤宮紫乃編 「Sonnet」 6 - 2011.02.22 Tue

6、
「おまえ何しに来たんだ」
 廊下を歩きながら凛一に問う。
 昼休みの午後、運悪く凛一の姿を見た生徒達は、悉(ことごと)く赤い顔をして深々とお辞儀をする。
「何って、メンテナンスに決まっているだろう。新しい建物は、地に馴染むまでは細かく点検と手入れをしなきゃならないからね。自分の建てたものは、俺自身の目でキチンと見直しておきたいんだ」
「ひとりでか?」
「そうだよ。本当は体育館は慧一が見るのがいいんだが、あっちも手一杯でね」
 『あっち』とはニューヨークの事務所のことだ。スタッフの人数を増やしたとは言え、仕事の大方を慧一と凛一のふたりで荷っている。決まった休日など殆ど取れないと、慧一も漏らしていた。
「ふたりとも仕事のし過ぎなんじゃないか?身体を壊しては元も子もないぞ」
「俺はおっさんじゃねえんだから心配ねえよ。元より、慧一は35になるんだから、そろそろこれにもメンテが必要かな」
 大事なパートナーにさえ、にべもない。人事とはいえ気に病んでしまうのは、やっぱり歳の所為か。
 俺は頭の片隅にあったわだかまりを確かめたくて、凛一に問う。

「おまえ、この間の竣工式の時、水川青弥と仲良さそうに話していたよな」
「あん?」
「まさか本当にヨリを戻したわけじゃないだろうな」
 渡り廊下の手前、午後の日差しが厳しい。それから隠れるように庇のある影へ身を移した。
「なんで?」
 立ち止まった凛一は腑に落ちない顔を向ける。
「去年のクリスマスの時、ミナの美術展を見に行けって言ったのは、他ならぬあんただったよな。その所為でっ!俺たちがヨリを戻したと言ったら、あんたは責任を感じて、慧に許しを請うのか?」
「…」
 確かに俺はあの夜、嶌谷さんの店で凛一に会い、水川の展覧会を観に行けとけしかけた。翌々日、この学院へふたりは揃って顔を見せ、にこやかに微笑んでいた。
 俺はその時、どう思った?
 …この学院を卒業して、ふたりが離れ離れになり、そのまま別れたと知った。
 これで慧一の気持ちがやっと落ち着くだろうと、俺はそれを喜んでいた。だが、一方であれほどの仲だった凛一と水川の絆がこうも簡単に切れてしまうのかと、残念にも思った。
 …いや、どこかで信じたかったのかもしれない。
 この学院で生まれ育った「恋」の行方が、また結びつく事を…。
 同時にそれは慧一を傷つけることにもなる。
 俺の本性の深いところで未だに慧一への遺恨が燻っているとは、考えたくない。
 だが微塵もないとは言いきれないところがもどかしい。

「慧一は…凛一、おまえに関してはこちらが呆れるほどに寛大だよ。だけど俺は…おまえが俺を家族のひとりとして認めてくれるなら…俺は兄として忠告するよ。慧一を不安にするな」
「慧一が不安?ミナと俺の仲を気を揉んで?不安なのはあんただろう。慧一は納得しているよ。俺がミナを愛している事を」
「…」
「…もしあんたの望みとおりに俺とミナの関係を無しにしたいのなら、ミナの存在を、もしくは俺をこの世から消さなきゃならなくなるな」
 凛一の潔さは呆れるくらいだが、この件に関してはまっとうな正論だ。俺は何も言えない。

「この世に愛し合ったふたりっきりで生きていくとして、不安が無いといえるのか?不安という感情は人間であれば誰だだって持っているだろう。俺がミナと付き合っているとしても、俺が慧一を愛していることに翳りはない。俺と慧一の絆がそうである限り、俺達は揺るぎはしない。ミナは…アレだ。TVの中のスターに恋するようなもの」
「TVの中の奴とは普通は寝ないものだがな」
「慧一以外とセックスするのが、紫乃兄ちゃんはそんなに気に入らないのか。こりゃ敬虔な修道士だな。この学院に居すぎて宗旨替えしたのか?」
「ふざけるな。俺は…」
「慧一の為…だろ?」
 こういう歯に衣着せぬところが憎ったらしい事この上ない。

「今もあんたには慧一が第一。一番愛しい人。だけど、慧一には俺しかない」
「おまえほどの自尊心を持った奴を愛した慧一を哀れんでるだけだ。慧一だけじゃ飽き足らなくて、水川とも本物の恋をするという。おまえは慧一の愛情の上に胡坐を搔いているとは思わないのか?」
「まったく思わないね。つまり俺は光みたいなもんだ」
 そう言って、凛一は影から陽の当たる場所へ進んだ。光を背に受けた凛一の輪郭が白く輝く。

「太陽は人を選んで光を注ぐか?俺はね、できればだ、俺を乞うすべてのものに光を与えたいと思う」
「おまえはキリストか?」
「まさか、あんなボランティアスキ~になろうとも思わないけどね。俺はちゃんと選んでいるだろ?ファウストとグレートヒュンを。即ち慧一とミナを」
「…」
「メフィストフェレスに愛されたふたりはどうなった?…天国に行ったじゃないか。大団円だ」
「高慢な悪魔め…」
「悪魔と天使は非常に良く似ているっていう学説が常識になりつつある」
「適当なことを言いやがる」
「俺のことはどうでもいいがおっさん、自分の救いを考えろよ。俺はあんたには手出しはしないんだからな。自分で契約を取り交わせよ」
「言ってる意味がよくわからん」
「シラを切るな。あれだろ?この間、紫乃が寝た相手って」
「え…」
 なんつー勘の良さ。だからこいつは侮れない。って感心している場合か!

「なんで、そう思う?」
「キーワードはいくつかあるよね。千葉、けい、すけ。慧一に良く似た体格。たまたまここの教育実習生だった事。そして紫乃が指導役だった…」
「それだけじゃ決め手にはならんよ」
「じゃあ、俺の予言だよ。紫乃はあの千葉啓介とくっつく」
「…おまえの予言なんて恐ろしすぎて、絶対背きたいものだ」
「俺は紫乃の幸せを願ってやまないんだぜ?お兄ちゃん。千葉啓介、俺も気に入った。あいつを選べよ」
「…簡単に言うな。俺の運命がそうであっても、選ぶのは俺だ」
「勿論だよ。俺はオブザーバーでしかない。だから勝手に言うだけだ。千葉啓介は紫乃の運命の相手だって、さ」
 上目遣いに俺を見つめ(凛一の方が上背があるのにも関わらず)、口端だけを軽く上げる癖。
 見慣れた俺でさえ、見惚れる程艶やかな顔をする。

「ミナとはあんたが想像するような恨めしい事は残念ながら無いよ。こっちにその気があっても、向こうは今あるパートナーを気遣ってキスさえさせてはくれない。律儀で貞節。自分のものだったら有り難いが、人のものだとこうも口惜しい。紫乃、適当な恋歌でも教えてくれよ。ミナに贈り付けてやる」
 少しだけ考えて、百人一首の和歌を詠んだ。
「…今はただ 想い耐えなむ とばかりを 人づてならで いうよしもがな 
(私はあなたことは諦めます。忘れます。でもそのことをあなたに直接会って伝えたい、人づてではなく、私の口から)」
「まあ、俺も諦めの悪い男だが、紫乃には負けるよ。その和歌、慧に贈っておく」
「ヤメロ、人聞きの悪い」
「…紫乃、あんたはいい兄貴だ。幸せになれ」
 そうして、凛一は俺の頬に軽いキスを残し、渡り廊下を飛ぶように走り去って行く。
 …慧一と同じ言葉を吐いて。

 国語準備室へ戻ったが、啓介の姿は無かった。
「千葉、先生は?」
 他の教師に居所を尋ねる。次の授業の準備の為に社会科準備室へ行ったのだと聞かされた。

 凛一との関係を誤解されなかっただろうか。
 後でいくらでも説明できたはずなのだが、なぜか一時も早く千葉啓介に話しておきたかった。
 宿禰凛一、奴には絶対近づくな、と。



紫乃と慧一
捨てきれぬ慧一への恋慕。若かりし頃のふたり。


凛一のゲスト出演はここまで。以後は出てこないのでご安心を。

「Sonnet」 5へ /7へ





お気に召しましたらポチなどして頂ければ、嬉しく思います。

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

● COMMENT ●

今後のリンの登場が無いのは 読者にではなく ”啓介”に 安心なんでしょうねー(*^‿・)b

だって 紫乃との関係を知らない啓介にとっては すっごく不安材料な御方なんですもの、リン大天使は~♪

紫乃にっとても  リンにとっても 絶対に 「アリエネェー」と 罵詈雑言が 飛び交いそうなのに・・・

紫乃は 啓介の事を 心配している様でだけど、啓介は 疑っているか 不安になっているか。
(-へ―;)?ん・・~~。byebye☆

啓介たんは凛たんに興味があるのか?やりたいと思う相手なのか?
紫乃たんはそこんところが非常に気になるところ。
どっちに転んでも自分が困るから。
でもこの人って取り越し苦労の気が非常にあるよね。年寄りの冷や水?(;´∀`)
啓介たんはマイペースなの。
きっとOかBだね。

サイアートさん こんばんは。
文からですが、 画も大好きです!

なんといっても 「秀麗な男」達だヮ。
各キャラ達....

10代20代とは又別の 30代としての悩める紫乃さんの今を楽しみにさせて頂いています。 応援として コチラにパチパチ!!

k.kさん>こんにちは。
コメントありがとうございます。

文章も絵もまだまだ未熟で、お恥ずかしい限りなのですが、頑張っております。
応援ありがとうございます。

あ、30代をご贔屓にされるのは正解ですよね~
やっぱ男は30から…
…良い男に限りますが~(;^ω^)


管理者にだけ表示を許可する

フリー絵。「光」 «  | BLOG TOP |  » 春爛漫

プロフィール

サイアート

Author:サイアート
イラストと駄文を更新しております。

少年愛を中心としたシリアス重視なオリジナル作品でございます。

ゆっくりしていってね~

サイズを記憶するフォントサイズ変更ボタン

文字を大きくする 文字を規定のサイズに戻す 文字を小さくする

ツリーカテゴリー

Script by Lc-Factory
(詳細:Lc-Factory/雑記)

最新記事

FC2カウンター

リンク

このブログをリンクに追加する