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2019-09

呪い…「ジョシュアの恋」 - 2012.12.25 Tue

「呪い」
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ジョシュア1


 「天の王」学園高等科の卒業式の翌日、長年育ったこの場所から旅立つ事が、本当は心細かった。
 親もなく、この学園の施設で育ててもらった恩も感じているくせに、早く大人になって監獄のようなこの場所から離れたいと、ずっと思っていた。
 なのにさ…
 僕ときたら、怖気づいてしまい、学園の門扉の手前で立ち止まってしまったんだ。
 そんな僕の背中を思いっきり押して、一緒に門の外まで連れ出してくれたのは、やっぱりアーシュだった。
「行っておいで、メル。そんで面白い話をいっぱい仕込んだら、俺のところへ戻って来いよ」
「アーシュ…」
「シケた顔するなって。メルには俺がついているし、俺もメルが必要だ。いいかい、俺が呼んだら、すぐに帰ってこい」
「うん」
 乱暴な言葉とは裏腹の、熱い口づけをくれたアーシュの優しさが勇気となり、僕は僕がやらなければならない事を探しに、旅に出た。


呪い


 サマシティから汽車に乗り、東へ渡った。
 不穏な世情を感じつつ、そのまま南に下り、地中海へ着いたのは二か月後の夏の終わり。 
 観光で有名な遺跡巡りをしていると、見かけた風貌の男がいることに気づいた。
 無心にカメラのファインダーを覗いている横顔は、紛れもなく、学園のふたつ上の先輩のジョシュアだった。
 僕は懐かしさのあまり、何も考えず彼の元へ駆け寄ってしまった。
「ジョシュア…だよね」
 僕自身が彼にとって歓迎される相手でもないと気づいたのは、ジョシュアの名前を呼んだ後だった。僕は考えもなしに彼の名を呼んだことを後悔し、踵を返して逃げようかと思った。
 だが彼は、構えていたカメラのファインダーから顔を離し、ゆっくりと僕の方を見て、穏やかに笑ってくれたのだ。

 ジョシュアは昔の彼ではなく、当前だけれど、大人になったのだと知った。
 

 ジョシュアは「天の王」学園の頃から目立つ学生だった。
 オリーブ色の巻き毛、色白の肌にグレーの瞳、惹きつけられる顔つきと痩せた長身、触ったらそぎ落とされるような冷酷なオーラを纏い、荒野に立つ一匹狼のような男、それがジョシュアだ。
 彼は魔力を持たないイルトだったが、魔力を持つアルトを魅了する資質があり、僕も彼のその力に抗えないアルトのひとりだった。
 高等科一年の時、僕は彼と彼の仲間にレイプされ、酷く傷ついた経験を持つ。
 彼にも苦悩があり、そのはけ口が僕に向けられたのも仕方のない事情だと、今となっては理解しているし、今更彼を責める気もない。
 結局、間もなく、アーシュから追い詰められたジョシュアは、学園を退学した。
 その後、彼がどこで何もしているのかは、知らなかったから、こんな場所で出会うなんて、奇遇なんて言葉では片づけられそうもない。

 ジョシュアは僕を見ては何度も「もう三年にもあるのか。懐かしいなあ、学園の匂いがする」と、繰り返し言う。僕はそんなジョジュアに見惚れていた。

「メル、君はいい男を見たらすぐに惚れてしまうのが悪いクセだ。よく聞けよ。俺が一番じゃなきゃ君とは絶交だからな!」
 本音か冗句かわからぬアーシュの顔が浮かび、僕はようやく我に返った。

 ジョシュアはフリーのカメラマンとして地元の観光ガイドの写真や外国向けの通訳などの仕事をしているらしい。
 「ジョシュアに似合っている」と言ったら、「皮肉かい?」と、失笑された。

 宿代が勿体ないからと、その晩、僕は彼のアパートメントへ泊まらせてもらうことになった。
「おまえをどうこうする気はないから安心しろよ」と、ジョシュアが言う。
 ジョシュアの作ったトマト味のパスタを、ジョシュアの部屋でテーブルを囲んで食べている自分が不思議な気がする。

 彼の部屋はシンプルだったが、一画を占領する寝室のベッドがいやに贅沢な作りだ。何故かと問うたら、「生活費が無くなったらジゴロで稼ぐ。男、女、若いも年寄りも金をくれる奴となら寝てやるのさ」
「…」
「おっと、アーシュには絶対に言うなよ。つけいれられるからな」
 ジョシュアとアーシュの関係を、僕は詳しくは知らない。
「…もしかしたら、あなたはまだアーシュのことを恨んでるの?」
 ジョシュアは怪訝な顔をして僕を見た。
「おまえ、アーシュの愛人なんだろ?アーシュは俺のことを何も話していないのか?」
「聞いていないけど…」
 本当になにひとつ、アーシュはジョシュアのことを話してはくれなかった。もしかしたら、僕がレイプされたことを気にしてくれていたのかもしれない…

「相変わらず食えねえ奴だな。…あいつはな、俺を監視しているんだよ」
「え?」
「学園を出て、しばらく方々をぶらついてて、三か月ぐらい経った頃かな。やたら夢を見るんだ。…アーシュが夢で俺に命令するのさ。『ジョシュア、あんた、今どこでどうしてる?いいか、あんたがどこでどうしようと構わないが、ちゃんと生きてるかくらいは連絡しろ。ついでに住んでる街の情報とか教えろ。言うならあんたは情報網だ。俺の役に立つ仕事をすれば報酬をやる』とね」
「…」
「俺の夢だ。俺が自分で暗示をかけているだけかもしれない。そう思って、無視していたら、毎晩同じ夢を見る。うっとおしいくらいにね。仕方なしにあいつに手紙を出してやったらパタリと夢を見なくなった。だが、他の街に移った途端に、また必ず同じように夢で俺に催促する。どこに行った?居場所を教えろ、と…前にあいつは、魔法で俺の頭の中に入り込んだことがある。その影響かもしれないし、あいつが仕掛けた罠かもしれない…要するに俺はアーシュの呪縛から逃げられないわけだ」
「それは…気の毒に…。今度帰ったらアーシュによく言っておくよ。君が嫌がっていると」
「嫌がる?俺が?…そうだな。本気でうぜえと思う事もある。けれど…」
 ジョシュアは言葉を止め、少し考えた後、苦笑いをしながら続けた。

「俺は…アーシュに何枚もの便箋を使って詳しく街の状況を知らせる。あいつの返事は決まって葉書一枚に数行の文字だけ。だけどな…あいつは必ず最後にこう書いてくる。『いいかい、よく覚えておいてくれ。俺にはジョシュアが必要なんだからな』と…」
「…」
「こんな簡単な口先だけの、心地の良い言葉に心をもっていかれる俺がバカなのかもしれない。だけど…俺は救われるんだ。こんな俺を必要としてくれる奴がいる。そう信じられる何かがアーシュにはある…」

 そう言うと、ジョシュアは立ち上がり、僕らが食べ終わったテーブルの皿を片づけ始めた。一瞬、そのリアルな生活感とジョシュアの姿は似合わないと思ったけれど、その勝手な思い込みこそを僕は反省すべきだろう。
 
 ジョシュアはキッチンに立ち、手早く皿を洗い、同時に沸かしたお湯をティーポットへ入れ、テーブルに運び、手慣れた手つきでティーカップに注ぎ、僕の目の前に差し出した。
「…いい香りだ。カモミールだね…」
「ここではエスプレッソコーヒーが主流なんだが、俺は飲みなれた奴が好きでね」
「…そう」
 何故か僕はイシュハの顔を思い浮かべた。彼の煎れたハーブティーと同じ薫りだからかな…

「ねえ、ジョシュア…聞きたいことがあるんだけれど…」
「なんだ?」
 ジョシュアの顔を見ているうち、僕はこのジョシュアとの出会いも、もしかしたらあの「魔王」アーシュが仕組んだことじゃないか…と、疑うようになった。もし、そうなら、僕がこの事をジョシュアに聞くこともまた…アーシュが求めていることではないだろうか…と。

「イシュハの事だけど…結婚したこと、知ってる?」
「…知ってるよ。アーシュから葉書をもらったんでね」

 三か月前、ジョシュアの従兄、イシュハは結婚した。
 イシュハとジョシュアは同学年であり、僕とイシュハは恋人同士でもあった。
 天の王学園では恋人の相手がひとりである場合は少なく、数人の恋人、愛人、セックスフレンドを持つのは当然だった。しかもアルトとイルトの関わりが深くなるにつれて、複雑になる。僕もまた、魔力を持たないイシュハに、本能的に惹かれていた。
 イシュハは誰にでも優しく公平な大人の先輩だった。
 ジョシュアとイシュハは幼い頃から、イシュハの家で育った家族同然の信頼する関係であり、ふたりは密かに愛し合っていた。
 その「愛」は誰にも知られず、お互いさえ確かめる事のない、美しい純粋な絆だった。

 イシュハは自分の家と農園を守る為に、親の決めたアルトの娘を許嫁としていた。娘の魔力で、天候を読み、農園の恵みを祈らせるためだ。
 イシュハは彼を育てた家族も農園をも愛していた為、一切抗うことをせず、運命を受け入れていた。
 ジョシュアもまたそれに従い、イシュハと決別した。

「…式に呼ばれたけれど、僕は行かなかった。アーシュは出席したけどね」
「アーシュには俺の代わりに行ってくれと、手紙を出したんだ」
「そう…だったんだ」
 アーシュはジョシュアのことなど、僕に一言も言わなかった。そんなに親しくしているなら、一言ぐらいゆってくれれば言いのにさ。

 僕は秘密主義のアーシュを憎く思った。

「ウェディングの日は知っていた。だけど祝福する言葉がどうしてもイシュハに伝えられなかった。その日が通り過ぎるのをじっと耐え、過去になるのを待っていたんだ。…式の三日前だったかな…仕事が終わり帰宅した時、アパートの玄関前に立ち止まっているイシュハを見た。最初、幻かと思った。俺があまりに思いつめて、空蝉が現れたんじゃないだろうか、と…。でも違った。そいつは本物のイシュハだったんだ。…俺はあいつの前に姿を見せるのが恐ろしくなり、街角に隠れ、様子を伺った。イシュハはアパートの大家さんとしばらく話をし、家の中に入り、二十分経った後、アパートから出ていった…。俺は隠れたまま、イシュハの後姿を見送った…」
「会わなかったの?サマシティからこんな離れた街までせっかく、君に会いに来てくれたのに?…どうして、どうして会ってくれなかったの?イシュハは君を愛していた。それを伝えたかったから、会いに来たんだろう?」

「…愛しているから会えなかった。会ってしまえば、止まらなくなる。互いを抱きしめあい、もう絶対に離さないと繰り返し、手を握りしめ、誰も知らない場所へと駆けていくだろう。…夢のような、素晴らしい逃避行だ。…あいつはそれを望んでここまで来たんだろう。俺はいい。どうにでもなる。あいつが望むことなら、なんでもしてやりたい。…愛しているからな。だが、あいつの望みはひとつだけじゃない。…天の王で過ごす恋人がひとりじゃないように。違うのは現実の社会では両立できないことだ。自分だけが幸せになることと、多少我慢しながら、家族を守っていくことを、両方手に入れることはできない。…あいつはまだ大学生で、少し夢うつつで生きているから、俺の愛に飢えていたんだろう…」

「家族も農園も友情さえ捨て去る覚悟で、イシュハがジョシュアを求めてここまで来たのなら、それを受け入れるべきだと思うよ。覚悟がないのはジョシュアの方じゃないのかい?」
「…そう責められても仕方がないね。…このハーブティーはね、その時、イシュハが部屋に置き残した茶葉だ。…これを煎れ、飲んだ時、俺は彼に会わなくて良かったのだと安堵したよ。そして、俺はこう思った。…イシュハは一生俺を許さないだろう。会わなかった俺を恨み続けるだろう…それはあいつの俺への『真の愛』だ。俺はその痛みを死ぬまで味わい続ける…」
「…」
「このハーブティーのように、俺を中毒にしたまま…ね」

 イシュハとジョシュアの愛の呪いは、見事に美しい模様を描く。
 アーシュは…僕にそれを望むのだろうか…

 いや、アーシュはとっくに知っている。
 僕がアーシュから逃れられないことを…


 その晩は、本当に何も起こらず僕とジョシュアはひとつのベッドで寝た。
 次の日、ジョシュアに見送られ、その街を後にした。
 別れて気づいたことがある。

 アーシュが言うジョシュアへの報酬って…一体なんだろう…

 きっとアーシュを問い詰めても、話してはくれない。
 アーシュの呪縛にジョシュアもまた、ずっと縛られ続けていたいのだろうから。





newkyara1.jpg


ジョシュアとイシュハの物語はこちらからどうぞ。

メリクリですが、ハッピーではないお話をどうぞ~( ,,`・ ω´・)
こういうどうしようもない物語が好きですね。
ジョシュアもイシュハも大好物。もっと苦しめ~( -ω-)y─┛~~~

今年もお世話になりました。
また来年もよろしくお願いいたします。
それでは良いお年を。




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● COMMENT ●

イシュハが結婚して 今は離れていても  二人の魂は いつ いかなる時も 常に寄り添い
いつか ジョシュアと 仲良く住む姿が浮かんで来ます。
年老いてながらも 幸せそうな二人の姿が…

アーシュには もう分かっているのでは ないでしょうか?

年内は これが最後の更新になるのかな?
一年を振り返ってみれば 色々 反省や後悔と 思う事もありますが、何気ない日常を送れる幸せを 今一度 噛み締めております。

寒波襲来で 寒さも 日々 厳しくなっておりますが、お体だけは くれぐれも 大切にお過ごし下さい。
それでは 良いお年を~♪(((p(>◇<)q))) サムイー!!...byebye☆

P.S.年内に 更新の予定があったら ごめんなさい。┏○))ペコ

私ね、ジョシュアはすごく小心者だと思う。
自分がイシュハを不幸にすることだけは、できない。自分がイシュハを幸せにできない…と、思い込んでいる。
イシュハがジョシュアを求めれば求めるほど、ジョシュアは逃げることしか考えない。
イシュハの苦しみを目の当たりにしなくない、する勇気がない。
それがジョシュアだと思う。だから、このふたりは絶対に結ばれず、遠く離れてお互いを想う恋なんです。

アーシュはそんなふたりをじれったく、どうにかしてやりたいけれど、きっとそれがふたりの運命なのだと、そのうち諦めるでしょうねえ。魔王でさえ結びつけることのできない恋。
こんな恋も美しい物語ではないでしょうか。

けいったんさんには、今年も大変お世話になりました。
沢山の心あるコメントは、私にとってとても勇気と向上心を芽生えさせ、頑張ろう、やらなくちゃと奮い立たせてくれます。
ありがとう、そして来年もよろしくお願いします。

ホントに寒くなってきたね。
明日からダーも休みなので、こちらの更新はできなくなりますね。
あっちの方はするけどね~


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