aqua green noon

こちらはBL妄想小説、及びイラストサイトでございます。

2009/11/20

宿禰凛一編 「Swingby」 15

15、
 入道雲が瞬く間に青空を食い尽くす。
 俺は呆気に取られながらその姿を追っていた。八月の終わり。
 遅い三者面談はなんとなく気まずい雰囲気のまま、もう二十分は過ぎている。
 俺は教室の窓から、空を仰ぐ。
 俺の将来をたかが大学ひとつで決めつけられてたまるかよ。

「だから、建築学科なら理系に進めって言っているんだ」「国立は全教科関わるんだし、今だって十分理系の方もいい点数取っているじゃないか」「慧一、おまえは凛一の保護者なんだろ?なんでそこに拘るんだ」「凛はまだ建築の方に進むとは決めていないんだよ。だから選択するのも幅があったほうがいい」「バカ!今の受験生はこの時期にはもうすでにどこの大学の学部、学科まで決めて、それを目指して勉強しているんだ。凛一みたいなのんびり屋は結局負け犬になるんだよっ!」「勝手に凛を負け犬にするなよっ!そうならないようにおまえに頼んだんじゃないか!」「知るか。本人にその気がないんじゃな。手篭めにしてでも言いなりにするか?おまえの得意とするところだろう?」「おまえを手篭めにした覚えは一度もねえよっ!」
「俺、帰っていい?」
「凛」
「いいぞ。どうせこのブラコン兄貴に何を言っても話しにならない。凛一は早くこのバカから独立することだな」
「…言い分は聞いとく」
 そう言って椅子から立つと、慧一も慌てて立ち上がる。
「慧はいいよ。藤宮先生とは積もる話も沢山あるだろうから、じっくり話していきなよ。俺、先に帰るね」
「…嘘つけ。どうせまた例の場所だろう。いちゃつくのもいいが、花が枯れないように面倒見ろよ」と、藤宮が余計な事を言いやがる。
 慧一の前でそれを言うな、と、俺は藤宮を呪った。

 奴が慧に何を話すのかは気にはなったが、気に病んでも仕方がない。
 藤宮を敵にするのは損だ。
 俺はひとりで温室の宿主たちに水を与え続ける。
 立ちこもった雲が夕立になっても温室までは恩恵を賜らない。
 この乾いた連中には、水道の水が必要だった。
 俺たちが自然以外のものを望むように…

 その夜の慧一は不機嫌極まりない様子で、藤宮との話も聞ける雰囲気ではなく、俺もさすがにげんなりした。
 会話の少ない食事が終わると、慧一は大きな溜息をひとつ吐いた。
「あれから、紫乃に色々と厳しい事を言われたよ。保護者としての責任が甘いのなんのってさ。俺は凛の思いどうりにさせてやりたいって思っているけど、現状は厳しいなあ〜」
「まだ一年あるしさあ。俺も良く考えて決めるから、そんなに落ち込まないでよ。慧を泣かせたりしないから」
「バカ。泣くかよ」
「…」
 だって泣きそうな顔しているもの。そんな顔をさせている原因は俺なんだもの。俺だって責任は感じるさ。

 夏の最終バーゲンで二人連れ立ってアウトレットに買い物に行った。
 慧はジーパンを、俺はジャケットを買った。
 ふと兄貴の首元に見慣れないネックレスに気づき、それを問うと、慧は、「自分で買ったんだよ。お守りさ」と、笑う。

 二枚の福引きを貰い、帰りに一枚ずつ引くと、俺はハズレ。慧は見事三等賞を引き当てた。
 商品は箱根一泊ペア宿泊券という微妙なものだった。
「正月行ったばかりなのにさあ、また箱根?」
「良いじゃないか。日にちはこちらが決めていいんだし、水川君と行くといい」
「え?いいの?」
「俺はもうすぐ行ってしまうからね。凛にあげるよ。恋人と楽しんでおいで」
「…うん、ありがと」
 嬉しいんだが、どこかで軋むような感じ。胸が痛い。


 ミナに話すと、ミナは驚いたように俺を見上げ、今度は満面の笑みを返す。
「本当に?わあ、すごい…嬉しいよ、リン」 
「箱根なんて珍しくもないだろ?」
「そんなことはない。リンと一緒にお泊りできるんだよ。すごい楽しみだ。でも俺なんかが行ってもいいの?当たったのお兄さんだろ?悪い気がする」
「いいんだよ。慧はミナと行きなって言ってくれたんだから」
「ホントに?」
 心から喜んでいるミナを見ていると、やっぱりこいつで良かったと、気が緩んだ。
 ミナはかわいい。とてもいとおしい。こいつの笑顔を失いたくない。

 俺は欲深なのだろうか…
 慧とミナを天秤に載せるのが怖い。
 釣り合っても釣り合わなくても、どちらかの泣く顔など見たくない。


 慧一が帰る日、空港まで見送った。
 少し感傷的になってしまい、「ここで別れるのが恒例になってしまったね」と、言うと
「そうだね。わざわざ凛に手間を掛けさせているようで気が引くけれど、凛の顔を見て旅立つっていう、なんてことない事がね、俺には大事な意味を持つのだと…感じてしまうんだよ」と、慧は真顔で言う。
「なんかわかる」
「おまえを独りにするのはいつも不安だよ。それはおまえに対してでもあるし、俺自身の寂しさでもあるからね」
「そうだね。お互いが独りになってしまうんだから」
「恋人と仲良くしなさい。孤独に泣かなくてもいいように」
「…わかったよ」

 展望台で慧一の乗る飛行機を見送った。
 青空に吸い込まれるように飛び去る機体が消えてしまった何も無い空を見つめながら思う。
 慧一も孤独に泣くのだろうか…
 恋人と仲良く、か…慧はどんな気持ちでその言葉を俺に送ったのだろう。

 ねえ、慧…
 ミナがいても俺は独りだよ。
 
 誰だって、そうなんだ…きっと。





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次は慧一編「オレミユス」に続きます。
クリスマスの空港からね。すんませんね〜繰り返しで〜(;´∀`)


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2009/11/18

宿禰凛一編 「Swingby」 14

14、
 夏休みに入り、すぐに八月。と、いうことは慧一が帰ってくる。
 それは嬉しいが、慧一が自宅にいるということは、ミナをマンションには呼べないという事だ。
 ミナに説明すると、あっけ無い程にあっさりと快諾した。
 俺としてはもう少し残念がって欲しかったのに。
 居心地良さげにしていたのはデフォじゃなかったのかなあ。
 まあ、夏休みでもミナは実家には帰らず、補習に明け暮れるというし、俺も一応補習と部活に毎日通学することにはなるから、温室での逢い引きは確保できる。

 近頃は温室での情事が激しくなっている。
 最後までやらなくてもきわどい段階まではお互い暗黙の了解済みだ。
 もしかしたら、誰かに見られるかも知れないっていうスリル感が、ミナの快楽を大いに高める要素となるのか、えらく感度が良くて、俺の背中に爪を立てることもしばしば。
 まあ、それはそれで肉欲に溺れるミナはとてつもなく可愛いからいいのだが、時々、恐ろしくなる。
 それは、俺がミナをセックスに塗れさせ、ミナの誠実な部分を堕落させている気がしてならないからだ。
 一種の罪悪感なのだろうか。
 別にセックスが汚いというわけではないが、ミナの素直な感情と身体は、時々俺には尊く思え、触れるのも気が引ける時がある。それとは逆で、俺の愛撫のひとつひとつに感じているミナを見ていると酷く嗜虐的になり、めちゃくちゃにしてしまいたくなる欲求も沸いてくる。
 俺はそれをいちいち自分の中で制御しなければならない。
 愛しているからこそ大事にしなければ…
 「愛」とはこうもジレンマに陥るものなのか…
 俺の中で熱いものと冷たいものが断層のように積み重なっていくようだ。
 その時々の間に、俺は少しずつ宝物を隠していく。
 いつか誰かが発掘するかもしれない輝きを。


 慧一が帰り、一年前と同じような生活を始めると、不思議な事に俺はミナへの爆発しそうな熱情をフラットに近づけることが出来た。
 家族と過ごすという安心感なのか、ミナへの執着心が薄れる気がして、俺には幸いな気がした。
 夜になっても俺は独りではなく、傍には慧一が居てくれる。
 どれほど心強いだろう。
「独りでいると時間って長く感じるけど、慧が居てくれるとあっという間に経ってしまうもんだね。この一年で身に染みてしまったよ。慧が居ると居ないとじゃ天国と地獄だ。昔はそうでもなかったのにねえ〜不思議だ」
「凛は我慢しすぎたんだよ。俺の所為でもあるけれど…おまえの思春期に独りにさせた責任は、おまえがその寂しさを感じなくなるまで俺が負うべきものだと思っている」
「…そんなことない。慧には慧の事情があったんだから。もうその事を責めたりしないよ。それに、それがあったから今の俺がいるんだろ?確かに寂しかったけれど…今はこうして傍にいてくれるんだから、十分だ。慧は…自分の幸せを考えた方がいい」
「…わかってる」
「でも…まあ、もうちょっとは甘えさせてくれよ。ここに居る時は、慧は俺のもんだ。…いいだろ?」
「…勿論、とことん甘えてくれ。その為に俺はここに居る」

 ソファに座る慧一の膝枕で目を閉じ、慧の手で頭を撫でられると、子猫にでもなったみたいにまあるくなる。
「慧は…俺にどうして欲しい?」 
「…どうって?」
「幸せって…なに、かな?」
「…」
「自分が幸せになる事と、愛する人を幸せにする事…どっちが大切なのだろう…」
「…どっちも同じじゃないと正しくはない。だが、誰もが正しい選択はできるもんじゃないさ」

 慧にはミナのことはあまり話さない。
 慧一が留守の間、俺たちがここでどんな事をしているかは、うすうす感じてはいるはずだ。
 だけど、慧一は俺の恋人に嫉妬をすると断言した。
 俺も慧に恋人が居たとして、そいつの事を聞きたくはないと思っている。
 ならば、気分を害する話題は触れないでおこう。

 今になってやっと気づき始めている。
 俺たちは普通の兄弟ではなかった。
 繫がれた手は離せない。
 これはミナとは違う手であるべきだ。
 二つの手が引き合ったら、俺はどうするのだろう…
 俺の手は二本しかない。
 どちらか…選ばなければならない日が来るのだろうか…

 俺は知っている。
 俺が離さなくても、片方の手が、必ず俺の手を放すことを…
 
 それを考える時、ガタガタと、身体が、震えるのだ…







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2009/11/16

宿禰凛一編 「Swingby」 13

13、
 「凛一、明日は学校も休みだろう。うちに泊まりなさい。おまえが嫌だと言っても今晩は帰さないからな」と、意味深な言葉を吐く言う嶌谷さんは、回りから大顰蹙を買っていた。
 閉店後、嶌谷さんに連れられて彼の自宅に行く。
 久しぶりの嶌谷さんのマンションは、昔とひとつも変わらない。どことなく清々しい心持ちのする空気が俺は好きだった。

「凛一の為に、とっておきのメルローでも開けようかな」
「結局は嶌谷さんが独りで飲んじゃうくせにさあ〜」
 ワイン好きの嶌谷さんが家庭用のワインセラーから高級な赤ワインを出してきた。
 酒に強くない俺が飲めるとしたらワインぐらいなんだか、それは嶌谷さんの影響だと思う。
 勝手知るところで、簡単なつまみをキッチンでこしらえる。
 嶌谷さんとの穏やかな団欒は俺にとって居心地が良すぎる。
 嶌谷さんは月村さんの事は一言も口にしなかった。俺も何も言わない。
 もう少し俺が大人になって、月村さんをちゃんといい思い出にしたら、沢山語り明かしたいと思っている。

「嶌谷さんの部屋ってなんだか安心するなあ〜。独り暮らしってどこも一緒かなあって思ったけど、うちの空気とはやっぱり違う」
「凛一は来年には慧一くんが帰ってくるから独り暮らしは返上だろ?俺みたいな万年やもめと比べるな」
「本当に帰ってこれるのかなあ〜ちょっと心配なんだ」
「なにが?」
「就職って日本の週活とは違うんでしょう?向こうの企業に就職したら、日本に帰れるかどうかわからないよね。日本で働けたとして、今の自宅に住めるとは思えないし…仕事場が東京なら俺が東京の大学を選べばいいんだけど…俺の都合で慧の仕事先を決めて欲しくはない。慧に言っても、自分が決めるから口出しするなって言う感じだし…。お荷物になっているようで、心持ちが悪いよ」
「慧一くんがそうしたいって言ってるのなら甘えればいいんじゃないか?」
「…」
「なに?」
「以前の嶌谷さんだったら、凛一は甘えている。大学生にもなってお兄さんと暮らす奴は自立心が足りないって言いそうなのに…」
「…慧一くんと色々話して、彼がおまえを大事にしてるっていう気持ちが良くわかったからだよ。それに、慧一くんは凛を長い間独りにしてしまったことを、とても後悔している。少しでもおまえの近くに居て、甘えさせてやりたいって思っているんじゃないのかな」
「そりゃあの頃は…さみしくて仕方なくて、俺も嶌谷さんや兄貴に色々心配かけてしまったけれど、もうどこの誰かとほいほい寝たりはしませんよ」
「凛は危ういからなあ〜」
「危ういって…そうかね〜嶌谷さんは一度だって俺と寝たいって言わないじゃないか?俺にはそういう色気はあまりないかもなあ〜兄貴にいくら迫っても断られるしさあ」
「凛一。おまえは慎みと言うことを学んだ方がいい」
「肝に銘じますよ。と、言っても今は俺、充実してんの」
「へえ〜決まったセフレでもいるのか?」
「…慎みなさい。恋人だよ。正真正銘の心から愛してるって思える恋人が出来たの。…男だけどさ」
「…そう、か…」
「同級生なんだけどね、一見軟弱そうに見えるけど、男気がある奴だよ。純情で素直で天邪鬼のクセに甘えん坊でさ。俺、メロメロなんだ」
「へえ〜良かったな」
「…なんか」
「ん?」
「今の言い方、あんまり心から喜んでいないニュアンスがあった」
「そうだったか?」
「俺とミナ…そいつの呼び名ね。を、祝福してくれる大人が回りにあまりいなくてさ。ミナは学年トップの優等生だから俺みたいな危ない奴が近づくのを先生方は嫌がっているみたいだし…嶌谷さんなら味方になってくれると思ったのになあ」
「おまえが真剣に誰かを愛することは素晴らしいと思っているよ。…慧一くんは知ってるの?」
「うん、話したよ。慧の助言のおかげで俺たち本当の意味で恋人になれたと思ってる」
「そう…じゃあ、いいんじゃないか」
「それ!心から喜んでいないって感じだ。月村さんの時だって、嶌谷さんは反対したよね。どうしてそんなに厳しいのさ」
「そりゃ…そうだな、凛一を愛してるからな。他意のない嫉妬って奴さ」
「ああ、わかるよ。この間さあ…」
俺は、藤宮との一件と嶌谷さんに話し聞かせた。

「今はなんの関係もないっていうのに、慧がそいつと寝てたって思ったら、やったら腹が立ってしかたなかったんだよ。これって嫉妬だよなあ〜兄貴に嫉妬しても仕方ないんだけどさ。別に俺は慧に対して欲情したりはないんだけどね」
「担任が慧一くんの昔の恋人とはね。なんて因縁だ。それにしても凛、おまえは欲情しないっていうけどね、慧一くんに迫るのはどうなんだ?」
「慧が本気にするわけないし、もしそうなっても俺は慧となら寝てもいいと思っているもん」
「本当に寝たいって思っているのか?慧一くんを試して楽しんでいるだけじゃないのか?」
「違うよ…」
「寝てしまったら今までと同じように慧一くんに甘えられるのか?関係が壊れるって思わないのか?簡単に好き勝手に吐いて慧一くんを困らすんじゃないよ、凛」
「…」
「俺はな、親だろうが子供だろうが、そいつを本気で好きなら自分のものにしたいって欲望はどこかにあるはずだと思う。そいつを他人に取られるとなれば嫉妬もするだろう」
「でも、親だったら子供の幸せを喜ぶもんでしょ?」
「勿論だ。だが百パーセントの祝福なんてあるだろうか。親は自分が大事に育ててきたものを取られ、友人は自分と長年暖めた友情に亀裂を感じる。だれもが天使みたいに百パーセント手放しで喜ぶ事は難しい。より愛していればそれはもっと複雑だ。祝福したい気持ちと、自分のものではなくなる寂しさが募るもんだよ」
「…嶌谷さんもそうなの?」
「凛は俺にとっても特別なお気に入りだからね。おまえの幸せを祈ってはいるけれど、嫉妬もするのさ」
「うん…でも俺は嶌谷さんが好きだよ。俺がどんな奴を好きになっても嶌谷さんへの想いは変わらないと思う…だから、嫌いにならないで欲しいよ」
「俺が、凛一を嫌いになれるもんかよ…いつだっておまえを案じているよ。慧一くんの想いには適わないけど」
「慧は…特別だからさ。きっと慧に本当の恋人が出来たら、俺は…泣いてしまう。その時は嶌谷さんが慰めてくれよ」
「じゃあ、その時は…抱いてやろうか?」 
「うん、頼むよ」
 俺となんか絶対しないくせに、そんな風に俺を労わってくれる嶌谷さんが好きで堪らない。
 だが、愛していても所有私欲には拘らないで、そいつの幸せを願う。その寛容さは俺にはない。
 結局は嶌谷さんは大人で、俺はまだ半端者なのだろう。
 いつかは俺も嶌谷さんのような境地に辿り着けるのだろうか…

 そうやって嶌谷さんと朝方まで語り明かし、久しぶりに気持ちのいい酔いに身を任せた俺は、いつの間にか嶌谷さんの膝枕で寝てしまった。





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嶌谷さんの凛への思いっていうのは本当のところは、どうなんだろう…と、思ったり。膝枕で寝る凛に何もしないって事は、嶌谷さんはそんなに性的なものは感じていないと思うんだが…
ああ、鎌倉がこの話の背景ですが、実際見たら…鎌倉って、すごく小さい街でした…すんません。13階のマンションは無いです(;´∀`)新しく作ったということにして…観光地の高さ制限があるのか?じゃあ、大船の近くにしとく。あの辺りは割と高いマンションが見えた。




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2009/11/13

宿禰凛一編 「Swingby」 12

12、
 七月に入り、温室で過すには一番辛い時期が来る。
 俺とミナは毎日、草木の水やりや草取りに大忙しだ。勿論愛の営みも忘れない。
 期末試験が近づくと、温室は自習室になる。
 少々蒸すのも勉学の熱気の所為ということにして、俺たちは学生の本分を果たす。
 
 試験が終わり、一息ついてもいいと思うのだが、目の前の夏休みに浮かれるわけでもなく、勤勉な学生達は早くも夏休みの補習授業へ関心は向いている。
 それはミナにも言えることだった。
 まあ、目標に向かって突っ走る事は悪い事ではない。
 俺はそこまで走る気はないが…

 では、俺の歩く場所へと目を向けよう。
 そう…「Satyri」だ。
 月村さんの事件以来、店には近づいてはいない。本当はもっと早くに嶌谷さんに会いたかった。
 嶌谷さんは俺のことを心から親身になって気にかけてくれる大人だった。
 あの店は中学時代の俺のホームタウンだったし、拠り所でもあったから、いつかは帰りたかったんだ。
 総武線で乗り継ぎ、約一時間、久しぶりに「Satyri」の重いドアを開けた。
 …懐かしい香りが俺の頭からつま先までを包んだ。。

 低いステージの上では、バンドがノスタルジーなジャズを演奏している。
 辺り一面の壁を反射してジャズの音が耳に身体に響いてくる。
 ピアノの音は月村さんとは違うけれど…その音色は翳りなどない。
 ただ音に漂っていたくて、暫く目を閉じたまま動かなかった。
「凛一くん!」
 声をかけたのは常連のミコシさんだった。
 その声に演奏が一瞬止まり、店に居た客のほとんどが俺の方を振り向いた。どうせ暗くて俺の姿ははっきり見えるわけではないだろうが…
 すぐに演奏が再開されて、事無く済んだけれど、さすがに注目されるのは困る。だって一応18歳未満出入り禁止だもんなあ。
 いつもカウンターの中にいる嶌谷さんの姿を探そうとしてそちらを振り向いても、嶌谷さんは居らず、姿を探して辺りをきょろきょろとしていると、「凛一」と、低い声が近くで聞こえた。
 凝視して前を見る。暗がりから小走りに俺に歩み寄ってくる姿が見えた。
 嶌谷さんだった。
「凛…」
 嶌谷さんは躊躇いもなく俺を抱きすくめた。
「良く来てくれたなあ。ずっと待ってたよ。おまえが来るのを…」
「嶌谷さん…」
 嶌谷さんの優しいぬくもりに俺は胸を打たれた。
 俺はまだ見捨てられてはいないんだ。嶌谷さんの抱きしめる強さが物語っている気がした。

「本当はもっと早く来るべきだったのに…遅くなってごめんなさい。嶌谷さんにも心配かけたけれど、もう大丈夫だから」
「一端の事言うようになったもんだ。どれ、顔を見せてくれ。…益々色男になったな、凛。背も随分と伸びた。追い越されそうだ」
「あとは縮むだけの嶌谷さんと違って俺は伸び盛りだからね。すぐに追い越すよ」
「辛辣なところは相変わらずだ。それでこそ凛一だ。さあいつものところに座りなさい。今日はおまえの歓迎パーティだ」
 ミコシさんや戸田さん、常連の人たちが手を振って招き入れてくれる。近寄り次から次へと抱擁とキスの歓迎を受け、俺も嬉しくなって丁寧な挨拶を返す。
 いつも陣取っていたカウンターの端っこの席に座り、大勢のお客さんから歓迎を受けた。
 スイングジャズで始まった「この素晴らしき世界」は原曲の「キラキラ星」に変わり、俺の好きなモーツァルトのジャズ風メドレーに変わっていく。
 思わずステージを振り向くと、バンドのリーダーの新井さんが俺に手を振ってくれた。
 そして他の連中も…
 淡いスポットライトを浴びたグランドピアノを見つめた。

 月村さんはもういない。
 あのピアノに座り、軽快なジャズを弾くこともない。
 だけど、俺はあんたを忘れないよ、月村さん。
 あんたは傍観者ではなかった。
 俺の道に美しい花を咲かせてくれた大事な人だ。
 だから、言葉にしてあなたに贈るよ。
 「ありがとう、月村さん」









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予約投稿などしてみた〜うまくできてるかな?
実は凛はサティロスではおじさんキラーの異名をとっていた…(;^ω^)


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2009/11/11

キャライラスト

嶌谷誠一郎(とうやせいいちろう)
ジャズクラブ「サティロス」の店長さん。
凛一が13の時40だから…今は44だな。
自分の理想の大人として書いてます。
まあ、ゲイだけどwww


嶌谷さん
何故嶌谷さん?…次にでてくるし、これからも重要な人だから。



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