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2019-09

野ばら - 2013.01.22 Tue

「野ばら」

イラストはサムネイルでアップしております。
大きく見たい方はイラストをクリックしてください。


千葉啓介23


野ばら

まだ春遠い冬の一夜のお話。


いつもなら積もるほどの雪なんて降ることもないのに、今年に限って何故か車が動けない程降り積もって…
引っ越しの予定が一週間伸びてしまった。

狭い部屋が積み重ねた段ボールで益々狭くなり、比較的でかい図体の俺には、居心地が良いわけないけれど、引っ越しが伸びた所為で、梱包したコタツをまた出して、ほっこり温まる。
うん、悪くない。
そう思ってコクリコクリと眠り始めた時、玄関のチャイムが鳴った。

眠いのと、あったかいコタツから出たくなくて、しばらく様子を見ていたが、鳴りやみそうもないので立ち上がり、狭い廊下を歩き、狭い玄関に立ち、ドアを開けた。

「こんにちは!…じゃなかったこんばんは!」
目の前には誰もいない。いや、目線を下げたら見知らぬ子供が俺を見上げていた。
5つか…6つくらいだろうか…
近所の子だろうか…
近所付き合いには自信があったはずの俺だが、見たことのない子供だ。
自分の家と間違ったのなら、俺の顔を見ればあわてるはずだろうが、そんな素振りはなく、その子はにこにこしながら俺の顔をじっと見ている。
「あ、の…なにか用事かな?」
少し屈んで優しく訪ねてみた。耳当てのある赤い毛糸の帽子が懐かしい。
俺も小さい頃は、こんな帽子を被っていたものだ。

「ねえ、寒いからおうちに入れてくれる?」
真っ赤な頬と白い息を見て、無下に断れるはずもなく、俺はその見知らぬ子を狭い我が家へ招いた。
その子は躊躇いもせずにブーツを脱ぎ、「さむ~い」と連呼しながら、早足に廊下を歩き、リビングのコタツに素早く潜り込んだ。
「うわ、あったか~い、きもちい~い」
無邪気な声に、俺の警戒心も薄れる。
「何か飲むかい?ココア…と、ダンボールに片してしまった…」
「箱、たくさんあるねえ~」
「引っ越しするんだ」
「おひっこし?」
「うん」

なにかお菓子でもないものかと辺りを探すが、こんな時に限って何もない。
「ごめん、なにもないみたい」
「プリン食べたい」
「プリン?」
「うん。ボク、プリン好きなんだ」
「…」

近くのコンビニに行けば望みは叶うけれど、この子を置いて出かけるのも、一抹の不安が残る。
「ねえ、プリンがいい」
「今はうちにはないんだ」
「あるよ、冷蔵庫にきっとあるよ」
「…」

仕方がない。一応冷蔵庫を覗いて、無かったことをこの子に確認させ、それでも強請られたら、ひとっ走りコンビニまで行ってこよう。
もう雪も降ってないし、走れば五分で戻れるし…
そう思って冷蔵庫を開けてみると…あった。プリン。
しかもふたつ…

…そっか…昨晩、一緒に食べようって紫乃が買ってきてくれたんだっけ…
今日も仕事が終わったら来てくれるって言ってたけど…
ひとつ、この子に食べさせても許してくれるよね。

「あったよ、プリン」
「わあ、良かった~」
プラスティックのさじと一緒にプリンを差し出した。
「あれ?これぷっちんってするやつじゃないね」
「そうだね。これはもう少し高級な…ちょっと大人なプリンだね。クリームブリュレって言うんだよ」
「…うん、上のところがカリカリしてて中がふわふわだあ~。ぷっちんよりもおいしいかも~」
「そう、良かったよ」
「本当はね、おかあさんの作ったプリンが一番好きなんだ。でもお仕事いそがしいから、わがまま言っちゃだめなの」
「そう…なんだ」

昔を思い出すな。
俺も同じだった。
共働きで自営業を営んでいる両親の姿は、子供の俺から見ても忙しそうで、我儘を押し通すことはなかなかできなかった。
でも俺には姉貴が居てくれたから、さみしい思いをせずに済んだんだ。

「おいしかった、ごちそうさまでした」
「おそまつさまでした」
「…おにいさん?」
言いにくそうだったから「俺は千葉啓介って言うんだよ。啓介って呼んでいいよ」と、進めた。
「…啓くんは、どこにおひっこしするの?」
「…」

すぐに答えられなかったのは、俺自身の気まずさがあるからだろうか。
この春、無事大学を卒業することになり、そして希望の「聖ヨハネ学院高等学校」の教員として就職することになった。
付き合っている恋人の藤宮紫乃は、もともとヨハネの教員で、俺の教育実習の指導教員だった。俺は彼に一目惚れをし、そして俺の想いを紫乃は受け取ってくれた。

ヨハネの教員になって、紫乃と一緒に机を並べて、仕事もプライベートもいちゃいちゃしたい!ってのが俺の願望で、その為に一生懸命に勉強して、採用試験に合格したんだ。
ふたりで話し合って、この横浜のアパートから、紫乃の住む鎌倉のマンションに引っ越して、一緒に住むことに決めた。
憧れの同棲生活だ。
でも…まだ両親にはカミングアウトしていない。
姉ちゃんには俺がゲイだってことも、紫乃の事も打ち明けてて、力になるって言ってくれているけれど…
親の…特に母親の顔を見たら、なかなか男が好きで一緒に生活します、とは面と向かって言えないものだ。
まあ、こうなると札幌に居る親たちと距離があるのが救いなんだけれど。

「啓くんは好きな人いるの?」
「え?あ…うん、いるよ。とっても大事な…死ぬまでずっと一緒に居たいって思う人…紫乃って言うんだよ」
「ふうん」
俺、何言っているんだろ。こんな見知らぬ子供に。
親に告白できない代わりをしているのだろうか…
俺は紫乃の良いところを、この見ず知らずの子供に話し聞かせていた。子供はニコニコと面白そうに聞いている。

「じゃあ、啓くんはしあわせなんだね」
「…うん。…ああ、とっても、とても幸せなんだよ」
「良かったね、啓くん」
「あ、ありがと…え~と、ボクの名前聞いてなかったね」
「たぁくんって呼んでね」
「…たぁくん」
「うん。じゃあ、ボク、そろそろ帰るね。おかあさんが心配してるから」
「う…ん」

こたつから勢いよく立ち上がったその子は、脱いだ帽子とコートを羽織り、足早に玄関に走っていく。
俺は追いかけながら「そこまで送って行こうか」と。声を掛けた。
「大丈夫。来た道はちゃんと覚えているから」
慣れた手つきでブーツを履き、立ち上がるとくるりと俺の方を向き「啓くん、プリンおいしかったよ」と、笑った。
「クリームブリュレだよ」
「そうだったね、クリームブ…りゅれ、ふふ…」と、恥ずかしそうに笑う。

「じゃあ、ばいばい。啓くん」
玄関の戸を開け、手を振るその子に俺は聞いた。
「ねえ、たぁくん…君は、しあわせかい?」
その子は少し驚いた顔をして、そして屈託ない笑顔を見せた。
「うん、とってもしあわせだよ。だから心配しないで、ね」
「…」
「ばいばい、啓くん。紫乃って人とずっとなかよくね」
「ありがとう…ばいばい」

アパートの外廊下を走り、階段を降りる姿を見送り、俺はすぐさま携帯から母親へ電話をする。
『あら、啓介。珍しい。どうしたの?』
「母さん、驚かないで聞いてくれ。今ね…俺、公孝(きみたか)兄さんに会ったよ」
『…』
「確か…今日が命日だったよね」
『…そうよ。今日が23回忌だったの』
やっぱり…そうだったのか…

「…兄さん、俺のことが心配で来たのかな」
『そうね、啓介のことは、啓くん啓くんってそりゃあこちらが引くぐらいに、ものすごく可愛がっていたから』
「小さい頃、俺がしていた赤い毛糸の帽子、母さんが兄さんに編んであげたんでしょ?」
『…うん…たぁくんに。いつも忙しくしてて、あなたのことも公孝と小緒里にまかせっきりで…』
小緒里(さおり)姉さんと公孝兄さんは二卵性双生児だった。
六歳の時、バイクに跳ねられ、公孝兄さんは亡くなっていた。
俺はまだ二歳だったから、兄さんのことはほとんど覚えていない。
仏壇に飾られた小さな写真の兄さんしか…

『今もね、あの子がプリンが好きだったから、仏様にお供えしていたのよ』
「そう…でもね、母さん。兄さんは俺んちのプリンを食べて行ってくれたよ。おいしそうにさ。でもおかあさんの作ったプリンが一番美味しいってさ」
『…』
しばらくの沈黙の後、電話の向こうで、母の嗚咽が聞こえた。

「ねえ、母さん。兄さんね、向こうで幸せだから、心配するなって、笑っていたよ」
そして俺は公孝兄さんと話した一部始終を、詳しく母親に話し聞かせた。
勿論、紫乃の事も。



俺も幸せになるよ。
兄さんを心配させないように。
しっかりと自分の道を歩いていくからね。



         2013.1.22



Greenhouseのエピソードはまだまだ沢山あるので、色んなキャラバージョンで描きたいと思います。


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● COMMENT ●

「Greenhouse」の紫乃と啓介
あれからずっと 仲良くしているのですね。

最初 読み始めた時は ピンと来なくて。**(///▽///)**オハズカシ
啓介で (。-`ω´-)ンー・・・ん?となって 紫乃の名前が出て来て ∑(o・。・o)b あっそっか!でした。

啓介の負い目を感じ 心配して 公孝兄さんは来てくれたのでしょうね♪

幼い頃の私は 感が鋭くて 色々 霊的なものが 聞こえたり見えたりしました。匂いも!
今 考えると不思議ですが、全然 怖いと感じなかったです。
現在では 年々 図太くなってるからか さっぱりです(笑)

啓介と紫乃に 久し振りに会ったから 凛と慧にも会いたくなっちゃった♪
(@ ̄◇ ̄@)。。。oO○...byebye☆

私は霊的なものがあまりないので、ちょっとだけうらやましい…ちょっとだけでして、あまり見たくないです。怖いから。
あ、でも私も多分ですが…私によく似ていたと言われる曾祖母に今までで二回あったことがありましたね。
一度は子供の頃に、二度目は息子を産んで里帰りをした時に。
どちらも枕元に座って、私を見てニコニコしてくれてたので怖くなかったです。


啓介が健康だから紫乃もきっと救われるだろうなあ~
逆に慧一は一生悪夢と快感を味わい続けるだろうなあ~
どっちがいいのかは…本人次第だけどねえ~


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