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topimage

2019-10

Private Kingdom 6 - 2011.07.07 Thu

ashruu99.jpg
6、

 出会った時からセキレイを俺の一生の番(つがい)だとは決めていたけれど、人間の感情とは虚ろいやすく、「絶対」なんてものは保証できない柔なものだってわかっていた。
 セキレイに俺のモノでいろ、とか、一生俺以外の奴を好きになるな、とか、冗談で言い合っても、呪文のような鎖に繋いだりはしなかった。
 逆に俺の所為で、セキレイが自由でいられなくなる方が怖かった。
 俺達はお互いに番でいられることを喜んでいた。愛し、求め合う理想の恋人になることも望んでいた。だからその時が来たら、自然にセックスも出来るものだと信じていたし、そういう話もふたりの間では冗談を混じりながらでも語り合ってきた。
 だが、結局具体的なことはさっぱりである。
 やり方も煩悩も頭に叩き込んでいるはずなのに、いざベッドに寝てみると、欲情する前にお互い安心して寝てしまう。
 朝起きてお互い「また、寝ちゃったねえ~」と、笑いあうが、心の中じゃかなり焦っていた。
 俺はセキレイに欲情しないのか?
 つまりセキレイとはセックスできないのか?
 …大問題だ。

 ベルに相談してみようと思った。
 勿論セキレイが居ない時にだ。
 ベルは早くに叔父や他の貴族と経験を積んでいて、その道のエキスパートでもある。
 今じゃ、タチもウケも両方できるし、女性ともやれると言う。羨ましい限りだ。
 学校の中でも先輩や同級生たちに何回も同衾を願われている。
 確かに十三歳で大人ほどの身長で、洗練された身のこなし、ゴージャスなハニーブロンド、そして甘いマスクの奴に敵うものはいない。

 夜遅く隣で寝ているセキレイを起さないようにベッドからそっと抜け出して、ベルの部屋へ向かった。
 ありがたいことにベルはまだ起きていた。

 彼の部屋はバストイレ付き特別室だ。俺もたまに風呂を世話になる。
 シャワーを使ったばかりのベルは、バスローブ姿で濡れた髪を乾かしていた。
「まだ寝てなかったの?」
「うん、ちょっと相談があってさ…」
「アーシュが俺に相談なんて珍しいね。何?」
「うん、あのね…」
 ここにきても親友のベルに相談すべきが悩んでしまう。
 一番頼れる親友で、何でも隠し事しない仲なんだから、相談には乗ってくれるはずだ。それでも中身が中身だからどうしても口ごもってしまう。
 言おうか言うまいか迷っている俺に、ベルはコーヒーをくれた。
「コニャック入り。良く眠れるように」

 相変わらず、ベルは優しい。だからなのか…と、俺は気づいた。
 俺はこの男を仲間はずれにしたくないと、どこかで感じてて、こんなことを言えずにいるのではないだろうか。
 俺とセキレイが特別の仲であり、口癖のように「一生の恋人同士」であると当たり前のように話し、ベルもそれを良く知っている。
 だが俺とセキレイが実質的な恋人同士、つまり関係を持ったら、ベルはどこかで俺達に気兼ねしないものか…などと考えてしまう。

 手元のカップを見つめたまま黙り込んだ俺を見かねて、ベルが口を開く。
「ねえ、話ってルゥの事?」
「え?」
 俺は思わずベルの顔を見つめた。
「だって、アーシュが悩む事って言ったらそれぐらいだろ?」
「…そうだね」
 俺は苦笑い。
「…当ててみようか」
「…」
「ルゥと寝たみたけど、上手くいかなかった」
「…すげえ、ベル。ビンゴだ。俺の心を読んだの?」
 ベルは声を出して笑った。
「そんな力は俺にはないよ。使わなくったって…君の顔に書いてある」
「…噓つき。顔に書いてあるものか」
「真に受けるなよ。で、どうして上手くいかなかったのさ」
 ベッドに膝を抱えて座り込んだ俺に、ベルはそっと隣に寄り添った。

wse3.jpg

「上手くいかないって言うより、そこまでいってないって言うのが正しい」
「…どういうこと?」
「だから…ふたりで居てもそういう雰囲気にならないの」
「…」
「だってずっと…セキレイと出会ってから、ずっと一緒にいてひとつのベッドで寝ていたんだ。急に性的な衝動が沸いてくるはずないだろ?普通に考えてさ」
「家族みたいなもんだろうしねえ」
「そうなんだ。…だとしても、俺はセキレイを愛してるし、恋人にしたいし、セックスしたいって思っているんだよ。絶対そうなんだ」
「…」
 ベルは笑いを堪え切れないかのように手で顔を隠して肩だけ震わせている。

「バカ…笑うな。こっちは真剣だ」
「…ゴメン。アーシュが必死なのを見るのは好きなんだ、俺」
「…ベルはいいなあ~」
「何が?」
「だって誰とでも寝れたりするんだろ?」
「それなりの雰囲気作りはいるぜ」
「雰囲気かあ…」
「それより、君、精通はあった?」
「…当たり前だろ?十三になるんだから」
「じゃあ、そちらは心配ないね。後はルゥの気持ちだよね。ルゥは本当に君を求めているのか…」
「…たぶん。でも正直自信はないよ。だって人の情愛なんて虚ろなものだし、セキレイが俺に対して家族以上の情愛を求めていないとしたら…それはそれで仕方のないことだろ?」
「…アーシュ、君は誠実だね。無理矢理犯そうなんてこれっぽちも考えてない」
「信頼を裏切る方がよっぽど怖いよ」
「…うん、そうだね…」
 ベルはそう言うと、俯いたまま黙り込んだ。
 下を向いたベルの横顔を見た。
 何かをじっと堪えているような表情だ。なんだかこちらが切なくなってしまった。

「…ベル」
 俺は握りしめられたベルの両手に手を乗せた。
「ありがと、話を聞いてくれて。セキレイの事はあまり焦っても事を仕損じる覚悟でゆっくりやるよ。一度は通らなきゃならないんだもの。それに俺ひとりでやれるものでもないしね」
「…うん」
「それから、俺とセキレイがそういう関係になったって、ベルとの友情は少しも変わらないんだからね。これからだってずっと一緒にいたいって、俺は願っているんだから」
「…ありがとう、アーシュ」
 ベルの青い瞳の奥が涙で光るのを見た時、大人に見えるベルだって俺と同じ十二歳でしかないんだと、ちょっと安心したり切なくなったりと、その夜はすやすやと眠りを貪っているセキレイの横でとうとう眠れなかった。


 十二月四日の俺とセキレイの誕生日が近づいてくる。
 セキレイはカレンダーに印を付けながら、その日が来る事を心待ちにしている。
「もう一週間経ったら、『真の名』をもらえるんだねえ~、僕達。なんだかワクワクよりドキドキしてきた」
「何だよ、子供みたいにはしゃいでさ。十三になるんだよ。もう立派な大人の仲間入りなんだから、少しは自覚しろよ、セキレイも」
 
 いつもどおり俺の部屋のベッドに潜り込んだセキレイは毛布の首まで引き上げて、俺が来るのを待っている。
「ちぇ、自分だけ大人のフリしてさ。アーシュだってホントは嬉しいくせに」
「何が?」
 俺は眼鏡を机に置き、灯りを消して、いつものようにセキレイの身体に寄り添った。
「『真の名』だよ。何も後ろ盾のない保育所育ちの僕達が唯一自慢できるステイタスになるんだよ。ここを卒業しても『真の名』があれば、良い就職先だって楽に見つけられるって先輩方が言ってた」
「良い就職って…セキレイ、そんなもんに興味あったの?」
「うん…だってさ。僕、自分がどこから来たのかわからないし、ここに来る前の記憶だってないだろ?もし…もしだよ。僕の両親が僕を…探していたりするのなら、立派な大人になって生きているって知らせたいじゃない。それにできるのなら、両親を探したいし…」
「…そう」

 セキレイの親に対する想いっていうものが、俺には少しも理解できなかった。
 きっと記憶がなくても、セキレイはここに来るまでは親に可愛がられていたのかもしれない。その記憶が細胞に刻み込まれているのかもしれない。だからセキレイは親への「憧れ」を口にするのだろう。

 生まれたばかりの俺を捨てた親と、セキレイの親はきっと違うのだろう。
 別にそれを恨む気もない。
 もし、今、目の前に俺を捨てた親が出てきても、別段複雑な感情は芽生えない。むしろ目の前に現れた親達の複雑さに頭を捻るかもしれない。

「俺では親の代わりになれない?」
 居もしないセキレイの親に嫉妬を交えた俺は、横に寝るセキレイの身体の上に乗っかってみる。セキレイは重いと文句を言ったが、俺は無視してセキレイの胸に頭を置いた。
 規則正しく打つ心臓の音を聞く。
 俺はパジャマの裾から手をしのばせ、セキレイの胸を撫でた。
 セキレイの手が俺の頭を撫でる。

「アーシュは親ではないもの。恋人…でしょ?」
「うん、そうだよ」
「ずっと傍に居てくれるんだろ?」
「うん、ずっと居るよ」
「僕を…抱いてくれるんだろ?」
「うん、君が望んでいるのなら」
「…僕、アーシュのものになりたい…」
「セキレイ」

 顔を上げて暗がりの中、セキレイの顔を見つめた。
「いいの?」
「うん。抱いて欲しい」
 そう言って俺の首に両手を回す。
 セキレイの少し開けた口唇にそっと重ね、深く絡み合わせた。



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Private Kingdom 7 - 2011.07.11 Mon

hyousi1

7、
 互いのパジャマを脱がせ、身体の輪郭を確かめ合った。互いのものを握り、昂ぶるのを待った。
「俺が…入れる方でいいの?」
「…うん、その方が自然だろ?」
「…」
 どこが自然なのかさっぱりわからない。入れる側入れない側の決めてなんて一体あるのだろうか。

「アー…シュ」
 泣きそうな声で呼ばれた。
 セキレイの両膝を広げ、俺は自分の昂ぶったものをセキレイに押し付けた。
「…っ」
 俺の背中を抱くセキレイの指の強さが、拒否なのか期待感なのかいまいちわからない。

 この先どうしたらいいんだっけ…えーと…まずスムーズにいく様に、慣れさせなきゃならな…
 …あ!しまった!…ローション忘れた。
 なんてことだ。こんな急とも思わないからスキンすら用意してなかった。
 ベルなら持っているだろうが、こんな恰好で今更借りに行けるわけも無い。
 どうしよう…
 このまま、続けていいものだろうか…痛がったりしないものだろうか… 
 俺は滅茶苦茶焦っていた。

「アーシュ、どうしたの?」
「な、なんでもない。えーと…入れてもいい?」
「…う、ん」
 暗くて顔色までは良くわからないけど、声の加減でセキレイも不安なのがわかった。
 だけど俺が欲しいと言うセキレイの気持ちを裏切るわけにはいかない。
 俺は覚悟してセキレイの中に入り込もうとした。

「う…い、痛い…」
 噛み締めた唇から、悲鳴が漏れた。
 身体が捩れた。痛みに耐え切れず逃げる身体を引き戻していいものか、俺は悩んだ。
「セキレイ…やめようか」
「いやだ。いやだよ、折角アーシュとひとつになれるのに…」
「だって…泣いてるじゃないか。痛いんだろ?」
「…」
 セキレイは黙ったまま目を閉じた。目じりから零れる涙が見えた。
 
 …なんだか可哀想になってしまった。
 これ以上続けても今の俺にはセキレイを気持ち良くさせてやることはできないと、わかってしまったんだ。

「ゴメン、セキレイ。やめよう」
 俺はセキレイの身体から離れた。
「え…どうして?」
 先程とは比べ物にならないほどの、しょぼくれた声だ。
「アーシュ、怒ったの?僕が泣いたから?痛がったから?」
「そうじゃないよ。俺の方が拙かったんだ。ごめんね、セキレイ。…ごめん」
「…」
 セキレイはもう何も言わず、裸のまま毛布を摺り上げて俺に背中を向けた。
 セキレイもそうだろうが、俺の方もかなりのダメージで、その背中にどう言葉をかけていいのかわからない。

 お互いを繋げるのがこんなに難しいなんて…思いもよらなかったから、俺はこの状況にどう立ち向かっていけばいいのか、正直自信をなくしてしまった。
 静まり返った暗闇の中、セキレイの鼻を啜る音だけがいつまでも響いて、俺は後悔と自信喪失とセキレイへの同情で居たたまれずに、とうとうベッドから抜け出し、部屋を出た。

 深夜の徘徊なんて珍しいことじゃない。
 今日は満月だから、皆それぞれに盛っているに決まっている。あられもない嬌声だって聞きたくなくったって自然に耳に聞こえてくる。
 なんだか自分がつまらないものに思えた。
 寄宿舎の一階の食堂に行き、テラスへ出る扉を開けた。
 眠れる気分になるまで月でも見ていようと思ったんだ。

 テラスの向こうに芝草のベンチに座る月影が見えた。
 影の長さから上級生だろうと思った。変な奴に声をかけられるとやばいと思って、引き返そうと踵を返した。
「誰?」
 声を掛けられる。
 逃げるにしても一応挨拶だけはしておこうと、できるだけ近寄らずに「一年のアーシュです」と、応えた。
「アーシュか。なにを遠慮しているの?こちらへおいでよ」
「いや、いいです。お邪魔でしょうから」
「アーシュ、僕だよ。メルだ」
 メル…保育所で一緒に過ごしたふたつ上のメルなのか?
 半信半疑で姿を確かめるためにそっと近づいた。

「君も月光浴を楽しんだら?空気は冷たいけれど、澄んでいるから気持ちがいい…なおざりなセックスよりもね」
 メルが笑ったような気がした。同時にメルの言葉はなんだか俺の心を軽くした。
 
 すらりとした痩身でアッシュブロンドの長い髪、幼い頃から無口でおとなしく人と交わらない印象がある。
 久しぶりにメルを見た気がした。
 隣りに座るように薦められ、言うとおりに座った。
「君、そんな恰好で寒くないかい?」
「ああ…」
 何も考えずパジャマのまま部屋から出てきたんだ。
「これを貸してあげる」
 メルは首に巻いていたマフラーを外して、俺に巻きつけてくれた。
「少しはマシだろ?」
「ありがとうございます」
 メルはふふと笑い、また月を仰ぎ見る。
 俺はその横顔を見つめた。
 俺は今までこの先輩をよく知ることはなかったが、こんなに傍にいて少しも不快感はなかった。

「どうしたの?僕の顔に何か付いてる?」
「不思議だなって思ったから」
「なにが?」
「同じ寄宿舎に居るはずなのに、あまり見かけないから。昔からそうだったけど、俺、あなたと遊んだ印象がないんだけど」
「それは、君の視界に僕が居なかったからだよ。自分が必要とする時にしか見えない、見ようとしない。そんな人は多いからね」
「そうかなあ」
「昔から君にはルゥしか見えていなかった…だろ?」
「…そうかもしれない」
「僕はいつだって君を見ていたのにね…いつも残念に思っていたよ」
「え?」
「でもこうやって今、君は僕を捉えた。君が僕を必要としているって事かしら」
「…」
 心を見透かされているようできまりが悪かった。

「いい満月だ。『力』が満ち溢れてくる」
 メルの言葉に俺も夜天を仰いだ。
「月は何も求めないでも、こうしてエネルギーを僕らに与えてくれる。ねえ、駆け引きもテクニックもパッションもいらない。ただ『官能』を感じていればいい…」
 月にかざしたメルの両手が白く光っている。
 「官能」のエネルギーって…一体なんなんだろう。

「…俺にも、それを受け取ることができる?」
 メルは驚いたように俺を見た。
「君に出来ないことなんて、あるのかい?」
 首を傾げて俺に微笑むメルに、すべてを委ねてしまいそうになる。
 セキレイはひとりで泣いているのに、自分だけ楽になろうなんて、なんて身勝手なんだろう。
 しかもセキレイを泣かせている原因は、浅はかな俺の行動なのに…
 今の自分には月の光でさえ、眩しすぎて見上げられない。

「俺はね、メル…今日まで自分にできない事なんて無いなんて、思ってた。でも本当はなんの力もない。…つまらない男なんだ」
「何かあったのかい?」
「…」
「なんて聞かないよ。誰だって落ち込む時はあるものだもの。無理に浮上しなくてもいいんだよ。なんにしたって、明日はやってくるからね」
「…うん」
 メルは黙って震える俺の身体を抱きしめてくれた。
 気紛れな同情でも、この夜の俺はその温もりがありがたかった。





メル制服

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Private Kingdom 8 - 2011.07.13 Wed

表紙2
8、
 それからしばらくして、メルと別れて部屋に戻ったが、セキレイの姿はなかった。
 自分の部屋へ帰ったのだろう。
 傍にいてやるべきなのか、このままそっとしておく方が良いのか…考えるのも億劫になる。

 翌日、寝坊した俺は朝食を取りに急いで食堂へ行ったが、セキレイは見つからず、謝るタイミングを逃してしまった。
 学校へ向かい教室にいるセキレイに声をかけたが、どうもよそよそしい。
「セキレイ、昨夜のことだけど…」
「もうそのことは気にしてない。それより自分の席に着きなよ。授業が始まるよ」
 弁解の余地もないってわけか…そちらがそうならこっちだって。
 似た者同志の意地の張り合いなんてしたくはないけど、打ち解ける機会を失ったからにはこっちからは謝る気が失せた。
 授業が終わっても俺からはセキレイには近づかなかった。
 ベルは説明はしなくてもふたりのケンカの理由は大体判っている模様で、気にする風もなく普段どおりに接してくれている。
 
 いつものように食堂で三人並んで食事しようとしてもセキレイはひとつ席を空けて座るから自然にベルとの会話が多くなる。
「この冷戦、いつまで続くと思う?」
 俺はベルの耳元で囁く。
「誕生日が来れば君もルゥも気分が変わると思うよ。『真(まこと)の名』を貰ったら仲直りができるさ」
「そんなもん?」
「うん、そういうものだろ?それに…なんかね、『真の名』をもらったことでなのかはわからないけれど、自分が何倍も大人になった感覚になれるんだよ。今まで見えなかったものが見えてくるっていうか…大事なものがわかるっていうか…ねえ」
「ホント?」
「うん。だからいつまでも小さいことに拘るなよ、アーシュ」
 俺の頭をくしゃくしゃと撫でるベルは、いつだって俺よりも遥かに大人だ。
 セキレイを守る奴は俺よりもベルみたいな奴が相応しいのかもしれない。
 ふと、そんな風に思ってしまった自分が情けなくなった。

 あれからメルの姿を寄宿舎や校内でも目にするようになった。メルが言ったように、こちらがメルを必要としているのかもしれない。
 目で挨拶をしたり、ひと声掛けるだけでもなんだか心のどこかに信頼できる仲間が増えた気がして心地いい。 
 ベルはそういう俺を見て「君は案外浮気性だね。ルゥ側に付きたくなったよ」と、口を尖らす。
「それって嫉いてるの?」と、言うと
「認めたくはないけどね、そうかも知れない」などとふざけて、顔を見合わせて笑いあう。
 少し離れて歩くセキレイがこちらを睨むのもお構いなしだ。


 俺とセキレイの誕生日が来た。
 その日が来るのを待ちわびていたと言うベルが、俺とセキレイにお揃いのパジャマをプレゼントしてくれた。ご親切にそれぞれにスキンを忍び込ませるのも忘れずに。
「上手くいくように祈りを込めておいた」と、微笑むベルに、俺とセキレイはお互いに顔を赤らめた。
 
 その日の放課後、俺は学長室に呼び出され、構内敷地の中心にある聖堂へ連れて行かれた。
 古びたゴシックの聖堂は特別な行事の他は、滅多に入ることはない。
 側面のクリアストーリのステンドグラスから夕日がちょうど差し込んで、虹色の光が黒い制服を美しく染め上げてくれた。
 教壇の元、跪く俺の頭に手を置いた学長のトゥエが、厳かに「真の名」を俺に伝えた。
「誉れ高き名はこの者に与えられ、その伝説の名は再び、世を支配する。暗き夜も眩しき昼も君に愛を齎す。アスタロト・レヴィ・クレメントの未知なる王国は祝福の賛美に溢れかえろう…」
「…」

 それを耳にするまで俺は「真の名」の意味をただの名前だと思い込んでいた。
 多分それが事実だ。だが、その名の響きが頭の上のトゥエの手から身体の芯に突き刺さっていく感触をなんと言えばいいのだろう。
 頭を垂れた俺は金縛りのように身体も動かせず、声も出せなかった。

 …このままでは『真の名』に支配されてしまう。
 アーシュとしての俺自身が負けてしまう。
 いや、どちらが自分でも構わないのかもしれない。
 「力」を得るためには素直に「真の名」に委ねる手もあろう。
 だけど、俺は抗いたい。
 「運命」なんてもん、「必然」ってもんにすべてを任せるのは嫌だ。

 いつの間にか俺の両手は緋毛氈が敷き詰められた床に着き、必死で身体を支えていた。
 脂汗がべっとりと身体中にまとわり付いた。息苦しさにそのまま意識を失うかと思った。
 床を這うように沈み込んだまま、荒い呼吸を繰り返す。
 …冗談じゃねえ!ふざけるなっ!どんなお偉い名前かしらないが、そんな言の葉に跪く気なんか、毛頭ねえよっ!
 
 影になった自分の姿を目で追った。
 果たしてこれは本当の自分なのか。偽物なのか…
 「すべてを受け入れろ。いや、拒絶しろ。
 選ぶのは俺でなければならない。
 片隅に佇む真実を見極めろ。
 何物も怖れるな…」

 顔を上げた。
 夕日の輝きはいつの間にか消え、ステンドグラスの輝きは暗いものに変わっていた。
 俺はゆっくりと立ち上がった。
 目の前のトゥエは顔色ひとつ変えずに俺を見ていやがる。
 クソ親父、俺を試しやがったな。

「良き名を頂き、ありがとうございます。この身の内に巣食う己を味方にすれば俺の勝ちですよね」
「…君はもう、勝者だよ、アーシュ」
 トゥエはやっといつもの微笑みを俺にくれた。
 儀式は終わった。


 俺の後はセキレイの番だったが、俺は彼を待たずに寄宿舎へ帰った。
 正直、自分の事だけで精一杯だった。
 夕食も取らずに部屋に鍵をかけてベッドに横になった。
 あの時感じた身体中の火照りが夜中になっても冷めやらなかった。
 冴えた目は眠りを拒み、俺は立ち上がって部屋を出た。
 ふたつ先のセキレイの部屋へ向かう。
 ノックをしても返事はなく、鍵は閉められていた。
 
 セキレイもまた、俺と同じような体験をしたのだろうか。
 彼は一体どんな「真の名」をもらったのだろう。
 俺は「真の名」に打ち勝つことができたのだろうか…

 廊下の窓から下弦の月が白く浮かんでいた。
 恐ろしい程に白い光が俺を包む。
 窓を開け、手をかざす。
 手の平に熱いエナジィが満ち、瞬く間に身体中の隅々に流れる。
 「力」を蓄えるひとつの軌跡だ。
 
 この夜、魔法を学ぶ方法をひとつ、俺は知った。
 この「力」をどう使うべきなのか。
 人の為に?自分の為に?この学園の為に?
 
 ガタンとドアの開く音が響いた。
 部屋からセキレイの白い姿が浮き上がった。
 セキレイは俺を見て、一旦立ち止まり、そして近づいた。
 窓の手すりに両手を置き、月を仰ぎ見た。
「良く晴れてるから半月でも明るいね」
「セキレイ…」
「誕生日おめでとう、アーシュ。どうにか間に合って良かったよ」
 いつもより少し硬いセキレイの声。
「こちらこそ、おめでとう、セキレイ。勝手に決めた誕生日でも一緒に祝うことができて嬉しいよ」
 緊張した顔が緩み、いつものセキレイの笑顔が戻った。

「アーシュ…『真の名』はどうだった?」
「…アスタロト・レヴィ・クレメント。…それが俺の名前だって」
 セキレイの身体が一瞬震えた気がした。俺の方に顔を向けて驚いた顔を見せた。
「どうしたの?」
「いや…やっぱり怖いな。『真の名』の力ってこちらが気を張ってなきゃ、負けそうだ」
「君の方はどうだい?」
「…ルシファー・レーゼ・シメオン。畏れ多くて困ってしまうよ」
 ルゥは眉間に皺を寄せ、本当に参っている顔で俯いた。

 ルシファー…か。
 天上と闇の国を司った伝説の英雄だ。
 伝説なんて神話と同じで作り話だ。
 「真の名」はその偉人の生まれ変わりとも言うが、実際居たかどうかもわからぬ者の生まれ変わりなんて信じる奴がいるものか。
 煽て上げて持ち上げて、都合のいいように先導者にしたてあげるつもりだ。
 万が一、上手くいかなくても「真の名」はまた次の者に継がせればいい。
 そうやって、彼ら(学園)は、力のある魔法使いを味方につけてきた。
 それが本音じゃないのか。

「学長が決めた名前にこちらが畏れることもないさ。どんな名前を貰おうがセキレイはセキレイだ」
「…アーシュ」
「俺のセキレイに変わりは無い。そうだろ?」
「うん」
「…俺の事嫌いになった?」
「なんで?」
「…失敗したから」
「あれは…お互い様だ。僕の方も悪いんだ」
「じゃあ、チャンスをくれる?今度は失敗しないようにするよ。約束する」
「…なんだかいやらしい気分になるね」
「うん。でも今夜はよそう。まだ自信がないしね。ちゃんと学習して、セキレイを気持ち良くさせたいしね。それまで待っててくれるかい?」
「そんな真顔でよく恥ずかし気もなく言えるね…僕はそれにどう答えればいいのさ」
「楽しみにしてる。…それだけでいいさ」
「…アーシュのバカ。恥ずかしいこと言わせるな」
 セキレイの身体が俺に凭れ、俺は細い身体を抱きしめた。
「楽しみにしてる。僕は一生、君だけのものだ」

「…好きだよ」
 重なる声が耳に遠い。
 
 下弦の月が天上に輝く夜、僕らは十三の時を迎えた。
 大人になるのはもう少し。
 楽しみながら待ちわびて、揺れる君の影を踏もう。




ルうとアーシュ


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天使の楽園・悪魔の詩 6



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Private Kingdom 9 - 2011.08.13 Sat

アトセキレイ


Private Kingdom


 放課後、寄宿舎に帰るまでの時間、たまに図書館の自習室で過ごす。
 中等科に進級するまでは、セキレイたちと宿題を見せ合ったり、林の奥の廃屋になった薪小屋の秘密基地で騒いだりが日常だった。
 だけど、今はセキレイと居てもお互いを束縛しあうのは極力避けている。
 今までのように無邪気にバカ騒ぎをするわけでもなく、ただこの平凡な学園の中に漂っている感じ。
 それが悪いとは思わない。
 大人に向かう季節なのだと感じていた。
 近頃、セキレイは俺の部屋に来る事も少なくなった。俺も別にそれを責めたりしない。
 誰か別の奴と寝ているとなれば、話は別だが。

 とにかくこの図書館にはなにか気になることがあれば、足を向けるようにしている。
 中等科になるまでは、校舎にある簡易図書館で大概の調べ物は済ませられた。
 もともとこの図書館へは中等科にならないと閲覧はできない。
 この街最大だと言われる「天の王図書館」は、この世界のすべてのことが理解できるとまで言わしめる充実した蔵書が自慢だ。
 しかし、借り出されるのは一日に一冊、しかも館内の閲覧と決まっていたから、仕方なく自習室で読書をする。

 適当に手に取った雑誌は、あるカメラマンの旅日記だったが、この街以外を知らない俺には、他所がどんな街なのか、風景なのか興味津々。
 カメラに写された風景は、その土地独特な建物や着物、人々を写していた。
 彼は彼の地での魔法使いについても語っていた。

「いくつかの街では、魔法使いがノーマルな人々と同じように生活をしている。その様相や生活を見ても彼らが異質な者とは思わないだろう。
彼らは力を持っているが、それを持たない者たちへの為への恩恵だと思うところがある。
魔法使いは観念的な善悪には疎く、自分の主人である人の意思に沿う為、主人が彼らの力を利用し、犯罪を犯すことも、歴史的には多い。
その為、現在では、犯罪を行った魔法使いとその主は、共に罪を荷うことになる。この逆も然りである。
この逃れられない僕(しもべ)たる魔法使いの哀れな運命、もしくは末路を想う時、私は一縷の涙を落す。
彼らに本当の自由の意味を知る日が来るのだろうかと…天を仰ぐ。」

 つまりは魔法使いはこのサマシティだけではなく、他所にもいて、彼らも何らかの規律において、イルトへの忠誠を誓わされている。
 これは遺伝的なものなのか、天からの使命なのかどうかはわからないが、アルトとして生まれるか、又は平凡なイルトに生まれるかは、大きな運命の分かれ目だ。

 そういえば、俺がホーリーになってから、やたらとイルトの生徒から交際を申し込まれる。
 俺にはセキレイがいるからと断っても、しつこく「愛人でもいい。一度寝てくれるだけでもいいんだ」と、お願いされる始末。
 俺のアルトの力を欲しがっているのはわかるけれど、寝たからって、俺が従属するわけでもないだろうに。
 現にベルは結構な数、イルト、アルト構わず寝ているが、彼が誰かに傾倒しているとは思えない。また、彼らの為に力を施したとも聞いていない。
 どこまで情を通わせればイルトとの従属関係が生まれるのだろう。人それぞれで違うものなのだろうか…

「探したよ、アーシュ」
 息を切らしたセキレイが自習室のドアを開けて俺を睨んでいる。

「図書館に行くって言ってなかった?」
「聞いてない。おかげで寄宿舎や薪小屋まで君を探しに行ったじゃないか」 
「悪かったよ。で、用事はなんだい?そんなに急いでるくらいだから、重大な話なんだろうね」
「…重大だよ。…僕にとっちゃ…」
「だから、なに?」
 ほおっておかれて拗ねているのか、セキレイはそっぽを向いて、俺の机の前に立った。

「寝て、欲しいんだ」
「…いつも一緒に寝てるじゃないか」
「バカ、意味が違う。セックスしたいって言っているんじゃないかっ!」
「…」
 …マジで勘違いしていた。
 薄っすらと赤くなったセキレイの頬を見て、俺は自分の鈍感さを詰った。

 セキレイとは昨年の冬に初体験を試してはみたが、上手くいかず、その時は、時が熟してない…みたいなことで濁していた。まあ、お互い好きなことは判っているし、情欲なんて歳をとって思春期になりゃ盛ってくるもんだと思っていた。
 セキレイの気持ちも知らずに今までほっておいた自分が悪いのはわかっていた。

「ゴメン、セキレイ。気づいてやれなかったね。君がそんなに焦っているなんて…」
「あ、焦ってないっ!」
「そう?」
「…アーシュはイジワルだ。そうだよ、焦っているよ。大体、君が悪いんだからね」
「何が?」
 セキレイは不機嫌に眉を寄せて、乱暴に正面の椅子を蹴った。

「僕が何も知らないとでも思ってる?」
「だから何のことよ」
「…メルだよ。僕が彼のこと嫌いだって知ってるくせに、いつもメルにくっついているじゃないか。それにこれ見よがしにキスまでしてさ。僕との約束は忘れたの?」
 いきり立つセキレイの言葉に俺は正直驚きを隠せなかった。と、いうか…嬉しい。
「メルに嫉妬してるのか?」
「当たり前だろ?彼は君をものにしようとしている。そして君は何の疑いもなくメルに取り込まれている。事実だろ?」
「…」

 確かにふたつ上のメルと仲良くなった経緯は、セキレイにもベルにも話していない。
 メルが俺を欲しがっているのは重々判っている上で、俺は彼の知識や俺自身を受け入れてくれる寛容さに惹かれている。
 セキレイやベルにはない、彼の危険な情念が常に俺に向かっていて、それがどうにも心地いいのだ。その想いを振り回すことの快感さえ感じているのだから、始末に負えない。
 性格が悪いと詰られても仕方ない話だ。

「黙ってないで何とか言ったら?アーシュ」
「君がそんなに嫉妬するなんて、ちょっと新鮮だから、見惚れていた…と、言ったら嬉しい?」
「…バカなんじゃない?」
「まあ、何の疑いもなくメルと接しているわけじゃないよ。彼は俺を抱きたいと何度も言っているし、俺も彼と寝てもいいと思っている」
「…ひどい」
「でもセキレイが一番大事だし、君の許し無しで彼とセックスはしないよ。それでいい?」
「…納得できないし、なんとなくムカつく。でもそれがアーシュの決めた事なら…」
「こっちへおいでよ」
 俺は手を差し出し、彼を招き入れる。
 彼を俺の膝に座らせ、向かい合って抱きしめた。
「ここでやる?」
「え?」
「それを目的に自習室を使う奴らも多いんだぜ?ちょうどいい広さだし」

 机ふたつだけを置いた狭い自習室には窓もない。ここでしけこむ生徒も多い。
 舌を絡ませたキスを充分に味わい、音を鳴らして離したら唾液がツツと伝わった。
 セキレイは満足そうに笑った。
 ご機嫌はなんとか取り戻したらしい。
「…何だか卑猥だ」
「欲情するにはいいセットだろ?」
「そんな風に盛り上げないとセックスはできないもの?」
「さあ。やったことが無いんで、俺もわからない」
 そう言うと、セキレイはぷーっと噴き出し、声を出して笑った。

「やっぱりアーシュが一番好き。早く君と抱き合いたい。こんなところじゃなくて、フカフカのベッドの上がいいんだ」
「俺もこの痛い体制よりも、自由なベッドがいい。今宵どうですか?我が君」
「お待ち申し上げております。我が王、アスタロト」

 初夜の申し出は受けたものの、今度は失敗は許されない。ベルに話でもして気を紛らわそうとを訪ねても週末で彼は帰省していた。
 仕方なしに覚悟を決めて、俺を待つセキレイの部屋へ乗り込んでいった。


   目覚めた僕らは、清らかに魂(こころ)育み 淫らに愛を営み、歓喜する


 どちみち俺達がこうなることは、生まれる前から決まっていたことなんだ。
 それを知ってしまっているからこそ、俺はセキレイを抱くのが怖かった。

 愛を知って飢えた心を満たしたセキレイは、きっと、俺から離れていくだろう…


 

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Private Kingdom 10 - 2011.08.19 Fri

ashsekireineru.jpg


Private Kingdom
10

 今日と明日は連休で皆自宅に帰り、中等科の寄宿舎に残るものは十人にも満たなかった。
 いつもは休日でも世話をしてくれる寮母さんも休みで、夕食は大鍋に作り置きしたビーフシチューとパンを勝手に食べるだけだ。
 別段変わったことではないけど、俺とセキレイはなんだか変に緊張して、言葉も少なく、シチューとパンとせっせと口に入れた。
 別々にシャワーを浴びて、自分の部屋へ戻り、夜が更けるのを待った。

 ベルから貰ったエロい雑誌を開いたりしたけれど、なんだかそんなことより、セキレイとずっと過ごしてきたこの十年近くを思い出し、センチメンタルに浸ってしまう。

 セキレイと出会う4つの時まで、俺はひとりだった気がする。
 いや、周りの誰もが親切で暖かく、穏やかに接してくれた。先生も友人も嫌いな奴なんて居なかった。
 それでも、俺はこの世界でたったひとりなんだと、ずっと感じていたんだ。
 拾われっ子であった所為かも知れない。
 俺自身がどこかで人と交わる事を拒んでいたのかもしれない。
 誰もが俺とは違う生き物だと感じ、それは改めて言うことではないにしても、仲間意識には繋がらなかった。
 アルトの性(さが)だと言われればそうかもしれない。
 だげど、俺はセキレイに会えた。
 セキレイに会えて、初めて俺は自分以外の大切なものを知ることができた。
 彼は他の奴とは全く違っていた。
 俺は本能的にそれを知り、また俺とも違うことも知ってしまった。
 俺達はお互い独りぼっちだったのだ。
 
 その孤独さがお互いを繋ぎ合わせたのかもしれない。
 セキレイへの愛しさは、他の誰とも比べようがない色合いになる。
 彼を…失くしたくない。

 そんな思いに囚われていたら、セキレイへの愛しさが半端なく募って、俺は彼を抱く尊さに胸がジンと熱くなってしまった。
 セキレイの部屋に向かうのには勇気が要ったけど、それでもドアを開けて、仄かにピンクに染まった彼の顔を見て、愛しさが溢れだした。
 失敗なんか気にしてる場合じゃない。
 俺達は結ばれる為に存在している。
 そうじゃないのか?

「ごめん、待った?」
「…ううん、大丈夫。少しワインを飲んでいたの」
「へえ~」
 机にワインボトルとグラスが置いてあった。
「この間、ベルと三人で飲んだ残りがあったからね」
「俺にもくれる?」
「飲んでしまって、もう無いの」
「君ねえ~」
 セキレイは少しむくれて「早く来れば残っていたのに、無理矢理飲んじゃったじゃないか」と、自分のバツの悪さを隠そうとする。それが何ともかわいく思えて、彼の腕を引き寄せた。

「まあ、いいさ。ともかくベッドへ行こうよ。先行き不安も見えなくもないが、君は酔った勢い、俺は過去からの情念に背中を押してもらってさ、上手くいくように祈ろう」
 セキレイはふふと笑い、俺に従った。
 裸のままベッドに横になった。
 セキレイは俺の眼鏡を外して、枕もとのテーブルに置いた。

「本当は眼鏡の無いアーシュは少し苦手なんだ」 
「どうして?」
「色っぽくて困るもの。でも僕以外の奴らには見せたくないのも事実だよ。アーシュは…誰をも惹きつけてしまうから、とてもヤキモキしてしまう。…つまらないことだけどね」
「そんなことない。俺だってセキレイが誰か他の奴と仲良くしているのを見たら、ムカつくもの」
「ホント?うれしいな」
「ずっと…4つの誕生日に君を見つけた時から、俺はセキレイを自分のものだと思って束縛した。そのエゴを君は許してくれた。ありがとう。大好きだよ、セキレイ」
「アーシュ…」

 ゆっくりと開いていく…
 お互いの身体を出来る限り繋ぎ合わせ、隙間なく密着させた。
 残りの部分は、至る所を口唇で触れた。
 セキレイもまた同じようにキスを繰り返す。
 ふたりの結びつきは、それまでのそれぞれの杞憂に過ぎなかったと言えるほどに上手く運んだ。
 自然体でありながらも、想像以上の充実感が満ちていた。
 セキレイが「アーシュ」を切なげに呼びながら、揺れる顔を見せる。
 セキレイの中で俺もまた揺れ続けた。
 初めてにしては上出来だと、言葉に出さずふたりで顔を見合わせ笑った。
 その後、セキレイは自分の番だと言い、俺の中に入りたいと言うから、勿論おいでと言った。
 違った観念が生まれ、お互いに声を、耳を、身体を震わせ、行き着くところまで浸透させた。

 酔いどれた官能がお互いを満たし、まるで宇宙に漂っているようだと、彼は呟いた。
 ずっと繋がっていられたらいいね、と言葉にせずに伝えた。
 セキレイはコクリと頷いて笑う。

 手を合わせた指先から、溶け合うような感覚と、触れ合う胸の鼓動が痛いほどにお互いの肌に伝わる。
 何事かとお互いを見合わせた時、セキレイと俺の身体が白く発光した。
 その瞬間、俺達の身体は浮き上がり、瞬く間にセキレイの部屋からワープしたのだ。

 俺達は裸のまま、草原に寝転がっていた。
 さわさわと風にそよぐ草むらから、ミントの淡い匂いがあたり一面に漂っている。
「薄荷草だ」
 俺達の寝ている絨毯は薄荷草の茂みで、身体中にミントと草の匂いが立ち込めている。
「ここは…どこなんだ?」
 先に身体を起したセキレイが驚きの声を上げる。
「見て、アーシュ」
「あ…」
 セキレイが指差した先は、見たことも無い景色だった。
 緑の草原の地平線の先、広がった暗黒の世界、
 その暗闇に数知れず瞬く星々と、惑星、衛星、星雲、ガス状の雲…図鑑で見た宇宙の景色。
 …圧倒される。
 まるで宇宙船の外に投げ出された迷い子のように不安になる。
 自然にお互いを抱きしめあった。

「…どうしたんだろう。一体何が起きたの?」
「多分…次元を超えたんだろうね」
「え?なんで?」
「セキレイと俺の官能の力が、俺達を異次元に運んだんだ。魔力にも相性がある。きっとセキレイと俺の官能の力は、想像をはるかに超えるのかもしれないね」
「トゥエは喜ぶかしら」
「…さあ、あの親父はああ見えて食えねえとこがあるからな。こっちもホイホイと利用される気は毛頭ないぜ」
「別に…僕は利用されても構わないんだけど。だって彼は親みたいなものでしょ」
 セキレイはそう言って立ち上がり、ゆっくりと歩いていく。
 裸ではあんまりだと思ったが、辺りを見回しても身体を覆うものはない。
 仕方が無いから裸のまま、セキレイの後を追った。
 
「ほら、合歓の木だ。花が咲いて、甘くていい匂いがする」
 草原に一本だけ育った合歓の木に、セキレイは手をあてた。
「合歓はセキレイの木。薄荷草は俺の匂いだから、やっぱりここは俺とセキレイの願いの場所らしいね」
「アーシュの瞳もあるしね」
「え?」
「宇宙の星の煌きは、アーシュの瞳の中にあるんだ。だからここはアーシュと僕の身体の中なのかも知れないね」
「おもしろいね。内と外、空間は質量とエネルギーの移動により、より相対的概念を結びつける。しかし、理論的には難しい話だね。だって、これは俺達の中だけにしか確立しない場所だ」
「…アーシュは時々つまらないことを言うね。ここは僕と君の秘密の楽園って言った方が、らしくない?」
「…そういうことにしておくよ」

 俺達は合歓の木に凭れ、香りと果てしない宇宙の景色を楽しんだ。
 時が経つのも忘れてしまいそうになる。
「いつまでもここに居たい気もするけど、それでは駄目だともわかっているよね」
「うん、ここは特別な秘密基地みたいなものだ。僕らの生活する場所じゃない」
「じゃあ、リアルに戻ろうか」
「え?そんなに簡単に戻れるの?」
「まあ、なんとかなるよ。おいで、大丈夫。俺に任せて。うまく君の部屋のベッドへ帰りつくようにするよ」
「へえ~、自信満々だ。じゃあ、僕は何をすればいい?」
「もう一回官能を味わいたいって、祈ってて」

 もう一度、俺達は身体を繋ぎ合わせた。
 二回目のトリップは案外簡単だった。力の抑制は意外にも理性に比例したのだ。
 だが無事にベッドに戻ってきた時は、ふたりとも指先さえ動かす事もできないほど疲れきってしまい、泥のように深い眠りに落ちた。
 
 それから翌日の夕方、宿舎に帰ってきたベルが部屋のドアを叩くまで、ふたりの惰眠は続いた。






ルうとアーシュ3




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