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2019-09

Phantom Pain 14 - 2012.07.26 Thu

14
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i-ruyokogao12.jpg
14.
 夜が明けぬうちに、アーシュの元から逃げるようにしてヴィッラへ戻ったイールは、館から一歩も出ることが出来ずにいた。
 
(十日もすれば降誕日が来る。人々が一斉に神殿を目指し、クナーアンの神々を祝福する為に集まる祭りが始まるのだ。…あの子は…アーシュはどうするのだろうか…。神として玉座に座り、私の隣で共に祝福を受ける腹積もりなのだろうか…私には無理だ。このままあの少年をアスタロトとして、我が半身として、何食わぬ顔で並ぶことなどできるはずもない…)
 イールは居間の椅子に一人もたれ、テーブル越しに今は主を亡くしたアスタロトの椅子を見つめた。
 テーブルには絹布にぞんざいに巻かれた「ミセリコルデ(慈悲の剣)」が置いてあった。短剣でありながら「ミセリコルデ」はその鞘を持たなかった。何故ならその努めを果たした瞬間、奪った命と共に剣もまた消えてしまうからだ。
 イールは昨晩その剣で眠るアーシュの胸を貫き、自らも死のうとした。
 その想いは未だ後悔の念から醒めきってはいない。
 アーシュの胸を刺せなかったこと、共に死ねなかったこと、そして、アーシュを我が手で殺そうとしたこと…すべてが自己嫌悪であり、そういう思いに囚われる自身の有様に憐みすら沸くこともなかった。

(アーシュ…何故、私をひとりにした。何故、一緒に連れて行ってはくれなかったのだ。おまえの魔法で私も共に生まれ変わり、記憶を失ってしまいたかった…そうすれば私たちは新しい恋人として共に人間として生きることができたではないか…)
 いくら考えても仕方のないことだが、何度考えまいと思っても頭を支配してしまうのだ。
 
 生まれてこの方、アスタロトのことを考えない日が一日でもあっただろうか…

(あの子は一体どうするつもりなのだろう…私に会いにここへ来るのだろうか…人間の足では到底無理なこの地だが、彼がアスタロトの生まれ変わりならば、ここに来るのは容易いことかもしれない。私は…どんな顔をすればいいのだろう…)

 イールはふと何かが近づいてくる気配を感じた。
(アーシュが…来る…)
 扉へ向かいイールは表へ出た。
 先の正面にはマナの木がある。
 ヴィッラとマナの木の間に光が集まり、光の粒は人の形を作りアーシュの姿を現した。
 アーシュは頭上で回る円盤を手に取り、そして辺りを見回し、すぐに正面のヴィッラの玄関に立つイールの姿に気づいた。
 画廊で見たままのイールの姿にアーシュは一目散に走り寄った。

「止まれっ!それ以上近づくな!」
「えっ?」
 イールの拒絶の言葉に、アーシュは足を止めた。
 十歩も歩けばイールに触れることができる…たったそれだけのイールとの距離をアーシュは遠く感じていた。
「ここへ…何しに来た」
「あなたに…会いに来ました。俺…僕は、あなたに謝らなければならないことが沢山あるから…」
 初めて聞くアーシュの声を、イールはアスタロトと比べていた。
(そっくりではあるけれど…どこか違うような気もする)
(私もアスタロトも18になるまでは、人間と同じ創りであり、同じように成長していた。やはり私たちは天の皇尊の力により、不死の身体になったということなのか…)
(いや、アーシュがあそこまでこだわっていた人間になる為の魔術を、仕損じたとは思えない。やはりこの者の身体は人間なのだろう…。しかし、とてつもない魔力の源だ。まだ目覚めてはいないにしろ、果たして人間がこんな力を持ち得る意味があるのだろうか…)
 沈黙を続けるイールに、アーシュは一歩一歩と近寄ってくる。

「近づくなと言ったはずだが」
「だって、イールをもっと傍で見たい。それに昨晩、あなたは僕に会いに来てくれたでしょ?眠っていたから気がつかなかったけれど…あなたは僕の名を呼ばなかった?」
「…」
(まさかミセリコルデをその胸に突き立てようとしたとは、思ってはいまいがな…)

「自分が何者かを知ったのはついこの間で、それまで何も知らなかったんだ。だからって自分に何も罪がないなんて思わない。きっとイールは苦しんでいたはずだから…だから謝りたかった」
「おまえに謝られることなどひとつもない」
「…だって、僕はアスタロトの生まれ変わりだから…。人間に生まれ変わり、クナーアンの神だったことを忘れ、あなたと生きた記憶を無くし、ずっとあなたをひとりにしてしまったことを、…アスタロトは申し訳なく思っているはずだ。だから…僕はあなたに謝らなくてはならない。…違う?」
「…否だ。もとより生まれ変わったおまえになんの咎があるというのだ。クナーアンの神、アスタロトならまだしも、おまえはただの人間としてアースで生まれ育った18の少年ではないか。もはやおまえは私やクナーアンとは何ひとつ関係のない存在として生きている。おまえがどう生きろうとも誰も咎めはしない。おまえの居るべき場所へ帰り、人としての一生を全うするがよかろう」
「…」
「私は…おまえを恨んではいない。おまえが望むものに生まれ変わったのなら、それでいい。何も…思い悩むこともないのだよ、アーシュ。…帰りなさい。そしておまえの愛する者たちと共に…幸せに生きて…くれ…」
 それ以上言葉を続けることはできなかった
 イールは立ち止まったままのアーシュに背を向け、ヴィッラの中に再び姿を隠した。

 後ろ手に閉めた扉に凭れたイールは懸命に涙をこらえた。
 本心を隠し、アーシュを帰す為に、精一杯繕った言葉だった。だが、アーシュの為を思えば、この選択が間違いではないと信じていた。
 イールにとってアスタロトの願いを適えさせることが、アスタロトへの愛なのだとイールは己に言い聞かせた。
(これでいいのだ。アーシュは私とは違う道を選んだのだから…)
 イールはテーブルに置いたミセリコルデを手に取った。
(死のうと思えば、今すぐにでも死ぬこともできようが…あの子が人間としての寿命を全うし、共に死ねるまで…ひとり生きるしかない。なに、アスタロトと生きた時間を思えば、さして長い年月でもなかろう…。もし、あの子の死が私の命に関係の無いものならば、あの子の死を確認した後、私がこの剣で自分の胸を刺せば…私とアスタロトの望んだ死は叶えられるだろう…)

 窓の隙間から涼やかな風が忍び込み、イールの鼻にかぐわしい香りを運んだ。
「薄荷草…」
 イールは窓から外を覗いた。
 黄色味を帯びていた草原が、いつのまにか若草色に萌えている。
 イールは急いで扉を開け、外へ出た。
 今は秋色に帯びるはずの木々が、早春の芽吹きのような色に覆われ、雲の影すら見えない青い空を背景に、清々しい薫風に包まれた大気が一面にかぐわしい香りを撒き散らしている。
 緑に包まれた大地には草花に覆われ、花弁や蕾が挨拶をするかのように、ゆらゆらとあちらこちらに頭を傾けている。
 イールは一歩進み出た。 
 足元の薄荷草がサンダルから見える足先にキスでもするかのように触れた。
 イールはアーシュの姿を探した。
 この魔法を行った犯人は、豊穣の神でしかない。
 目の前のマナの木もまた向こう側が見えぬほどに葉が茂っていた。その葉が不自然にうごめく辺りをイールは目を凝らして見つめた。
 腕が見える。足のくるぶしが見える。薄色の絹布がちらりちらりと枝の間から覗く。
 イールはマナの木に近づき、枝を見上げた。
「そこで何をしている」
「あ!この木、なんだか急に実がなりだして、すごく美味しそうな匂いがするから、捥いでみようと思って…イールにも取ってあげるよ」
「…」
 マントも帯もチュニックもサンダルも木の根元に脱ぎ捨ててある。
 アーシュは薄い上着とズボンだけの姿で細い木の枝を這っているのだ。

「いいから降りてきなさい」
「うん、待って。もうちょっと手を伸ばしたら…わっ!」
 足を滑らせたアーシュが、枝と葉を鳴らして落ちてくる。
「アーシュっ!」
 落ちてくるアーシュの姿にイールは一瞬既視感を覚えた。
 だがアーシュはうまい具合に両足を地面に付け着地すると、すっくと立ち上がった。
「…」
「ほら、一番美味しそうな実を捥いだんだ。どうぞ」
 アーシュは赤く熟れたマナの実を、イールに差し出した。
 イールは熟れた実を見たが、受け取らずに視線を外した。
「…このマナの木は、大事な神木だ。このクナーアンに一本しかない貴重なものなのだ。勝手に登ってもらっては困る」
「そうなの?でも俺、木登りは得意なんだ」
 咎められた少年は悪びれずにニコリと笑う。
「人間の18と言えば大人ではないのか?まるで子供の有様だな」
「だって、千年以上生きているイールからすれば、俺は赤ん坊みたいなもんだろ?」
 イールに叩くへらず口は、アスタロトと同じだと、イールは少し腹が立った。

「私はおまえに言ったはずだ、居るべき場所へ帰れと。何故帰らない」
「だって、約束したんだもの。ヨキやセキレイに。イールと仲直りするって。帰れって言われて素直に帰る性格じゃないんだよ、俺。皆から天邪鬼ってよく褒められるんだ」
(それは断じて褒めてないぞ)
 暢気な笑顔を見せるアーシュに、イールは思わず突っ込もうとした。
 尻を払い立ち上がったアーシュに、イールよりも少しだけ背が低いことに気がついた。
(アスタロトと私の背の高さは、ほとんど同じだったが…この子は違うのだな…)
 
 アーシュは手にしたマナの実を手の平で優しく撫でた。
「まあ、俺もプライドがあるからね。イールと仲違いしたまま、のこのこ神殿に戻ったりしたらあいつらになんて罵倒されるか…一生分の弱みを握られることになりかねないもの。それにさ…俺は本当のイールを知りたいんだ。さっきのあなたの言葉は、俺を思って口にした言葉だった。イールの本音じゃないよね…だからイールに拒絶されても、帰れって言われても、イールを理解するまではここから離れないって決めたんだ」
「人間のおまえに私の本心を覗かれたくはない」
「うん、だからイールが俺に気を許すのを待つのさ。俺はアスタロトの生まれ変わりで、そっくりさんだし、アスタロトはイールの恋人だったわけじゃん。イールが俺に懸想するチャンスはあるよね。それを狙う。…どうコレってスペードのエース級だろ?…ああ、スペードのエースっていうのは……」
 たわいない喋りを続けるアーシュを、イールは不快には思わなかった。
 イールはもうとっくにアーシュを愛していたし、この愛はアスタロトへの愛と同化しつつあると悟っていた。
(この子が人間であることがそれほど重要なのだろうか…。アスタロトの生まれ変わりだからこそ愛を感じ、そして何に対してもたじろがないこの若さに、私は惹かれ始めている)

「…でね。一番美味しそうな実が枝の先にあったから、手をこうやって伸ばしてさ。イール、本当に食べないの?じゃあ、俺が食べてもいい?せっかく生った実を取らずにそのまましておくのも可哀想じゃない」
「…好きにしろ」
「じゃあ、いただきます。ちょうどお腹も空いていたし…」
 イールは薄皮を剥き、丸ごとかじりつく。
「美味しいっ!前にベルん宅で食べた水蜜桃に似ているけど、こちらの方が何倍も味が濃くて甘い。腹減ってるから何食べても美味しいんだけどさ」

 熟れたマナの実は口に甘く、腹を満たすが、媚薬にもなる。だが、この実を口にできるのはイールとアスタロトのふたりだけだった。
 人間として生まれ変わったアーシュが、神と同様に彼自身を喘がせるのか…イールは妙な期待を抱いている自分がおかしかった。
 アーシュはあっと言う間にマナの実を食べつくし、種までも丁寧に舐め、手にすると「捨てるのはもったいないね」と、言い、草原に走っていく。
 辺りを見回したかと思うと、座り込み、土を掘っている。
 
 イールはアーシュに変化の兆しが無いことに、気落ちした。
(やはりアーシュは神の身体ではないのだろう…ならば私たちの命も繋がってはいないのだろうか…)
 しゃがみ込むアーシュに近づき、「何をしているのだ」と、問うた。
「種を土に戻して芽がでないかなと思って。こんなに美味しい果物が実る木が一本だけなんてもったいないじゃない。沢山育てて、みんなにも食べてもらおうよ」
「…」
「どうやら俺には自然を豊かに実らせる魔力があるみたいだね。神殿の画廊でヨキにアスタロトについて色々と説明してもらったけれど、アスタロトは『豊穣』と『火』の護法が備わっていたのだね。イールは…『智慧』と『水』か…イールの姿に見合っている。あなた方を作られたという『天の皇尊』という神は、きっと理想を描いてそれを形にしたのだろうね。不死というのは有難くない贈り物だけど、壊したくないという創造主の想いがわからないこともない…」
「…アーシュ…」
「だからって創造主の考えを押し付けられたら反発するさ。特に俺みたいな奴なら。…だからアスタロトが自分を壊してまで人間に生まれ変わりたかった気持ちがわかるんだ」
 アーシュは丁寧に埋めた種の場所を両手で覆い、恵みのキスをした。
 しばらくすると土は盛り上がり、細い茎が見え、その先に小さな双葉がお互いを抱きしめるようにぴったりと重なり合っている。
「なんとか芽は出てくれたみたいだね。この調子で行けば、明日辺りには枝ぐらいの大きさまで育つかも…」
「バカ…育つものか」
 イールは思わず笑みを浮かべてアーシュに答えた。
「…」
 アーシュは見上げたイールの笑顔に見惚れ、口を開けたまま黙り込んだ。

「どう…した?」
「あなたに…触れたい。イールが好きだ。アスタロトの代わりでもいい。ねえ、一度でいいから、あなたを抱きしめてもいい?」

 アスタロトの願いを、一度でもイールが叶えなかったことがあるだろうか。


イールの悲しみ
 


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● COMMENT ●

神であるアスタロトであろうと、人であるアーシュであろうと、
その本質は変わらないでしょうから イールは、惹かれてしまうのでしょうね
イールだけじゃない 誰もが!
それが また厄介でもあるけどね~♪(oゝД・)b

何所に居ても 誰と居ても アーシュは、アーシュだから!

サイアート様、暑い日が続いてますね。
その後 風邪の調子は如何ですか?

節電10%以上の関西在住の私、家族が揃う夕食時までは 扇風機と首用アイスノンで過ごし
エアコン、TV、照明をOFF!
PCだけはONしてたのですが、この暑さでPCが熱中症になりそうで 昨日と今日の日中はOFFなの!
部屋の中でも 33度では、8年使用のPCには酷でしょうね♪(苦笑)
┏(((卍)))~~~\_"o(▽ ̄*)カタカタ...byebye☆


暑いです…
じっとしててもぽたぽたと額から汗が流れます。びっくりします。
だけど主婦は昼間は絶対エアコンは入れませんねえ~( ,,`・ ω´・)
暑かったらスーパーとかデパートに行くww

風邪は軽くて済みました。良かったです。昨日がだるくて頭がぼーっとしてて、文章も浮かばなかったんですが、今日は書けました~

でもこれだけ暑いとなんかしら、クナーアンも夏かしら~って思っちゃうんですよねえ~
氷カキでも食べさせようかなあ~


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