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2019-10

超いいひと 3 - 2015.04.25 Sat

3
イラストはサムネイルでアップしております。
大きく見たい方は、イラストをクリックしてくださいね。


三門


3、
 休日の週末、別段予定はなかったから、いつもの街を俺は慣れた足取りでぶらついていた。
 昼間は気になっていた映画を独りで鑑賞し、その後、夕食を取ろうと「エトス」へ向かった。
 ジャズクラブ「エトス」はライブハウスだが、食事にも定評があり、味に五月蠅い客達をも満足させるらしい。
 俺のお気に入りはデミグラスソースたっぷりのオムライスだ。サラダとスープ付きで二千五百円は安月給の俺には随分と高価なディナーだが、たまの贅沢はストレス解消になるし、なにより満腹した後に聞くライブの生音の心地良い事…。
ひと眠りするにはもってこいの場所だ。
 閉店になっても度々起きない俺に、マスターの嶌谷さんは呆れた顔で起こしてくれる。なにがあっても嶌谷さんは怒らない寛大な御方で、独り暮らしの寂しい俺の愚痴やら我儘もめんどくさがらずに聞いてくれる。だから俺は密かに「仏の誠さん」と呼んでいる。
 勿論、色事は無しだ。幾ら俺が年上好みだとは言え、親父程に年の違った男を性欲の対象にはしない。それに嶌谷さんの周りには、色々な男性が居るから、あっちの方面には別段困ってはいないだろう。
 嶌谷さんは、驚くほど人生経験豊かな人で、世界中を旅してきた話などを聞いていると、そこら辺の下手な冒険映画と比べても、よっぽど面白く、充実した時間を過ごせる。
 そう言うわけで、いつのまにか俺は「エトス」の常連のお仲間に加わることになった。勿論、いつかまたここで憧れの宿禰さんに会えるかもしれないという、密やかで邪な旨味も含んでいるのは確かだ。


 柔らかい秋雨があがった黄昏時、俺は「エトス」の重いドアを開けた。
 顔馴染のチケット切りのスタッフに声を掛けると、今日はイベントで満席だと言う。
「え~?マジで?…あ、そうか、今日はクラシックライブの日だったんだね」
「そうなんです。能見さんが出演されるライブは人気があって、当日券も売り切れなんですよ」
 ピアニストの能見響さんは、「エトス」の専属ジャズピアニストだ。だが、本来はクラッシクを得意とされていて、コアなファンも多く、ふた月に一度開かれる「クラシックの会」は彼目充ての客が多い。確かに能見さんは姿形もすこぶる上等だけど、俺の好みではない。俺は見目も精神もS的な男が好みなんだ。

「そうか…。残念だなあ~。能見さんのピアノも聞きたかったんだけどなあ~」
 本当は彼のピアノよりも、イケる客を探したいんだけど…。
 ここのところ、外れが多くて、食傷気味だ。
「え~と…ちょっと待って下さい。…あ、一席だけ開いてます…けど。ラブソファ席なんですが…。どうします?」
 一寸考え、同席する奴が好みの男かもしれない…と、淡い期待を持った俺はその席を買った。ハズレなら、適当にあしらえばいい。
 
 いつもは高級クラブらしくシックな店内に見合うテーブルと椅子が余裕をもって置かれているんだが、クラシックライブは会員ではない普通のクラオタ客も入るから、テーブル無しで椅子とソファがステージに向いてズラリと並ぶ。ラブソファはその名の通りカップル用に用意され、好きにいちゃつけるように最後方の席だ。
 薄暗い店の中は間もなくライブが始まるらしく、ざわついている。俺は混雑する客の間を抜け、自分の席に向った。
 目的の席にはすでに男がひとり座っている。二人掛けなのだが俺の座る場所には男のコートが置かれていた。
「すみません、ここいいですか?」
 ソファに座った背中に声を掛けた。
「え?」
 少し驚いた声を上げ、こちらに振り向いた男は極めて平凡な眼鏡をかけた三十過ぎの頼りなげな顔だった。
「…」
 別にこの人に罪は無いのだが…
 これと言って特筆すべきものはない、一般的な、十人並みの、特色のない、ありふれたサラリーマン風の男の見目に少々の失望を感じる。
 従順で人の良さ気は長所と言えなくもないが…俺の触手は一切動く気がしない。
 しかし、ここまで来て、踵を返すような大人げないことはしまい。

「ここ、一応二人席なんですよ。ほら」と、俺は手に持ったチケットを見せる。
「あ…す、すみませんっ!…え?ここに一緒に座るんですか?」
「ええ、そうなりますけど…」
「は、…ど、どうぞ」
 男は慌ててコートを退かし、俺が充分に座れるだけの空間を保つためにソファの端に身体を寄せた。
「ああ、そんなに隅っこに座らなくても、大丈夫ですよ」
「でも…」
 ラブソファというくらいだから、普通に座っていてもお互いの膝頭や腕はどうしても触れ合ってしまう。見知らぬ男とラブソファに座るのは、確かに抵抗があるのかもしれない。

「俺の方は気にしないけど…あなたが無理なら、俺、後ろに立ってますから」
「え?いや、そんなことは…。だ、大丈夫です。どうぞ、座ってください」
「じゃあ、遠慮なく…」
 もとよりこっちは遠慮する気はない。ワンドリンク付きで四千円も払ったのだから。

 しかし…確かに思ったよりも男二人が座るにはラブソファは狭い。
 肩を寄せ合って愛を語るには便利だが、今日初めて会った他人同士が肩を寄せ合うには、少々ハードルが高すぎるようだ。
 眼鏡の男は俺の事を気にしないフリを必死にしているが、緊張しているのか、プログラムを広げた指が微かに震えている。
 俺はその様子が面白くてじっと見ていた。が、ふとその横顔にデジャヴを感じた。
「すいませんが…」
「え?」
「その眼鏡外してもらえます?」
「は?」
 訝る男にニッコリと笑いかけ(愛嬌だけは一人前と上司からも太鼓判を押されている)、俺はもう一度「眼鏡、取ってください」と、言った。
 男は少し戸惑いつつも素直に眼鏡を取って、視線を外しながら俺に顔を見せた。
「…」
 どこかで見た記憶があるんだけどなあ…取引関係の顧客かなあ?…いや、だったら覚えているはずだ。
 しばらく考えてみたけど、どうもはっきりとしない。
「すみませんでした。もういいです」と、男に謝った。
 男は「はあ」と、気の抜けた風に返し、眼鏡をかけ直す。
 俺は再び俯いた男の横顔をちらりと眺めてみた。
「…あっ!」
「え?」
 そうだ!思い出した!宿禰さんと始めて出会った帰り、電車の中で向かい側の席で眠っていた男だ。
 あの時、俺は整った宿禰さんとこの男を見比べてて…楽しんでいた。
 俺の声に男は驚いた顔で俺を見かえす。
「いえ、なんでもないです」
 俺は笑って返した。さすがにあなたが電車で寝ていた姿を眺めていましたので、知ってます…とは、言えまい。
 しかし、それ以前にもどこかで見た記憶が…あ……
「そうだっ!」
「はいっ?」
 男は再び素っ頓狂な声を出して、俺を見る。
「あ、驚かせてごめんなさい。いえね、俺、あなたの事どっかで見た記憶があって…」
「…わたしをですか?」
「そう!やっと思い出した!総武線の電車内でおばあさんに席を譲ろうとして、一緒にコケた人だ!そうそう、間違いないや。あ~、すっきりした~」
「…」
 男はポカンと口を開けて俺を見ている。
 よく考えたら…確かにいい歳した大人が、くだらないことで燥ぎすぎだ…。

「あ…え~と、ゴメンなさい。俺、あの時、あなたを見てすごくいいひとだなあ~って思ってて…」
「…」
「ホントですよ。変な意味じゃないです。本当に、いいひとだと感心したんですっ!」
「…別に…いいひとなんかじゃないですよ。お年寄りに席を譲るのは誰だってするものでしょう…」
「でも、俺、なんか幸せな気分になったんです」
「…はあ…」
 男はしみじみと俺を見つめ、そして、少し憮然な表情で何も言わず俯いたまま、黙ってしまった。
「…」
 不機嫌にさせてしまったのかと、不安になる。
 折角ライブを楽しもうって時に…。
 俺が悪いんだけど…。

「あの…気を悪くされたのなら…ごめんなさい。俺、つい調子にのっちゃって…」
「…いえ、別に…。大丈夫です」
「本当?なら良かった~。クラシックお好きなんですか?」
「え?…はい。そんなに詳しくはないけれど…聴くのは好きなんです。実は…この店にくるのは初めてで…」
「え?そうなの?」
「はい…。ピアニストの能見響さんのCDがとても気に入ったもので…。今日、駅前のチラシで能見さんのライブをここで聴けるって知って…。それで入ってみたんですが…なんか、ここちょっと様子が違うというか…」
「ああ、いつもはゲイの方が多いんですよ。でも今日は普通のお客さんもいらっしゃるから、変に絡む奴はい少ないですよ。安心して下さい」
「はあ…」
 こういう話は慣れていないのか、男は顔を赤らめながら、頭を掻いた。その左指の薬指には、結婚指輪が垣間見えた。

 俺に至っては、この時までこの男がゲイだとばかり思っていたから、本当に既婚者なのか…と、疑いを持たずにはいられなかった。
 バカな話だが…自分がゲイだと、つい周りの男も同類だと勘違いしてしまう。実際はゲイなんてアンダーグラウンドマイノリティでしかないのにさ。

「あの…」
「え?」
 顔を上げた男の顔が、驚くほど近くにあった。
 お互いの顔を見合わせた時、室内の灯りが一斉に消えた。

 俺は暗闇に紛れ、目の前の男の口唇に軽くキスをした。
 惹かれたからじゃない。ただの挨拶代りのコミュニケーション。
 そう、これから始まる素敵なライブのアントレ(入口)だよ。
 

 2へ /4へ

GWの予定は、一切ござらん!(`・ω´・)ノ"


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超いいひと 4 - 2015.05.02 Sat

4
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上杉1

4、

 暗転になると同時に、スポットライトに照らされたステージ上のピアニストとヴァイオリニストが美しいハーモニーを奏で始める。その鮮明な音律がフロア中に響き渡り、クラシックに疎い俺でも一気に高貴で優雅な世界に引き込まれた。
 しかし…それよりも気になるのは…
 先程俺がキスした隣の男の様子だ。
 男は俺から逃げる様な姿勢で身体を斜めにしながら精一杯ソファの端に詰め、狭苦しそうに縮こまっている。
 キスした時は辺りが急に暗くなったから男の表情はわからなかったが、小さく「ほぇ~」と驚く声だけが聞こえた。
 暗闇に慣れた目で眺めると、眼鏡をかけた男はさっきよりも恐々とこちらをチラ見し、確実に俺を警戒していた。
 そんなに身体を離したいほど嫌だったのか、それとも照れ屋さんだったのかわからないけれど、キスした感じじゃ、こいつも男は初めてじゃない。
 俺の第六感がそう告げている!
 
 驚かせないようにそっと腕を取り「そんなに固くなってちゃ、せっかくのライブもゆっくり聞けないでしょ?大丈夫ですよ。何もしないから普通に掛けてください」と、呼びかけた。
「…」
 男は訝しそうに俺を見つめ、溜息をひとつ吐きつつ、少し身体を戻した。
 俺は男の耳元で「すみません。驚かせてしまって…。本当に何もしないんで、ゆっくり能見さんのピアノを堪能して下さい」と、囁く。
「…はい…」
 蚊の鳴くような返事に、つい笑いそうになった。本当に控えめで内気な人らしい。

 日頃、俺の周りには自己顕示欲の強い者ばかりが揃っているから、こういうタイプは貴重な生物っぽくて新鮮な気がした。まあ、何にしろ気は使わないでよさそうだし、案外こういう平凡な男と付き合ってみるのも、楽でいいかも知れない…。 俺の理想のドラマチックな恋には縁遠いけど…
 …つうか…なんだか、急激に眠たくなってきた。
 昨日、明け方まで社内コンペのデザインを考えていた所為だろうけど…この高雅なBGMがなんとも…セイレーン級の睡魔って奴…で…

 俺にとって音楽って奴は、眠り薬のようなもので、良い音楽ほどノンレム睡眠へ急降下となる。そういう意味で言えば、今日の能見さんのライブは良い出来なんだろうけれど…


 いきなりの拍手と歓声の音で目が覚めた!
「えっ!…ええっ!」
 周りはスタンディングオベーション。拍手喝采の嵐状態。すぐには何が起きているのかわからなかった。
「やば…」
 気持ち良く居眠りしている間に、クラシックライブが終わっていたらしい。
 否、居眠りというにはかなり本格的に眠っていたような…気がする。
 しかも…俺は隣の男の肩を枕にするだけじゃなく、身体全体でもたれ掛かり、充分に拍手さえできない状態にしてしまっているんだ。

「うわぁ!す、すいません…ぎゃ、ホントにごめんなさい」
 俺はあわてて立ち上がった。
 この人のシャツ、俺のヨダレなんかで汚してないだろうか。
 なによりも…
 楽しみにしていたはずのライブを俺の居眠りの所為で、台無しにしてしまったんじゃないだろうか。
「マジであやまります。どうしよう…俺、いい音楽聴くとつい寝ちゃうクセがあって…」
 さすがに酷過ぎるマナーだと超反省。俺は隣の男に何度も頭を下げた。
「そう…らしいですね。休憩の時、スタッフの方がドリンクを持ってきてくれたんですけど…あなたがぐっすりと寝ていたので、『こいつが寝てる時は、ライブの出来がいい時だ』って、笑っていらっしゃいましたよ」
「…」
 そんな事を言う人は嶌谷さんだろうけれど…気の毒なことをしてしまった。

「本当に失礼しました…。あの…なんかホント…俺、あなたにずっと寄り掛かってしまって…重かったでしょう。…せっかくの能見さんのピアノを楽しみにしてらっしゃったのに…。…すみませんでした」
 マジで焦る。
 そりゃ、確かに俺は眠かったらどこでもすぐに居眠りできる性質だけど、誰かに寄り掛かって寝たりなんて電車の中でもしたことないし、他人に迷惑かけたことなんか今までに一度だってなかったから、流石に自分自身に呆れて…マジで凹んだ。しかも見ず知らずの人に長時間、寄り掛かって眠っちまうなんて…ありえねえ…。

「そんなに落ち込まないでください。僕も最初は驚きましたけど、本当に気持ちよさそうに眠っていらしたんで、なんだか…起こすのも気の毒で…」
 言葉と同様に眼鏡の奥の目が穏やかだったから、俺も少し安心した。
「じゃあ、これで…」
 周りの客もすでに立ち上がり、そのほとんどがフロアを後にしようとしている。
 同じように軽く会釈をして出口へ向かう眼鏡の男の腕を、俺は反射的に掴んだ。

「あ、あの、晩飯まだでしたら、お詫びにおごらせて下さい!」
「え?…いえ…。そんなに気になさらずとも、本当に大丈夫ですよ。気にしてませんから」
「いえ!このままじゃあ俺が気になるんです。高いお金払ってせっかく楽しみにいらしたのに、俺の所為で…。是非ともおごらせてください!」
「でも…」
「大丈夫です。変なセールスはしないし、俺ゲイだけど、あなたに無理に迫ったりしませんから!」
 俺の必死さに男は怯みがちになりながらも「じゃあ、食事だけ…」と、ひきつった笑顔を見せながらも承諾してくれた。


 約三十分後…
「すいません。無理に誘っておいて、ラーメン定食だなんて…。給料日前なんで、あんまり手持ちがなくて…」
「いえいえ、充分美味しいですよ」
 ご馳走してやるからと大口叩いた割には、新橋駅裏にある行きつけのラーメン屋が今の俺の財布では精一杯だった。
「僕も好きなんだけど、とんこつラーメンの美味しいところがなかなか見つけられなくて…。良いお店を教えてもらいました。ありがとうございます」
「…」
 なんというか…この人、予想以上に「いいひと」みたいだ。それに平凡な利点がこの人には似合っていて、妙な魅力を引きだしている…気がする。
 いやいや、別に惹かれているわけじゃないから。
 でも…やっぱり気になるかな。

 眼鏡が曇るからと眼鏡無しで食べ始めた顔は、インテリに見える眼鏡姿よりも多少間の抜け面に見えるけど、それも「いいひと」に輪をかけて見える。
 上手な箸の持ち方やら下品にならないラーメンの啜り方やら、この人に似つかわしい仕草だ。時々目につく指輪が気にならないことはないけれど…

「…なんか僕の顔に付いてます?」
「え?いいえ。あ、そうだ!その服、俺の好きなブランドなんです。そのコートもそこの新作ですよね。高かったでしょう」
「…いや…これは妻が…」
 そう言い淀んだまま、男は黙り込んだ。
 
 本物の妻帯者なのか…。俺の予想が外れるなんて、滅多にないんだけどな…。
 残念?…いや、別にこの男と寝たいなんて思っていたわけじゃないんだけど…さ。

 俺のテンションが下がった所為なのか、その後は会話も途切れがちになり、ラーメン屋を後にし、駅に向って歩き出した。

「あの、今日は本当にすみませんでした。ラーメン奢ったぐらいじゃ、元取れませんよね。今度『エトス』で能見さんのライブがある時には、チケット奢らせてください」
「そんなに…気にしなくていいんですよ。一緒に居られて楽しかったし…」
「ほんとですか?」
「はい。独り暮らしなもので、こんなに誰かと仕事以外の話をしたのは久しぶりで…とても楽しかった。こちらがお礼を言わなきゃならないぐらいだ」
「独り暮らし…って?奥さんいらっしゃるんでしょ?」
「向こうも仕事があるので、別々に暮らしているんです…。まあ、色々事情がありまして…」
「あ、すみません。詮索するつもりは全然ないから…」
「大丈夫、気にしてないよ。じゃあ、これで、お別れですね」
「…」
 男は一度だけ丁寧に頭を下げて、駅に向って歩いて行く。
 その後ろ姿がなんとなく…
 なんとなくだけど…人恋しさに寂し気で…さ…。

「待ってくださいっ!」
 俺は男を追いかけ、その腕を掴んだ。
 男は驚きながら、笑ってくれた。
「今夜はあなたに何度腕を掴まれたことでしょうね」
「その…今夜だけでいいから、俺と寝てくれませんか?」
「は?」
「本気じゃなくていいんですよ。一夜だけの遊びだと軽く思ってくれればいいから…。あんたと寝てみたいんだ」
「…無理に迫らないって言ったくせに…」
「そ、そうだけど…。もしどうしても嫌だったら、寄り添って一緒に寝るだけでもいいですから」
「…」
「駄目ですか?」
「ホテル代は僕が持つってことなら…OKですよ」
「ホントに?」
「今夜は僕も誰もいない家には帰りたくない気分でしたから」
「じゃあ、本気で…迫ってもいいですか?」
「僕も男ですから…一応、性欲はあるつもりです。よろしくお願いします」

 その夜、俺と男が泊まったホテルは安ラブホテルでもない、一流のシティホテルだった。
 名前も知らない、別に好みでもない、どこにでも居る平凡な男との一夜は、想像を遥かに超え、恐ろしく刺激的で、天にも昇るほどの快感を得られたのだから、俺の勘はまんざらじゃないのだと確信した。
 
 男の名は「三門信彦」と言う。
 正直、こんな平凡で底なしのおひとよしに、本気で惹かれるなんて…今でも信じられないのが本音だよ。



「超いいひと」はこちらから… 3へ5へ

浅野とこれから出てくる吉良のお話はこちらです。
傷心
うそつきの罪状 1



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超いいひと 5 - 2015.05.10 Sun

5
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いいひと4

5、
 
 ホテルに入るまでは名前も知らなかったから、服を脱ぎながらお互いに簡単な自己紹介をする。 
 男は「三門信彦」と言い、33歳になったばかり。大手製薬会社の研究員で、日々多忙な研究生活に邁進し、自宅と研究室の往復でほぼ一日が終わる。月に一度、街に出て外の世界を覗き見る…賢者モードの暮らしぶり。
 なんだかなあ~、その話しぶりや内容やらが、平凡を絵に描いたごとく彼に似つかわしいじゃないか。
 俺は今夜のセックスをあまり期待しないように己に言い聞かせてながら、真っ裸のままベッドに寝転んだ。
 だけどシャツを脱いだ三門さんの身体を見た途端、淡い期待が膨らんだんだ。
 着やせするタイプなんだろうか。服を着ていた時とは想像難い、顔に似合わないしっかりとした筋肉質の体型で、バランスもよく、まさに俺好みのセクシーな肉体美。

「三門さん、なんかスポーツしてんの?」と尋ねると「へ?ああ、中学の時から剣道を続けててね。今も暇を見つけては道場へ通っているんだ。仕事ではほとんど身体を動かさないし、ストレス解消にね」と、答える。
「へえ~、だからか。綺麗な身体してるよね。俺、貧弱だからうらやましいわ~」
「そうかな…。自分じゃわからないけど…」
「ねえ、早く来てよ」
 その身体を確かめたくて、俺は三門さんを急かす。
 
「…ごめん、こういうことは随分久しくてね…。正直に言うと君を満足させられる自信がないんだ。先に謝っておくよ」
上半身だけ裸になり心細げに俺におずおずと近づく三門さんがおかしくて、「大丈夫だよ。俺に任せてよ。大船に乗ったつもりでリラックスしていいからさ」と、彼のズボンを脱がせつつ、さっそく口に咥えた。
 三門さんは少しだけたじろいだけれど、すぐに感じてくれた。
 それから先は…行きつくとこまで快楽に酔い痴れた…と、いう感じ。
 
 三門信彦の性技は確かに巧いとは言えないけれど、すべてにおいてタフであり、俺はあっさりと自分の敗北を認めた。
 慣れない愛撫やぎこちなさも、こちらが指南すればすぐに素直に応じてくれるし、なんというか…こんなに高みに弾けたのは俺の長年の性体験で初めてだったから、嬉しい誤算だったと言える。まあ、人間見目で判断しては損をするという事だ。

「大丈夫かい?上杉君」
 行きついた果ての消耗っていうのは、高揚感に比例するわけであり、今夜はそれが半端ない。つまりすごく良かったと言うことなんだけどさ…。
 ぐったりとベッドに沈み込んだ俺を、本気で心配してくれる三門さんの優しさが素直に心に響くのはなんだろうなあ~。
「由宇…って呼んでよ。俺も信(のぶ)さんって呼ぶからさあ…」
「う…ん。由宇くん、どっか痛かったりしてない?ごめんね。久しぶりで、つい夢中になってしまって…。水持ってこようか?」
「いいから、こういう時は、黙って優しく抱いてくれればいいの」
「そう…なんだ」
 信さんは俺の言う通りに、俺の身体をしっかりと包んでくれた。
 腕枕が心地良くて、なんだか本当に満ち足りた気分だ…。

 夜は深い。
 まだ朝までには時間があるから、もう一回ぐらいは抱き合えそうだ。
 これがこの男との最後の一夜なら、もっと味わっていたい。だけどしばらくは勃ちそうもない。続けて三回はこちらも久しぶりで、ここのところ仕事もきつかったし…戦士にも休息が必要だよ。

 信さんは片腕で俺を抱いたまま、もう片方の手で俺の髪を撫でてくれている。
 なんだか昔見た子猫の毛づくろいをする親猫みたいな光景だなあ~。
 そんなわけで俺もすっかり甘えムードになっちゃってさ…。

「信さんの手、大きくてあったかいね」
「そう?」
「俺の両親って厳しかったから、こんな風に抱いてもらった思い出もあんまりなくてさ…。まあ、今更甘える気は更々ねえけど。…やっぱりどっかで甘えたがりなのかもなあ~」
「誰だってそうじゃないかな。僕も無性に人肌恋しくなる時があるよ」
「そうなんだ…」
 耳元で響く少し低めの信さんの声は「エトス」で聴くジャズのコントラバスの音に似ていると思った。少しだけ首を捻って信さんの口唇にキスをすると、眼鏡のない信さんの目が二、三回瞬いて、不思議な顔をする。
「好きだよ」と、言うと真っ赤になって「ぼ、僕も…好き…ですよ」と不器用に応えるのがおかしくて、かわいい。
 この人、自分の魅力に気がついていないんだろうなあ~。
 骨董品じゃないけど、誰も気がつかない名品を探し出す楽しみっていうのも、わかる気がする。

「俺さ、普段はどっちもいける性質(たち)でさ。なんかさ、タチの時は征服欲っていうの?そういうのを求めてるし、ネコの時は甘えたり、我儘になったりするのが楽しいんだけど、本当の充足ってさあ…満足感?…そういうのを味わえるセックスってあんまりないんだよね」
「そうなの?」
「うん。だけど、今日、信さんとして、なんか、これが満たされるってことだなあ~って、思っちゃったよ。…ああ、心配しないで。信さんを好きになったとかそういうメンドクサイ話じゃないんだ。身体の相性って大事なんだね、っていう話だよ」
「僕の方こそ…すごく良かったよ。恥ずかしい話だけど、これまでそんなに経験がないから…うまくいくか心配でね」
「奥さんとは?」
「…」
「悪い、聞かない約束だったね」
「…ごめんね」
「いいよ。最高の一夜を味わったんだから、他はどうでもいい気分…。俺は信さんに惚れたんじゃなくて、信さんの身体に惚れたの」
「褒めてくれてる…ってことなのかな?」
「そうだよ。だからさ、今夜はこのままずっと抱いててよ、ね?」
「由宇くんの望むままに…」
 信さんの胸に抱かれたまま目を瞑ると、途端に睡魔が襲ってきた。本気で寝ちゃ駄目だと思えば思うほど、深い眠りに惹きこまれていく。


 結局、目が覚めた時はすでにチェックアウト寸前で…。
 信さんは俺に腕枕をしたままで動けずにいたし、ふたりして慌てて着替えを済ませ、部屋を出る。
 フロントで支払いをする信さんの背中を眺めていると、なんだかこのまま別れてしまうのが、もったいないと言うか、心残りと言うか…寂しいと言うか……

 何線に乗るのかも聞かずに駅のコンコースで別れることにした。勿論お互いの電話番号もメルアドも交換などしていない。
「じゃあ、これでお別れだね」
「うん…。あのさ、こんなこと言うのは大人げないし、しつこいって思われるってわかってるけど…さ、あんたとまた寝たい…って言ったら、どうする?」
「え?…」
「つまりさ、信さんの身体が欲しいって事だよ」
「…」
「いつか…気が向いたら、でいいんだけど…」
「由宇くん、僕は…」
「来週!いや、再来週!二週間後の夜、俺『エトス』で待ってるよ。信さんが来なかったら、すっぱりと諦めるから」
「…」
「信さん、いいひとだから、気を使うだろうけど、俺は遊び人だから、信さんが来なくても他の奴と楽しめるし…その点は心配してくれなくてもOKです」
「…わかりました。よく考えてみます」
「うん、じっくり考えてみてよ。身体が目的とは言っても、付き合っていけば恋も生まれてしまうかもしれない。この人とずっと一緒にいたいって思うかもしれない。そんな先まで考えてどうするって思うかもしれないけど、俺も信さんも大人だから、考える必要はあるよね」
「そうだね」
「今はあんたともう一度寝たい…それだけが俺の真実…かな?」
「うれしいよ、そう言ってもらえると…。ありがとう」
「こちらこそ、です」
 俺達は握手をして別れた。


 二週間なんてあっという間に来ると思っていたけれど…。
 仕事中も信さんとのセックスを思い出し、やっぱり手放すのは惜しいとか、もっと良い男が他にいないものかとか…色々と考えてしまう。
 信さんと背格好の似た男と寝てみたりもしたけど、期待外れもいいとこで、こっちが落ち込んでしまう始末。
 益々信さんが愛しくなったりさあ…。信さんも俺の事を思ってくれたら良いんだけれど。
 だけど期待薄な気もする。
 第一ゲイなのに妻帯者って…俺には理解できない。色々な理由があるにせよ、結婚という一生を添い遂げる誓いをした者同士が愛し合えないって、意味不明。
 奥さんの事を嫌いなら、奥さんが買った服を着たりしないだろうから、仲が悪いとは思えないんだよなあ…
 まあ、色々考えてみても仕方がない。
 先の事は、次があったらでいいだろう。

 二週間後、俺は不安と期待が交わった胸の高鳴りを抑えつつ、「エトス」に向かった。
 すでにオープンの時間は過ぎ、辺りは暗かった。
 「エトス」は表通りから入り込んだ静かな袋小路にある店だったから、派手なネオンじゃなく、おちついたランタンの淡い彩光だけで入口が示されている。
 その入り口の壁際にぽつねんと立つ男の影が見えた。
 もしかしたら…と、思って俺は一目散に走り寄った。

「信さん、来てくれたんだ」
「はい…来てしまいました…」

 二週間前と変わらない、自信の無い照れた笑顔が懐かしい。




 4へ /6へ

蛍丸がでねえ~。ホタホタしたいのに(ノω・、) ウゥ・・・
美形好きの私にも、だんだんと信さんがかわいく見えてきたのです。



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超いいひと 6 - 2015.05.18 Mon

6
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上杉君朝jpg


6、

「また会えてうれしいよ、信(のぶ)さん。実のところあんまり自信なかったからさ」
「僕も由宇くんの姿を見るまでは、もしかしたら担がれたのかもしれない…と、考えてみたり…してました。疑ってすみませんでした」
「いや、その…そこ謝るとこじゃないからさ」
「そうなんですか?」
 相変わらずの底なしの人の良さに、思わず声を出して笑ってしまった。

「それより、寒くなかった?店の中で…待っていてくれれば良かったのに…」
 信さんはこの間のオシャレなコーディネートではなく、チェックのシャツに紺色のセーターという地味な服装だった。この季節の夜にコート無しでは少しばかり肌寒いだろう。
「そうも思ったんですが…店が開く前には着いていたので…、ここで待っていれば、お互いを見つけるのに迷わなくていいかなと…思ったので…」
「え?…」
 店が開く前からここに来て待っていてくれたのか…
 なんかちょっと感動する。つうか、かなりきてる。
 きっと他の人だったら恩着せがましいとか、裏があるんじゃないかとか勘ぐりたくなるんだろうけれど、信さんの言葉は素直に受け入れられるから不思議だよなあ。

「じゃあ、行こうか」
 俺は信さんの腕を取り、店を背に歩き出す。
「え?エトスに入らないんですか?」
「信さん、今日はここに何しに来たの?音楽を聴きに?違うだろ。俺とセックスする為に来たんでしょ?だから、早くしようよ。俺、あんたとやりたくてたまんないんだけど…」
「由宇くん…」
「信さんは?俺とやりたくないの?」
「し、たいです」
「じゃあ、決まりだね」
 
 信さんの了解を得て、歩いて五分もかからない馴染のホテルへ道案内をした。
 いい年をした大人なのに、早く抱き合いたいからって、信さんを急かし、ふたり並んで馬鹿みたいに走った事は、明日の笑い話しにしよう。一刻も早く信さんが欲しかったんだ。
 ホテルのフロントマンは俺の顔を見ると何も聞かずに、いつもの部屋のキーを差し出した。
 俺は一言お礼を言って、信さんを連れて正面のエレベーターへ乗り込んだ。

「慣れているんですね」
「うん、このホテルの客は常連の、それも同性の連れが多いからね。変に気を使わなくていいし、何しろこのホテルのお奨めは内装は壁が厚いから、お隣りの喘ぎ声が聞こえないってねえ。これって案外重要なんだぜ。内壁には金をかけないハコが多いんだけど、ここのオーナーは変わり者だからねえ」
 このホテルの経営者は「エトス」のオーナーであり、嶌谷さんの従弟の嶌谷宗二朗って人だ。彼は「嶌谷財閥」と称される一流総合商社のCEOで、このホテルの設計デザインはあの宿禰凛一さんらしい。
 「らしい」と言うのは、表沙汰にはなっていないけれど、嶌谷宗二朗さんと宿禰さんが何かの賭けをして、宿禰さんが負けて、タダでここの設計責任者になった…と、いう噂話程度なんだけど、こういうのは法螺話であっても、とてつもなく惹かれるものだ。
 でもこの部屋の居心地はなんというか…建築家の卵の俺が言うのも変だけど、母親の胎内にいるみたいに安心感がある。まあ、親の胎内でセックスするのもどうかと思うけれどね。
 さすがに建築にはシロウトのはずの信さんも、室内の雰囲気に驚いている。
 普通のホテルとは違って、なんというか…無駄なものは極力置かず、上等でシンプルなベッドとソファとテーブルだけが主なインテリアだ。ベッドに寝て仰向けに見上げると間接照明が照らし出す天井の不思議な色合いが妙にエロチックで…己の欲望を曝け出してしまいたくなる…そんな感じなんだ。
「なんだか…ざわざわしますね」
 テーブルに眼鏡を置いた信さんは少しためらいながら俺を見る。
「ね、エロいいんだけど、なんだか素直に感情を曝け出せる気分になる。さすが宿禰さんのデザインだよな」
すでに真っ裸になった俺は、信さんのセーターを脱がしにかかる。
「宿禰…さん?」
「俺の尊敬する建築家だよ。あの人の作るものって、なんかしら体温があるんだよなあ。だからこの部屋もエロく感じるんだろうね」
「そうか、由宇くんは建築家だったね。…ちょっと憧れるなあ。物を作る人って自分の目的に突き進んでいるみたいで…」
「信さんだって、薬の開発してんだろ?人の為に役立つ立派な仕事じゃん」
「僕の場合は…上から言われたことをやってるだけですから…」
「俺だって同じようなもんよ。サラリーマンだから仕方ないけどね。でもいつかは独立したい…なんてねえ」
「できますよ、由宇くんなら」
「適当すぎるよ、信さん…つうか…早く入れてよ…」
 俺は裸になった信さんの身体にしがみつき、深いキスを与えた。

 お互いの身体が求め合っているのはわかっているのに、話している内容が全く色っぽくないことが変におかしくて…それでも身体ごと興奮しまくってて…。
 他の奴とならエロイことばっかり考えないと勃たないのに、信さんの身体に触るだけでイっちゃいそうになるってさあ…俺の性欲の沸点、信さんに限ってマトモじゃなくなってるってことなんかな…

「信さん、信さん…」
 俺の声がゆっくりと回る天井の彩光の向こうから響いているみたいで、俺の中が信さんで一杯に満ちたりた時のあまりの高揚感に、僅かに残っている俺の平常心が驚愕している。
 快楽っていうのは満ち足りてしまうと、コップに溢れる水と同じで、わけもわからず泣きじゃくってしまうものなんだな…。
「由宇くん?…由宇くん、大丈夫?」
 あまりに俺が泣くから、焦った信さんは本気で俺をあやすみたいに背中を撫でる。
「信さんの所為じゃねえよ。あんまり良かったから…よすぎると涙が出るって初めてで、俺も驚いてるけどさ…。あ、でも確かに信さんの所為で泣いてるんだから、原因は信さんには違いないね」
 泣きながら笑ってみせる俺に、信さんは安心したように深く息をした。

 全くもって、セックスの力とは恐ろしい。
 三門信彦という人間に惹かれいるどうのこうのよりも、もうすでにこの男を離したくないって俺は思い込んでしまっている。 
「こんなに相性が良い人に巡り合えるなんてさ…ありそうで滅多に出会えない。俺は運が良いよ」
「そうなの?」
「そういうものなんだって」
 終わった後の倦怠感を互いの温もりの中で感じあう時間が俺は好きだった。それ以上に信さんの腕枕の安定感ったらさあ…
「僕は経験が少ないけど…。由宇くんとするのは…」
「するのは?」
 ゆっくりと色目を使いながら、俺の男を見上げた。
「この上なくエクスタシーを感じます。僕も運が良いんだと思うよ」
「そう思ってくれるのなら、これからも俺と付き合ってくれる?」
「でも…僕は…」
「奥さんの事?」
「…」
「信さん、今日は奥さんの買った服着てないでしょ?それって俺に気を使って?それとも罪悪感?」
「…」
 俺の言葉に信さんは驚いた顔をして俺を見つめた。
「それぐらいわかるよ。伊達に男と遊んでないからね」
「…由宇くんに隠し事は、難しいですね…」
「別に言いたくないなら、言わないでくれていいよ。信さんの家庭不和を望んでいるわけじゃない。これからも俺と楽しく遊ぼうよ、って言ってるだけだから」
「…はい。それじゃあ、よろしくお願いします」
「でも、悩みがあったら聞くよ。俺、割と人からお悩み相談されるんだよね」
「そうなんですか?」
「少々はったりかましてエールするだけでも、元気が出るからって、感謝されたりさあ…。案外おせっかい焼なのかも~って、近頃思う事も多いんだ」
「いいひと…なんですね」
「…」
 あんたほどじゃねえ~と、言い返したかったけれど、他の奴と同様に気軽には言えなかった。
 
 妻帯者との付き合いは家庭を持ち込まなければ、難しくはない。それに割り切った関係だから長くは続かない。こちらも深入りをする気はないから、適当なところであっさりと別れることになる。半年も付き合いが続けば長い方だ。
 三門信彦との関係も、同じようなものだろう…と、俺は思いたかった。
 もしも信さんが妻帯者ではなかったら…俺ももっと執拗に彼との真剣な恋愛を求めていただろう。
 だけど、俺は誰も不幸にはしたくなかった。否、一番不幸になりたくないのは俺自身だったから…。

「また、会ってくれる?」と、俺は乞う。
「ええ、今度はいつにしましょうか?」と、信さんは柔らかく答えた。

 俺達は携帯電話の番号とメルアドを交換し合った。
 まるで恋をする女学生のように俺はときめいた。
 それを言葉にすると、信さんは「僕も同じ、みたいです」と、顔を赤らめる。
 なんだか馬鹿みたいに胸が熱くなる。
 なんだよ、これ?と、誰でもいいから問いただしたくなる。
 クソッ!俺、本気なのか?

「あなたに…恋をしていいですか?」と、俺は問う。
 信さんは何度か目を瞬かせた後、一度深呼吸をした。

「誰かに告白されてこんなに嬉しいと思ったことは、生まれて初めてです。…ありがとう、由宇くん。…僕も君と…恋をする勇気を…くれますか?」

 信さんの言葉に大感動したのは真実だ。
 だけどこの後の困難を思えば、これは一種の確信犯的告白だったのかも…と、今にして思えば、少しだけ後悔する。

 少しだけだけどね。
 
 


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浅野とこれから出てくる吉良のお話はこちらです。
傷心
うそつきの罪状 1


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超いいひと 7 - 2015.05.30 Sat

7
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上杉由宇小指


7、

 こうして三門信彦との付き合いが始まったわけだが…
 即物的な付き合いから始まった恋愛は、そのままの状態を続けていた。
 愛を語らうロマンスには遠い、身体を求め合うだけの関係。
 それだけで十分だと思っていたんだ。

 二週間に一度の割合で、週末の夜を例のホテルのベッドで過ごす。たまに「エトス」でライブを楽しんだり、食事を一緒にすることもあるけれど、何よりの目的はセックスであって、それは信さんも同じだった。
 身体の相性が良いからと、お互いの性欲を満足させるだけの相手だと割り切っていたのは事実だし、それ以上の関係…つまり本当に好きになってしまう…事態を怖れてもいた。

 告白したにも関わらず、俺が二の足を踏んだのは、信さんの奥さんに対する想いは誠実であり、夫婦の倦怠やお互いが嫌いになったわけではない…つまりは愛情を感じたからだ。
 しかも…彼ら夫婦には五歳になる息子さんがいる。
 信さんが思わず口を滑らした時、(ウインドーに飾られたはちみつを抱えた例のクマのぬいぐるみを見て、彼はかわいいなあ、、息子の誕生日に贈ろうかな…と、呟いたのだった)俺は驚いて「本当に信さんの子供なの?」と、思い切り地雷を踏んでしまった。
 信さんは黙ったまま返事をしなかった。
 俺も気まずい思いを残したまま、いつものホテルに入った。
 
 その後のセックスには尾を引くこともなかったけれど、なんつうか…俺は好きな奴にはあまり隠し事をしたくないタイプなんだ。だから終わった後、シャワーを浴びてソファでひと休みした時に俺から切り出した。

「最初に信さんの家庭事情に踏み込まないって約束したのは覚えてるけど、心から好きになった相手の事をもっと知りたいって思うのは自然だし、このままセフレだけの関係を続けるとしても…お互い腹割って話し合うくらいの信頼は築いてしかるべし!なんて思うんだけどさ。どう?」
「…どうって…」
「なんつうかさあ…俺達付き合い始めてそろそろ五か月近く経つじゃん。お互い隠し事で気まずい関係になるより、手の内晒して理解し合う方が今後の為にも良いと思うけど…違うかな」
「そう…だけど…」
 言いよどむ信さんも心情もわかる。この先、このまま付き合いが続くかどうかわからない奴に話す必要も無い事情を説明したところで、荷が軽くなるわけでもないだろう。
 正直、俺も自信がない。
 信さんの複雑な家庭事情を聞いても、俺にできる事はしれてるし、口を挟める立場でもない。ただ、俺は信さんの心の内を知りたかった。
 いや、本当は…話の分かる男を装って、奥さんよりも俺の方が大切な人だ…なんて思わせたかったのかもしれないけれど…

「由宇くんが聞いてもきっととても不機嫌になる話だと思うよ。僕自身、妻とはとても不実な関係を続けていることに嫌気が差すことも多いんだ。誰にも話せない事だから…ね」
「ね、カマかけていい?…信さんの息子さんて、やっぱり信さんの本当の子供じゃないよね」
「…」
 信さんはしばらく沈黙した後、黙ったまま首を縦に振った。
「でも信さんは奥さんの事、好きなんでしょ?」
「好きというか…」
 信さんは覚悟を決めたとでもいう具合に一度深呼吸をし、ペットボトルの炭酸水を一口飲んだ。

「彼女とは幼馴染みで僕の唯一の親友…なんだ。…僕の家は祖父の代から薬局を営んでてね。薬局と言っても街にあるドラッグストアみたいなものじゃなく、本当に田舎の古めかしい、薬屋さんって感じの小さな店だ。父は早くに亡くなって、僕は祖母と母に育てられた。彼女…羽月(はづき)って言うんだけど、羽月さんは隣に住んでいて、彼女も母ひとり子ひとりの母子家庭だった。彼女の母は看護師だったから、彼女の母親が夜勤の時は、羽月さんは僕の家で過ごすことも多かった。彼女は才色兼備で気立てもよく、誰にも分け隔てなく優しかったし、皆に好かれていた。僕はと言えば…昔から引っ込み思案で臆病で…それに彼女以外の女子はなんだか怖くてね…。男の子はもっと怖かった。だから友達もあまりできなくて…羽月さんだけが気の置けない友達だった。…僕がゲイだと告白した時も、彼女は僕を軽蔑することもなく、逆に力強い味方になってくれた。中学の頃、いじめられていた僕はなにかと彼女に助けられてきたんだ。中学を卒業してすぐに彼女の母親が再婚して、僕達は離れ離れになった。僕はその後、実家と離れた都内の大学へ進学したんだけど、その大学の薬学部で偶然彼女と再会して…あ、こんな話大丈夫?気分悪いなら、止めようか?」
「今更止めるなんて、ありえねえし、俺も大人ですから、多少のジェラシーを感じても冷静でいられますよ。いいから続き聞かせてよ」

 本当はこれ以上聞きたいとは思わなかった。
 羽月って奥さんへの信さんの信頼感…たとえ性的な関係はないとしても、十分な「愛情」が見えたし、それは意外なほどに俺の心を傷つけていたのだ。

 信さんの話は続く。

 大学時代になってもふたりは仲の良い親友同士の付き合いを続けた。卒業した後、信さんは大手の製薬会社へ、奥さんは…母親の再婚先の病院に勤めた。
 看護師だった羽月さんの母親の再婚相手は、静岡の掛川市の街中にあるでかい総合病院の院長だった。勿論院長の方も再婚だった。言うなれば玉の輿って奴。だから、羽月さんは大病院のお嬢様…だったわけだ。
 容姿にも恵まれ学内のミスコンにも選ばれ、もてまくっていたけれど、不思議と恋人は作らなかったらしい。
 「信さんの事が好きだったんじゃないの?」と、俺が言うと、信さんはすぐに真面目な顔で否定した。

「羽月さんにはずっと好きな人がいたんだ。ただ…結婚はできない相手だったから…」
 そこでようやく俺は理解した。
「その結婚できない男の子供を妊娠してしまった奥さんは、ゲイで結婚する充てのない信さんに頼み込んで取り敢えず形だけの結婚をした…って事じゃねえの?」
「違うよ。由宇くんの想像力には感心するけど、彼女は僕を利用しようとは少しも思っていなかった。妊娠したことで悩みを相談されたのは事実だけど、ひとりで子供を産んで育てる、と僕に言い切ったんだ。だから僕がお腹の子の父親になる事を提案した。勿論羽月さんは反対したけれど、彼女との結婚は僕の方にもメリットが多かったんだ。その頃、僕の祖母は亡くなり、母は細々と続けていた薬局も辞めて、あまり気力の無い独り暮らしをしていてね。なんとかしてやりたいと思いながら、仕事の所為にしてほったらかしにしていた。でも、羽月さんと結婚したいと言いだしたら、生まれ変わったみたいに元気になってね。僕達が結婚すると同時に羽月さんの親と同居を始めて…今は、羽月さんのお父さんが経営する病院で介護福祉士として元気に働いている。…僕は、羽月さんに感謝しているんだ。結婚なんてできるはずもない僕と一緒になって、親の面倒まで見てくれる。しかも僕が自由に遊ぶことも許してくれているんだ。色々と気を使って服を買ってくれたり、お小遣いまでくれるんだよ」
「…それで?」
「え?」
「信さんは幸せなの?」
「…不幸だとは言えまい」
「じゃあ、奥さんは信さんと結婚して幸せなの?」
「そうだね…。僕と結婚して幸せ…と、いうか子供と一緒にいられることが幸せなんじゃないのかな…」
「で、本当の父親は?どうしてるの?」
「…」
「奥さんがずっと好きだった相手の人と、まだ今も付き合っているんでしょ?そうじゃなきゃ、おかしいよ。奥さんは信さんに子供の父親役も一緒に暮らすことも求めていない。子供にも自分にも満ち足りた相手がいるからじゃない。違う?」
「するどい…ね…。そうだよ、結婚はできないけれど…羽月さんは今もずっと彼と愛し合っているし、子供も…父親とは明かせていないけれど、彼も息子を可愛がっている。…幸せだと思う」
「むしろ、信さんの存在が邪魔なんじゃね?結局、信さんはいいように利用されてるだけじゃん」
「そうだとしても、羽月さんが幸せなら、僕の存在の意味はあるだろうし…もし僕が邪魔になったと言うのなら離婚してもかまわないと思っているよ」
「なんだよ、それ…」
 なんかマジでむかついてるんですけど…

「…信さん、あんた、いいひと通り越して、バカだっ!大馬鹿だ!」
「ゆ、由宇くん…」
「俺、バカな男は嫌いなんだよ!」

 無性に腹が立った。
 信さんにも羽月って奥さんもその相手の奴も、何も知らない周りの奴ら全てに、腹が立つ。
 俺は手早く服を着て靴を履くと、信さんを残してホテルの部屋を出た。
 月島の社宅へ帰ろうにもバスも電車もすでに終わっていたけれど、小一時間歩けば着く。
 頭と身体を冷やすには却ってちょうどいい。

 街燈に照らし出された俺の長い影を見ながら、早足にただただ歩いた。吐く度に白くなる息も見飽きはじめた頃、ふと立ち止まって夜天を見上げた。
 天上には三日月がおぼろに霞んで見えた。

 あと二週間で、俺の27の誕生日がくる。
 信さんと初めて一緒に祝えると喜んでいたのになあ~。

 自分から煽って口を開かせたはずなのに、今更聞かなきゃ良かったなんで、自分勝手も甚だしいけれど、三門信彦と言う人間を今まで通りに見ることができないんじゃないだろうか。
 嫌いなわけじゃない。逆だ。信さんの奥さんへの優しさ、信頼、愛情すべてが羨ましくて妬ましくて…あそこまで信さんを繋いでいる絆が、憎いだけなんだ。

「俺だったら耐えられるもんかっ!」と、暗く冷たく張り付いた空気の中に罵った。
「信さんのバカヤロウ!嫌いだ!」
 
 信さんのイク時の顔が好きだった。頼りなさ気な顔のクセに、体力だけは限界なしで、俺を降参させる。俺の中に打ち付ける時だって、その瞬間に「好きだよ、由宇くん」って、囁く声だって、俺はすごく好きで…たまらなかったんだよ。
 身体の相性が良いからって、信さんのすべてを知っていた風な心持でいた自分だった。それで自分だけが信さんを理解できていると思い上がっていたんだ。

「…馬鹿なのは俺の方なんだけどさ…」
 信さんが奥さんとの今の状況に満足しているわけでもなく、逆に不安だったからこそ、俺と寝て少しでもストレス発散していたんじゃないか。
 俺に心を許して誰にも言えなかった心の内を、折角吐露してくれたのに…
 信さんだって、不安で仕方ないのを、無理矢理納得させているのに…
 何逆ギレしてんだろ、俺…

「戻るかな…」
 勝鬨橋を目の前に俺の足は止まった。
 今からホテルに戻って、信さんに謝って…それから…それから…

 駄目だ。
 俺、きっと腹立って、信さんに嫌な事ばかりを言うだろう。
 俺の好きな男があんな理不尽な立場で居つづけることに我慢ができない。
 だけどそれは俺が決める事じゃなくて、信さんの問題だ。
 わかってる…

「よし、今夜は一旦家に帰って、明日!明日また考えよう!」
 そう思って橋の歩道を渡ろうとした時、後ろから「由宇くん!」と、大声で俺を呼ぶ信さんの声が聞こえたんだ。
 俺は慌てて振り向いた。
 息を切らしてこちらに走ってくる信さんの姿に、本当に現実なのかと漠然と眺めていた。

「由宇くん…良かった。急いで追いかけたんですけど、ホテルから出た時は、姿が見えなくて…。月島の社宅に住んでるって言ってたから、もしかして歩いて帰ったならとこっちかと思って…」
「…なんで…きたの?」
「マフラー忘れたでしょ?三月過ぎても、まだ寒い日もあるから無いと困ると思って…」

 そう言って、俺の首にマフラーを丁寧に巻きつける信さんの手は…俺が一番欲しかったものだって、認めるのが悔しいぐらいに、あたたかかった。
 


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 更新が遅くなった言い訳しますと…先週はめっちゃ大変だったんですよ。
木、金にUSJに遊びに行ったんです。で初めて3Dのハリーポッターのアトラクションに乗ったら、ひどく酔って頭痛しまくりでして…まあ、それはいいんですが、家に帰ってから土曜日に発熱しました。日曜日に急患センターへ。でも熱は出まくりで39度に。月曜にかかりつけの病院で点滴して、火曜日にほぼ全快。水曜日からは高熱からの筋肉痛でまたこれがたまらなく痛くて…はあ、怒涛の一週間でした。
で、やっと昨日書ける様になりました~
風邪の原因はUSJの人ごみからのウイルス感染だという事ですけど…日頃の体力不足でしょうね。
USJの印象は…ハリポタファンなら是非行くべし!ですね。



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