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2019-09

天使の楽園、悪魔の詩 その五 - 2011.06.24 Fri

5、
 学長との話が終わった俺は、ルゥとアーシュが待っている部屋へ戻ろうと立ち上がった。
 部屋を出る際、学長はアーシュ達の分のキャンディーを忘れなかった。
 
 キャンディーを受け取りながら、俺はもうひとつだけ学長に問いかけた。
「先生、『官能』の力とはどういうものなんでしょうか?エドワードはセックスを知ることが力を得ることになると言ったんです」
「そうですか…」
 学長は明らかに困った顔で俺を見つめた。
「君がその意味を知るのはまだ早いと思います。…ベルにとっては間抜けな言葉でしょうが、子供は子供らしく生きなさい。どうせ近い将来そのことを知る日が来ます。その時を待つ子供の時間は無駄じゃない。それだけです」
「…わかりました」
 はぐらかされた…
 「官能」について、これ以上学長から聞き出すのはどうやら無理らしい。
 
 子供は子供らしくか…一刻も早く大人になりたい俺にはホントに間抜けな気休めだ。
 仕方ない。別な手段を考えよう。
 俺の思惑を学長に悟られぬよう、気にもしていないフリをしてお礼を言い、俺は学長室へ戻った。
 ドアを開けた途端、ソファに座っていたふたりが飛び跳ねるように立ち上がって、俺に走り寄る。

「ベルっ!どうだった?」
「トゥエはちゃんと叔父さんに話してくれるって?」
「もう、ベルに酷い事したりしないって約束できるの?」
 俺の腕を取り、ルゥとアーシュは必死に俺の様子を伺う。
 …本気で心配をしてくれていたんた。
 今にも号泣しそうな顔で俺を見つめるふたりを見て、こっちの方が泣きそうだ。

「アーシュ、ルゥ…大丈夫、大丈夫なんだよ」
「本当に?」
「もう叔父さんのところに帰らなくてもいいって?」
 真っ直ぐに俺の心に飛び込んでくるふたりの純粋無垢な精神の力。
 凄まじい濁流が俺の心の染みをすべて洗い流していく。
 後に残るのは眩い清いせせらぎだ。
 …なんと言う感情をくれるんだろう。軽蔑や同情でもない、ただひたすらに俺を憂うだけの想う心。
 俺は…その想いにどうやって応えればいい。
 
「…うん、もうね、なにがあったって僕は傷つかないんだ」
 俺は零れる涙を拭いて、明るく笑った。
「…ホント?」
「うん、ホントだよ。全部ルゥとアーシュのおかげだ。ありがとう」
 ありったけの心を込めてそう伝えた。
 その言葉を聞いたふたりは俺に飛びつき、そして泣き出した。
「良かった、良かった」と、叫びながらふたりは泣いた。
 その涙が、その感情こそが、俺を支える「力」になり得るのではないか…
 ふたりを失いたくない。
 ふたりの信頼に値する人間になりたい。
 ふたりを守るためなら、どんなことだって…

 今日から俺はもう泣くだけの子供ではいまい。

三人


 それから俺は休日になっても家には帰らなくなった。 
 この守られた空間で自分を鍛えることが必要だと思ったからだ。
 学長が言うように、まだ子供の俺はあいつらを打ち負かす(または言い負かす)術はない。力と知識を得る時間が必要だった。
 暇があれば図書館へ通った。
 図書館は「天の王」学園の中心である聖堂と隣接している。
 西の中等科からでも北の高等科からでも同じ距離で通える。
 冊数はこの街最大だと言われ、公にできない秘蔵書も多いと聞く。
 簡単には貸し出しは出来ないけれど、この図書館に来れば、年長の生徒からも「力」の秘密を聞けると思ったんだ。
 だが、そんな簡単には事は運ばない。
 俺はまだ初等科だから、図書館へは簡単に入れなかったし、話を聞こうと思っても「せめてその小さなタイがリボンにならなきゃ、理解できないさ」と、軽くあしらわれる。
 性体験だったらおまえらに負けないぞ、と息巻いても、彼らはせせら笑うだけだ。
 仕方がないから、自分のテリトリーに帰る。
 俺の周りに変化はない。 
 皆あどけなく純粋に子供時代を楽しんでいる。
 少しばかりの残虐性はあっても無垢ゆえだと許される時代だった。

 「ベル、冒険に行くよ」
 アーシュとルゥが俺を呼ぶ。
 「うん、わかった」
 彼らの傍にいる時は、俺も無垢な子供でいられる気がする。


 翌年、初等科の最終学年を迎える夏。俺はスタンリー家の屋敷にひとり旅立った。
 広間で待っていたエドワードは、疑心暗鬼の顔で俺を見た。
「まさか、君から来てくれるなんて思わなかったよ、クリストファー」
「だって、あなたが迎えを寄越さないから、ひとりで来るしかなかったんだ」
「嬉々として来てくれるとは思っていないからね」
 エドワードはクッションの深いソファに身を投げ出すように座り込んだ。
 俺は彼をよく見る為に、彼の座った正面に近づいて立った。
 
 去年に比べてエドワードは随分歳を取ったように見えた。まだ28のはずなのに、四十過ぎの人生を見極めた疲れきった親父殿…だが嗜虐に満ちた引き攣った笑いも、今は口元には浮かんでいなかった。
 俺は哀れに思った。
 おかしい話だが、どう考えても俺はこの人を嫌いにはなれない。
 それにどちみち俺がこのスタンリー家を継がなきゃならないのなら、この叔父の力が必要となるはずだ。

「ねえ、エドワード」
「…何だ?」
「僕ね…学長に『真の名』を貰ったんだ」
「え?」
 エドワードの青い瞳に光が戻る。俺はそれを見逃さない。
 エドワードは何回も瞬かせ、俺を凝視した。
 俺と良く似た面差し、目の色、髪、背格好だって、僕が大人になればエドワードと同じくらいにはなるだろう。ねえ、やっぱり俺達は分かち合うべき関係なんだろう?

「エドワードは…『ユーリ』って呼ばれていたんだね。僕ね、色んなことを、学長から沢山聞いたんだ」
「生徒の詳細を漏らすなんて情報漏えいだ。それともモウロクしたのかな、トゥエ学長も」
「僕は聞いて良かったと思っている。だって、エドワードの事をすごく好きになれたのだもの」
「…簡単に騙されるなよ。学校は自分らの好みにコントロールするところだ。それでいて何の責任も負わない。まさに理想だけを押し付ける」
「理想がなければ、人は前を向いて歩けないよ。僕にとって理想は学校で学び、あなたの理想を僕に導いて欲しいと思っているんだけどな」
「簡単に良く言う。…俺が…失敗したことを嗤っているのか?クリストファー」
「笑わないよ。だって、あなたは充分苦しんだ。今だってそう…だけど僕がいる。ひとりじゃないって思えれば苦しみも分けられるでしょ?僕の親友はそう言ってくれた。だから…僕は前を向いて歩けるんだ」
「…」
「エドワード、僕があなたに与えるものは信頼と愛だ」
「信じられない。俺はおまえに…まだ子供のおまえに…」
 エドワードは口ごもり、そして頭を抱えた。
 その時、気がついたんだ。彼は俺を弄んだことを、ずっと後悔していたのだと。
 俺はなんだか可笑しくなった。
 彼は貴族のやり方を俺に教えただけであり、それは彼らの中では当たり前であったのだから、普通の貴族であるなら、気にも留めることもない。
 真面目で純粋なエドワード。トゥエの話す「ユーリ」の頃と少しも変わっていない。

「エドワード、あなたを愛している。信じて。僕は何ひとつ傷ついていない。だからふたりで描いた理想を実現しようよ。その方が自堕落の生活よりも、極めて刺激的な『力』を発揮できるとは思わない?」
「クリス…おまえ、革命家にでもなるのか?」
「僕の真の名は『ベルゼビュート・フランソワ・インファンテ』って言うんだ。…ね、負ける気がしないでしょ?ユーリ」
「…素晴らしいね」
 エドワードは両手を広げて俺を抱き寄せた。
 俺達は誓いのキスをした。決して失望させないとお互いに誓った。
 俺の顔を撫でながら、本当に良く似てると優しく笑う。
 「母に似ていた方が良かった?」と、言うと黙ったまま微笑んでいる。

「ひとつ聞いていいかい?」
「何?」
「なぜ、私を許す気になったんだ?」
「僕が生まれたことを、あなたが喜んでくれたから…それだけで充分だった」
「喜ぶのは当たり前だったよ。ナタリーの血が流れている赤子を、私は愛さずにはいられなかった…」

 その夜、寝室に誘ったのは俺の方だった。
 一年前と違って、エドワードは俺の身体のひとつひとつを丁寧に愛してくれた。
 
「少年の成長とはとてつもないね」と、笑う。
「心?それとも身体?」
「いや、追求する欲と技だ」
 やわらかな微笑みをたたえながら俺の胸を愛撫するエドワードに、もう暗い退廃した影は見えない。
 
 エドワードとの「官能」を楽しみながら、俺はひとつの戦いに勝ったのだと思った。



ベルエドワード



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● COMMENT ●

エドワードと 新しい関係を築き 理想を現実に!

ベルが そう思えたのも トゥエ学長の話しを聞いたのも あるでしょう。
でも アーシュとルゥの存在が 大きいと 私は思います。
素敵な友達がいて 幸せですよね友―ヽ('∀')メ('∀')メ('∀')ノ―情♪

ベルの成長によって スタンリー家が どの様に変わって行くのか 楽しみですね。

大人の面と 子供の面を併せて持ち 葛藤するベル
とっても 魅力的な人ですね♪

今日は そちらの方は 雨なのでしょうか?
私の方は 晴れて 暑くて蒸して 用事で 彼方此方と 外出しましたが、ヘロヘロ~です..._ノフ○ グッタリ
息子さんも 此方の蒸し暑さ(特に熱帯夜!)に 吃驚されてるのではないでしょうか?
サイアート様も バテない様に いっぱい食べて しっかり寝て 元気でいてね♪
(*´ω`)っ【゚.+゚.+:。byebye☆゚.+:。】

これでベルは強力なパトロンを得たので、思う存分好きにできますね。
エドワードは愛すものが得られて嬉しいだろうし…(この人案外単純な気がする~)

次はアーシュ視点でプライベートキングダムの続きです。

こちらは昨日から晴れているんですが、めちゃくちゃ蒸し暑くて…今日は夕方からエアコンつけました~(;´Д`)
息子たんは毎日電話がかかってきます(;´∀`)
初めてのひとり自炊が楽しくて、毎日献立何を作ろうかな~って悩んでます。

ありがとうございます。毎年この時期から夏バテが始まりますので、体重が減るので怖いです…
今165の47なので、これ以上痩せないように頑張ります(; ・`д・´)


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