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2019-09

純愛クリスマス(リンミナ番外編)後編 - 2011.12.25 Sun

クリスマス-2

純愛クリスマス 後編
  

 リンの宿泊する超高層ホテルの部屋は、相変わらず高級感の漂うしつらえだ。
 中央のデカいダブルベッドが存在を鼓舞しているように見える。それを見るだけで、過敏になる自分が嫌になる。
 リンが言ったとおり、おれはリンと話したいから、ここに来ただけなのに。

 スーツの上着を脱いで、タイを解いたリンは、ルームサービスで頼んだワインとつまみを窓際のテーブルへ移した。
 38階から見るクリスマスの夜景は美しい。
 あの夜もこうやって、リンと一緒に夜景を見たんだ。
 
「綺麗だね」
「うん」
 時間が経ては、人は変わる。一時だって同じ感情ではないはずなのに、どうしておれは、ここまでリンを思い続けることをやめないのだろう。やめることができないのだろう… 
 導く道は…手を取り合って一緒に歩ける道は、ふたりには無いのに。

 どうしてリンは…おれを誘ったりするのだろう。

「リン…慧一さんは?」
「え?慧は向こうだけど」
 向こうというのはニューヨークのことだろうか。
「お世話になってるブライアン教授夫妻とクリスマスパーティなんだって。本当は俺も誘われていたんだけど、こっちで過ごす事になってたからね。慧一だけでも行けて良かったよ。夫妻は俺達を本当の家族みたいに可愛がってくれるんだ」
「そう」
「俺も明日の夕方の便で、ニューヨークに帰るけどね」
「…そうなんだ」
 明日には…居なくなっちゃうんだ、リン。
「正月は向こうで?」
「多分そうなる。両親と嶌谷さん達と一緒に、教授の別荘で過ごす予定だ。休日って言うけど、年寄りの世話で結構大変なんだぜ」
 
 リンはいい。いつだってリンを愛してくれる人達に囲まれて、温かい感情に包まれて、幸せなんだろう。
 おれにだって、季史さんがいる。帰ろうと思えば帰れる家も家族もいる。
 だけど根本的に…すべてにおいて、リンの豊かさには及ばない。
 比べても仕方ない。比べる事事態間違っている。卑屈になっても仕方が無い。
 だけど、敵わないって思い知らされる自分が情けない。
「…」
 会わなければこんな感情に支配されなくても良かったのに…
 なんだかここに来た事を後悔し始めている。リンと一緒に居る今が…苦痛だ。
 
「おれ、帰るね」
「え?なんで?まだワイン半分も飲んでないじゃん」
 おれのグラスにワインを継ぎ足したリンが、驚いたように顔を上げた。
「ゴメン。おまえと一緒に居ると、つまらない自分に嫌気が差す。…ゴメン、リンの所為じゃないんだ」
「…」
 コートを手に取り、すばやく袖を通すおれを、リンは身動きひとつせず、黙って伺っている。
 「帰る」と言えば、リンは引き止めてくれる。 そう思っていた自分が居ることを思い知らされた。
 帰りたくないのは、おれだ。一緒に居たいって願うのは、おれなのに…
 泣きたくないのに、胸が詰まって、目の奥が痛くなる。
 リンが好きだから、辛い。
「じゃあ、また…」
 声の震えがバレたかもしれない。おれは急いで部屋から出ようとドアノブを持った。

「ミナ、ほら、受け取れよ。クリスマスプレゼント」
 リンは座ったまま、おれに向かって、なにやらほおり投げた。
 受け取ったそれは赤いリボンを結んだ長方形の箱。
「なに?これ」
「万年筆だよ。おまえ、ふた月前、スペインで万年筆失くしただろ?だから、プレゼントするよ。モンブランのマイシュターシュテックの黒だ。俺とおそろいだから失くすなよ」
「な、なんで…失くしたのをリンが知ってるの?」

 十月の半ば、確かにおれはスペイン、バルセロナの芸術祭に招かれて、初めての単独海外旅行を経験した。
 と、いうのも、大学からお世話になっている教授がおれに出展するように薦めてくれた絵が、バルセロナ芸術祭の新人賞なるものを取り、授賞式に出席することになったんだ。
 まあ、なんというか…国内のひとり旅っていうのは慣れているんだが、知らない土地で、しかも海外でのひとり旅にかなり浮かれていたのは白状する。
 それを…
 なんで、リンが知ってるんだ?百歩譲って、新人賞を貰ったことは、日本の新聞にも小さく載っていたから、リンが知り得たのはわかる。
 だが、万年筆を失くしたって…誰にも言ってない。
 …いや、現地の案内役の人。
 スペインを案内してくれた日本人のボランティアの橘さん…って、どうやってそのオジサンとリンが繋がるんだよ。

 ドアのノブから手を離し、おれはリンへ一歩近づいた。
「なんでって…」
 リンはちらりとおれの方を向いて、気まずそうに右手の人差し指で頭をポリポリと掻く。
「俺が行ったからだろ」
「スペインに?」
「そう」
「バルセロナに?」
「そう」
「なんで?」
「…おまえが新人賞を受賞したのを聞いて、俺も嬉しかったの。でも、連絡する暇もなくてさ。ちょうど仕事でイタリアのミラノに居た時、おまえが授賞式に出るって、風の便りに…」
「風の便りって…誰さ」
「おまえんとこの村上教授だよ。俺、横浜の芸術祭の時、建築部門でお世話になったことあったの。そんで教授とはメル友になっちゃってさ…。俺がミナの友人だってご存知だが、おまえの事は内緒にしてもらってた」
「はあ?」
「いーじゃん、別に。そんで、バルセロナに行ったら、おまえはもうそこに居なくて」
「…折角だから色んな観光地をうろついていた…」
「だろうと思ったよ。そんでおまえの出展した絵を見に美術館へ行って絵を見てたら、話しかけてくる日本人が居て…」
「それがボランティアの橘さんだったの?」
「そういうわけ」
「…」
 絶句した。どんな奇跡だよ。どんな縁なんだよ。そんなに世界は狭いのか!

「大体おまえが悪いっ!」
 リンは立ち上がり、怒ったようにおれを指差した。
「なにが?」
 おれも負けられないと仁王立ちで構える。

「おまえの絵のモデル。どう見ても俺じゃないか。そりゃ今に始まったことじゃないかもしれないが、酷くなる一方だ。変に写実的に描きやがって。あれじゃ、どこに居ても俺が絵のモデルってバレバレだろうが…」
「そ、そんなこと言ったって、絵なんだから、おまえは関係ない。モチーフって奴は作者の想像であって、現実のおまえじゃないし、似てたって…それは美しいものの捉え方だ」
「ああ、ありがとよ。美しい俺を描いてくれて」
「だからおまえじゃないっ!」
「その所為で、その橘さんが『もしかしたらこの絵のモデルの方ですか?水川さんのお知り合い?』とか言われて、そこからは、橘さんにバルセロナを案内してもらったわ」
「…良かったじゃん」
「恋人でもないのにあらぬ疑いをかけられてさ。そんで、橘さんにおまえの行きそうなスペインの観光ルートを想定してもらって…あとはひとりでおまえを追って、グラナダやらトレドやらマドリッドやら…適当なホテルでおまえの所在を聞いて…まあ、捕まるはずないけどな」
「そ、そこまでしたの?」
 確かに芸術祭に参加した後、帰国する日までできるだけスペイン中を観光してやろうと、色々巡ってみたけれど…

「バルセロナで あんまり俺がミナの様子を伺うから、橘さんには、君はミナのストーカーか?って言われて、慌てて否定したんだが…ミナの後を必死こいて追っている自分はマジでストーカーなんじゃないのか?って情けなくて笑ったぜ」
「なんで…」
「なんでって…見知らぬ国でふたり偶然に出会ったっていうシチュエーションって憧れだろうが」
 こいつバカだ…
「違う。なんでメールや電話でおれに連絡しなかったんだよ」
「だから…偶然の出会いって言うのが萌えるんじゃないか」
「おれを追っかけている時点で偶然じゃないだろう」
「ま、そうだけどさ」
 ふてくされながらも顔を赤くするリンがいた。
 ああ、そうだった。普段恐ろしいほど抜け目の無い完璧な魅力溢れる奴なのに、リンは変に一途で純情で間抜けなところがあるんだった。
 どうしよう…たまらなく愛おしい。
 ストーカーでもなんでもいい。おれを追ってスペイン中を回ったと言うリン…おれに執着するリンを愛おしく思わない理由なんてあるものか…
 おれの足は自然にリンに向かって歩み寄っていた。

「おまえがお気に入りの万年筆をホテルで失くしたって聞いたから、クリスマスプレゼントに万年筆を贈ろうと思ったんだよ」
「…」
「ついでに俺も欲しかったからさ。おそろいにして、イニシャルも書いてもらったんだ。…離れ離れで居ても、身に付けるものが一緒だとさ…なんか嬉しいだろ?」
 そっぽを向いたリンの不貞腐れた顔が益々赤くなっていた。
 リンの言葉におれの自惚れた心が舞い上がっていく。
「リン…」
 ゆっくりと近づいたおれを、リンは腕を広げ、躊躇う事なく抱きすくめてくれた。
 抱きしめてくれる力強さを、おれへの想いの強さと…受け取っていいか?リン。

「ミナ。今更、帰るなんて言わないよな」
「う…ん」
「プレゼント、気にいった?」
「まだ見てないけど、きっと気に入ると思う」
「じゃあ、おまえは俺に何をくれる?」
「悪い…何も用意してない」
「あるもんでいい」
「何…さ」
 リンは誰もが見惚れる天使の微笑みをおれに見せ、口唇に人差し指を置いた。
 言わなくてもわかるさ。天使の微笑みの下は狼が舌なめずりで涎をたらしているくらい。

「高かったんだぜ?あの万年筆」
「今夜一晩にその分の価値があるかな?」
「ミナ次第だろ?」
 おれのコートも上着も巧い具合に脱がされ、おれはソファに座ったリンの膝に座らされていた。
 リンはおれのベストのボタンに指をかけた。
 ふと気になっておれは要らぬことを口走った。
「これって不倫だよね。罪を犯していることにならないのか。第一、おれ達は三年前に純愛を貫こうって約束したはずだ」
「おまえの言う純愛をこの先も貫くと仮定しよう…」
 そう言いながら、リンはおれの身体をベッドに押しやった。
 ベッドに寝かしつけられたおれは、眼鏡とネクタイをゆっくりと外すリンをジッと見上げた。
 
「そう…近い未来俺は不治の病で、現世との別れが迫っている」
「なに、言ってんの?」
「枕話だよ。黙って聞け。病院のベッドに眠る俺の周りには、慧一や嶌谷さん。両親、友人達、俺の愛した人達、俺を愛してくれた人たちが、間近に迫る俺の死を見守っている。その中に、おまえは居ない」
「…何故?」
「知らせるなと俺が言った。もしくは知ってても絶対に病室に呼ぶなと命じておいた。俺の死に際をおまえに見せたくなかった。何故なら、もし、死ぬ瀬戸際におまえに会ったなら、俺はおまえを罵るだろうし、後悔ばかりで往生できないからだ。…そして、俺はおまえに一通の遺書を残す。おまえとおそろいで買った万年筆はその遺書を書く為に買ったんだからな」
「…」
 リンは昔から突拍子もない物語を作ることに長けてはいるが…自分の死なんて語ったことも無かったから、何だか胸がざわついてしまう。
 いつの間にか部屋の灯りは消え、枕元のライトがリンの顔を薄いオレンジ色に染めていた。
 リンの少し低い体温がおれの肌に直接伝わった。おれは慌ててリンの背中に毛布をかけた。

「さて、出だしはこうだ。…『親愛なるミナ、君を残して先に死んでいく僕をお許しください…。いや、許さなくて結構だ。俺もおまえを許す気は全くないのだから…』」
「…怖いね」
「まだまだ序の口…『おまえが俺に言い続けた純愛などという下らぬ誓いを立てられさせた故に、死に行く今になっても、俺は自分の思いを貫くことができなかったと悔いが残る。肉欲は罪というおまえの純愛は、俺にとっては下らぬ戯言に過ぎない。俺は…おまえに遺恨を残す。俺を愛してくれた人は俺が死んだら泣くだろう、悲しむだろう。だが時が経てば悲しみは薄れ、良き思い出を偲びながらも、前を向き、人生を歩んでいくだろう。だが、俺の死に目にも会えなかったおまえは、俺を想いつつ一生後悔して生きろ。決して忘れるな。おまえの純愛によって、肌を交わすことなく死んでいく俺の恨みを心に刻んで、生きていけ…凛一より』…どうだ?」
「どうって…純愛なんて、下らないって…リンは言うの?」
「いいや、俺は俺の純愛を貫くって言っているんだよ…ミナ。いつ死んでもいいようにね。空しくなるのだけは…嫌なんだ」
「リン」
「誰に恨まれてもいい。なじられてもいい。ミナへの愛は本物だって、俺は誰にだって誓いたい。純愛ってそういうもんじゃないのかな…」
 リンの言い草もわかる。けれどおれはおれの純愛への憧憬は捨てられない気がする。それはリンへの精一杯のプライドのようなものなのかもしれない。
 けれど、今夜は…
「クリスマスだしな…」
 リンの吐息を感じて耳朶が熱い…
「え?」
「確かに…赦される夜もあっていいだろう…って事」
「…ミナはミナの想いで生きればいいさ。でも慈しみはありがたく頂くよ」
 最後の灯りが消えた。

「ねえ、あの万年筆、遺書を書くために買ったって…本当?」
「そんなの…口からでまかせに決まってるだろ?ミナはバカだな」

 
 静かな聖夜に、頑丈なはずのダブルベッドがギイと、鳴った。

 


前編へ

いかがでしたか?久しぶりのリンミナは。
書いている私は楽しかったですよ。相変わらずのふたりで。
こうなると慧一とリンの関係も気になるところですが、慧一も大人になっているので、少々のリンの我儘は許しているでしょうね。

すいません。今週は何かと忙しいので、連載は新年に持ち越しで~
良いお年をお迎えください。



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いつも堂々として 優雅なリンが、内心は焦り(?) ミナを求めて スペイン中を探す姿、思い浮かべるだけで 可愛くて笑える。(o^^o)ふふっ♪

恋する男ですね、リン♪

お揃いの万年筆の話し
リンが話すと 仮定じゃなく 何かを潜ませているようで ミナだけじゃなく 読者にも 怖くて不安を感じさせます。ォロo((≧ω≦*三*≧ω≦))oォロ

京都は、雪が降っていると聞いてますが、旅行は楽しんでますか。
私の方は、日頃の手抜き家事の皺寄せがーー!ウル(T-T*)ウル

サイアート様、風邪など引かれない様に くれぐれも お体に無理の無い様に お過ごし下さいませ。
素敵な年末&年始をお迎え下さいね。
ブルブルブル((*´д`*))サムゥ・・byebye☆

内緒さん>本当はね…そういうシーンにしたくなかった。
読者にはあのまま純愛を貫いた…か、どうかは各自の想像で良かったので。

私は初めからこいつらはいつかこうなるだろうと思っていたんですがねえ~
リンにしてはよく我慢した方ではないでしょうか。

今年もお世話になりました。
良いお年をお迎えください。
来年もよろしくお願いします。

リンの適当なお話は本当に適当な話です。
こいつは殺し屋に頼んでも死なないと思います。
たぶん長生き。慧一の方が…そういう話を浮かべていたら…40ぐらいで白血病になるとかね…
で、慧一はもう充分生きたからいいと思うんですよ。自分から自由になってリンは好きな人と一緒に幸せになってくれ…と。でもリンは言う。「慧が死んだら俺も後を追うから。本気だ。あの世で幸せになると思うな。俺の世話は慧一でしかできない。最後まで俺の面倒を見るのは慧一じゃなきゃ駄目だ。絶対に駄目だ」と。
それで、慧一は生きようと頑張るんですよ。
そしてずっと長生きするんだと思う。じじいになって、リンが死んだのを見取って、慧もすぐ病気で死んじゃうんだと思う。

…そんなお話は書きませんけどね。けいったんさんだけに教えます。

今年も目一杯応援ありがとうございました。
けいったんさんの応援がなかったら、ここまでがんばれなかったかもしれない。
良かったら来年もよろしくおねがいします。

ああ、朝から大掃除で手がカサカサですうう~(;´Д`)


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