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2019-11

天使の楽園・悪魔の詩 17 - 2012.01.20 Fri

ステュワート座る22

17、
 手を引かれながら、前を歩くスチュワートの後姿にずっと見惚れていた。 
 夢みたいだ…
 白昼夢ってこんな感じなのかな。まるで足元が空中に浮いてるみたいに身体が軽い…。

「さあて…ここらへんでいいか。…じゃあな」
「え?」
 船が見えなくなる舗道まで歩くと、スチュワートは今まで掴んでいた手を離し、おれの方を見向きもしないで街中へ歩き出そうとする。
「ま、待ってっ!」
「なに?」
 しかめっ面で振り返るスチュワートも、…ステキだ。

「あの…おれ案内するってゆった…」
「ああ、そのことか…別に気にしなくていい。あいつが俺についてくるってきかないから、おまえをダシに使っただけだ。もう用は済んだ」
「…」
 おれは黙ってスチュワートの服の端を掴んだ。
「何?…金か?」
「違う…ます。案内するって、王子さまはおれが守るって、あの金髪の人に約束したんだから…約束は守らなきゃならないし…。それに誘ったのはあなたの方なんだから…ね」
「だからなんだよ。やっぱり金なんだろ」
「違う…」
 スチュワートは訝しげにおれを見ている。
「じゃあ、おまえは俺にどうして欲しいんだ?」
「…」
 どう言ったらこの人におれの想いが通じるのだろう。
「王子さまはこの島は初めてなんでしょ?じゃあ、この島をおれに案内させて下さい。…それだけで…いいんです…」
 今日だけでもいい。この人と一緒にいられるなら。

 スチュワートは少し呆れた顔をした後、仕方無さそうに頷いた。
「わかった。おまえに案内をさせてやるから、その王子さまって言うのはやめろ」
「え?…なんで?だってスチュワートはどっかよその国の王子さまなんでしょ?船も立派だし着てるものも高そうだし、あの金髪の人はスチュワートさまって呼んでたし…」
「なんでそうなるんだ。俺は、只の学生だ」
「へ?」
「普通の大学生。まあ、大学って言ってもこの島じゃわからんだろうが…。要は親父の金で学費も生活も充分にさせて頂いているガキって事だ。船も服も親父の金で買ったものだし…まあ、親父だったらこの島を買うくらいの財力は余裕だろうけど…」
「要するに…王さまと同じぐらいにお金持ちのお父さんに世話になっている稼ぎのないロクデナシの息子さんなんだね」
「おまえなあ…言いすぎだ」
 素直な感想を言ったつもりだけど、スチュワートは気に入らなかったらしく、おれの頭を拳固で叩いて「クソガキのクセに」と、王子さまらしくない言葉でおれを罵った。
 スチュワートの拳は涙が出るくらい痛かったけど、怒った顔もやっぱりカッコ良くて、泣きながら顔が緩んだ。
「どこへ行けばいいんだ」と、スチュワートは怒鳴る。
「あっち」
 と、おれは間髪入れずに岬へ行く道を指差した。

 島一番の観光地アヴァターラのカテドラルのある岬へ、スチュワートを案内する。
 港街から歩いて20分もかからない。
 歩きながら、スチュワートは「腹が減った」と言うから、おれは持っていた紙袋のサンドイッチを取り出し、スチュワートに差し出した。
 スチュワートはよく見もせずにそれを口に入れ、食べた瞬間「不味いっ!」と、怒鳴った。
「なんだ、この物体は。こんなクソ不味いものしかこの街にはないのかよ」
「…これはおれの昼飯だったから、一番安いもんを買ったの。スチュワートが食べるならもっと高級なパンにすれば良かったんだけど…」
「ちっ!おまえアルトなんだろ?ちょっとは予測して、用意しておけよ。このカスがっ!」
「ア、ルトって…どうしてわかるの?」
「そんなこたあ、顔を見りゃわかるに決まってんだろ。バカかおまえはっ!」
「…」
 なんか違う…この人、王子さまじゃない。王子さまはこんなに口は悪くないだろうし…でも、口の悪い王子さまも魅力的に思えてしまうなあ~
 え~となんと言うんだっけ。
 顔と性格のギャップに萌える?…って事かな。

「ねえ、スチュワートと一緒にいたあの金髪の人はアルト、魔法使いだよね」
「あん?ああ、ブラッドリーのことか…あいつは高位(ハイクラス)の魔術師だよ」
「スチュワートは凄いね。あんな魔術師のマスターで…」
「ブラッドリーは俺の魔術師じゃない。マスターは親父だし、親父の命令で俺の傍に仕えているだけだ」
「そうなの?」
「…」
「でも、羨ましいなあ。おれ、サティ…この島じゃアルトの事をサティって言うんだ。おれたち男娼のほとんどは生まれつきのサティなんだよ。だけどおれは使える魔法も魔力も無くて…役に立たないサティなんだ」
「あ、そう」
 スチュワートはおれの話にあまり興味もないらしく、不機嫌そうに足を速めた。

 カテドラルには、数人の観光客が居た。
 階段を昇って中を案内する。
 外壁は汚れて黒ずんだマーブルも礼拝堂は白く美しく輝いている。
 狭いけれど、あちこちにアヴァターラのフラスコ画やマーブルの像が飾られているし、壁の彫刻もモザイクも綺麗なんだ。
「昔ね、海の守護神の住まいとして、ひとりの天王アヴァターラが、一晩で山のマーブルを削り、この岬に白く輝く寺院を建て祀ったという伝説の寺院なんだよ」
「はあ?…昔って何時ごろだ?」
 外壁に沿うように昇っていく螺旋階段の頂点まで昇り、スチュワートと海を見渡す。
 今日は海も穏やかで、崖から吹き上げる風も優しかった。
「…知らないけど…ずっと、ずっと昔だよ。昔からの言い伝えだもの」
「は!どんだけ杜撰な伝説だ。この建物自体、4,5百年前のものだ。見ればずぐにわかる。ミストラルの修道院にバシリカの様式がそっくりだ。また末期ビザン建築の特徴が廊下や回廊のあちこちにある。それに…この建物の目的は灯台の役目としてだろうな。搭上に昇る螺旋階段、この塔頂に光源の後の油染みが見えるし、鏡に代わる螺鈿も残っている。この島を占領した西の国の奴らが、島に伝わる伝説かなにかを勝手に持ち出して、崇めた奉るもんに作り上げたんだろう。一晩で作った天王って?笑わせるな。航行に役立つように、人間がこの岬に建てたものだ。自然風化でこの建物自体痛んでいるけれど、松明でも燃やしてみたら、今でも灯台として使うのは可能だろうが…」
 スチュワートの言葉におれは驚いた。
 誰もが崇める寺院を、人の手で、それもこの島のものでない者の手によって作られた灯台だというのか…?
 そんなこと…
「ダメだよ…そんなこと口にしたらいけないんだよ。天王の罰が下るよ、スチュワート」
「天王なんか居るわけないだろう。くだらん信仰だ。そもそも…」
 おれは言いがかりとも取れるスチュワートの高慢な言葉がもし天王に聞こえたら…と、怖くなり、まだ続きを話そうとするスチュワートの口を手で押さえた。
「だめーっ!」
 天王を侮辱して、酷い罰を受けたって話だって、いくらでもあるんだから。
 もし、天王の怒りを招いて雷の矢がスチュワートを貫いたりしたら…
 嫌だ…絶対嫌なんだから。
 
「わかったから…手を放せって」
「…」
「アホか…泣く事ないだろ」
 スチュワートから言われて気づいた。
 おれ、泣いてた。それもスチュワートにしがみついて泣きじゃくっていたんだ。
「だって…天の神様が怒ってスチュワートに罰を与えるかもしれない。死んじゃうかも知れない。そんなの…絶対に嫌だもの」
「…」
 スチュワートは黙って、おれの身体をぎゅっと抱きしめる。

「おまえ、バカだろ…」
 スチュワートの声音は優しかったから、おれはおずおずとスチュワートの顔を見ようと、上を見上げた。
 スチュワートの顔が真正面にある。
 透きとおるぐらい白い顔、高くて整った鼻梁。赤い口唇。長い睫…それに、
 なんて綺麗な瞳だろう。
 そうだ、昔…故郷で見たことがある。
 朝早く、陽の昇る直前に、緑の草木の根本に集まる水の珠の雫。乾いた土地に貴重な水源の予兆だった。
 スチュワートの瞳の色が草木の緑と地面の土の混じった…水玉の様に見えた。

「名前は何て言うんだ?」
「え?」
「おまえの名前だよ」
「…カルキ。カルキ・アムル」
「…カルキか」
 スチュワートの手が俺の頭を撫でた。
「カルキは、俺が死ぬのは嫌か?」
「…うん、嫌だよ。スチュワートが…好きだから」
「そうか。だったら…」
 今までの穏やかな顔が一変する。
 スチュワートは突然おれの顔にハンカチを押し付け「俺に鼻水をつけるなっ。汚いガキだな」と、叱りつける。
 おれは貰ったハンカチであわてて顔を拭いたけれど、良く見ると上質の絹でできたハンカチだったから、血の気が引いてしまった。だってこんな高価なもので、鼻水拭いちゃった…。
「絹、絹のハンカチなんて…初めてだ」
「そんなに嬉しいならそんなもんやる。それより、ちゃんと鼻水拭け。汚い奴とは歩きたくない」
 そう言って、スチュワートはさっさと階段を降りて行った。
 おれはその後姿を見つめたまま動けない。
 
 だって、おれの頭を撫でたスチュワートの手の平は思ったより大きくて…
 びっくりするほど…優しかったんだ。



スチュワートとカルキ泣く11

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デートが思ったより長く、終わらないよ~(;´Д`)


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● COMMENT ●

単純思考のカルキと 複雑思考(ただ歪んでるだけ?)のスチュワート
ボケあり ツッコミありの 中々の組み合わせで~(笑)

スチュワートに恋したカルキ♪
その事が切欠で いまだ力を発揮しないカルキの魔力と魔法が、目覚めるのかな?
(*´∀`)Σ⊂(゚Д゚ :)なんでやねん!...byebye☆

この話、こんなにダラダラと長くするつもりじゃなかったんですが…最低でもあと4回…それ以上になりそうな予感がします。
正直、この話がアーシュたちに関係するのか?と、言われたら、あんまり関係ないんですよ。
でもこういうほのぼのしたコイバナを書きたくなったんでしょうねえ~
アーシュたちの話になったら、キツイばっかりで…遊びがなくなってしまうので…
アーシュたちに完全なハッピーエンドが、難しいから、スチュワートとカルキで幸せにさせたいのかもしれませんなあ~

もうしばらくアホと横柄乙なバカップルの恋物語を楽しんでいただけたら、嬉しいです(*´∇`*)


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